【Love Wing Bell】─姉妹─
11話【Love Wing Bell】─姉妹─
「ええーーーーーッ!!!」
その叫びは、部室中に響き渡った。
声の主は驚きのあまり立ち上がり、顔を引きつらせている。そして、こう続けた。
「──凛がリーダー!?!?」
もうお分りいただけたことだろうが、声の主とは凛のことだ。まぁこんなことになったのには理由があるのだが……
「そう。リーダーの穂乃果は修学旅行で居ないし、暫定的にもリーダーを決めていた方が纏まりも出るし、練習にも気合いが入ると思うの」
「で、俺たち3年の中でリーダーに相応しいって案が出たのが……」
「凛ちゃん、ってわけやね♪」
絵里の言った通り、穂乃果たちは修学旅行の為に沖縄へと旅立った。というわけで残ったのは俺含めて7人。穂乃果が居ない間の生徒会の仕事をする為に、俺と絵里と希はあまり練習に顔を出せない。というわけで俺たちが選んだのが──
「で、でも……」
「勿論、穂乃果たちが帰ってくるまでの話よ。リーダーだからって変に気負わずに、普段通りで大丈夫だから。真姫と花陽はどう思う?」
「まぁ、凛が適任なんじゃないの?」
「私も凛ちゃんがいいと思う!」
花陽と真姫も笑顔で凛をリーダーに推すものの、対照的に凛の表情は晴れない。困惑と驚愕を入り混ぜた複雑な表情でキョロキョロと俺たちを見ている。
「ま、まって、なんで凛なの……?もっと相応しい人いるよ……そうだ、絵里ちゃんとか!」
「私は生徒会の仕事もあるし……それに、今後のμ'sのことを考えたら1年生がやるのがいいと思うの」
絵里の指摘が正しいことは理解しているのだろう。凛は引きつったまま固まってしまった……しかし彼女はこの程度では諦めない。
「じゃ、じゃあにこちゃん!」
「アンタ話聞いてなかったわけ?1年生が良いって話したじゃない」
「あ、にこちゃんはそういえば3年生だったにゃ」
「シバき倒すわよアンタァ!!!」
「落ち着けにこ……ッ!」
「話しなさい優真!コイツだけは、コイツだけはぁ!!」
今にも凛に殴りかかりそうなにこを後ろから強く抑える。そんな様子を意にも介さず、凛は慌てたように次の標的を探していた。
「うぅー……それなら真姫ちゃん!!」
「あなたねぇ……みんな凛が良いって言ってるのよ?そこで私がリーダーやるのも変な話じゃない」
「にゃ、にゃぁ〜」
真姫にそこまで言われて、凛はやっと観念したようだ。
「…………やりたくないの?」
心配そうに、花陽が声をかける。
「…………そうじゃないよ?でも……凛にはそういうの、似合わないよ」
「……意外ね、凛だったらこういうの快く引き受けると思ってたんだけど」
突発的怒りより脱したにこが、言葉通り意外そうに呟く。彼女はそういうものの……俺は知っている。
何を隠そう、凛は明るい性格の反面、極度の引っ込み思案なのだ。
思い返せば、彼女──星空凛と出会ったのはもう6年も前の話になる。
凛の母親と俺の母親が昔の知り合いで、俺たちはすぐに家ぐるみの付き合いになった。
最初こそぎこちない関係だったが、次第に俺たちは仲良くなり、今では凛は俺にとって掛け替えのない存在となっている。
そんな俺だからこそわかること。
凛は幼い頃から、『男っぽい』と言われ続けてきた。
勇気を出して履いてきたであろうスカートを、周りの男子から『似合ってない』、『
そんな日々を過ごした凛は──多分、μ'sの誰よりも、自分に自信がない。
自分は、可愛くない。
自分には、似合ってない。
自分には、出来ない。
そう言い聞かせて、本当にやりたいことをずっと心の中に封じ込めてきた。
だから正直、今回のリーダーの件もきっとこうなるだろうと俺には予測できた。
それでも。
「……凛」
「っ、何……?」
俺の声かけに、怯えたように凛の肩に力が入る。
「……お前が自分に自信がないのは、俺も知ってるさ。でも俺たちは、みんな凛が適任だと思ってる。だからお前も信じてくれないか?俺たちのこと」
「信……じる」
「あぁ。そして少しだけでいい。
「優兄ィ……」
そう呟き、それでもまだ不安そうに皆を見つめる凛。しかし皆の笑顔に触れ、その表情は少しずつ明るくなっていく。
「……うん、わかった!優兄ィがそこまで言ってくれるならやってみる!」
凛は笑顔で皆にそう告げた。
その様子に安堵し、俺も思わず笑顔になる。
「……さぁ、それならさっさと練習始めちゃいましょ?」
「そうね……私と希と優真は、生徒会の仕事を終わらせてから向かうから、先に始めててくれるかしら?」
「わかったわ。それじゃ頼んだわよ?リーダーさん?」
「も、もう!にこちゃん!」
凛の突っ込みに場の空気が和む。
「……じゃあ俺らはいってくる。また後でな」
席を立った俺に続き、絵里と希も部室を後にした。
その時に、俺は気づかなかった。
「──ありがとね、優兄ィ」
小さく呟き、頬を染めて笑顔で俺を見送る幼馴染にも。
「…………」
そんな凛を、どこか暗い様子で見ている、幼馴染にも。
▼
「疲れたにゃあ〜……」
「お疲れ様、凛ちゃん」
「しっかりリーダーやれてたやん。これなら明日も安心やね」
「うぅ……本当に凛で大丈夫なの?」
その日の放課後。
生徒会の仕事を終え、部活へと合流した俺たち一行は、練習を終え帰り道を歩いていた。
「大丈夫よ、凛。最初から何もかも上手くなんていかないわ。さっきも言ったけど、困ったら全然私たちを頼ってくれていいんだからね?」
「うん……ありがとう、絵里ちゃん」
「絵里も生徒会長になりたての頃はてんやわんやだったよな」
「ちょ、優真っ…!」
「そうそう、ミスも多かったし、すーぐため息ついてたもんなぁ」
「もう!私の話はいいでしょ!?」
顔を赤らめながら反駁する絵里の様子に、皆が笑みを浮かべる。
「それはそうと……みんなはどう思う?」
「ん……何がだ?真姫」
「にこちゃんよ。最近練習に来なかったり、途中で抜けたりするの多すぎじゃないかしら?」
「まぁ、確かにそうだけど…」
真姫の言う通り、にこは今日練習の途中で用があると言って帰ってしまった。今日に限らず最近──それこそ穂乃果たちが修学旅行に行く前から──にこは練習への参加頻度が目に見えて減っている。普段の彼女のアイドルへの取り組み方を考えれば、違和感を持つのも無理はないと言える程に。
「んー、確かに気になる、かも?」
「まぁもしかしたら家庭の事情かもしれないし、あまり詮索はしないほう……が……」
その時、俺の言葉は衝撃のあまり止まってしまった。不審に思った真姫が俺に声をかける。
「? どうしたのよ、優真さん」
「いや……アレ」
俺は目の絵に飛び込んできた、衝撃の光景を指差す。
そこに居たのは。
「───にこ、ちゃん……?」
「でも、小さい……?」
こちらに向かって鼻歌交じりに歩いてくる、にこそっくりの少女。その少女はサイドテールをぴょこぴょこと揺らしながら歩いている。
呆気にとられた様子で自分を見つめていることに気づいた少女はすれ違う直前に首を傾げてその場に止まると、ふと閃いたように表情を輝かせて俺たちに声をかけた。
「───もしかして、μ'sの方々ではありませんか!?」
「えっ……あぁ、そうだけど」
「やっぱり!見たことある方々だと思ったんです!」
楽しそうに笑ったにこ似の少女は、佇まいを整え、礼儀正しくお辞儀をした後言う。
「──
「いっ……!」
「妹!?」
「に、にこっちに妹が……」
衝撃は大きく、皆も動揺が隠せていない。そんな中、こころちゃんはある提案を持ちかけた。
「──そうだ!今からお家に来てくれませんか?私、皆さんとお話しして見たかったんです!」
「えっ、家に…?」
「でも、いいの?」
「はい!姉もきっと喜んでくれると思います!」
先程の動揺とは違った、困惑の空気が俺たちの間に流れる。
「……どうする?」
「行きましょう。家に行けばにこちゃんのことも何かわかるかもしれないし」
「でも真姫、さっき行ったみたいに家庭の事情とかだったら」
「にこちゃんが心配じゃないの?もしそうなら力になってあげたいじゃない」
「……ここで断ってこの子をがっかりさせるのもアレだしな」
正直、俺も気になってはいる。にこの裏に、何があるのか。もし何かに悩んでいるのなら、力になってあげたい。
「……じゃあこころちゃん、家まで案内してくれるかな?」
「はい!ありがとうございます!」
そして先導するこころちゃんの後ろについて、俺たちはにこの家へと向かうことになった。
──俺たちの不思議な家庭訪問は、どうなることやら。
【love wing bell】編、突入です!
アニメでいう4話5話の話になっております!
今回もありがとうございました!
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