ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね
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夜明

65話 夜明

 

 

 

 

暗い、暗い、闇の中。

 

そこに鎮座する、一枚の鏡。

 

そこを漂う、“何かの破片”。

 

 

そんな中に俺──朝日優真(“1人目”)は居た。

 

 

この闇は、俺の心の中。

ここに閉じこもることに決めてから、もう2年半が経った。

俺は2年半もの間、ここにある鏡を通して見える“3人目”の瞳に映る景色を眺めてきた。

 

しかしその“3人目”も──このザマだ。

 

俺の望み通り『朝日優真』になった《仮面》は、ユウガの手で──最終的には自分自身だが──壊された。

 

俺自身、わかっていた。

 

こんなことしたって、俺自身が変わったなんて言えないことなんて。

 

 

 

じゃあ、俺はどうすれば良かったんだ

 

血に濡れた俺の手じゃ、もう誰かを救えない

 

こうする以外、何があったんだよ

 

 

自問自答を、もう何度も繰り返した。

答えなんて出るわけないのに。

 

 

『───ユウガ』

 

 

今俺の身体を動かすのは、ユウガ。

ユウガは俺の声に応えることなく、沈黙を貫いて学院内のとある空き教室で頬杖をついて座っている。

 

ユウガは西木野先生に、“俺達”の過去を話させた。

そうすれば、μ'sが“俺達”から離れてくれると。

 

μ'sが“俺達”と関わって、もう傷つくことのないように。

 

“俺達”がμ'sと関わって、もう傷つけることのないように。

 

 

───自分を傷つけて、独りになることで

 

 

……とことん不器用なヤツだ。

本当は俺なんかよりずっと優しいくせに、その表し方がヘタクソ。どこまでも素直じゃない。

 

……俺が言えたセリフじゃねーか。

 

フッ、と小さく笑い、目を瞑る。

 

これで、いい。

根本的に、俺に誰かを救えるはずなんてなかったんだ。

 

……“変われる”わけ、なかったんだ。

 

 

その時、教室のドアが開いた。

 

 

 

「ここにおったんやね」

 

 

 

 

……希…。

 

「ん……()()か。何しに来た」

 

ユウガが相変わらずぶっきらぼうな返事をする。

そう、俺は見ているだけ。

ここ(心の中)から出る術なんて、俺は持ち合わせていない。

 

「もしかして、と思って来てみたけどビンゴやったわ」

「質問に答えろ」

「ねぇ……()()()()()()()()()()?」

「おい、今オレが質問して」

「答えて」

「…………」

 

希は力強い目で、ユウガを見つめている。

 

今、俺達がいるのは……()1()()A()()

生徒数の減少により、今はもう立ち入り禁止になった空き教室だ。

 

「……誰にも会いたくねぇし、ここなら誰も来ねぇと思ったからだよ」

「嘘やね」

「あ?」

「誰にも会いたくないなら、帰ればいいやん。

待ってたんやろ?誰かが来るのを」

「……知らねぇよ。つーかお前、センセーから話聞いたんじゃねぇのかよ」

「聞いたよ?その上でここに居る」

「はァ?ますます何考えてんだオメェは」

 

自分の思惑通りに行かなかったユウガが面倒くさそうに顔をしかめて、視線の先から希を外した。

 

 

そして不意に

 

 

「───“私”はキミと」

 

 

その温もりは訪れた

 

 

「話をしに来たの」

 

「…………え……」

 

 

希が椅子に座るユウガを、後ろから優しく抱きしめた。

 

 

「───ねぇ、聞こえる?()()()()

 

っ!?“俺”……?

 

「だから、俺はユウガで」

 

 

「君じゃない」

 

 

「っ……」

 

「───私は“優真くん”と話してるの。あなたは少し……黙ってて」

 

 

 

希の言葉を受けたユウガは、閉口する。

俺に話、か。

 

「私ね、5年前のクリスマス…君に伝えたいことがあったんだ」

 

5年前のクリスマス。俺の前から希が消えたその日。

希は何を俺に───

 

 

 

 

 

「───私ね、優真くんのことが好きだったの」

 

 

 

 

─────────え?

 

 

 

「キミは私のこっちで初めて出来た友達。

キミは私に、“光”をくれた。

いつも笑顔で私の側に居てくれるキミと過ごす日々は、私にとってかけがえのないものだった」

 

 

…………噓……だろ……?

 

 

「だから最後に伝えたかった。“ありがとう”と、“大好き”を。私あの日、公園でずっと待ってたんだよ?」

 

 

…ちょっと待てよ。()()()?だってあの日は

 

「優真くんが光梨ちゃんから聞いたのは、光梨ちゃんが吐いていた噓だったの」

 

そん……な………

 

「引っ越した後、やっぱりキミに会いたくて、キミの家に近い音ノ木坂学院を受けた。

 

───キミに誇れる、“()()”になって」

 

“希”の雰囲気が先程のものへと戻る。話から察するに、“東條”というエセ関西弁の人格は、きっと彼女が“変わろう”として“変わった”、()()1()()()()なのだろう。

感覚的には、俺の《仮面》に近いのかもしれないが、決定的に違うのは、希がそれを“自らの意思で使い分けていること”。

全てを《仮面》に丸投げした俺と、自らが変わろうとして生まれた希の《仮面》とじゃ根本的にモノが違う。

 

「そして私達は、過去を清算したよね。その時にこの想いは捨てたはずだった。

……はずだったけど。キミと過ごす日々があまりにも楽しくて、心地よくて。

 

───どっちの私も、君が好きになっちゃった。

 

あの時の思いは、捨て切れてなんかなかった。

 

 

だから私は

 

 

───5年前から、今日の今まで

 

 

優真くんが、大好き」

 

 

……なんで、だよ

 

なんで、“今”なんだ

 

もう今更、どうしようもないじゃないか

 

 

そして希はユウガから離れ、彼の正面に回り込んで笑う。

 

 

「あースッキリした!胸のモヤモヤが取れた感じ!」

「…………」

「そんな顔しないで。まだ話は終わってないよ?」

「……?」

「…寧ろ、こっちが本題」

 

今のを差し置いて……本題?

これ以上何が───

 

 

 

 

 

 

 

 

「───()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………は?

 

 

「お父さんがね、九州に転勤になったからそれについて来ないかって。娘を一人暮らしさせるのは、やっぱり不安みたい。

2年以上一人暮らしさせといて今更だよね。

だから勿論断るつもりだったよ」

 

笑顔を崩さず、淡々と語り始める希。

 

「……でもね。思ったの。

 

()()()()()()()()()()()()

 

優真くんが傷ついたのも、私が居たから。

 

“3人目”の心が揺らいだのも、私が居たから。

 

μ'sのみんなが傷ついたのも、私がμ'sを作ろうとしたから。

 

 

───────ほらね?」

 

 

 

何が『ほらね』だ

 

おかしいだろ、全部全部

 

 

「だから私は───もう“あの場所(μ's)”には居れない。μ'sを壊したのは私。

私は責任とって、みんなの前から消えるから。

だからね、キミは何も悪くないんだよ?

いつも通り、みんなと過ごせばいい。“μ()'s()()8()()”と」

 

 

何でお前は

 

どうしてそんなに

 

───俺に優しいんだよ

 

全部“俺のため”じゃねぇか

 

お前は何1つ悪くないのに、俺の責任をすべてその背中に抱えて、俺達の前から姿を消そうとするなんて

 

自己犠牲にも程があるだろ……!!

 

 

 

「……お願い優真くん。ことりちゃんを、連れ戻してあげて。

穂乃果ちゃんを、助けてあげて。それが出来るのはこの世でたった1人、キミしかいない。

 

……私からの最後のお願い。聞いてくれるよね?」

 

希の問いかけに、ユウガは何も答えない。

黙ってろという希の命を忠実にこなしているのか、はたまた彼女の言葉に人格が不安定になっているのか。

 

 

「だから優真くん……みんなを、助けて。

 

───信じてるよ、優真くん。それじゃあね」

 

そして希はユウガに手を振り、教室を出るべくドアへと歩き出した。

ユウガはその去りゆく姿を眺めるだけで、何もしようとしない。

 

 

 

途中、希はふと何か思い出したように振り返り

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

────────!!

 

希は最後にそう言うと、再びドアに向けて歩き出した。

 

 

嘘つけ。

 

これは、()()()()だ。

もう何度も見てきた、“嘘はついていないが、本心ではない”希のコトバ。

そうじゃないならお前は───()()()()()()()()()()()()()()しない。

 

それが分かってるのに、お前をこのまま行かせてたまるかよ

 

俺は闇の中を振り返り、背後に(そび)える大きな門を渾身の力で押す。ユウガと人格を切り替え、希と話をするため。

しかし……

 

「……くそっ、くそッ!!」

 

大きな門……俺の“心の扉”は、開く素振りすら見せない。

俺の心の中に、まだ迷いがあるから?

心のどこかで、人と関わるのを恐れているから?

 

でも……!!

 

そんな俺の思いに呼応するかのようにユウガの手が持ち上がり、希に向かって手を伸ばす。

 

 

引き留めろ

 

 

言え

 

 

言わなきゃ

 

 

言うんだ

 

 

 

「………………あ…ぁ……」

 

 

 

去りゆく背中に、手を伸ばして

 

 

あとは一言、声をかけるだけ

 

 

なのに

 

 

「ぁぁ…………あ…………」

 

 

人と関わることを恐れた俺の心の扉はビクともせず

 

 

その背中に声をかけることも許さない

 

 

 

「………………の………」

 

 

 

往ってしまう

 

 

希がまた遠くへ

 

 

また何も言えないまま

 

 

そんなのダメだ

 

 

言うんだ、絶対

 

 

言わなきゃ一生後悔する

 

 

俺もあの時、君の事が──────

 

 

「─────のぞ」

 

 

しかし

 

 

─────バタン

 

 

 

俺の呼びかけは届くことなく、無情にもドアは閉じられる。

 

えらく響いたその音は、俺と希の心を閉ざすような音に聞こえた。

 

 

伸ばした手の行き場をなくし、虚ろな瞳でただ希が去った後のドアを眺め続けるユウガ。

そして椅子からヨロヨロと立ち上がり──

 

 

 

 

「『ぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁああああああああアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』」

 

 

 

叫ぶ──否、“咆える”

俺自身の咆哮と一体化するように

 

 

 

『「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!』」

 

 

 

咆えながら、椅子や机を蹴り、投げ、殴り、振り回し、叩きつけ

 

 

 

「『あぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアア……っうあああああああああああああああああああああ!!!!」』

 

 

その咆哮は、慟哭へと変わる

 

激しい後悔と絶望を、物に当たり散らかすことで忘れようとするもその意味は皆無

 

我を忘れ、自暴自棄になり、狂ったように声をあげ

 

繰り返した過ちを

 

蘇る胸の痛みを

 

苦しみ、嘆き

 

泣いて、啼いて、哭いて

 

 

その時

 

 

 

「───何やってんのよアンタ!!」

 

 

 

1人の少女の声が教室に響き、ユウガは入り口をゆっくりと振り返る。

 

「……矢澤」

「何考えてんのよ…!廊下まで聞こえてたわよ、アンタの声と暴れる音が」

 

矢澤にこ…にこはユウガの元へと歩き出し始めた。

しかし。

 

「────来るんじゃねぇ……ッ!!」

 

「っ!?」

 

ユウガから放たれる、今までのどれよりも重く黒い威圧感に、にこは思わず足を止めてしまった。

むき出しの殺気を正面から受けるにこの足は……僅かに震えているように見える。

 

「オレに関わるなって…言っただろうが」

「…………」

「これ以上オレに近づくなら……いくらオメェでも容赦はしねェぞ」

「…………」

 

ユウガの言葉に黙りこくっていたにこは───

 

やがて覚悟を決めたかのように、再びユウガに向けて歩みを進める。

 

 

「来るなっつってんだろ!!」

 

 

ユウガが叫ぶも、にこはまっすぐ正面を見据えたまま歩みを止めない。

 

 

「オメェ、いい加減に…ッ!」

 

 

刹那

 

 

ユウガの身体を、にこは正面から抱き締めた

 

 

「…………な、ん……」

 

 

()()()、『来ないで』って言った私に近づいてきたのはどこのどいつよ」

「っ……!」

 

 

 

「落ち着きなさい。そしてよく聞きなさい。

 

───『自分の感情を抑え込んだっていいことなんて何もない』」

 

「……!!」

 

「『涙を見せたくない、弱いところを見られたくない。その気持ちはわかる。

でもそれを続けてたら、本当に壊れちまうぞ。

……俺はそんなお前を見たくない。

お前には、笑っていて欲しいんだ』」

 

「……おま…え」

 

「『ここにいるのは俺とお前だけだ。

だから、思い切り、ぶつけて欲しい。

お前の思ってること、感情の全てを。

 

5分でも10分でも一時間でも一日でも

俺はずっとお前の側にいる』。

 

……今度は私の番。アンタの側には、私が居るわ」

 

 

そう言ってにこは、一際強くユウガを抱き締めた。

あの時……“3人目”が彼女に告げたエール。

それを……一言一句違わずに、覚えていた……?

 

しかしユウガは顔をしかめて、にこに反駁する。

 

「……それはオレの言葉じゃねェ。オレはそんなこと望んじゃいねぇし、励ましなんて必要ねぇんだよ」

「バカね」

「あ?」

 

ユウガの言葉を、にこは鼻で笑い飛ばした。

背後で結ばれていた手を離し、いつものように腰に手を当て、自信満々に答える。

 

「私はアンタを“励まし”に来たんじゃない。

 

───“助け”に来たのよ。

 

()()()()()()()()()

 

 

──『わかってるよ。それでも嬉しかった。

……心配かけてごめんな。俺は大丈夫だから。

 

でももし俺に何かあったとしたら

 

君が俺を助けてくれ。……頼まれてくれる?』

 

『……当たり前じゃない。

 

助けてあげるわよ、何回だって

 

……それが“私達”でしょ?』──

 

 

 

その言葉を聞いたユウガは……椅子に座り直し、

 

「だから……それを頼んだのはオレじゃない。

オレは別にそんなこと望んでない。

もういいだろ。オレと関わったら痛い目を見るだけだってその身で痛感しただろーが。

……だからもう、オレに関わるな」

「……アンタ何言ってんの?」

 

にこが怪訝そうに……呆れたようにユウガへと問いかける。

 

「勝手に他人の事情に踏み込んで来て手を握って引きずり回して、挙句勝手にその手を離して『オレに関わるな』?

 

───ふざけんのも大概にしなさいよ

 

もう散々関わってんのよ。今更いきなり関わるななんて言われて納得いくわけないでしょ?」

「何回も言わせんな。それはオレじゃないって…」

「違う」

 

にこは力強くユウガの言葉を否定した。

 

「アンタが誰かなんてわかりきってる。

朝日優真。それ以外の何者でもない。

“ユウガ”だとか“仮面”だとか関係ない。

私達にとってアンタは朝日優真なの。

 

アンタはもう私達の心の中に居座っちゃってんのよ。忘れられないほど強く。

“μ'sを壊した敵”じゃなくて、“大切な仲間”として。

アンタは自分が思ってるよりも怖くなんかない。自分が思ってる以上に優しいの。

アンタの悪いところ1つ挙げる間に、10個は良いところが言えるわ。……だから今までアンタの周りには“μ's(私達)”が居たのよ?

 

一回やらかしたくらいで何しょぼくれてんのよ。

さっさと立ち上がっていつもみたいに必死こいて自分に出来ることを探しなさい。

そっちの方がよっぽどアンタらしいわ」

 

 

にこの真っ直ぐな瞳は、ただユウガの黒い目を見据えている。そんな彼女から放たれる言葉の1つ1つは、俺の心に直接響いてくるようで。

 

 

「………………でも」

 

しかしユウガにはその言葉ですら、心に響かない。

 

「その唯一の大切なものを壊したのはオレだ。

自分勝手な行動で散々皆を傷つけて、今更もう一回仲良くしましょうなんて虫が良すぎんだろ?

……それにオレが居なくたって、東條と高坂が居ればμ'sは完成してたはずだ。

───やっぱりオレなんて、誰にも必要じゃなかったんだ。それならオレは……独りでいい」

 

 

その瞬間

 

目の前の少女の雰囲気が変わる

 

その表情が示すのは

 

 

 

───────激怒

 

 

 

 

「──────ふざけるなッ!!!」

 

 

 

彼女は立ち上がりユウガの襟首に掴みかかり、椅子に座っていたユウガをそのまま床へと押し倒して両手で締め上げる。小柄な彼女からは信じられないほど強く。

 

 

「私は!!アンタがいたから!!アンタがいたから今こうしてここに居られる!!

アンタが居なかったら、私のアイドル人生は“あの日”に終わってた……!

 

私に“命”をくれたアンタが!!私に“歌う理由”をくれたアンタが!!!

 

───自分を否定なんて、しないでよ…………!」

 

 

その言葉と同時に、彼女の紅く大きな瞳から雫が伝い出した。人前で涙を見せたがらない彼女を泣かせたのは、2回目。

そして彼女は、続ける。

 

 

「アンタが一体誰かなんて関係ないの……だって、“ユウガ”も“仮面”も、私を守ってくれた…!」

 

 

 

──『テメェの勝手な物差しで、俺たちの覚悟を測るんじゃねぇ』──

 

 

──『5分でも10分でも一時間でも一日でも、俺はずっとお前の側にいる』──

 

 

 

 

「ずっと1人だった私に優真は手を差し伸べてくれて……あの日を境に、私は“独り”じゃなくなった。

アンタとの出会いが、私の運命を変えたのよ?

アンタのおかげで、私は本当に素敵な仲間と出会えた……アンタがいたから、私は夢にまで見たステージに立てた…!

───アンタが私達に……“私に”必要なかった”なんて、他の誰にも言わせない!!私には、私達にはアンタが必要なの!!」

 

「……やざ…わ……お前……」

 

「私は歌う、アンタのために!!

“今まで”も“これから”も!!

それが私の“やりたいこと”……

 

だからそんな顔しないでよ……

何回でも何回でも、私が笑わせてみせるから……!

 

私はずっと笑うから……アンタもずっと……うっ……笑いなさいよぉ……っ……」

 

にこはそこで泣き崩れてしまった。

子供のように嗚咽を上げ、俺の胸で泣き叫ぶにこ。

 

 

 

“素直じゃない少女”の、“素直な言葉”は、不思議な程心に届いた。

 

こんな俺を、まだ仲間と呼んでくれるのか。

他人と関わることをやめて、全てを丸投げした俺を、仲間だと。

 

“ユウガ”を、朝日優真だと。

“3人目”も、朝日優真だと。

 

 

──『だから優真くん……みんなを助けて』──

 

希の先ほどの言葉が今、熱い血流のように全身を駆け巡る。

 

助ける。

 

彼女達は、俺の助けを待ってくれてる。

 

 

だから、行かなきゃ

 

何故なら俺は

 

 

───“朝日優真”なのだから

 

 

 

 

 

その瞬間

 

 

俺を包んでいた暗い闇は

 

 

白く眩い光へと、その姿を変えた

 

 

『ガコン!』と大きな音を立てて、俺の後ろの門は開きだす

 

散らばっていた“3人目”の破片も、俺の目の前で1つとなり、光へと変わる。

 

 

『──────よぉ』

 

ふと後ろから呼びかけられ、振り返る

そこには自分と瓜二つの黒い目の少年が佇んでいた

 

「──ユウガ」

『行くんだな、やっぱ』

「あぁ。みんなが俺を……待ってくれてる」

『また傷つくかもしれねぇぞ?また傷つけるかもしれねぇぞ?』

「……それでも」

 

俺はユウガに告げる

己の中の迷いを、振り払うように

 

 

「──俺は“変わりたい”。みんなを守れるように、支えられるように。

 

()()()()()()()()()()()

 

あいつらと一緒なら、どんな障害でも乗り越えられると思うから」

 

 

『……………ははっ、はははははは!』

 

 

俺の言葉を聞いたユウガは、声を上げて笑い出した。

しかしその笑いは、俺を嘲笑うわけではなく、ユウガの心からの喜びの笑みに見えて。

 

『───“その言葉”を、ずっと待ってたんだよ。

2年半の間、ずっとな』

 

黒い目の少年は、未だかつて見たことないほど嬉しそうな笑みを浮かべながら言う。

 

『自分の口で言えたなら、お前はもう大丈夫だ。

 

お前は“変われる”

 

“変わりたい”って意志があれば絶対に』

 

「……頑張るよ。今まで本当にありがとな。お前と《仮面》には、一生頭が上がらない。

でも最後にもう1つだけ、ワガママ言わせてくれ。

 

───俺達は、“朝日優真”だ。

 

俺も、ユウガも、仮面も。

 

俺達全員が、“朝日優真”だ。

 

俺は今からここを出る。そこに“3人目(コイツ)”も連れて行く。

……だからユウガも、来てくれないか?」

 

 

俺は破片が集って出来た光を左の掌に乗せ、右手をユウガへと差し伸べる。

その手を見たユウガは、フッと息を漏らし、ゆっくりと首を横に振った。

 

『…オレはここにいる。お前と“3人目(ソイツ)”だけで充分だろ』

「でも……」

『オレはここで見てるからな。お前がどんな風に変わっていくのか。

 

前だけ向いてろ

 

今まで人を傷つけてきたその手で

 

もっと多くの人を、救ってこい』

 

 

そう言いながら、ユウガは右拳を突き出した。

その手とユウガの不敵な笑顔を見た俺は、自分の右手をユウガの拳にコツンとぶつける。

 

 

「───行ってくる」

 

『しっかりやってこい───()()

 

 

その言葉に笑顔で返し、俺は背後を振り返った。

もう後ろは振り返らない。俺は前に進むだけ。

 

 

 

変わることを恐れず

 

傷つくこと、傷つけることを恐れず

 

“自分”と、“大切な仲間”を信じて

 

 

 

そして少年は歩き出す

 

 

 

9人の女神が手を差し伸べる、心の扉の向こうへ

 

 

 

 

 

▼▽▼

 

 

 

 

「うっ……ぐすっ……」

 

私……矢澤にこは止まらない涙を隠すように優真の胸に顔を埋めていた。

 

本当なら、人前で涙なんて見せたくない。

でも、無理だった。

 

あんなことを言うから。

私を救ってくれたコイツが、自分に価値がないなんて言うから、感情的になってしまった。

 

わかってほしかった。

私達に……私にとってコイツが───どれだけ大切な存在か。

 

……結局、救うなんて大層なこと言いながら私ができたことは、子供のように自分の思いを身勝手に相手に伝えることだけ。

 

 

みんな──ごめんなさい

 

私には、出来なかった

 

優真を、助けることなんて─────

 

 

 

 

 

「───なーに泣いてんだよ、()()

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

久々に聞いた、彼の明るい声とその呼ばれ方に、私は顔を上げる。

 

するとそこには、先程までと全く違う、私が見慣れた優しい目と優しい笑顔を向ける1人の少年の姿が。

 

 

「……優真…なの……?」

「おう。君が知ってる朝日優真だ。

……つっても、正確には初めましてなわけだけど。

てか、だんだん重くなってきた、降りて」

「あっ……ごめん」

 

 

そう言いながら優真は照れたように笑って頭を掻き、焦って立ち上がった私に続いてゆっくりとその体を起こし、立ち上がった。

……これが、“朝日優真”。2年半もの間自分の心の中に閉じこもり続けていた、“1人目”。

 

……不思議な感覚。

 

「うーん、やっぱり初めてって感じはしねーな」

 

さっきは全員(3人とも)が朝日優真って言ったけど……いや、今でもそう思ってるけど。

とにかく、私たちが知ってる“3人目”と、今目の前にいる“1人目”は別人のはず。なのに……

 

 

「ま、ずっとお前達のこと見てきたわけだし、当たり前か」

 

 

私の目の前で笑う彼は、どうしても──私達の優真(見知った仲間)にしか、見えない。

 

 

「にこ」

「……何?」

「───ありがとな、俺との約束を守ってくれて」

「……別に?私は義理堅い女だから?アンタに恩を売っとくのも悪くないかなって思っただけよ」

「素直じゃねぇなぁ、ホント。でもそれがにこらしいや。いつも笑顔で、みんなを引っ張っていく俺たちμ'sのムードメーカー。

 

 

───()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……うるっ…さい、わよ………っ!」

 

 

再び私の瞳から溢れ出した青い雫を、必死に拭う。

止めどなく溢れるそれは、拭えど拭えど止まる事なく、私のカーディガンの袖を濡らしていく。

今流れるのは、怒りや悲しみじゃなくて……安堵の涙。

 

そんな私の頭に乗せられた、優しい温もり。

 

「だから泣くなって。俺は約束を守ったぜ?」

「……やくっ……そく…?」

「君が言ったんだぞ?『私はずっと笑う』って」

「!」

「君がそんな風に泣いてたら、俺も笑えない。

俺が笑うときは、君も笑ってる方がいい。

 

……だから笑えよ、“笑顔の魔法使い”。

 

君が俺を笑わせてくれる分だけ、俺も君を笑わせてみせるから」

 

「……いちいち言い回しがカッコつけすぎなのよ、バカ……っ……」

 

でも、それでわかった。

頭じゃなくて、心が理解した。

 

あぁ、目の前のコイツは、“朝日優真”だ。

私達の知ってる、“朝日優真”だ。

 

 

「…………よかった…アンタが帰って来てくれてよかった……アンタに、また会えてっ…!本当に、よかったぁ…………ぁぁっ」

 

 

最後の言葉は、最早形になっていなかった。

私は自分の感情のまま、再び優真に抱きついてしまう。

優真はそれを振り払う事もせず、私の頭を優しく撫で続ける。

 

「……心配かけてごめんな。俺はもう、何処にもいかない。何があっても、君達と一緒だ」

「あぁっ……うわああああああああああん!!」

 

子供のように泣き叫ぶ私の頭を、優真は泣き止むまでずっと撫で続けてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「んしょっと…やっと片付いたわね」

「……手伝いさせて悪りぃな」

 

それから私達は2人で荒れに荒れた教室を整頓し、今その作業が一段落ついた。

 

「アンタ、どんだけ散らかしたら気が済むのよ、ったく……」

「許せ……病み期だったんだ」

「アンタ自分の壮大な葛藤を“病み期”の三文字で片付けるワケ!?」

「俺は過ぎた事は気にしない人間になるんだ。だからさっきまでしてた事は全て忘れようとしてる……やべぇ、マジで腕痛ぇ」

「忘れるどころか盛大な後遺症負ってるじゃない!!」

 

割と本気で痛そうに腕を撫でる優真に、私は蹴りでツッコミを入れる。

……そりゃそうでしょうよ。あれだけ椅子振り回して机ぶん殴ってたらね。

優真も悪びれる様子なくへへへっ、と悪戯っぽい笑みで笑う。

 

……懐かしい。

こんなしょーもないやりとりが、どうしてこんなに楽しいのかしら。

 

 

───そんなの、もうわかりきってる事だけどね。

 

 

「……じゃあにこ、俺行くわ」

「ん…どこに?」

「みんなんとこ。全員と話がしたい」

 

先程までのおちゃらけた笑みから一転、真面目な顔で私を見つめる優真。

……人格変わっても、“ギャップ”はそのまま、って事ね。

 

「……わかった。行ってきなさい」

「何回も言うけど、本当にありがとな、にこ」

「もう聞き飽きたわよ。……ねぇ、優真」

「ん、どした?」

 

「───私は、アンタに幸せになってほしい」

 

「……いきなりどうした」

「今まで私達はアンタのおかげで楽しく過ごせてこれた。だから……()()()()()()()、アンタが幸せになるような選択をしてほしいの。

 

()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……肝に銘じとく」

 

私が何を言いたかったか、きっと分かったはず。

ちゃんと選んでほしいから。同情や周りへの気遣いじゃなくて、自分自身の意志で。

 

「……そしてこれは、私からの……お願い」

「……どうした?」

 

 

 

 

 

 

 

「─────()()()

 

 

 

 

 

 

これだけで、伝わるでしょ?

 

 

“アンタ達”は、そういう人達だから

 

 

 

 

 

私の言葉に、彼は

 

 

 

 

 

 

「───任せろ。()()()()”、()()()()()()

 

 

 

 

 

満面の笑みを、私に見せた

 

 

 

 

「じゃ、また明日な」

「うん……また明日」

 

最後に私に手を振って、優真は教室を後にした。

残された私は、瞳を閉じて天を仰ぐ。

 

 

やっぱり、アイツはすごい。

何も言ってないのに、見抜いてくれた。

私が言わなかった、“大切な居場所(μ'sのみんな)”という枕詞を。

 

それがアイツの優しさで、私がアイツを信じる理由。

 

 

 

そして、私がアイツを────────

 

 

 

いや、いい。

 

この想いは、きっと叶う事はないし、届けるつもりもない

 

アイツが選ぶのは、私じゃない

 

そんなこと、わかりきってるから

 

 

いつも私たちを助けてくれて

 

いつも私のそばに居てくれる

 

 

そんな優しい、アンタだったから

 

 

 

 

 

 

「────大好きよ、バカ」

 

 

 

 

 

 

 

一粒の涙と共に零れ出た言葉は、空き教室の天井に吸い込まれ、淡く消えた。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです!!!
というわけで第6章、これにて完結でございます!!
ここまで読んだいただいた方、本当に感謝です。
ほとんどがオリジナルの内容で、見る人によってはつまらないと思う方もいらっしゃったかと思いますが、ここまで書き抜く事ができて作者時々安堵しております。
さて、6章でこれまで散々張り巡らせてきた伏線をどんどん回収していったワケですが、如何だったでしょうか?
「えっ、マジかよ!」なんて事を思ってくれたら作者冥利に尽きます笑
できるだけ読者の皆様の意表をつけるような展開を考えたつもりです。
……そしてこの伏線回収章の中にも幾つか伏線が張ってあります、探してみてくださいね笑

さて、早いもので次回で最終章でございます。

次回、【1期最終章】未来 スタートでございます。

あと宣伝が遅くなりましたが、私またたねは先月開催されておりました、鍵のすけさんの「ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏––待ちわびて』」に参加させてもらいました。
「3度目」というタイトルで投稿させてもらっておりますのでよろしかったらそちらの方も是非よろしくお願いします!

長くなりましたが、今回もありがとうございました!
感想評価アドバイスお気に入り、お待ちしております!


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