俺は乱入してきた妹達の姿を見て、右手に携帯を持ったままガタガタと震えた。今の声を本当に我が妹が出したのかと疑いたくなるほどに低くてドスが効いた声を出した妹達の姿は恐ろしい。
黒雪さんか、こいつらは!
バチバチッ!!!!!
電撃音が鳴り響く。
恐怖に固まっていた俺が次に見たのは、真っ黒に焦げ風穴が開いた床の惨状だった。
「なぜ、ここに……」
俺の声を無視して、妹達はズンズンと室内に入ってきた。
「お兄ちゃん? 何をやっているんですか?」
間違いない。今のは桜の仕業だ。指先から高圧電流を放ったんだ。その技名は『
『すばるん? もしもし⁉︎』
落ちた携帯からは理子の声が響く。不穏な空気を感じたのか、電話先から心配そうな声が聞こえる。
バリバリッ!!!!! ザシュッ!!!
桜の電撃が命中し、床に穴が空く。その衝撃によって携帯は宙を舞う。続いて部屋の中に踏み込んできた橘花が手にした
「お兄ちゃん?もう一度聞くけど、何をやっていたの?」
桜は小首を傾げて言う。
「にいにぃの返事次第では活け造りにするよ?」
黒い笑みを浮かべて橘花が言う。
それは魚の活け造りですよね? 晩御飯の話ですよね? 今日のおかずはお刺身ってことだよね?
お願いだから、そうだと言ってくれ!
俺は机に手を置いて桜達を恐ろしげな目で見ながら、脂汗を滲ませ考えを頭の中で巡らせる。
Q、ここで嘘をついたらどうなるか?
A、死ぬな。
Q、では、ありのままの事実を話したら?
A、死ぬだろう。
どちらにせよ死しかないぞ、これ。どうしたらいいんだ。誰か助けてくれ。ヒス金ヘルプミー!
俺が手を額に当てて項垂れているとその態度をどう受け取ったのか顔色をさらに悪くした桜が語りだした。
「お兄ちゃん。私は悲しいです。お兄ちゃんは決して浮気などしないと思っていたのに。私達だけを永久に愛してくれると……そう思っていたのに……」
桜は右手に出した電撃を俺の部屋の床に突き刺す様に落とす。バリバリ、と轟音が鳴り響き、床は見るも無残な瓦礫と化す。それから顔に手を当てた。……ちょっと待て。桜? ……泣いているのか? 俺は机から手を離すなり眉根を寄せて桜を見る。……それからゆっくりと桜のもとに寄ろうとした。その時。
「コロシテヤル」
顔を上げてから桜がそう呟いた。瞳孔が開いた目からダイヤモンドの様な輝きを放った涙が桜の頬を伝う。それから足元の残骸も気にせずにノロノロと桜は立ち上がった。そして破壊されたドアの残骸を靴底で踏み潰す。まさか……⁉︎
「コロスコロスコロスコロスコロス……」
ああ、やっぱり。
どうやら怒りによって正気を無くしたようだ。これはマズい!マズい!!!!! このままだと人を殺すぞ。
「桜!ちょっと待て!オイコラ!!!!!」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
呪文の詠唱の様に理子への殺意を呟く桜。俺の力任せの必死の静止も無駄であった。つーかなんちゅう馬鹿力だ! コイツ! 年上で男でもある俺がこんな簡単に引きずられるなんて!
ガシャーン!!!!!
必死に静止をさせるも桜は俺を馬鹿力で廊下に吹き飛ばした。俺の体は廊下の壁に叩きつけられる。円を描くような感じではない。真横に、叩きつけられたのだ。
この力、爺ちゃんや父さんにもひけをとらない。まさか⁉︎ 自我を失ったことでリミッターが外れたのか⁉︎ さすがは星空の血筋……人間辞めてんな。
妙なところで血の繋がりを感じていると、桜と橘花は廊下に出てきた。
「おい、桜、橘花! 何する気だ⁉︎」
「「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」」
桜は指先からバチバチッと放電させ、橘花は
まさかこいつら……また水素爆発起こす気じゃ……?
「「テンチュウーーーーーー!!!」」
「駄目だ!コイツら!」
早くなんとかしないと! ……とは言え、今の状態の桜達をどうやったら正気に戻す事ができる⁉︎
今の状態をどうにかする方法……気絶させる。誰が? 俺が? 無理だ! 大切な妹達に手は出せない。意識を逸らす。どうやって? 何かないのか、有効な手段は! 今まで試してないことで。やった事が無い事……えーっと……! 一つだけ思いついた方法があるが許されるのか? 兄妹だろ、俺達⁉︎
……だが、他に方法は思いつかない!!!!!
……やるしかないのか。
「桜ぁぁぁあああ!!!!!」
「……?……⁉︎」
俺は桜の顎を掴むなり、半ば強引と言うか、無理矢理キスした。桜は突然の事に何が起こったか分からずだったようだが、途中で気づいてもされるがままになっていた。
「っ⁉︎ ああ! ずるいっ⁉︎」
ええい、こうなったらヤケクソだ、騒ぐ橘花も抱き締めてその唇を奪ってやった。
チュー、と唇を吸われた橘花は白目を開きおとなしくなった。
「良いか。理子とはただの友達だ。……この事を隠していたのは悪かった。謝る!!!!!」
妹達の部屋にて。病んで暴走していた桜達を何とか床に座らせて落ちつかせた俺は頭を床にぶつける様にして謝った。日本の伝統文化DOGEZAである。
「本当にただの友達ですか?」
桜は真顔で聞いてくる。その事に関して弁明しようと、俺は頭を上げて口を開いた。
「ああ、ただの友達だ。残念ながら俺はモテナイしな。……あ、いや、ただの友達だ。分かったか?」
嘘ではない。仲良くなったと言ってもまだ出会って日も経ってない、友人という間柄なのかもわからん。
残念ながら……の部分でまた阿修羅のような顔になったので「ただの」を強調した。
「ふーん、そうですかー」
「そんなこと言って、キスとかされてたり?」
「ぶほぉ!」
橘花の追求に思いっきり動揺してしまう。
「……その反応……まさか⁉︎」
「ない、ない、それはない」
嘘は言ってない。理子にはされてない。
「俺がキスをされたのは桜や橘花だけだ。
俺がキスを許すのはいつだって、お前らだけだー!」
まあ、アリスにもキスされたがアレはノーカンだ。欧米ではキスは挨拶だというし。
「……そ……そうですか……っ!」
やっと桜の表情が変わった。赤面している。……だが、安心もつかの間。直ぐに桜の顔色が暗黒色に染まった。……何故だっ⁉︎
「お兄ちゃん。もし、私達以外の子にも同じようなことを言っていたら許しませんからね?」
「あ、ああ……肝に免じておくよ」
そう言うしかなかった。まだ死にたくないからな。
ふー……と息を吐く。俺の妹達がこんなにブラコンなはずがない! とはいえ、なんとか誤魔化しきれたようだな……。
安心した俺に桜は満面の笑みを浮かべて告げた。
「よろしい。では、下に戻りましょうか……いろいろと聞きたいこともありますし」
……うん、そうだよな。
脳波を読めるのなら、隠し事できないよなー。
解ってたよ。あははははは!
俺は首根っこを掴まれて、引きずられるようにしてリビングに連行された。
「で? さっきの電話の相手は誰ですか?」
「さっさと吐いた方が楽になるよ、にいにぃ?」
リビングの床に転がされた俺は、仁王立ちする桜と橘花の詰問を受けていた。
逃走防止の為か、手足には父さんが使う手錠がかけられている。
犯罪者の気持ちがわかったぜ。マイハニー。
「いろいろと言いたいことがあるんだが……これだけは言わせてくれー」
「うん? なになに、言い訳? 見苦しいよ、にいにぃ?」
「……ジョウジョウシャクヨウの余地はありませんが、弁解の機会くらいは与えましょう。なんですか?」
おおっ! 7歳児なのに随分と難しい言葉を知ってるな。優秀な妹を持ってお兄ちゃん嬉しいぞー。
だが惜しいな。正しくは
「えっと……だなぁ。……さすがにクマちゃんとにゃんこはないな、と。
いやー……似合ってるけどさぁ」
俺の言葉にバッとスカートを抑える妹達。
うんうん、照れた顔も可愛いなー。
「……クマさん、可愛いくないですか?」
顔を真っ赤にして恥じらう桜。
それに引き換え……。
「にいにぃ……どこ、みてんの?」
橘花はプルプルと怒りに震えた。あちゃー、やりすぎたか。相手の注意を他所に向けさせる名案だと思ったんだが。
「いや、この位置からだと丸見えで……決して覗きたくて覗いたわけでは」
「私のぱんちゅ、見たくないの!」
「お兄ちゃんのバカーーー!!!」
ええ⁉︎ なんで俺、妹のパンツ見たくないって言っただけで怒られてんの⁉︎
内心ツッコミを入れていると、パシャッと顔面に水をかけられ、そして電撃が直撃し、ビリビリ、と電流が迸る。
A、水と電気が合わさったらどうなるか?
Q、感電死します。(普通なら)
……今この時だけ、感謝する。
普通の人間じゃなくなってること、に。
____ギィィィンッ!
発生した水蒸気が晴れると、ピンピンと立つ俺を見て驚愕した表情を浮かべる桜と橘花の姿があった。そんなありえないものを見るような表情は止めて! お兄ちゃん、悲しいぞ。というか。
……今の技、受けたの俺じゃなきゃ死んでんぞ?
「え? 今……何したんですか?」
「にいにぃ……それ、何?」
橘花の視線は俺の体に向いていた。拘束されているはずの手足。しかし、今やその手足は膨らんでいた。
『雷神モード』、タイプ『
その姿はまさに金剛力士像そのもの。ま、ただ筋肉が膨張した姿なんだけど。
『刺激され膨張した筋肉はいかなる攻撃をも受け付けない強靭な鎧となる』とは爺ちゃんの弁。
筋繊維の『硬化』化。
『筋形質多重症』なんて厄介な体質を抱えた俺の一族が生み出した秘伝の技。
もっとも、爺ちゃん達は高圧電流を受けなくても自在に『硬化』できるのだが。
やっぱりあの人達は凄いなぁ、なんて思う。
俺はまだ電流による刺激がなければできないからな。
それにこれは意識を集中させなければできない。
不意打ちや反射的には発動できないのだ。
俺は妹達の目を盗み、こっそり自室に戻って精神を落ち着かせる。その際に床に落ちている妹達の一撃によって真っ二つに破壊された携帯を見た。
「なんだこれ.....」
拾い上げた携帯電話の残骸。ただの携帯にしか見えないが、バッテリーパックの裏の横辺りに何か装置みたいなものが。取り外してかざしてみる。まさか……
「盗聴器か? これ……」
用意周到である。まさか、ここまでやるとは。ヤンデレは恐ろしい。本当に7歳なのか、俺の妹達は? 今度から気をつけなければ。ヤバいぞ。これ。あと、壊された扉も何とかしないと。
「お兄ちゃん……?」
「……っ⁉︎」
背後から突然名を呼ばれた俺は後ろを振り向いた。そこにはリビングにいたはずの妹達の姿があった。俺は桜達の顔を見て思わず顔を引き攣らしてしまう。二人は漆黒の笑顔を浮かべていたからだ。なんでだよ⁉︎
「にいにぃ、やっぱりさっきの電話の娘の方がいいんだー」
「突然、来て何を言ってるんだ? 意味がわからん。というか、何故わかった?」
「ハッキングです。お兄ちゃんを監視する為の!」
「.....」
それ言っちゃいますか。ハッキングって。お前、
「どうしたのですか? お兄ちゃん? さっきの電話の女の方が私よりも大切なの? って聞いてるんだよ? お兄ちゃん……………………………?」
「……」
汗が止まらん。暑くもないのに。こんなに冷や汗かいたこと今まであったか? ……結構、あったような気がするな。そんなことを思っていると、俺が手に持っていた真っ二つになった携帯に電撃が直撃した。飛来した電撃によりバラバラにぶっ壊れた。能力を使い過ぎた代償か、桜の口から血液が滴り落ちて俺の布団にシミを作っていった。俺は口を半開きにする。
「お兄ちゃん……答えてください。私達以外の
どっちなんです、お兄ちゃん?」
「勿論!
「うんうん! ……そうですよね。ですが、お兄ちゃん。私達、ちょっともう許せそうにありません」
「……?」
っ⁉︎
桜が呟いた直後、俺は壁際まで橘花によって追いやられた。すると、橘花は
「にいにぃがこういう行動ができない様にお目目……手足を分別しようかな! そしてそれでお人形を作って私の部屋に飾るの! にいにぃはいつまでも私達を見ていればいいんだからね………………………」
話を逸らすしかねえぇえええええええええええ!!!!!!
「だが!ちょっと待て!!!!! それは人道的に! 人として間違っているぞ!!!! 新しい人形なら今度買ってやるから、な?」
「えー、にいにぃの人形がいい……」
「それじゃ、今度母さん達と買いに行こう! そうしよう」
「それは今の話と関係無いですよね? お兄ちゃん………………?」
話を逸らそうとしても駄目でした!
「にいにぃのお目目をまずは戴くね」
ドンッ!!!!!
「どわあ!!!!!」
壁に勢い良く
咄嗟に身体を傾けて回避した俺は立ち上がると、その場から逃げるように駆け出した。
「あ〜。逃げないでよ! にいにぃ」
「あっ、待って、お兄ちゃん」
これで逃げないバカがいたら俺は賞賛するね!!!!! もう駄目だ! 対応策がまるで思いつかん。
俺は自室を飛び出して走る。逃げるぞ! 全力で廊下を駆け出す。しかし、ただ走るだけではいずれ
……無駄だったけど。桜は電流の流れを操作して、俺が筋肉を動かした際に発生した微弱な電気信号をキャッチして居場所の特定をしたり、橘花なんて俺の体から流れる汗から画鋲サイズの棘を生み出してチクチク襲ってくるし。妹達との追いかけっこ兼かくれんぼはいろんな意味で刺激が強すぎる。
家の中でそんな妹達とのかくれんぼに興じていると。
ピンポーン……
インターフォンが鳴った。
「おお、神よ!!!」
ナイスタイミングだ!
テラス神よ! ちゃんと見ててくれてるんだな。
「ほらお客さんだ! 出たら後でお前らの好きにされるから! ほら早く!」
「仕方ないですね……いいところだったのに」
「……むー。まぁ、お客さんは放っておけないしね。それじゃあ、にいにぃのお目目と手と足はあとでちょうだいね?」
「解かった。解ったから! だから
「やったー! これでにいにぃ似のお人形が作れるー!!!」
「……ふう。では、行きましょうか?」
渋々仕方なく、玄関に向かった妹達の後を追う。
いや、一人残ろうとしたら妹達から殺気が籠められた視線を向けられたからな。
そして、玄関まで来たのだが……俺は頭を抱えていた。俺のこの姿はこの世界が終わる事を知って悲観している人間の様だ。玄関を開けたのは良い。そこまでは良かった。だが、開けた先にいた人物に俺と妹達は同時に固まざるを得なかったのだ。
「がはははっ! 筋肉を鍛えて無事帰ってきたかー孫よ!!!!!」
「うげぇ、じ、爺ちゃん……」
そこにいたのは俺達の祖父。星空
俺がうわぁ、といった顔をした直後、俺の脳天に凄まじいほどに重い一撃が放たれた。
い、痛てぇ。なんちゅう馬鹿力だ……。
「爺ちゃんに向かって、うげぇとは何事じゃ!」
爺ちゃんが再び拳を握り、そして振り落とす。
俺は妹達との追いかけっこの際に武器庫から拝借し、いざという時の為に背中に背負っていた
なんたって、この盾は
念の為、自身の身体は『硬化』しておく。防ぐにしろ衝撃は凄いだろうから。ま、貫通の心配はさすがにいらないだろうけどな!
……なーんて思っていた時もありました。はは、忘れてたよ。俺の前にいるのは人の姿をしたナニかだということを。
NJJIII+? 世界最強の盾? 何それ、食えんの?
爺ちゃんが降り下ろした拳一つでバキッという音と共に粉砕したそれを見た俺は、衝撃で吹き飛ばされながら、現実逃避を始めていた。
「……ありえない。ありえないだろう。夢だ。これは悪い夢だ。こんなことありえん!」
現実だと認めたくない。そんなことを思っていた俺に爺ちゃんはがはははっ! と豪快に笑い、ニカッと笑みを浮かべて告げた。
「我が筋肉に不可能なことなんかないわ。
愛ある拳は防ぐ