今回も新たなメンバーが登場します!
冬と笑顔、そして春。♯1
図書館での事件からさらに時は流れ、年が明けた。
今日1月3日は東條と絢瀬と三人で初詣に行くことになっている。
普段通りの年なら凛と花陽と三人で行くのが普通だったのだが、高校の友達から誘われたことを凛に言うと、凛は嬉しそうに 行っておいでよ と言ってくれてので俺は東條と絢瀬と初詣をすることになった。
場所は神田明神。俺の家から徒歩15分くらいのところにある神社だ。
集合場所は、三人の家の間をとって、俺と絢瀬が出会った公園。
俺は黒のズボンに紺色のコート、青のマフラーを身につけて、待ち合わせ場所へと急いだ。
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「遅いよゆーまっち!」
「悪い悪い。家から近いから調子乗ってたら割と時間なかったわ」
俺が待ち合わせ場所に着いた頃には、もう二人とも着いていた。
「女の子を待たせるなんて感心しないわね?優真くん」
「悪かったって!ほら、なんか飲み物奢るから……」
「やったぁ♪どれにする?えりち!」
「計画通りね……」
あ、これハメられたやつや。
くそ……覚えてやがれ二人とも…!
二人にジュースをおごった後、俺は少し不機嫌に、二人は満足した顔をしながら神田明神への道のりを行く。
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「わぁ〜人多いなぁ」
「お正月だもの。みんな気持ちは私たちと同じってことね」
到着した神田明神は人で溢れかえっていた。
年明けから2日が経ったが、まだまだ初詣に来る人は多いようだ。
本殿の前には長い長い行列ができていた。
「んじゃ、俺たちも賽銭並ぼうぜ」
最初は3人で並んでいたが、途中絢瀬がトイレに行くということで、今は俺と東條の二人で並んでいる。
「そういえば、お前はここに来るの初めてか?」
「へ?ウチ? うん、初めてや。前住んでた家からは少し距離があったし、お参りするような季節の時には……」
そこで東條は言葉を濁した。
まぁ、言わなくても伝わるから問題はない。
「そっか……悪い」
「ゆーまっちが謝ることやないよ〜。こうしてえりちとゆーまっちと来れたんやから、ウチは幸せよ」
そう言って笑う東條。
「…あぁ、そうだな。俺も来れてよかったよ」
「ん?なにが〜??」
ニヤニヤしながら俺に問いかける東條。
「……お前と同じだバカっ」
言わせるなよ恥ずかしい。
「ふふふ♪そっかそっかぁ〜」
でも、まぁ……お前がそんなに嬉しそうに笑うなら、いいか。
そう思っていた時だった。
「あれ?優兄ィ?」
後ろから、いつものように俺を呼ぶ声が聞こえたので振り返る。
「あー!やっぱり優兄ィだにゃ!」
「凛。それに花陽も。お前たちも並んでたのか」
俺と東條は後ろに並んでいた何人かに前を譲り、凛たちの前へと移動した。
「優真お兄ちゃんたちも並んでたんだね!」
「ああ。結局一緒になっちまったな」
「そうだね!……あれ…?もしかして……希ちゃんかにゃ?」
凛が東條に話しかける。
「……うん、せや。久しぶり、凛ちゃん」
「うわぁー!やっぱ希ちゃんだ!久しぶりだにゃ!」
「希ちゃん、お久しぶりです!こうやってまた会えるなんて……」
「花陽ちゃんも、久しぶりやな。元気やった?」
「あれ?希ちゃん、関西弁話してるのかにゃ?」
「えっ……あぁ、うん!そーなんよ」
「東條はあれから関西の方に引っ越したらしくてな。向こうの言葉がうつったんだと」
俺もすかさず援護射撃した。しかし、
「東條?」
しまった……!花陽から突っ込まれ動揺する。
「ほ、ほら!今更下の名前呼び捨てで呼び合うのは恥ずかしいねってなったんよ!クラスも一緒やから、周りの人に勘違いされても困るし!ね!ゆーまっち!」
「あ、あぁ。そうなんだよ」
東條の助け舟に乗り、この場を取り繕う。
なんとかごまかせた…か……?
「なるほどにゃ〜、でも優兄ィ、希ちゃんが帰ってきてたなら凛たちにも教えてほしかったにゃ」
「そ、そうだよ…!もっと早く希ちゃんとお話ししたかったよ…」
「わ、悪い…まさかそんなにお前たちが喜ぶとは思わなくてだな……」
これは嘘じゃない。この2人がこんなに東條に懐いてたとは……
そして、花陽はこの場で問われて、至極当然の話題を持ち出す。
「ねぇ、希ちゃん…どうして私たちになにも言わないで行っちゃったの…?」
今にも泣き出しそうに東條に問いかける花陽。凛もそれに続ける。
「そうだよ…あんまり聞きたくなかったけど、教えてよ希ちゃん…
そのせいで、優兄ィは……」
「─────凛ッ!」
俺は思わず声をあげていた。
それに驚いたような顔をする3人。
「……その話は、もういいんだ。俺と希で話して、きちんと解決したから。
だからあの日のことで希を責めるのは、やめてくれ。わかってくれるな?」
俺の言葉に俯く東條。……あ、しまった。
焦りのあまり“呼び方”が……
「……うん、わかったよお兄ちゃん」
「かよちん!」
「だって優真お兄ちゃんと希ちゃんで話し合ったんでしょ?私たちが口を出すことじゃないよ、凛ちゃん」
「うう〜…」
凛は納得していないようだったが、花陽になだめられ、渋々落ち着いた。
「もう!かよちんに免じて許してあげるにゃ!だから希ちゃん、今度ケーキ食べいこ!希ちゃんの奢りね!」
「ウチが払うの!?……もう、しょうがないんやから」
笑いながら話す2人を見て、安心する。
そこに、絢瀬が帰ってきた。
「ごめんなさい、遅くなったわ。トイレまでの道も混んでるし、しかもトイレも並んでるし……ほんと大変だったわ」
「気にするな。そんなに待ってないさ。おっと絢瀬、紹介するよ。こいつら、俺の幼馴染だ」
「星空凛だにゃ!で、こっちが…」
「小泉花陽ですっ!よ、よろしくおねがいします…」
「あら、初めまして。私は絢瀬絵里。よろしくね2人とも」
自己紹介が終わり、15分ほど談笑していると俺たちの賽銭の番が来た。
賽銭とお願い事を済ませ、おみくじを引いて俺たちは神田明神を後にした。
その後5人でファミレスで食事をとった後、その日は解散になった。
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それから約一ヶ月、一月の末、俺たちはある現場を目撃した。
放課後のことだ。何人かの女子生徒が、一枚のビラを配っていた。
「スクールアイドルやってまーす!ライブやりまーす!」
いつも通り3人で下校していた俺は2人に問う。
「なぁ、スクールアイドルってのはなんだ?」
「ゆーまっち知らないの!?最近流行っとる学生のアイドルグループのことやで!」
全然知らないなぁ……帰ったら花陽にでも聞いてみるか。
「ふぅん……そんなのが流行っているのね」
「えりちも知らんの!?」
「2対1だな」
「2人が流行に鈍感すぎるだけやって〜!」
そして俺はビラ配りをしている中の一人の小柄な女子に話しかける。
「スクールアイドルやってるの?」
そして彼女は笑顔で俺たちに言う。
「はいっ!応援よろしくお願いします!」
なんて元気をもらえる笑顔なんだろう。
それが彼女の笑顔に持った印象だった。
スクールアイドルに興味なんてなかった俺だが、彼女の笑顔を見たとき、なるほどと思った。
皆を笑顔にする仕事。それがアイドル。
この子には、それができる力がある。
俺は俺個人として、この子を応援したいと思った。
「名前、なんていうの?」
俺は彼女に問う。
「矢澤にこ!一年生よ!よろしくね!」
「矢澤さんか。俺は朝日優真。
ライブ、絶対行くよ。本気で応援してる」
「ウチは東條希!ウチも絶対行くよ!にこっち!」
「絢瀬絵里よ。ライブ楽しみにしてるわね」
2人も俺と同じ感想を抱いたようで、それぞれ応援の言葉を口にする。
「3人ともありがとう!絶対にあなた達を笑顔にして見せるわ!」
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それから俺たち3人は矢澤さん達の活動を手伝うようになった。
具体的にはビラ配り、照明や音響の調整など、彼女達が活動しやすいように精一杯の手伝いをした。
結果、彼女達のライブは大成功─────とまではいかなかったが、集まってくれた人たちを満足させることができた。
そして何より、観客としてその場にいた俺たちは、彼女達─────────特にステージに立つ矢澤さんの姿に、あふれるほどの魅力を感じた。
曲は流行りのアイドルのものだったが、矢澤さんはその動きを完璧にトレースし、自らのもののように扱っていた。
そして何より───────笑顔。
初めて見たときから変わらない、見る人に元気を与え、こちらも思わず笑みがこぼれてしまう、満面の笑み。
俺たち3人は彼女から溢れる魅力に夢中になっていた。
「すごかったわよ!にこ!ほんとに笑顔になっちゃったわ!」
「ウチもウチも!ほんまに感動したよ!!」
「ありがと2人とも!それに朝日も!」
「俺たちはできることをしただけさ。それより、本当にすごかった、矢澤。これからもずっとお前を応援していくよ」
そう言いながら喜ぶ俺たち3人と矢澤。
しかし、俺は気づく。
周りの仲間達の、決して喜んでいるとは言えない、沈んだ顔に。
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「今日はほんまにすごかったな〜!にこっち!」
「本当にその通りだわ。正直、スクールアイドルなんて、お遊び気分のものなんだと思っていたのだけど…あんなに魅力的なものだとは思わなかったわ」
「……」
「ん?ゆーまっち?どうしたん?」
「…ん。すまん少し考え込んでた。なんでもないから気にしないでくれ」
俺はあのときの仲間達の表情がずっと気になっていた。
「……何も起こらなきゃいいけどな……」
俺の小さな呟きは2人に届くことなく消えていった。
次回はこのライブから少し時間が経ったところから始まります。
久々に凛ちゃんと花陽を登場させました!
出番あげられなくてごめんよ(;_;)
さて、次回も新たなμ'sメンバーが登場!
今回もありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!