ex2話 リベンジ!!燃えよ男のロマン!!
「これでよし、と……」
「ユーマ、着替え終わったか?」
「おう、待たせたな」
あれから男女ごとに部屋に別れ、荷物整理兼着替えを済ませることになった。あ、着替えっていうのはあれね、浴衣ね。
「ん……ユーマ、帯しっかり締まってねぇぜ」
「お、マジか。悪りぃなサトシ」
「気にすんな……っと!よし」
「ありがと。にしてもお前、浴衣慣れてるんなだな」
「まぁそれなりに。俺ん家は基本家の中じゃ和服なんでな」
「へー、そうなのか」
事実サトシの浴衣姿は着慣れて見えるし、サトシの男らしい体格も相まって普段より2割増しくらいでかっこよく見える。
加えてここの浴衣、紺色の布地を基調としたものなのだが、異様に質が良い。表面の触り心地も良く、肌に触れても不快感が全くない。
「っしゃユーマ、行こうぜ!」
「おう、じゃあ温泉行くか。ここの旅館、源泉掛け流しらしいぞ」
温泉なんて何年振りだろう。
近所にそんなものはないし、高校入学してから一人暮らしだからシャワーで済ませるこも多い。
故に俺は、ワクワクしている。
恥ずかしいからあまり表に出していないが、ワクワクしている。
もう一度言おう、かなりワクワクしている。
そんな心境をサトシに見抜かれぬよう、必死に内面を抑えながら浴場に向かおうとしたのだが……
「……?」
その足取りは、俺の肩を強く掴むサトシによって阻まれた。
「……どうしたんだよサトシ。早く温泉に」
「……らしくねぇじゃねぇか、ユーマ」
「は?」
「ただ温泉に入るだけ、それでお前は満足なのかよ」
「……何が、言いたい」
俺の浮き足立った心境をコイツに見抜かれたかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
サトシの奴、一体何を……?
「同じだな、“あの時”と」
「あの時?」
「あの時、俺たちの夢は志半ばで潰えた。だが今なら……あの時より絆の深まった今なら!!やり遂げられるはずだぜ、ユーマッ!!」
「……お前、まさか」
「やるぜ、ユーマ!!
───覗きだあァァァァァ!!!」
……アホか。
恐らくコイツが話している“あの時”とは、夏合宿のこと。とある事で言い合いになった俺たちが、その話からの話題転換としてサトシが持ち出したのが、“女湯の覗き”。
あの時はサトシが空気を変えるために冗談で言ったと思っていたけど……否、あの時から薄々察してはいたが……
「……サトシ」
「なんだ!!」
「お前、あの時から本気で覗きやろうとしてたんだな……」
「なんだその目は!!人を軽蔑したみたいな目で見やがって!!」
「軽蔑してんだよ」
俺からの軽蔑視を意にも介さず、サトシは饒舌に語る。
「逆に俺からしたらお前が不思議でたまらないぜ!!どうして覗こうとしない!?」
「覗くって発想に至るお前の脳がおかしいんだよ」
「9人だぞ!?18の山が!9つの谷が!!18の“パイ”がそこにはあるんだぞ!?」
「変な比喩使うな!」
「……9つのアワ」
「ストォォオォォップ!!存在ごと消されてぇのかテメェ!!!」
頭のネジ飛んでんのかコイツ!!
何とんでもないこと言おうとしてんだ!?
「なんだよ頭おかしいぞユーマ、カマトト振りやがって」
「頭おかしいのはお前だ。俺は別に」
「『興味がない』、なんて言葉は言わせねぇぜ?それはダウトだ」
「……何を根拠に」
「───男ってのは、そういう生き物だからだァァァァァァ!!!」
「無いんだろうが!!適当な事抜かすんじゃねぇ!」
「本当か?お前、本当に見たいと思わないのか」
「何回も言わせんな。俺は別に見たいとは……」
その時
「っ──────!!!」
俺は、気づいてしまった
“ソレ”を自覚した途端、俺の身体は反射のように動き出す
「…………」
「お、おいユーマ?」
サトシの声を気にも留めず、俺はスタスタと奴の目前を通り過ぎ、いざ玄関にたどり着こうとする寸前。
「……サトシ」
「な、なんだよ」
───振り返り、鋭くサトシを睨みつける。
「──お前に、女湯を覗かせるわけにはいかない」
「なっ……!お前ッ!!俺の夢を……男のロマンを邪魔しようっていうのか!!」
「ロマンだのマロンだのどうでもいい。俺はお前を……見逃すわけにはいかないッ!」
「テメェ……ッ!!」
一触即発の空気、これもまるで“あの時”のよう。
……最も諍いの内容はあの時よりも数ランク確実にくだらないものにダウンしているのは間違いない。
「何故だ……何故俺の夢を阻む!!それをすることで、お前にとって何のメリットがある!!」
「……………………ら」
「あぁん!?」
「───の、希がいる、から」
「テメェ何いきなり
「がはあぁぁっ!!」
ブチ切れたサトシによる渾身のドロップキックにより、俺の身体は轟音と共に数メートル後ろの靴箱に叩きつけられた。
「ふざけんじゃねぇ!!思い出したかのようにアクロバット惚気してきやがってこの腐れリア充が!!」
「黙れ!!今の俺はあの頃とは違う!!俺には今、彼女がいる!!」
「惚気んなっつってんだよ俺への当てつけか!!」
サトシに首を締め上げられながらも、俺は反論をやめない。
「お前にわかってたまるかよ!!彼女の裸が誰かの悪意の矛先になる感覚が!!」
「それ以上喋るな!!本気でお前が嫌いになりそうだぜ!!とにかく俺は行く、誰にも俺は止められない!!お前の彼女の裸ごと俺がこの目に納めて来てやるぜ!!」
「そうは……させるかぁ!!」
「がっ……!」
俺をその場に放置して、外へと出ようとしたサトシを止めるべく、俺は渾身のタイミングで足払いをかけた。
転倒させるまでには至らなかったが、バランスを崩したサトシの浴衣の後襟を掴み、背後へと倒したあと上からのしかかる。
「離せ…っ、離せ!ユーマァァ!!」
「断じて拒むッ!!」
「俺は行くんだ、そこにある
「絶対に行かせない!!大人しく
「俺は……死んでも……!覗くぜぇえぇぇ!!!」
「うるせぇ!!希の裸は俺のものだぁあ!!」
「────────ふーん」
たった3文字の言葉に宿る、絶対零度の威圧感。
それにあてられた俺たちの動きは完全に静止する。
「──で?それから?ほら、早く続けなさいよ」
「に、西木野サン……」
開かれたドアの前に立っていたのは3名。
前回のゴミを見るような目から更にアップグレード、犯罪者を見る目で俺たちを見ている西木野真姫さん。
顔中を真っ赤にして俯いている東條希さん。
何があったのかを察した苦笑いを浮かべながらも、庇うつもりはないとばかりに茹でダコ状態の希の介護に勤しむ絢瀬絵里さん。
「……いつから居たんですか?」
「悟志の『死んでも覗くぜ』から。すごい音がしたから何事かと思って心配してきてみれば……」
“この前”よりも人数は少ない。
ただ確実に、“この前”よりもヤバイ。
何がヤバイって西木野さんがヤバイ。
上手く言葉にできないくらいヤバイ。
そんな状況を打破すべく。
サトシが反撃の狼煙を上げた────
「………し」
「し?」
「し、新曲の歌詞に使うんだよ!!『死んでも覗くぜ』って言葉!!」
お前えぇぇぇぇぇぇ!!!!
無理ぬかせ!!俺と同じことしようとしたんだろうけどどう考えてもおかしいだろうが!!!
「その後の『希の裸は俺のものだ』は?」
「…………それも歌詞だッ!!」
クソ野郎がァァァァァァ!!!
通用するわけねぇだろそんな曲があってたまるか!!!
しかも今ので希が茹でタコ通り越して沸騰寸前までいってるじゃねぇか!!!
「じゃあ今すぐその歌詞で一曲作りなさい」
「ひぇっ!?」
「ほら、早く。その予定だったんでしょ?」
真姫の有無を言わせぬ威圧感がサトシをガクガクと震わせる。そこに年上の威厳など全くない。
「どんな曲だったの?私気になって夜しか眠れないわぁ」
「しっかり眠れてるじゃねぇか!!」
「お前実はあんまり興味無」
「は や く し な さ い」
『ハイィィィィ!!』
ここここ怖えぇぇ!!!
これが今回の罰ゲームってか……!?
既ににやけを隠しきれてねぇぞこのドSが……!!
しかしやらねば、死ぬ。(物理)
しかしやっても、死ぬ。(社会的に)
どちらをやっても、死は免れない。
「……ユーマ」
「サトシ……?」
そんな中、サトシが俺に小声で囁く。
「ここは俺に任せろ」
「なん……!?」
「元はと言えばこうなったのは俺の責任だ。自分のケツは自分で拭くさ」
「でもお前……」
「大丈夫だ。何も真面目に歌を作る必要はない」
俺の不安を他所に、サトシは自信ありげに笑う。
「──
「……出来んのか?」
「たりめーだぜ!ここを潜り抜けて──2人で覗きにいこーぜ……!」
「お前まだ諦めてなかったのかよ!!」
「打ち合わせは終わった?」
真姫の呼びかけにサトシは立ち上がり、真姫の前へと躍り出た。
「いくぜ──!!」
「来なさい」
「ハァ〜〜〜〜ドッコイドッコイ♪
死んでも覗くぜ女湯を♪アーよいしょ♪
パイオツパイオツるんるんるん♪
希の裸は俺のもの♪アそーれ♪
サインコサインタンジェント〜〜〜〜」
「…………………」
「ひっ────」
────アウト。
何故か知らんが女湯を覗こうとしていた罪を自白し、さして面白くもないこの歌は、もうただのセクハラソングだ。
希は顔を埋めたまま微動だにせず、絵里と真姫は顔色1つ変えずに鋭い眼光を俺とセクハラシンガーへと向けている。
……あれ??俺悪くないよね???
「……この世に未練はないかしら」
「待て待て!!俺は関係ないだろ真姫!!」
「未練ならある!!まだ女湯を覗いてないぜ!!」
「お前此の期に及んでまだそんなこと言ってんのかよハゲ!!!」
「2人まとめて葬り去ってあげるわ」
「いや、ちょ、ま」
『ああああああああああああああああああ!!!』
俺たちの温泉旅行は、始まったばかり。
もうやりたい放題だなこいつら()
本編のシリアスさはかけらもありませんね笑
でもいいんです。これが過去を乗り越えた彼らの姿です。
今回もありがとうございました!
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