──私はどうしたいんだろう
部活を2日連続で休み、家に帰ったはいいもののモヤモヤして気分転換に散歩に向かい、街中を1人で歩いていても賑やかな雰囲気が自分の心境と合わず、人気の少ない場所を探して、穂乃果はここ…神田明神へとたどり着いた。
「……あれからもう、半年近くになるのかぁ」
彼女が思い出していたのは、μ'sを結成して直ぐ……まだことり、海未、優真の4人で活動していたあの頃。
「あの時はまだ、廃校阻止のために活動し始めたばっかりで、無我夢中で頑張ってて……『ラブライブ!』のことなんて、想像もしてなかったんだよね」
彼女の胸中のほとんどを占めているのは、第2回『ラブライブ!』のこと。
部室でその話が持ち上がり、皆がA-RISEと当たることを知って落胆している中で、穂乃果は1人考えていた。
A-RISEと当たるにしろ当たらないにしろ。
自分たちが『ラブライブ!』に再び出る意味はあるのか。
よしんば意味があったとしても。
──自分に『出たい』という資格はあるのか。
前回の『ラブライブ!』は、自分のせいでフイにしてしまった。
皆の支えがあってそこから立ち上がったとしても、穂乃果にとってやはりあの出来事は自分を成長させる糧でもあり、自らを罰し続ける咎でもあるのだ。
あの出来事を経て成長した穂乃果は、故に思案する──自分にとって、μ'sのみんなにとって最善の決断を。
自らの思い──出たくない、といえば嘘になる。ただあの時出なくてもいいのかもしれないと思ったのもまた嘘ではない。
客観視──自分は今スクールアイドルをしているだけではなく、絵里達から受け継いだ生徒会の長でもある。生徒会の仕事をやりながら『ラブライブ!』を目指す精神的、身体的余裕があるのか。
“あの日”の出来事で確かに穂乃果は成長した。
だからこそ、穂乃果は悩む。
皮肉にも、それは穂乃果の長所に影を刺すすことになってしまった。
「はぁ……私、どうすればいいんだろ」
「──やっと見つけた」
そんな穂乃果の背中にかかった声。
「……優真先輩」
▼▽▼
「お前、家に帰ったって聞いたから家に行ったのにいないじゃんかよ。大人しく家で寝てればいいのに」
「あぁ……探してくれたの?ごめんごめん」
冗談っぽく俺は笑いかけて見たが、穂乃果は苦笑いを浮かべるだけ。聞き流すほどの余裕もないのか。
「……どうしたんだ、こんなところで」
「んーん……ちょっと、考え事」
「……昨日のこと…『ラブライブ!』のことか?」
「……」
その沈黙が答えだった。穂乃果は困ったように笑って俯いてしまう。
「……どうして昨日はあんなことを?」
「“あんなこと”、か…一応色々考えたんだけどな」
「わかってるよ。だからこそ、だ。穂乃果らしくないと思って。何か悩みがあるのか?」
俺の言葉に穂乃果は黙り込んでしまった。それでも俺は待つ。彼女と向き合うために。
やがて穂乃果は、ゆっくりと口を開いた。
「……優真先輩は、『ラブライブ!』に出るべきだと思う?」
「……お前は出るべきじゃない、と?」
「わからない……わからないの。実際廃校は無くなったんだし、『ラブライブ!』に出て、学校を有名にしようっていう風に頑張る必要もなくなった……昨日言った言葉に嘘はないの。だからもう、『ラブライブ!』に出なくてもいいんじゃないかな、って……あっ」
穂乃果の言葉が途中で切れたのを疑問に思って……直ぐに理由がわかった。
「雨だ……」
「いきなりかよ…とりあえず、あそこに」
「うん」
境内の屋根付きの本を指差して、穂乃果と共に走る。おそらく通り雨だろう、想像以上に強い雨足に舌打ちしつつなんとか屋根の下へと逃げ込むことができた。
「ったく……天気予報じゃ今日は一日晴れだろ?傘なんて持ってきてないっつーの」
「うん……」
何気ない日常会話ですら、穂乃果の返事は歯切れ悪い。こんなにも思いつめていたのか……。
しばらく無言が続いた後、穂乃果が再び自分の悩みを語り始めた。
「……それに私今、生徒会長だし。自分でやりたい、って始めたことだから後悔は全くしてないけど、やっぱり仕事にも慣れなくて、苦しくない、って言ったら嘘になるの。そんな中で私、『ラブライブ!』と生徒会の仕事の両立なんて、やっていけるのかな」
……ここまで考えていたとは。
会長をやりたいと言った時もそうだが、やはり穂乃果の成長は目を見張る。数ヶ月前の彼女とは最早別人だ。
そんな成長した彼女“だからこそ”の悩み。
自分のキャパシティと、両立の大変さを天秤にかけ、彼女の心は揺れている。
そんな君に、俺がしてあげられることは。
「……なるほど、ね。それで昨日、あんなことを」
「うん……」
「なぁ、穂乃果」
「ん…?」
「お前、一個だけ間違ってるぞ」
「えっ……」
「お前、俺に聞いたよな?“『ラブライブ!』に出るべきだと思いますか?”って。そうじゃないだろ。穂乃果、お前は。
──ラブライブに、“出たい”のか?“出たくない”のか?」
「……!」
俺の言葉に、穂乃果が心底驚いたように目を見開く。
「“出るべき”、“出るべきじゃない”よりも先に、“出たいか出たくないか”。こっちはどうなんだ?確かに今のお前の考え方じゃ、出るべきじゃないって思ってしまうかもしれない。でも、お前はもっと大切なことを考えるのを忘れてる。もう一回聞くぞ、穂乃果。
お前は“出たい”のか?“出たくない”のか?」
“出るべきではない”。穂乃果が導き出したこの結論には、大切なものが欠けている。
それは“穂乃果自身がどうしたいか”という、個人の結論に絶対に置いて忘れてはならないものだ。
穂乃果は周りを見るということを覚えたばかりに、こんなに当たり前のことが頭から抜け落ちている。穂乃果最大の“武器”が、鈍色に霞んでしまっている。
だから俺は問う。周りへの迷惑、そんなものは一先ずさて置いて。穂乃果自身は、一体どうしたいのかを。
俺の言葉に黙り込んでしまっていた穂乃果は、やがて目を見開いて、俺を見据えた。
「──“出たい”。出たいよ、『ラブライブ!』。考えるだけでワクワクする……あの輝きを、頂点を、みんなでまた目指したい!」
その言葉に、俺はニヤリと笑う。
「“出るべきじゃない”。お前にとってはそうなのかもしれない。でもお前の中に少しでも“出たい”っていう気持ちがあるのなら。俺はそれを尊重してほしい」
「優真先輩……」
「μ'sのみんなは出たいと思ってる。前にあんなことがあって言いにくい気持ちもあるかもしれないけど、みんななら大丈夫。ちゃんとお前の気持ちを受け入れてくれるさ」
「いいの、かな……私、たくさん迷惑かけちゃうかもしれないけど」
穂乃果はまだ、迷っている。
自分の中での“出るべきではない”という思いが、彼女の踏み出そうとする一歩を阻害している。
俺1人で背中を押せるのは、ここまでみたいだ。
──だからこそ。
「……って、穂乃果は言ってるけど?」
「えっ?」
俺はいきなり、彼女とは明後日の方向に声をかけた。そしてそこから……
「……そんなこと考えてたのね」
「全く、いつの間にそんなに成長したのよアンタ」
「絵里ちゃん、にこちゃん…!それにみんなも」
絵里が、にこが、μ'sの皆が、穂乃果の前に姿を現した。
「……聞かせてもらったよ?穂乃果ちゃんの思い」
「希ちゃん……」
「私達に迷惑をかけるかもしれない、なんて。貴女いつからそんなにいい子になっちゃったのよ」
「そうよ。そんなくだらないことで悩んでたなんてアンタが可哀想になるわ」
「くだらないって……そんなっ」
「いい!?」
「っ!」
穂乃果の言葉を無理やり遮り、にこが彼女の眼前に身を乗り出した。
「──“迷惑をかけるかもしれない”?ふん!こちとらアンタに迷惑かけられっぱなしよ!そんなのもう慣れっこだわ。それを今更めんどくさいこと考えてんじゃないわよ。私達は仲間でしょ?迷惑かけてナンボでしょうが。
それを差し引いても、アンタにはアンタの魅力があるの」
「私の……?」
「そう。穂乃果がいたから、私達はここまで来れた。穂乃果がいたから、また私はアイドルを始められて……素敵な仲間に出会えた」
「にこちゃん……」
真顔で告げられるにこの思い。それに心が響かない程、穂乃果は腐っていない。
俺にもわかるほど、穂乃果は揺れている。それを成し遂げられるのは、誰よりもアイドルに真摯で……誰よりも穂乃果に感謝している彼女だからこそだ。
「……アンタが潰れそうな時は、私達で支える。だからアンタはいつもみたいに“やりたいこと”目掛けて突っ走って行けばいいのよ……私達のリーダー」
「!」
「……そういうことだ、穂乃果」
「優真先輩……」
「ここにいるみんなで、お前を支えていく。だから連れて行ってくれよ。お前がいないと見ることができない世界へ。
俺たちは俺たちらしく!“やりたいこと”を、“やりたいように”やっていこう、穂乃果!」
「うん……うん!!」
穂乃果の瞳が、一際輝く。
迷いの消えた曇りなき眼が、俺を見据える。
覚悟が──決まった。
「──“出よう”!!みんなで、『ラブライブ!』!!」
穂乃果の言葉で、皆が笑顔に変わる。
これだ。これでこそ俺達のリーダー、高坂穂乃果だ!
「穂乃果…!」
「穂乃果ちゃん!」
「でも!『ラブライブ!』に出るだけじゃもったいない!」
「え……?」
「この9人で目指せる最高の結果──
──優勝を目指そう!!!」
「優勝!?」
「そこまで行っちゃうのかにゃ!?」
「大きくでたわね……!」
「でも、面白そうやん!」
どこか現実味のない優勝という言葉。
しかし皆はそれを否定することなく……笑顔で肯定する。
「さあ行こう!『ラブライブ!』!
私達の、新しい挑戦の始まりだ!!!」
穂乃果の言葉に、心が震える。
ただただ前を見据えるその言葉に、俺は穂乃果の背中を押していたつもりが、気づけば背中を押されていることに気づく。
やれる、やれるさ。
お前なら、俺たちなら、どんな不可能だって!
気づけば雨も止み、眩しいほどの太陽が、俺たちの“太陽”を照らしていた。
「一緒に行こう!頑張ろう、穂乃果!」
「うん!私、やる!やるったらやる!!」
今日この日。
俺たちμ'sの、本当の再スタートが、始まった。
▼
次の日。
花陽の呼びかけで、μ'sメンバーは昼休みに全員部室に集められた。
「どうしたんだよ花陽……全員呼び出すなんて」
「今からA-RISEが……記者会見を行うみたい」
「記者会見?」
「うん、重大発表があるみたい…あ、始まった!」
花陽はその言葉とともにパソコンの前の椅子から立ち上がり、全員に見えるようにしてくれた。
画面を白く染めるフラッシュ。一高校生グループのために集まっているとは思えないほどの量。その中に座っているのは──
「……ツバサ」
A-RISEのリーダー、綺羅ツバサ。
スクールアイドル界の絶対女王、A-RISE。
そのリーダーの彼女の口から一体何が飛び出すのか。
記者達はもちろん、俺達も画面から目が離せない。
『皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。本日は、皆様に発表したいことがありまして、このような場を設けさせていただきました。
この度A-RISEに、新メンバーが加入することになりました』
「!?」
「新、メンバー!?」
絵里の驚きの声が、部室に響き渡った。皆も声こそ出なかったものの表情は驚きに満ちている。
『私から話すよりも、当人の口から話していただきましょう。それでは新メンバーを紹介します』
ツバサの言葉で、1人の少女が画面へと姿を現した。
「うわぁ、可愛い……!」
「この人が新メンバー!?」
「天使みたい……」
凛、穂乃果、花陽が各々の感想を呟く。
その中で俺は。
「………………………………は?」
「え……?」
「どうしたのよ、優真」
真姫とにこの不審そうな声が、えらく遠くに聞こえる。それくらい、俺の受けた衝撃は尋常なものではなく。
「なん……で……なんで、なんで!?」
「の、希もどうしたっていうのよ」
希も俺と同じく……否、それ以上に動揺している。
その理由に気づけたのは、俺や希と同じく、驚きの表情を浮かべる絵里とことりと海未だけだろう。
そんな俺たちに、その言葉は告げられる。
『──初めまして!
A-RISE新メンバーの、
そして画面上の彼女は笑う。
それはまさしく、天使のような笑み。
しかし俺にはそれは───
「優真…くん、この人……」
「…………あぁ、そうだ。こいつは、こいつは……!!」
「西城、ヒカリ……
「っ!?まさか!!」
あぁ、そうだよ真姫。
こいつは、俺たちの目の前で、“ドス黒く歪な笑み”を浮かべて嗤うこいつは!!
「──中西」
「光梨…………ちゃん…………?」
『皆さん、よろしくお願いします!あはっ♪』
運命は、どこまで俺達を嘲笑う。
二期編は、穂乃果が輝くストーリーです。
一期では出番の少なかった彼女ですが、主役級の大活躍をします!!
あ、主役だった!笑
そして登場──二期編のラスボス……及び、『背中合わせの2人』のラスボスです。一期中盤で影を潜めていた彼女が、ついに表に姿を表しました。
原作と大きくかけ離れたストーリーですが、是非お楽しみに!
今回もありがとうございました!