「次の生徒会長?」
『えぇ。私たちもそろそろ引き継ぎについて考えないとね』
絵里からそんな電話がかかってきたのは、二学期も始まってしばらく経った9月初旬のことだった。
俺たちの任期満了も近づき、長かった俺たちの生徒会生活も終わろうとしている。
「んー…絵里は?決まってる?」
『一応は…でも貴方の意見も聞きたいなと思って』
「なるほど」
音ノ木坂の生徒会長は、代々推薦制。現生徒会長が次期会長に相応しいと思う人物を選ぶというシステムだ。
一般的な投票制と違い、指名する生徒会長──この場合は絵里──に大きく負担がかかる。故に代々生徒会長は校内で有名人だったり、群を抜いたカリスマを有していたり等、他者からある程度認められている人がなることがほとんどだ。例外的に、生徒会長に自薦する人もいるらしいがそんな人は極稀で、第一自薦したからといって会長になれるわけではない。
『どう?』
「……俺は──」
この条件に合致し、尚且安心して生徒会を任せられそうな人物。それは──
「──海未、かな」
『うん。私もそう思ってた』
彼女だろう。
廃校を阻止したμ's。学内での知名度は最早言うまでもない。そのメンバーであり皆の練習を取りまとめ、的確な指導力を持っている。
彼女ほど、次期生徒会長にうってつけな人物は他にはいないだろう。
「まぁ問題はあいつが一人で人前に立てるかどうか、だろうけど」
『そこは大丈夫じゃないかしら?何度もステージに立ってるわけだし』
「最悪そこは俺らでカバーだな。そういえば希は?あいつは何て?」
『まだ聞いてないわ。優真に電話するより前に希にしたんだけど、出なくて』
「俺が送ったメールも返ってきてないし、寝てんのかもな」
『そうね。また明日聞いてみるわ』
話もまとまり、じゃあおやすみと口を開こうとしたその時。
絵里の口から、予想外の話題が飛んできた。
『そういえば、希とのデートとはどうだったの?』
「なっ…!?知ってるのか…?」
『希の側からは聞いたけど、貴方の方からは聞いてなかったしね。で、どうだった?』
完全に虚を突かれ、思考が上手くまとまらずに言葉が出ない。そんな俺が絞り出した言葉は──
「──楽し、かったよ」
『……それだけ?何したの?』
「希から聞いてるんだろ?」
『何よ、もう……』
不機嫌そうに返事をしながらも、まぁ私が言いたいことは、と言葉を繋げた絵里。
『──次は貴方から誘ってあげてね?』
何で知ってるんだよ!!
というツッコミを心の中に押し留める。
今の絵里の言葉には、有無を言わさぬ真剣味を感じた。
『希、凄く喜んでたわよ?多分、貴方が考えてる以上に。だからこそ、現状に満足しちゃダメ。希は優しいから絶対に口にはしないと思うけど、色々思うことややりたいことはあるはずよ。
希を幸せにしたいなら
希と幸せになりたいなら
もっと希のこと、考えてあげてね』
──わかっている気持ちになっていたのは否めない。今までずっとそうだったから。
この間のデートだって、希の心の言葉を聞かなければ、きっと俺は現状に満足しきったままだったはずだ。だからあれは厳密にいえば俺から誘ったとは口が裂けても言えない。
でも、俺たちの関係も変わったように、この考え方も変えていかなければならないのかもしれない。これからも希と、一緒にいるために。
「……ありがとな、絵里」
『別に私が勝手にお節介焼いただけよ。……じゃあ、また明日ね優真』
「おう、おやすみ」
電話口から聞こえるのが電子音に変わったのを確認して俺は電話を切った。
絵里からの言葉、肝に銘じないと。
そう思いながら俺は、寝る準備をすべく立ち上がった。
▼
「次の生徒会長?」
「あぁ。…その反応、昨日の俺と一緒だな」
翌る日。俺の家の前で待っていた希と合流し、昨日絵里から言われた話を希にも伝えた。
希はしばらく考え込むそぶりを見せた後、ややあって口を開く。
「ウチが、ウチが生徒会長やったら──
穂乃果ちゃんかな。
穂乃果ちゃんが一番生徒会長に向いとると思う」
「……へ?」
「え」
『あぁ、やっぱりな』というと場を準備していた俺は、余りにも予想外な解答に素っ頓狂な返事をしてしまった。
「……穂乃果?」
「うん。二人は違うん?」
「俺らは、海未だった」
「あぁ……確かにそれもアリやね。それでもやっぱりウチは穂乃果ちゃんを推すよ」
「……どうして穂乃果を?」
俺からの問い掛けに、希はふふっ、と笑う。
「教えなーい♪」
「は?」
「優真くんなら、わかるはずや。一体どんな人が生徒会長に向いとるか。それと一緒に考えてみて」
それだけ言うと、希は歩き出してしまった。
どんな人が、か。
希から問いかけられた、問いの真意を考える。
だって客観的に海未と穂乃果を比較した時、どう考えても海未の方が生徒会長に向いている。言っちゃ悪いが、穂乃果に生徒会の雑務諸々が出来るとは思えない。
けど。
あの希が言うんだ、何か意味があるはず。
もう少しだけ、考え続けよう。
結果を出すのは、それからでも遅くない。
そう決めて、俺は希の後を追うべく駆け出した。
▼
「ライブ……ですか?」
「あぁ。昼に俺に連絡……出演依頼が来た」
その日の放課後。練習後に皆を集めた俺は、連絡が来た出演依頼について話した。
「具体的な内容は?」
「日時は?」
「落ち着け真姫、花陽。それも含めて今から話すから……東京近辺のスクールアイドルが合同ライブを行うらしいんだけど、その内の一校が出られなくなったらしくて。その代わりに声がかかったのが──」
「……私たち、ってわけ」
「費用も全て相手持ち。破格の条件だけど開催は今週末だ。時間はないけど──」
「やります!」
俺の声を遮り、勢いよく手を挙げたのは
「穂乃果……」
「久し振りのライブだよ!?ワクワクするね!夏休みからずっと練習して来たあの曲のお披露目だね!!」
どこまでも無邪気な声に、思わず笑みが溢れる。
いつもそうだ。穂乃果がこんな風に何にも縛られずに俺たちの前を走ってくれるから。俺たちμ'sは、どんな無茶にだって一丸となって挑んでいける。
「でも!みんな無茶はダメだからね!ライブ前に体調崩したりしたら元も子もないんだから!」
「
「違うよにこちゃん、私だからだよ!説得力が段違いでしょ?」
「ま、確かにそーね」
そんな穂乃果の以前とは違う所。
穂乃果は一度大きく躓いた。その躓きはやがてμ's全体へと影響を及ぼしてしまい、その事が彼女から輝きを奪い、自らを咎め続ける楔となった。
その経験を経て彼女は、“周りを見ること”を覚えた。前を突っ走りながらも、皆を見据え、皆と歩んでいく。そんな意識を、彼女の中に芽生えさせた。
あの苦い経験を経て、穂乃果がまた一回り成長したことを、俺は非常に嬉しく思う。
「よし、じゃあ明日からこのライブに向けてしっかり練習していくぞ!」
『はーい!』
そしてμ'sは新たな目標を得て解散──のはずが。
「優真先輩!」
「ん……どうした?穂乃果」
皆が部室から出て行った後、穂乃果から呼び止められた。
「えと……話が、あって」
「話?」
「うん……」
いつもの無邪気な笑顔と違い、どこか神妙な顔持ちで俺を見つめる穂乃果。それほど重要な案件なんだろうか。
そんな穂乃果の口から飛び出した
「──私を、生徒会長に推薦してほしいの!」
「……はい?」
音ノ木坂に、新たな季節の始まりを告げるプロローグとなる。
間章1.5期【背中合わせの二人が付き合ってから】も残り1話となりました。
最後までお付き合いのほどよろしくお願いします!
今回もありがとうございました!
感想評価アドバイスお気に入り等お待ちしております!