執筆時間が取れなくて……言い訳です、ハイ。
明日から5日ほど、ちょっと電波悪そうな島に行ってきます。
神津島というところなんですが、船に乗るので船酔いが心配です。
次話は8月になります。
今話から『原作崩壊』、『キャラ強化』が始まります。
ま、どのキャラが強化されるかはお楽しみに!
「そんな常識ねえよ!」
突っ込んだ。愛ある拳って、どこの中将だ!
「何を言っておる⁉︎ 愛の力は偉大なんじゃぞ〜〜⁉︎」
爺ちゃんが愛について語り出すと、なぜか、妹達も一緒になって頷く。
「あ、わかります!」
「うん、うん。愛さえあれば何でもできるもんねー」
「そうじゃろ、そうじゃろ。昴よ、愛って何か解るか?」
「えっと……」
愛? 抽象的過ぎてわからん。
愛って言ってもいろいろあるだろう。
家族愛、恋人に向ける愛、友人に対する愛、親愛……。
愛ってなんだ?
「えっと……愛って何?」
「それはのぅ。躊躇わないことじゃ!」
「……」
聞いた俺がバカだった。
どこの宇宙刑事だよ! コンバットスーツで戦うヒーローか!
「躊躇いは人を弱くするからのぅ。躊躇わずに全力で拳を振るう。全力で筋肉を震わせる。そうすることで最強の攻撃ができる! どうじゃ、愛ある拳は最強じゃろ?」
駄目だ、この人。早くなんとかしないと。
「躊躇うことで動きが鈍るのはまあ、解るにしても……別にそれは愛の力じゃ、ないんじゃ……」
「何を言うか! 愛と筋肉は最強なんじゃー爺ちゃんの言うことを聞きなさい! なのじゃー」
暑い。暑くて鬱陶しい。誰かこの人止めてくれー。
「あの、お爺ちゃん。中で詳しく聞かせてもらえませんか?」
そう思っていたら、出来る妹である桜が爺ちゃんに中に入るように勧めてくれた。
さすがは桜。うちの妹は出来るんです。たまにヤンデレるのが傷だけど!
愛が重いのが欠点だけど。
「……お兄ちゃん。後でお説教です」
何故だ?
リビングに入って、ソファに腰掛る爺ちゃん。
桜が出した熱いお茶を「ズズッ」と啜るようにして飲む。
猫舌の俺には真似できない芸当だ。真似する気ないけど。
「それで爺ちゃん、何しに来たんだよ? 来る用事あったけ?」
妹達と愛について語り合っていた爺ちゃんを一瞥して尋ねると、爺ちゃんは何故かショックを受けたような顔をした。
「孫が、孫が冷たい……用事がなきゃ、来ちゃいけんのか。
ううっ、しばらく見んうちに冷たくなって儂ゃ、儂ゃ……悲しいぞ〜。
よよよよよ」
そして鳴き真似を始める。よよよよよってアンタ。
呆れる俺とは違い、爺ちゃん想いの桜達は慰めに入る。
「ちょ、お兄ちゃん。そんなこと言ったら可哀想だよ。お爺ちゃん、毎日のようにお兄ちゃんはまだかー、って電話してきてたんですから! お兄ちゃんの携帯にかけても繋がないからって」
「そうだよ。にいにぃと遊べなくて寂しいって毎日のように電話してきたんだから!」
そっか。毎日かけてきたのかー。
そりゃあ。
「着信拒否しといて正解だったな」
「孫が冷たい!」
いや、だって。電話に出たら絶対、筋肉がうんたらなんとか、帰ってきたら模擬戦じゃぞーとか言うんだろ? 旅先でまでんなこと、聞きたくないわ。
「もっと儂に構わんかぃ!」
「嫌だよ。筋肉談義はもう飽き飽きだ! というか、何で俺にかけてくるの?」
爺ちゃんは道場やってんだから、門下生達いるだろう。
「あいつらは駄目じゃ! まだまだ儂の相手をするのには足らんからな!」
足らない? 何が?
「筋肉が、じゃ!」
聞いた俺がバカでした。
門下生さん達。爺ちゃんみたいにならないでくれ。
「……何で俺が今日帰ってくるってわかったの?」
父さんが喋ったか?
「無論、愛の力じゃ!」
もうヤダこの家族……愛が重い。
「というのは半分冗談で、光一から聞いた」
「俺にプライバシーないのかよ! そんなんだから構いたくないんだー」
「うっさい。儂ゃ、それでも構われたいんじゃ!」
うっわー。面倒くせぇ……。
テーブルにのの字を書いて拗ねる祖父。
溜息を吐いてから、そんな祖父に話しかけた。
「それで……何の用?」
「おおっ、そうじゃった。昴、お前……」
爺ちゃんが告げたその一言は。
新たな波乱の幕開けだった。
「自衛官にならんか?」
は?
「……はあああぁぁぁ?」
「学自の話しが来ておっての。光一の代わりに書類書いておいた」
『学生自衛官』。
略して学自。普段、学生の身でありながら有事の際には国民を守る自衛隊予備軍。
それは近々創設が噂されている新たな自衛官の姿。
近年、成長著しい某国や某独裁国家との争いを懸念して新設が検討され始めた青少年による自衛部隊。慢性的な自衛官の人手不足を解消するのが狙いだが武装探偵、武装検事に続く暴挙だ! 絶対反対だと、そういやニュースで話題になっていたな。その時は眉唾ものだとばかり思っていたが、まさか実在するなんて。
「実はのう。儂の古い友人が防衛省とこの大臣やっておってのう。昔の戦の
「そっか、頑張ってね! 忙しいのならお帰りください。出口あちらです」
玄関の方を指差した俺に爺ちゃんの拳骨が炸裂する。
「話は最後まで聞かんかいーーー!!!!!」
バキ、と床板が砕けて大きな穴が空く。
「いっ、痛て______!!!!!」
爺ちゃん、渾身の一撃は骨身に沁みる。
まあ、もう慣れたからちょっと流血したくらいどうってことないけど。
「全く。儂の孫じゃなかったら、殺るつもりで殴っとるとこじゃぞ。
儂がその話を受けたのはお前の為でもあるんじゃぞ?」
俺の為?
「お前、勝ちたい奴が出来たんじゃろ?」
爺ちゃんのその言葉に、あの探偵の姿が思い浮かぶ。
「なんで知ってんだ? 父さんから聞いたの?」
「何度も言わせるではない。愛の力じゃ!」
だから愛ってなんだ……?
「それは無論、躊躇わないこと「わかった。もうわかったから!」……そうか?」
なんかドッと疲れた。帰国してから数時間しか経ってないのに、なんでこんなに疲れなきゃならんのだ?
「ってな、わけでの。明日から一週間選抜を兼ねた筋肉合宿をやるから参加するのじゃぞ!」
「……拒否権は?」
ないとわかっていても一応聞いてみる。
爺ちゃんは拳を握って告げた。
「筋肉フルコース受けたいんじゃな?」
「喜んで参加させていただきます!」
プライド? んなもん、犬にでも食わしとけ。
筋肉フルコースより、自衛隊の合宿の方が1000倍マシだろう。多分。
そして、翌日。
俺は朝霞駐屯地を訪れた。
陸上自衛隊、体育学校の体育館で合宿をする為に。
バックレようとしたが、桜と橘花に起こされた。いわゆる妹目覚ましというやつだ。
ただし、フライパンとお玉でカンカン……なんて可愛いもんじゃない。
桜からビリビリ、橘花には水を口に入れられて窒息攻めされた。あんな起こされ方をされるなんてなんというか……不幸だぁーーー!!!!!
心の中で嘆きながら一列に配置された椅子に座って順番を待つ。
指定された時間よりだいぶ早く来たせいか、まだ人も疎らだ。
ちゃっちゃと始まってくれないかなー。もう速攻で帰りたいんだけど。
そんなことを考えていたその時だった。
「隣の席、空いてるかしら?」
突然、横から声をかけられた。
声の主を見ると、ひょろひょろの男が立っていた。
年齢は18、19くらいか? 背は高いが痩せていて、なんか男らしくない。
身体付きもそうだが、口調が女っぽいせいか?
「ああ、いいぞ。俺、昴。星空昴だ。よろしく、な!」
「アタシは巻よ。
巻と名乗ったオネエ口調の男は目をキラキラさせて尋ねてきた。
「暇つぶしに参加したけど、アンタみたいな子供まで呼ばれるなんて……やっぱりこの合宿には
「学校の勉強より楽しめそうね」と巻は笑いながら言う。
図体はデカイが線は細い。ガリガリなせいか、アンバランス感が半端ない。
「む〜何よ。人の身体ジロジロ見ちゃって。アンタもアタシのこと、貧弱呼ばわりするの?
私だって好きでこんな身体で生まれてきたわけじゃないのよ! 私ももっとマッチョになりたいわ。オカマの何が悪いのよー! オカマってだけで、アタシの頭がいいってだけで妬んで虐める奴ら見てなさい! この合宿で筋肉ムキムキになって見返してやるわ!
なんたって、合宿の教官はあの伝説の『一騎当千』が務めるそうじゃな〜い。楽しみね〜合宿が終わった頃にはアタシも筋肉ムキムキのオカママッチョに。楽しみね〜どんな人かしら?」
巻の身体を見てたらウィンクされた。やばい、吐きそうになる。
筋肉ムキムキのマッチョの相手なら我慢すればできるが、オカマは対象外だ。
「いや、ただの脳筋だよ」
「あら、知ってるの? んん、待ってちょうだい。星空……確かデータベースに登録されていた『一騎当千』の本名は星空玉星。偶然……ってことはないわよね〜。星空なんて名字、そうそうあるもんじゃないし」
「ああ、祖父だよ」
不本意ながら、な。
「ぬ〜〜あ〜〜ん〜〜ですって〜〜⁉︎ アナタがあの 『一騎当千』のお孫さん?
あの伝説の……昴クン、アタシと
ガシッと堅い握手を交わしてきた巻。
その細い身体のどこにそんな力があるのかというくらい力強かった。
「痛たたたたただだだだ」
コイツ、見かけに反して力強いな。
「あらいけない。ダメねえ〜〜興奮しちゃうと力出ちゃうのよね。アタシ」
合宿参加しなくても鍛えれば筋肉ムキムキになるんじゃないか?
巻の力に驚愕してると、気づけば体育館内は人でいっぱいになっていた。
「〜〜といったわけで、皆さんには栄えある自衛隊の一員として……」
上官の長い長い挨拶を聞き流す。考えるのは爺ちゃんのこと。
俺が爺ちゃんに対して思うのはただ一つ。
頼むから常識的な指導してくれ!
自衛隊の『普通』の鍛錬でいいから、無茶振りしないでくれ。
などと思っていたが、壇上に爺ちゃんが上がると。
それまで、心非ずだった参加者達も皆、爺ちゃんに注目していた。周りを見渡せば自衛隊のお偉いさん達や士官も皆、爺ちゃんに敬礼している。
なんなの? ここ筋肉教の総本山なの?
「皆のもの、よく集まってくれた。儂、再び軍に戻ってこれて、嬉しいわぃ。
儂が若い頃、日本はアメリカと戦った。激しい戦いじゃった。多くの戦友が死んだ。儂も何度も何度も死線をくぐり抜けてきた。その時の体験を今ここにいる多くの若者に伝えられることに、儂ぁ、儂ぁ、感謝してしまうわい。こんな年寄りの教えを受けたくないかもしれないが、多くのことを学んでくれたら嬉しく思う。
長くなったが、最後に一言。
筋肉はーーー?」
爺ちゃんの問いかけに参加者以外の人(主に自衛官)が答える。
「「「正義!」」」
「筋肉はーー?」
「「「最強!」」」
「筋肉はーーー?」
「「「裏切らない!」」」
「うぬ。どうやらちゃんと筋育されとるようじゃの。感心、感心」
ウンウン頷く爺ちゃん。敬礼をやめない自衛官達。呆然とする参加者達。
なんなのこれ? あと、筋育って何?
「筋肉がなければ人は動けないからのぅ。武人にとって筋肉はなくてはならないものよ。筋肉がなければ力を出せないからのぅ。儂が思うに三大欲望とは食欲、睡眠欲、そして筋欲じゃ。筋肉を欲するのは人間としての本能なのじゃ! その本能に逆らって筋肉を軽視するものは、筋肉に泣く。これもまたこの世の真理じゃ!」
「ま、儂の戦友は性欲がなければ戦えんけどのぅ」と爺ちゃんは呟く。
爺ちゃんの言葉に会場から歓声が上がる。
「「「筋肉、筋肉、筋肉!」」」
筋肉コールは鳴り止まない。
「駄目だ、コイツら……早くなんとかしないと」
日本の将来が大変心配です。国を守る自衛官がこれって……大丈夫か、日本?
「あ、ああ……」
俺の横で聞いていた巻が体を震わせる。
額から大量の汗を流している。大丈夫か?
心配になった俺は巻に声をかけた。
「お、おい、巻……さん?」
途中でさん、を付けたのは巻の様子がおかしかったからだ。ブツブツ呟いているし、目がイッチャテル。正直、怖い。
「やっぱりそうだわ。彼こそ、筋肉使いの中の筋肉使い。筋肉のスペシャリスト!
あっ、もう手遅れだ。ここにも一人筋肉病になった奴がいる。
くっ、おのれ筋肉めえ! なんて酷いことを。惜しいオカマを亡くした。
巻、お前のことは一生忘れない。
などとバカなことを考えている間に、式は終わったのだった。
そして、『地獄』の合宿は始まった。
翌日。
「いい景色だなぁ!」
俺が今いるのは奥多摩にある雲取山の山中。
背中にリュックサックを下げ、両手足にそれぞれ10キロの重量の重石を合わせて40キロ付けながらスイスイと山道を登っていく。天気は晴天。雲は……遠くに薄っすら見える。今はなんともないが、天気には注意しないとなぁ。山の天気は変わりやすいから。
「ちょ、ちょっと、なんで……はぁはぁ、アンタそんな元気なのよ?」
息一つ乱していない俺に、巻は戸惑いの声を上げる。
「え? なんでって、これくらい準備運動と同じだろ?」
俺の言葉に一緒の班になった奴らが絶句する。
「40キロの重りを付けての登山を準備運動?」「さすが一騎当千の孫だな。人間辞めてる」「……変態だ」などと好き放題言ってくださる。
ちょっと待て! 変態ってところは否定したい。
「アンタ、今までどんな訓練受けて来たのよ?」
どんな訓練ってそりゃあ……。
「千尋の谷から突き落とされたり、体に風船括り付けられて空に飛ばされたり、肉喰わせてやる! って真夜中のサファリパークに放り込まれたり……」
「あ、あー、悪かったわ。アタシが悪かった。もういいわ」
何故か、巻に可哀想な子を見るような目を向けられて、頭を撫でられた。
解せぬ。
俺達第五班は順調に進んでいく。
途中、班員が水を飲もうとリュックサックから出したが止めた。
標高2000メートル以上の高さを誇るこの山を、重石を付けながら登っていかなきゃならないんだ。
時間はまる2日。一人ずつ渡されたリュックの中には地図と500mlのペットボトル2本分の水。サバイバルナイフ。マッチのみ。非常食、防寒着などは一切なし。自給自足しろとのお達しだ。持ち物一つも無駄に出来ない。班員全員で無事に頂上にたどり着くまでが選抜試練だからな。何が起こるかわからないから。
爺ちゃん曰く、『無事にたどり着く』までが試験。たどり着いてからがこの合宿の始まりらしい。
あの爺ちゃんのことだ。『ただの』試験なわけがない!
山道を登っていくと、開けた場所に出た。地図によると今だいたい五合目まで辿り着けたようだ。
少し休憩しようと班員に声をかけようとして
登山道の脇に『熊出没注意』の看板が立てられていた。
え? ここって、熊出んの?
「なあ、ここって熊出んの?」
「当たり前じゃない。ここら辺は熊の産地として有名よ?」
え? そんなところで合宿すんの?
いや、そんなところだから合宿すんのか。陸自の仕事は過酷だから、熊の一体や二体は倒せないと国防なんて出来ないよな。まあ、だとしてもそうそう熊に遭遇することなんてあるわけないけどな。そんなことを考えていたその時だった。
ガサガサ、っと近くの草木が揺れ、ソイツが飛び出してきた。
くま クマ 熊 ベアー……巨大なニホンツキノワグマが現れた!
「うおぃ! なんで現れるんだよ!」
狙ったかのようなタイミングで熊が現れるとか、なんのテンプレだ?
クオオォォォンと鳴く熊の遠吠えが響く中、俺は迎撃しようと銃を抜こうとしたが……あれ、無い?
あっ、そっか。支給品以外の持ち物は没収されたんだった。
武器になりそうなのはサバイバルナイフだけ。
……これ、死人出るんじゃないか? 一般的に人間が素手で勝てるのは犬くらいだと言われている。ナイフがあろうと、ナイフ一本で熊に勝てる奴なんてそうそういない。
遠吠えを終えたツキノワグマは俺に向かって真っ直ぐに突っ込んできた。
俺は左手にナイフを握ると真横に飛び退いた。ナイフを握った瞬間、左手のルーンが光輝き、身体が軽くなる。そして、ツキノワグマの背後を取るとその背を強く擦るようにナイフの腹を使って思いっきり振り下ろす。神経圧迫射撃……いや、神経圧迫斬撃のナイフ版。
切るのではなく、刀身を叩きつけるようにして、神経を圧迫させ昏倒させる技だ。
ナイフで切り裂く方が手っ取り早いが、無闇矢鱈と殺すのは好きじゃないから、殺さずに無力化する方法をとった。
ズシンと倒れた熊を見た巻や他のメンバー達は皆、ぽかーんと大口を開けたマヌケ面をしている。
いけね。やり過ぎたか。
「うおおおお! 凄え、熊を一撃で倒したぞー」 「熊殺しだ!」 「やっぱり変態だ、変態がいる」。
メンバー達は好き勝手に騒ぎ始める。熊殺しはいいが、やっぱり、ってなんだ。あと俺は変態じゃねえ⁉︎
文句を言おうとした俺の肩を巻が叩く。
「アナタ、やるじゃな〜い。さすがは伝説の海兵『一騎当千』の孫ね。アナタのおかげで助かったわ。
食料の心配もなくなったし……」
巻が倒れた熊を指差す。刺された指先に目を向けると、そこにはナイフ片手に群がるチームメイトの姿があった。
「「「肉肉肉肉肉……今夜は熊鍋じゃ________!!!!!」」」
うわぁ、まるで肉に群がるハイエナのようだ。
というか、皆さん、解体作業とか出来んの?
疑問に思ったことを巻に聞くと。
「屠殺経験がある人が解体してくれるみたいよ。熊を倒すのは無理でも肉の解体はお手の物って言ってたわ〜」
チームメイトの経歴を詳しく聞いてみると、元屠殺場職員、肉屋、傭兵、武偵、医療従事者、体育教師、元レスラー、元力士、元アメフト選手、オカマ……なかなか濃い面子だった。
俺達はこの場所で夜を明かすことにした。
薪木を集め、火を起こし、野営の準備を進める。
屠殺経験者と肉屋の下、熊は旨そうな肉となる。
つうか、ナイフで熊解体できるなら、簡単に倒せそうだが……そんな人間離れなこと出来ないと言われた。
あれ? おかしいな……お前は人間じゃない、って言われた感がするぞ。
若干涙目になっていると、熊鍋が完成した。
「じゃあ、ワタシ達の出会いを導いてくださった筋肉神に感謝して……いただきます」
巻の掛け声により、宴が始まった。
それはまさに漢の為の漢の宴。
豪華な料理なんか出ない。新鮮な熊肉を使った熊鍋。熊の串焼き。モツ煮。山中で捕まえた蛇やイモリの串焼き。ゲテモノ料理カオス食材何でもあり。
一応、食べれる食材しか使ってないが……食べるのに勇気がいる食材も中にはあった。
つうか、蛇やイモリ取ってきた奴誰だ?
知らない間に俺の皿の中にそれらの丸焼きが串刺しになって入ってたのを見た時は吐き掛けたぞ!
……さすがにそれは食えなかった。巻はバリバリ食ってたけど。
宴が終わり、深夜になった。
テントの中で、寝れない夜を過ごしていた。……巻のせいで。
抱きついてくるわ。隙あらば頬をスリスリなすりつけようとしてきたし、挙句の果てにブチューとしてきたから爺ちゃん直伝の愛ある拳で眠らせてやった。身の危険を感じたから、筋肉全開で黙らせた。
横になっても寝付けなかったのでテントの外に出る。
夜空を見上げると空には星が瞬く。
いつ見ても星空って綺麗だよなぁ。
掌を開いて夜空を掴もうと腕を伸ばす。
届きそうで、届かない。
すぐそこにあるのに、遠い。
夜空を照らす星との距離はどのくらいあるのだろう?
「アナタ何してんのよ?」
声をかけられて振り返ると、そこにはテントで寝ていたはずの巻がいた。
「……悪い、起こしちまったか?」
「アナタが気にすることじゃないわ。ちょっと星を見たくなっただけよ」
巻も夜空を見上げる。
黙って一緒に夜空を見上げる俺達。
天体観測自体は嫌いじゃないんだが……どうせなら可愛い女の子と見たかったぜ。
オカマとじゃなくて。
「ぬぁによ〜〜オカマじゃ不服な理由ぇ⁉︎」
「あ、悪い。悪い。……って声に出してたか?」
「愛の力よ!」
「どんな愛だよ⁉︎」
ゾクリ、寒気がする。尻がキュッと締まる。
俺、ノンケですことよ⁉︎
「オカマ愛に来まってるじゃない! オカマ、舐めんじゃないわよ!」
舐めたくありません。
そんなことを考えていたその時だった。
クオオオォォォン!
遠吠えが鳴る。
近い。近いぞ。
俺は
いる。いやがる。
俺達の野営を囲むように、大勢の熊達がいやがる。
マズイぞ。
30体はいやがる。
「巻、皆んなを起こして撤退しろ! 殿は俺が務める」
「そ、そんなこと出来るわけないでしょ! アタシも戦うわ」
「足手まといだ!」
俺の言葉に巻は押し黙る。
すまない、巻。お前らをここで失いたくないんだよ。
「早く行け!」
俺の言葉を受けて巻は駆け出した。
サイド 巻。
なんなのよ。なんなのよ。バカー!
勝手ね。本当に勝手なんだからー!
足手まといなんて、そんなこと解ってるわよ!
力がないのは解ってるわよ!
でも。
力が無いからって何も出来ないなんて言わせないわよ!
「巻さん、何ごと」
テントに駆け込んだアタシに寝ていたチームメイト達が戸惑いの声をあげる。
アタシはそんな彼らに簡潔に説明をした。
野営が熊達に囲まれたこと。
昴クンが、たった一人で殿を務めようとしたこと。
熊達に囲まれたと聞いた彼らは一斉に逃げようとしたがアタシはそんな馬鹿共を蹴り飛ばす。
「痛っ……何するんだ⁉︎」
「何すんだ、じゃないわよ。……いいか、馬鹿共。たった一人でアタシ達を逃がそうと立ち向かってくれた『
『オカマ』であるアタシは男でもない。女でもない。
だけど、人であることに変わりない。
人ならば、困った人がいたら助けるのは当然よね?
キャラ解説
巻 六雄 やがて魔剱のアリスベル4巻から登場のオカマ一佐。
陸上自衛隊所属の軍人で未来において、クーデターを企むが……今作品では熱狂的な筋肉教徒に。
身体が弱く、病弱気味だったという過去を持つ。