ラブライブ! ─ 背中合わせの2人。─   作:またたね

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不審な2人

 

 

2話 不審な2人

 

 

「『ラブライブ!』。出なくてもいいんじゃない?」

 

 

 穂乃果の言葉に、皆が耳を疑った。

 

「穂乃果……ちゃん……?」

 

 ことりも、信じられないというような震えた声で穂乃果に問いかける。

 そんな言葉にも、穂乃果は笑顔で首をかしげるだけ。

 

「……ぅぅぅう穂乃果ぁぁ!!」

 

 にこが耐えられないといったように穂乃果に駆け寄る。

 

「アンタ何いってんの!?『ラブライブ!』よ『ラブライブ!』!アンタが出ないなんてそんなこと、言うわけないでしょ!?」

「仕方ないじゃん!出なくてもいいんじゃないと思ったんだから!」

「どうして……どうしてよ!」

「…………だ、だって廃校は無くなったんだよ?だから『ラブライブ!』にこだわる理由もなくなったじゃない。私は、今までみたいに楽しくアイドルを続けて行くだけでもいいんじゃないかな、って……そう思っただけ!今日は帰るね、バイバイ!!」

「あっ、穂乃果ッ!」

 

 そう言い残して穂乃果は机から鞄をひったくるように掴むと、部室から駆け出していってしまった。

 

「……どうしたのかな、穂乃果ちゃん」

「様子、おかしかったよね」

「……まぁ、嘘を言ってるって感じではなかったけど……」

 

 皆が、穂乃果の今の様子に……“らしくなさ”に疑問を抱いている。

 

「ま、こんな時こそアンタの出番よね……頼んだわよ、優真」

 

 にこは笑顔で、優真に声をかけた。

 そう、いつもこんな時は優真がメンバーの心の悩みと向き合い、その悩みを晴らしてくれる。その信頼から、にこは優真を指名したのだ。

 その信頼は、にこだけでなく、μ's全員の共通認識でもある。故に、皆も笑顔で優真の方を向いた。

 

 

 しかし、当の本人は───

 

 

「……あー……大丈夫、じゃないか?」

『え?』

 

 優真の言葉に、先程の穂乃果のとき同様驚きの声が上がった。

 

「穂乃果なら大丈夫だろ、俺が何もしなくても。あいつも成長してるし、何かわけがあるんだろうさ」

 

 優真は笑いながらそういうものの、その笑顔はどこかぎごちない。

 

「……じゃ、今日は俺も帰るわ。またな」

 

 そして優真は足早に部室を去って行ってしまった。

 残されたメンバーは呆気にとられていたものの、しばらくすると各々不信感を口にし始めた。

 

「……どうしたの、アレ」

「穂乃果も様子がおかしかったけど、優真も……」

「普通じゃなかったわね」

 

 にこ、絵里、真姫の言葉に、皆が頷く。

 

「穂乃果ちゃん、どうしちゃったんだろう……」

「優真先輩の言う通り、穂乃果にも何か考えがあってあんなことを言ったんだと思いますが……」

 

 幼馴染であることりと海未の2人にも、穂乃果の真意は掴みきれていない様子。

 

「……優兄ィ、らしくないよね」

「うん……こんな時に、優真くんは絶対に穂乃果ちゃんをそのままにしたりなんてしないはず」

 

 また優真の幼馴染の凛と花陽も、彼の行動に疑問を抱いていた。

 μ'sの核とも呼べる2人の、不可解な行動。このことは残りのメンバーに大きな不安を募らせていた。

 

 すると突然にこは、決定的な話題を口にした。

 

 

「ねぇ。アンタ達は『ラブライブ!』に出たいの?出たくないの?」

 

 

 

「にこちゃん…」

「私は…『ラブライブ!』に出たい。さっき優真も言ったけど、やる前から諦めてたって何も始まらないわ。私は『ラブライブ!』に出て、もう一度……もう一度、9人で見たい。限られた時間の中でしか得られない、あの輝きを」

 

 にこの言葉で、皆が顔を見合わせる。

 そして絵里は、力強く頷いた。

 

「……にこの言う通りね。私も『ラブライブ!』に出たい」

「エントリーするだけタダだし、損はないものね」

 

 絵里と真姫が、にこに同意する。

 皆も笑顔でにこの方を見ている。

 

「……じゃあ決まりね“私達は『ラブライブ!』に出場したい”。あとは穂乃果次第、だけど……」

「何故だか穂乃果ちゃん、乗り気じゃないし……」

「頼みの優真さんも様子がおかしいし」

 

 花陽と真姫の呟きに、皆が表情を暗くする。

 

 しかし。

 

 

「──あぁ」

 

 

 不意に希は、何かが腑に落ちたように呟く。

 

「希…?」

「みんな。このことはウチに任せてくれんかな?」

「えっ、でも……」

 

 希の提案に、凛は驚きの声をあげた。

 皆も驚いたように希を見ている。

 

「優真くんは、ウチが説得してみる」

「大丈夫なの?」

「……心当たりがあるんよ」

「心当たり?」

「うん。やからまぁ、なんとかなるんやないかなぁって」

 

 心配そうな真姫と絵里の様子を尻目に、希はえへへと笑った。

 

「……まぁ、優真の説得なら希が適任ね。ここは希に任せておきましょ」

「にこっち…」

「期待してるわよ?彼女サン?」

「っ!もう!!」

「冗談よ冗談。さ、残ったメンツだけでも練習するわよ?『ラブライブ!』って言う新しい目標も出来たんだし、時間を無駄には出来ないわ」

 

 にこはそう言うと、タオルを片手に部室を出て言ってしまった。そんなにこの様子を見て、希は笑う。今の一言で、にこの思いを確かに感じた。

 

 にこはもう、『ラブライブ!』に向けて自分に出来ることをやろうとしている。

 つまりにこは確信しているのだ──μ'sは『ラブライブ!』に出場するということを。即ち穂乃果を、優真を、希を、心から信じてくれているのだと。

 

「……にこのいう通りね。今は希を信じて、出来ることをやりましょう?」

 

 絵里の言葉に、皆が頷く。にこ同様、自分を信じてくれていることを胸に感じた。

 ならば自分は応えなければならない。皆の信頼に、彼の為に。

 

 部室を出て行く皆の背を見ながら、決意を固めた希は後を追いかけるように駆け出した。

 

 

 

▼▽▼

 

 

 

 次の日。

 授業を終えた俺は、机上の教材を整理しながら、昨日の出来事について考えていた。

 

 『ラブライブ!』第2回大会、か──。

 

 皆が参加だけでもしてみようと言う空気になっている中、それを真っ先に否定したのはなんと穂乃果だった。結果出場するか否かは有耶無耶になり、結局は穂乃果の決断に委ねられることになった。

 

 そんな穂乃果の様子が気にならないわけがない。彼女が何を思って、あんなことを言ったのか。何か悩んでいるのなら、力になってあげたい。

 そう思わないといえば嘘になる……しかし。

 

 俺はそれをするわけにはいかない。

 

 俺なりに考えての結論だった。

 何故なら──

 

 

「優真くん」

 

 

「ん……希。どうした?」

 

 俺の思考は、呼びかけた希の声により途切れる。

 

「この後すぐ練習行くよね?ちょっと時間ある?」

「いいよ。なんかあった?」

「んー……まぁ少し、ね。ほないこ?」

「おっけ。少し待って、これ片付けてから行く」

「わかった。音楽室で待っとるね」

 

 思考に耽っていた結果、俺の片付けの手は止まっていたようだ。中途半端に整頓された机上に、俺はこんなにも考え込んでいたのかと苦笑を浮かべつつ、急いで片付けた後希の待つ音楽室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「で、何の話だよこんなところに呼び出して」

 

 音楽室に入るなり、俺は希に問いかけた。

 

「もう、せっかちやなぁ。キミは別におかずは好きなものから食べるタイプやないやろ?」

「それ関係あるか?」

「関係ないね」

「だよな」

 

 高速のレスポンスでの意味不明なやりとりに、きっと意味はないのだろう。今のでわかった……コイツ、緊張してるんだな。

 今から話すことは、どうやら希にとって重要なことらしい。だからいきなり本題を打ち明けるには少々荷が重い、と言ったところか。

 

 そして俺は沈黙を選んだ。希が少しでも、話しやすくなるように。そんな俺の配慮を察したのか、希は嬉しそうに少しだけ笑った。

 

「……はぁ、何でもお見通しやね」

「何が?」

「んーん、なんでも」

 

 そこで言葉を切ると、ようやく覚悟が固まったらしい希はその本題を切り出した。

 

「……どうして昨日、穂乃果ちゃんを放置したん?」

「放置なんて、そんな言い方。昨日も言っただろ?あいつは俺の助けなんて無くても、きっと大丈夫。俺は穂乃果を信じてるから」

「そうやね。その言葉に嘘はないんやと思う。でもね」

 

 次の瞬間、希の声色が少しだけ変わった。

 

 

「昨日のアレは、キミらしくなかった」

 

「……そうか?」

「隠してるつもり?ウチだけやない、みんなもそう言ってたよ。本当はわかってるんやろ?自分だって」

「……」

「キミなら絶対に、穂乃果ちゃんを放置したりしない。穂乃果ちゃんを信じていたとしても、キミは絶対に穂乃果ちゃんに声をかける。それが朝日優真くんって言う人間の、“在り方”だから」

 

 希の言葉を、俺は黙って聞いている。

 …否、正確には“図星を突かれて”、声が出ない。

 

 そうさ、わかっているとも。

 大切な仲間を守れる、優しい人に。

 それが俺の目指す、これからも目指し続ける理想像だ。目に見えて悩んでいる人を見過ごすなど、本当ならば絶対にしたくない。さっきも言ったが、俺だって穂乃果に何か言ってやりたかったさ。でも、“今の”俺にはそれはできない。

 

 

「──ふふ」

 

 ふと、希が急に笑い声を漏らした。

 

「でも。それを責める権利は……本当はウチには無いんよね」

「えっ」

「だって──()()()()()()()()()?優真くん」

「っ!」

 

 予想外の言葉に、驚きを隠せなかった。

 

「……ウチっていう“彼女”がいるために、キミは他の女の子に必要以上に接することをやめようとしている。そうだよね?」

「……」

「キミにそんなつもりがないとしても、ウチを傷つけてしまうかもしれないから。キミなりにウチのことを考えてくれたんやろ?ありがとね」

「……なんで」

 

 

 ──なんで、わかった。

 

 希の言う通りだ。

 希と付き合ってからもう2ヶ月近くが経ち、その間に俺は、自分のヘタレさが原因で、希を何度も傷つけてしまった。

 そんな自分に、嫌気がさしたから。

 これ以上、君を傷つけたくなくて。

 俺なりに……考えた結果がこれだ。

 きっと俺の理想を追い求める姿は、君には苦痛に映るはずだから。心を救うために、誰よりも側で心を寄り添わせようとする彼氏の姿なんて、彼女側からすれば見たくないはずだから。

 

 だから、希以外の女の子と必要以上に触れ合うのはやめよう。そう決めたのに。

 

 

「『なんで、わかった』、か?ウチを誰やと思っとるん?」

「……最近そればっかだな、お前」

「本当にそうなんやから仕方ないやん?まぁでも確証はなかったし、もし今の話が本当なら、ウチは凄く嬉しいよ」

 

 希の笑顔は、どこか安堵を携えていた。

 口ではあんなことを言いながら、本当は合っているか不安でたまらなかったのだろう。そうじゃないなら、これを切り出すのにあそこまで緊張していた理由がわからない。

 

「でもね、優真くん。無理せんでええんよ」

「……俺は別に無理なんて」

 

 君を傷つける方が、もっと嫌だから。

 というのは恥ずかしくて言えない。

 

「優真くんが、どんな思いで、今の“在り方”を選んだか、ウチは知ってる。だからこそ、ウチのせいでその思いを縛りたくない。それにね……」

 

 希はそこで瞳を閉じると──照れたように頬を赤く染めて、笑った。

 

「──私はキミのそんな姿が大好きだから。誰かのために優しくなれるキミが、私の願い、私達の奇跡のために頑張ってくれる姿を、ずっと隣で見ていたい。だから優真くん……自分を、曲げないで。私は大丈夫だから」

 

 久々の標準語に、内心ドキッとした。

 希の言葉で、心に感じた靄がスーッと晴れていくのを感じる。

 あぁ、やっぱり俺は──

 

「……希」

「ん?」

「俺やっぱりお前のこと好きだわ」

「ふぇぇぇっ!?な、なにいきなり!??」

「そう思ったんだよ。好きだよ、希」

「ぇっ、ぁ……わ、私も…………」

 

 先程以上に顔を真っ赤にして、希は俯いてしまった。その様子に思わず笑みが溢れる。

 希が落ち着くまで待って、俺は改めて声をかけた。

 

「ありがとな、希」

「ううん。もう大丈夫そうやね」

「あぁ。穂乃果のところに行ってくるよ」

「良かった……頼んだよ、優真くん。ウチは先に部室にいってるね」

 

 希はそう言って俺に笑顔を向けると、音楽室から出て行った。

 さて、俺も穂乃果に会いに行かないと。

 そう思って音楽室を出ようとした瞬間。

 

 

「──甘すぎて吐きそうだったわ」

 

 

 後ろから呼びかけられた声に、俺は思わず固まってしまう。ゆっくりと振り返ると、そこには俺の想像通り、不機嫌そうな顔で俺を見つめる赤髪の少女の姿が。

 

「ま、真姫、お前、いつから……?」

「……実は最初から。準備室で譜面台を片付けていたんだけど、途中で優真さんと希が入ってきて大事な話してたから抜けるに抜け出せなくて」

 

 つまり全て聞いていたと。

 俺達の、あの“やりとり”も。

 

「ぬ、盗み聞きとは趣味悪ぃな」

「誰があなた達のガムシロ溶かしたサイダーみたいなイチャつきを好き好んで見るっていうのよ!不可抗力よ、不可抗力!」

 

 フンっ!と真姫がそっぽを向く。いつものツンデレではなく、普通に不機嫌なだけのようだ。

 

「……まぁ、でも、優真さんたちが幸せそうなのは私も嬉しい、わよ……?」

「……お前自分のツンデレ力を使いこなしてきたな。まさかタイミングをずらしてツンデレを発揮してくるなんて。お兄さんびっくりしちゃったよ」

「何の話よ!って言うか何キャラよ、それ!」

 

 真姫が顔を真っ赤にして噛み付いてくる。

やはりチョロい。変わらない真姫の様子を見て俺は笑みを浮かべた。

 

「……ねぇ、優真さん」

「ん?」

 

 

 

「──ヒトを好きになる、ってどういうことなの?」

 

 

「……え、興味あるの?」

「ないわよ!!た、ただ参考程度に聞きたかっただけっ」

 

 そして横目赤頬髪クルクルという西木野さん伝家の宝刀が炸裂。わざわざ興味がアリアリということを教えてくれてありがとう。

 

「……人それぞれだよ」

「人、それぞれ……?」

「あぁ。そしてきっかけは1つでも、好きだなぁって思うタイミングはいつも違う。不確かでわからなくて、それでも手放したくない気持ち、かな」

「……哲学みたいね」

「人それぞれなんだから仕方ないさ」

「ふぅん……まぁ、ありがとう」

「何だ?好きな人でもできたか?」

「違う。本当にただ興味が湧いただけよ」

「興味あるんじゃんか」

「あっ」

 

 墓穴を掘った、とばかりに真姫の顔が歪み、次第に紅潮していく。しかし真姫はそこで噛み付いてくることはせず、深呼吸をして冷静さを取り戻し──頬は赤いままだが──弁明、もとい言い訳を始めた。

 

「……そうよ。興味が湧いたの。優真さんと希が、あんなに幸せそうにしてたから」

「不可抗力って言いながら、ガッツリ見てるじゃねぇか」

「もう!そこはどうでもいいでしょ!?」

 

 数度目となる真姫の噛み付きを適当に宥めると、真姫は溜息をついて俺に言う。

 

「はぁ……とにかく質問に答えてくれてありがと。あと、話聞いちゃってごめんなさいね」

「どうして最初にそれが言えないかなぁ」

「何でそんなに上からなのよ腹立つ!!……穂乃果のところに、いくの?」

「あぁ。穂乃果と話をしてくるよ」

「そう……穂乃果、練習には来ないで帰っちゃったみたいよ。凛から連絡が来てる」

 

 携帯を見ながら、真姫が俺に教えてくれた。

 

「そっか……ありがとう、盗み聞きの件はこれでチャラにしてやるよ」

「ご親切にどーも」

「可愛くねーヤツ……んじゃ、行くね」

「はい……優真さん」

「ん」

 

 

「穂乃果のこと……頼みました」

 

 

「……おう、俺に任せとけ」

 

 心配そうな真姫の呟きに明るく返事をし、俺今度こそ音楽室を後にした。

 

 穂乃果の昨日の行動の真意。

 

 それを知った俺に何ができるのか、わからないけど。

 

 それでも何かをしてあげたくて、

 

 彼女の何かを、少しでも“変えられたら”。

 

 そんなことを思いながら、俺は穂乃果を探して歩き続けていた。




希という彼女ができて、優真もまた少し“変わり”ました。
一期の物語から、少しずつ成長して行く彼らを、楽しみにしていただけると幸いです。

今回もありがとうございました!
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