夜空の武偵   作:トナカイさん

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Ammo18。これが俺の全力だぁぁぁあああああああ!!!!!

「いくぞぃー」

 

バチバチと、放電しながら爺ちゃんは拳を振り上げる。放電された電撃は俺に向かってきたが、前に出てきたヒルダに直撃した。「こんなものこの私には効かな……これは⁉︎ ぎゃゃゃやややああああぁぁぁー」などと叫んで地面に倒れた。いや、思いっきり効いとるやんか、ヒルダさんと内心ツッコミを入れて爺ちゃんの姿を目で捉える。

爺ちゃんの動きを目で追い回避行動を起こすが速い⁉︎

避けようとした瞬間に、身体に衝撃が襲ってきた。

圧倒的なまでのその『速さ』に反応できない。

ギリギリ、直撃は避けれたが掠っただけなのに、まるで鈍器で殴られたような衝撃が身体を襲う。

 

「くっ……」

 

地面を何度も転がり、ようやく止まった時には新たな衝撃が身体を襲ってきた。

仰向けに倒れた俺の腹を爺ちゃんが足で踏みつけていた。

 

「なんじゃ、もう終わりか?」

 

電撃を纏わせながら、爺ちゃんは余裕ある表情を浮かべ、俺を一瞥してきた。

 

「儂を地面に倒すだけでいいんじゃぞい?」

 

倒すだけ、そうなんだが口で言うのは簡単だが、実際に成し遂げるのは難しい。

一撃だけなら、なんとか入る。

ガンダールヴの力があれば簡単に地面に倒せる。

そう思っていた。だけど、爺ちゃんを地面に倒すがこんなに難しいなんて。

爺ちゃんとの距離がこんなに大きいなんて思ってもみなかった。

爺ちゃんを舐めていたわけじゃない。自分の力を過信していたわけでもない。

だけど、一撃も入れられないほどに、こんなにも力の差があるなんて思わなかった。

 

「ほれ、どうした? 儂はまだまだ3割も出してないぞー」

 

「この、人間風情がぁ!!!」

 

最初の電撃で倒されていたヒルダだが、普段から電撃を纏わせて戦う戦術を取るせいか、爺ちゃんの電撃を受けても立ち上がれた。

 

「ほう、加減してやったとはいえ立ち上がるか。見事じゃ! じゃが……」

 

爺ちゃんの姿が消える。

……え?

ズシンと、音が聞こえてた。

 

「相手が悪いのぅ。儂はただの人間ではないからのぅ」

 

ヒルダがゆっくりと、地面に倒れていた。

 

「ふむ……所詮、付け焼き刃の能力じゃな。全然ダメダメじゃな。パルスを増大させれば魚の遺伝子なんかより、より強力な電流を生み出せるからのぅ。本来の儂はもっと速く、雷の速度で移動できるぞい。さて、邪魔者は片付いた」

 

「次は昴の番じゃな……」と爺ちゃんがこちらを睨みつけてきた。

ゾクリ。怖い。なんだ、これ?

身体が動かない。足も手も、口も身体のありとあらゆるところが動かせない。

完全に呑まれてしまった。爺ちゃんの放つ底知れない何かに。

くそ、動け。動け。動けよ。

負けるか。負けてたまるかー!

恐怖に負けじと震える身体を動かし、足を踏み出す。

俺は爺ちゃんに比べて何もない。

筋肉も、知恵も、技術も何も。

だけど。

 

「俺は負けねぇ!」

 

「ほう、まだやるのか? 儂に勝てるものがあるのか?」

 

「ある」

 

「何で勝つのじゃ? ロクな武器もない、筋肉量も及ばない、技術もない、大人と子供の圧倒的な力量差で、この状況でどうやって勝つのじゃ?」

 

「決まってんだろ? 心で勝つ!!!」

 

諦めたら試合は終了だ。武偵憲章にもあるしな。「諦めるな。武偵は決して諦めるな」って。

だから、諦めない。勝てないから諦めるなんて、そんなのは嫌だ。

俺は諦めない。こんなの治らない病を宣告された時に比べたら、全然大丈夫だ!

負けても死ぬわけじゃないし、勝つまで何度だって立ち上がればいい。

俺は諦めないと決めた。自分で自分の心でそう決めた。

前世の漫画で『大事なことは心で決めなさい』と某猫又さんも言ってたしな。

だから。

 

「俺が諦めるのを諦めろ!」

 

「ふっ……諦めの悪さだけは一人前じゃな。じゃが、それだけでは勝てんぞ。力無き信念など無いに等しいのじゃー」

 

爺ちゃんが振り下ろした拳が腹にのめり込む。

「かっは……」と吐血させながらも痛みに耐える。

ここで倒れるわけにはいかないんだ。

諦めてたまるかよ!

俺には信じてくれる仲間や、待ってる家族や幼馴染がいるんだ!

ここで倒れるわけにはいかないんだー!

脳内に浮かんだのは、家族、友人、これまで出会った人々。

そして、耳に届くのは俺の戦いを見守ってくれている仲間達。

彼らが観てる前で俺が諦めるわけにはいかないだろう!

俺は一人じゃねえんだ!

そう思った瞬間、自分の内側から力が湧いてくるのを感じた。

これは……この感覚はなんだ? 喜び、怒り、憎しみ、悲しみ、そういった胸の内に秘めた感情が心の底から溢れるこの感覚は一体?

まるで……まるで、心が震えるようなこの感覚は一体。

 

「なんじゃ? どうなっとる……その左手はなんじゃ⁉︎」

 

左手?

爺ちゃんの言葉で我に返った俺は左手を見ると、左手のルーンが今まで見たこともないくらい、激しい輝きを放っていた。

 

「ガンダールヴのルーン……そうか、ガンダールヴの強さは心の震えで決まるから……」

 

だから、心が震えた今、反応して光輝いたのか。

理由はわからない。

ただ、この状態の俺はいつも以上に集中出来ている。そのせいか……。

 

「その左手は……やはり、何か持とったか」

 

爺ちゃんの小さな呟きすらはっきり聞こえた。

 

「気づいてたのか」

 

「当然じゃ。孫のことを知らぬ祖父などおらん。

お前が何かを隠してるのは前から気づいておった。じゃが、そんな力を秘めておったとはな……」

 

爺ちゃんにはバレたか。ああ、きっと気味悪がられたりするんだろうなー。

人は自分と違うものを徹底的に排除しようとする生き物だからな。

だからきっと爺ちゃんも……

 

「ふむ、面白い。面白い力じゃ!」

 

え?

 

「その力は何じゃ⁉︎ 筋肉が増えたり、筋肉量の増したりするのか?

ズルいぞー、儂ももっと筋肉欲しいんじゃー!!!!!」

 

……。

うん、そうだよな。爺ちゃんは筋肉バカだったよな。普通の人じゃないもんなー。というか十分筋肉付いてるからもう必要ないぞ。爺ちゃんらしい反応だな。

だけど特別な力=筋肉って発想するの爺ちゃんだけだぜ?

 

「そんな力ねえよ!」

 

「チィ、なんじゃつまらんのぅ。筋肉を震わせる力じゃなかったのかー」

 

筋肉を震わせる力って何?

そんな力いらないんだけどー⁉︎

 

「ま、よい。少しは楽しめそうじゃな。ほれ、かかって来い!

儂を倒してみよ!」

 

「言われなくてもそのつもりだ!

行くぞ、おりゃあー!!!!!」

 

爺ちゃんに向けて駆け出す。

身体が軽い。力が溢れる。

今なら何でもできそうだ。

 

「火中天津甘栗拳ーー!!!!!」

 

アチャ、アチャチャチャチャチャチャ______!!!!!

 

「何度やってもそんな軽い拳では……なぬ⁉︎」

 

ドスドス、と重い一撃が爺ちゃんの身体に入る。

 

「かはっ……」

 

爺ちゃんの口から吐血が飛び散る。

 

「……!(ば、馬鹿な。儂の『硬化』を打ち破ったじゃっと)」

 

チャンスだ!

攻撃の手を緩めず、続いて蹴りを放つ。

爺ちゃんは体を捻ってそれを躱し、俺から距離を取ろうとしたが……遅い!

爺ちゃんの動きは全て見える!

爺ちゃんが次、どんな動きをするのかは全てわかる。

筋肉が動く時に発する音を耳で捉えて、爺ちゃんより速く動ければどうということない!

爺ちゃんが拳を振ってくるが、当たらなければどうってことない。そう思いながら俺はあることを思い出していた。そうだ。ある! 爺ちゃんに勝つ方法! 爺ちゃんに接近して爺ちゃんの頭部を狙おう。

もうちょっと上。よし、そこだ! ここに打ち込めば勝てる! 昔、父さんに聞いた爺ちゃんや父さんの弱いところ。

 

『父さんや爺ちゃんに弱点ってないの?』

 

『はは、なんだい、いきなり?

弱点かぁ……そうだな、しいていうなら』

 

____僕達一族はこめかみが代々弱いかな。

 

『火中天津甘栗拳』を放つ瞬間、インパクト時にグーからチョキに変えてそのまま人差し指と親指で爺ちゃんのこめかみを突く!

 

「ぐおおおおおおお!!!!!」

 

もがき、苦しむ爺ちゃん。

こめかみを強く押されたせいか、その顔色は徐々に青くなる。

ごめん、爺ちゃん。だけど、勝つにはここを狙うしかないんだ!

 

「馬鹿な……こめかみ狙うとか貴様本当に人間か!」

 

弱点を突いたら爺ちゃんにマジキレされた。

 

「いや、それは爺ちゃんにだけは言われたくない」

 

さっきからすれ違い様に何発も拳入れてるのに全然倒れないじゃんか!

爺ちゃんに突っ込んでいると、静観していた巻から突っ込まれた。

 

「安心なさい。あんたたち、どっちもただの人間じゃないから!」

 

おい、コラ。巻! それはどういう意味だ!

巻に突っ込んでいると。

チームメイトの一人が巻に駆け寄ってきた。

 

「巻さ〜〜〜ん、とって来ましたー!」

 

巻に手に持つそれ(・・)を手渡す。

 

「遅かったわねぇ! まあ、いいわ。ほら、昴くん、これ使いなさい!」

 

巻が受け取ったそれ(・・)を俺に向けて放り投げてきた。

 

「ぬ。それは儂が厳重に保管していた……まあ、よい。

素手の力は十分見れた。今度はそれ(・・)を使って剣の腕前を儂に見せてみよ!」

 

「ああ、そうさせてもらう!」

 

受け取ったそれ(・・)____木刀『星砕き』____を構えて、爺ちゃんを睨み付ける。

そして、爺ちゃんに向け駆け出す。

 

「いくぞ!」

 

手にした木刀を力一杯握り締めて、爺ちゃんの動きを読んで、間合いに入る。木刀を使うから間合いに入るんじゃない。離れたら『鏡花水月』で狙い撃ちされる。空気の塊なんて目では見えないし、筋肉じゃないから音も拾えない。だから。

近接戦に持ち込んでタコ殴りにしてやる!

 

「オラオラオラオラ!!!!!」

 

木刀を何度も何度も振るい、爺ちゃんの胴体に力一杯叩き込んだ。

ただ叩き付けるだけじゃなく、斬るイメージで木刀を引いたり、刀身で叩き割るイメージで何度も何度も振るう。

木刀を振るう度に、木刀を叩き付ける度に、左手のルーンは強く輝く。

これならイケる!

そんな確信があった。

 

「調子に乗るなー!」

 

パシッ、と音聞こえ、一瞬のうちに片手で木刀を掴まれた。引き剥がそうと力一杯木刀を握り締めるもビクともしない。一体どこにこんな力があるんだ? あんだけ痛め付けてもピンピンしてるなんて……人間辞め過ぎだろ。

 

「なかなかやりおるのぅ。加減してやっとるとはいえ、儂をここまで痛み付けるとは……じゃが、まだまだ足りんな」

 

「筋肉ならこれから鍛えるよ」

 

大人の筋肉量と子供の筋肉量は違う。今の俺では爺ちゃんには勝てないのは仕方ない、もう少し大きくなったら爺ちゃんを力でねじ伏せてやるよ!

そもそも勝てなくて当然だ。だって俺、まだ10歳だからな。

 

「認めてやるぞ。昴よ、お前は強い。今の強さをお前が好きなゲームで例えるならレベル80といったところじゃな。じゃが、今のままでは大人のレベル1には勝てん。強者と万が一対決することになったら間違いなく死ぬ。儂は可愛い孫が死ぬのを見とうない。じゃから、お前が死なないように、大人のレベル10くらいには勝てるように今日は特別な教育をしてやるぞ」

 

そう言った爺ちゃんは掴んでいた木刀から手を離す。そして、腰に携えていた鞘から赤い色をした剣を取り出した。

あれは……日本刀?

いや刀に似てるけど日本刀じゃないな。形が違う。普通の日本刀は峰の方へ向かって反る、いわゆる外反りと呼ばれる反り方をしているもんだけど、爺ちゃんが持ってるのは剣の形をしている。それも刃が内反りだ。刃に向かって湾曲している。

 

「この剣はかの伝説の布都御魂の剣(フツノミタマノツルギ)じゃ。昔、京都の土御門家でひと暴れた時、ちょっくら拝借してきたもんじゃ。伝説の神剣だけあって、此奴には何度も助けられたわ」

 

「ちょ、何やってんの⁉︎」

 

それ、国宝級の品物じゃないっすか⁉︎

勝手に拝借って、土御門家の刺客とか、公安から目つけられるだろうがー!

 

『相棒は人使いあらいからなー、毎度付き合わせれる俺の身にもなれってんだ』

 

「え?」

 

この剣……今、喋らなかったか?

いや……まさか。

 

「巻、今なんか言ったか?」

 

俺は周りを見渡した後、巻に確認をしてみた。

巻は『何、言ってんのこいつ』みたいな顔をして首を横に振った。

 

「いいえ。何も言ってないわよ。誰一人ね」

 

巻の周囲にいるチームメイトも困惑の表情を浮かべている。

……聞き間違いか? いや、でも……。

 

『ん? オメェさん、俺の声聞こえんのか? 契約者でもないのに? そりゃ、おでれーたなー』

 

「おでれーたのは俺の方だ! って、あれ? もしかしてインテリジェンスソード?」

 

意思のある魔剣。まさかのデルフさんっすか⁉︎

 

『俺自身には名前はねえよ。この器の名前はさっき相棒が言ってた布都御魂の剣ってやつさ』

 

「ほう、布都御魂の剣と会話できるとはのぅ。さすがは昴、儂の孫じゃ! がははははっ!」

 

『ん? んん? なんだかお前さんからは懐かしい匂いがするなー……初めて見たはずなのにまるで何年も一緒に過ごしたみたいな、そんな懐かしい感覚がする』

 

「懐かしい?」

 

そう言われても俺が布都御魂の剣と会ったのは今この時が初めてだ。爺ちゃんがインテリジェンスソードを持ってるなんて知らなかったぞ。ガンダールヴが存在するならもしかしたら、どこかにインテリジェンスソードみたいなものもあるかもしれないってのは思ってたけど。

それが今目の前にある。そして、その剣先は俺に向けられた。

 

「さて、会話の時間は終わりじゃ。漢なら剣と拳で語り合え! 拳で散々語り合ったからのぅ、次は剣で教えてやるぞぃ? 本物の剣術とはどういうものなのかを」

 

ニィ、と笑った爺ちゃんは布都御魂の剣を振るった。横に跳んで避けたが、剣先が地面に当たった瞬間、凄まじい衝撃が襲ってきた。なんつう破壊力だ! たったの一振りで地面に大穴が開きやがったぞ!

 

「それそれ、どんどんいくぞぃー」

 

一撃、二撃、三撃……爺ちゃんは休む暇なく手に持つ鉄剣を振るう。俺は全て、反射神経だけを頼りに躱しているが、躱す度に剣速は速くなっていく。

七撃目を躱したところでついにその剣先が俺の服を掠った。

ヒューン、と風を斬るような音を出す剣先から物凄い衝撃が伝わってきた。

俺の身体は50メートルほど、吹き飛ばされる。

くっ、なんつう衝撃だよ、普段から爺ちゃん達に殴ら慣れている俺じゃなきゃ死んでたぞ?

大木に激突し、背中を強打したがこのくらい日常茶飯事な俺はすぐさま立ち上がり、木刀を握り直す。

そして、俺に向けて突きを放ってきた爺ちゃんの鉄剣を木刀で受け止める。

ガキィィィン、と鉄剣と木刀が激突する音が鳴り響く。

 

「なかなかやりおるな。これはやはり、その左手の力かのぅ?」

 

爺ちゃんの視線は俺の左手、ガンダールヴのルーンに向けられた。

うう、どうしよう? なんて言えばいいんだ……。

素直に話すべきか? いや、だけど……神様から貰った力だ、なんて信じるか?

 

「ほう、神から貰ったのかー。じゃあ、儂も神に会えばより強靭な筋肉を貰えるのかのぅ?」

 

って、心読まれた⁉︎

 

「我が筋肉に不可能はないわ」

 

いやいや、筋肉関係ないよな! 心読むのにどんな筋肉使うんだ! 心筋か? 心臓鍛えたら心読めんのか?

どうやって鍛えんだよ?

あと、神に会って貰うのは筋肉とか、どこまで筋肉好きなんだよ⁉︎

 

「よい、突っ込みじゃ」

 

「うっせー!!!!! 誰のせいだ、だれの」

 

このボケ老人めっ! ボケにまで筋肉使うとは……脳筋はこれだから。

 

「爺ちゃんに向かってボケ老人とは何様じゃ!」

 

ガキィィィン! 鉄剣を木刀で受け止めたが、クソ、さっきより威力上がりやがった。

なんとか、受け止めたけど腕が痺れてきやがる。

一撃、一撃の威力が重すぎて俺の筋肉じゃ、抑えきれない。

爺ちゃんは蓮撃を止めない。

ガンダールヴの反射神経と、爺ちゃんが動く度に発生する筋肉が伸縮する時に出る音を頼りに回避行動を取るが、避けてばかりじゃ勝てない。

このままじゃマズイ。そう思った俺は一か八かの勝負に出る。

 

「うおおおお!!!!!」

 

だん、と地面を力強く蹴り、勢いを付けて突進する。

助走を付けることで威力を増すし、突き技なら躱せないはずだ。爺ちゃんの筋肉の動きを聞き取れば、次に動くであろう身体の部位もわかるしな。そう考え、狙いを定めて突進した。

 

「甘いわー!」

 

ガキィィィ、と鉄剣で受け止められ、そして受け長された。体勢が崩れた俺の足に爺ちゃんは足をひっかけ転ばせる。

ズサァァァと地面にダイブした俺は直様立ち上がろうとしたが、ザクッと顔の横に刃が突き立てられた。

 

「まだやるかのぅ?」

 

「まだまだ……」

 

これくらいで諦めるわけないじゃないか!

俺には巻やチームメイト達が声援を送ってくれるんだ。帰りを待ってくれる家族がいるんだ。幼馴染達にも早く会いたいし、早く帰ってゆっくりしたい。

何より負けたままでいたくねぇ!

 

「うおおおおぉぉぉ」

 

最後の力を振り絞って立ち上がる。

もう、体力も限界だ。

腕に、手に力も入らねえ。

だけど、この一撃だけは当てる。

絶対に当ててみせる。

 

「ヒルダ。起きてるんだろう? 最後にちょっと力貸せ」

 

それには協力者が必要だ。

 

「人使いが荒いわね。貸しよ? 後で血をもらうわ」

 

フラフラと身体を揺らしながらも、ヒルダは立ち上がり、そして口元に付いた己の血を舐める。

 

「ああ、好きなだけやるよ。だからお前の残りの電撃、全て俺に流せ」

 

「本気?」

 

ヒルダのその目は俺の覚悟を問うような真剣な目で俺を見つめていた。

 

「ああ、行くぞ」

 

思いついた技がある。ずっとやりたかった。再現したかった技。

桜や母さんに頼めば再現出来るかな、なんて思っていたけど桜はともかく、母さんは殺す気で放ってきそうだから妄想だけで胸にしまっていた技。

俺は爺ちゃんに背を向けて、走り出す。

距離が50メートルくらい空いたところで身体を反転させた。

そして、ヒルダに合図を出す!

 

「俺に合わせろ、ヒルダ」

 

俺の言葉にヒルダは頷き。

 

「行くわよ! ん …… 『雷球(デイアラ)』」

 

そして、力みながら球状の雷を発生させた。

発生直後、ピンポン球の大きさだったそれは、野球の球、そして、バレーボールの大きさまで膨れ上がる。

その技をヒルダは俺に向けて放つ!

 

____さあ、来い。これが俺の……

 

「全力だぁぁぁああああああああ!!!!!」

 

雷の直撃を受けた俺は両腕を伸ばす動作をしながら手に持つ木刀『星砕き』を空中に投げる。

爺ちゃんに向けて、真っ直ぐ浮くように。

勢いよく。

 

「武器を手放すとはヤケになりおったか……」

 

空高く投られた木刀は回転しながらゆっくり落下してくる。

俺はタイミングを見極めて、木刀の剣先が爺ちゃんに向くタイミングでその木刀に……。

____『火中天津甘栗拳』を叩き込む!

木刀は拳に押され勢いよく飛んでいく。真っ直ぐ。真っ直ぐ。矢のように。

爺ちゃんは投げ飛ばされた木刀を避けようとして。

 

「む? こ、これは……⁉︎」

 

『相棒こりゃ、躱せんかもしれんね』

 

その迫り来る木刀の速さに驚きの声をあげた。

投げ飛ばされた木刀の速度は雷神モードの爺ちゃんの速度と同等。

回避は間に合わない。

そう判断した爺ちゃんは鉄剣で木刀を打ち払おうとする。

木刀と鉄剣が衝突した瞬間。

俺の耳に、バリバリという虚空を劈く激しい放電音(スパークノイズ)が迸る。

今の俺が出せる他人の力を借りることで放てる全力の一撃。

____『超電磁砲(レールガン)』。

電力を二本のレールに流すことで物体を遠くへ飛ばす……某ビリビリツンデレ少女の得意技なアレ。

それを使ってみた。弾を撃ち出す為の火薬はヒルダの電撃、砲台は雷神モードになることで電撃の耐性がある俺の身体そのもの。撃ち出す弾は鋼鉄すら斬り裂ける頑丈な木刀『星砕き』。

自分の腕をレールに見立てたなんちゃってレールガン。

なんちゃってだが、全力の一撃には代わりない。ヒルダの全力の雷撃を纏った木刀は全力で投げた俺の力が加わり、爺ちゃんが持つ鉄剣とぶつかりあった瞬間、眩い白い光を発生させた。

今度こそ、爺ちゃんを倒せると思ったが。

 

「ぬおおおおぉぉぉ!!!!!」

 

爺ちゃんは直撃を受けても、倒れることはなかった。それどころか無傷だ。傷一つないとか、嫌になる。

レールガン直撃して倒れないとか、何このバグキャラ。

卒業させる気ないだろー⁉︎

 

「無理だったかぁ。……はぁー、仕方ねえ。約束通り、まだここにいるよ」

 

「夢を見てるのかしら? 私の電撃がまったく効かないなんて。悪い夢。そうよ、これは悪い夢なのよ。寝れば覚めるわ」

 

現実逃避を始めたヒルダは俺の影の中に戻っていった。

サンキュー、助かったぜヒルダ……って、おい! なんで俺の影に入るんだよ!

出ろ! 今すぐ出てけー!!!!!

ヒルダに文句を言ったが反応はない。おいおい、マジか。

俺、ヒルダに憑かれちまったんか。

俺に女が纏わり付いてるのが妹達にもしバレたら……?

いかん、寒気してきた。俺帰ったら殺されるかも。

 

「帰れなくて正解なのかもしれん」

 

そう考えると運がいい。爺ちゃんの卒業試験に落ちちまったから。

俺は当分、家に帰れないからなー。いやー、残念だ。残念だ。

だけど約束だから仕方ないよね?

 

「昴よ。……合格じゃ!」

 

そう言った爺ちゃんはバタン、と両腕を広げて仰向けに倒れる。爺ちゃんの横には砕けた木刀の残骸が転がっている。

……いやいやいや! わざと? ねえ、わざと?

なんで倒れるんだよ! 家に帰るハメになるじゃん。

病んでる妹達に吸血鬼対面させることになるじゃん!

 

「最後の一撃、見事じゃった。お前ならよりよい筋肉使いになれる。儂ゃ、もう思い残すことはないわぁ」

 

いや、ちょっと待てー! 突っ込みどころ多いからちょっと待てー!

筋肉極める気ねぇよ! 筋肉使いってなんだよ! 生身で レールガン撃てたのは筋肉を鍛えてたから、とかそんな理屈いらん。聞いてる? ねぇ、聞いて!

 

『あー……なんだ、その……相棒はなんでもかんでも筋肉に結びつけたがるから仕方ねえよ。一度言ったら聞かねえし。諦めろ……』

 

神話級の神剣にまで脳筋って認められてる祖父って一体……。

 

『それにしても、さっきの技はおでれーたーぞ。2000年ばかし生きてるが、あんな技見たことねえー。こりゃあ、将来が楽しみだなー』

 

「インテリジェンスソードを驚かせることが出来たのなら、頑張った甲斐があったよ」

 

そう俺は布都御魂の剣に告げた。巻にも礼を言わないとな。

あとチームメイトにも。

そう思いながら、歩き出した。

俺の背後で布都御魂の剣が何やらポツリと呟いていたが、どういう意味だろうね?

 

『最後の一撃、本当、おでれーたーからな。あともうすこしでこの器が耐えられなかったとこだ。ビビったね、イヤーマジで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして爺ちゃんに半ば無理矢理参加させられた修行は無事に終わり。

巻やチームメイトに別れを告げた俺はようやく、やっと家に帰ることが出来た。

さあ、久しぶりにダラダラ過ごすぞー!

という俺の野望は帰宅早々崩れさった。

ピンポーン、とチャイムを鳴らし玄関の扉が開かれた。

ここで、いつもなら桜が「おかえりなさい兄さん」とか。「お疲れ様ですお兄ちゃん」と言ってきたり。「兄にぃおかえり!」と橘花がタックルを食らわしてくる場面なのだが、玄関の扉を開けたまま、何故か二人は固まっていた。

 

「どうした?」

 

「に、にに」

 

「に?」

 

「兄さん、どういうことですか!」「これはどういうこと、兄にぃ!」

そう言った妹達にリビングまで引き連れる。

 

「いや、待て。ちょっと待て。落ち着け。意味がわからん……」

 

フローリング床にドサッと投げ飛ばされた俺は妹達に文句を言おうとしたが妹の顔を見た瞬間、黙らずにいられなかった。妹達の目が据わっていたからだ。

 

「なんで兄さんから他の女の匂いがするんですか?」

 

「浮気は死刑だよ、兄にぃ」

 

「何故、バレた⁉︎」

 

え、もしかして俺、ヒルダ臭い? 吸血鬼特有の匂いとかする?

 

「女ものの香水の香りに、ヤモリを焼いたような匂いがします。抱きつかれたりしましたね?」

 

ビシッと指を指す桜。いや、待て。俺は女を抱いた覚えなんて……あっ!

脳内に浮かぶのはテントの中で巻に襲われた記憶。あん時に付いたんだ!

巻、あんニャロー! 香水の香りプンプンさせていたせいで、匂いが服に着いちまったじゃねえか!

 

「浮気する悪い兄にはお仕置きが必要ですよね?

兄さんの身体抑えて橘ちゃん」

 

「うん、わかった。一生浮気できないように躾けようね、桜お姉ちゃん」

 

橘花に羽交い固めをされ、身動きが取れなくなる。

桜の手からは放電音(スパークノイズ)が迸る。

 

「いや、待て。止めろー」

 

俺は悪くない。悪いのは巻のアホだ。

愛ある拳による鉄拳制裁もっとしとけばよかった。

 

「大丈夫です。私達しか愛せなくなるだけですから。ちょっとばかし頭がぱーになるかもしれませんが、もともとぱーな兄さんには何も問題ありません」

 

おい、それはどういう意味だ!

ちょ、待て……止めろ! 話し合おう!

ラブ&ピース! 話し合い大切! そう叫ぶ俺に桜の手が迫り。

その手が俺に触れる寸前。

 

__ピンポーン!

 

玄関から来客を告げるインターフォンの音が聞こえてきた。

 

「ほら、誰か来たみたいだぞ。早く出ないと。

はいはいー、今行きますよー」

 

橘花の拘束を力任せに振りほどいて玄関に向かい、そして戸を開けた。

開けた瞬間、戸を閉じたくなった。

 

 

「やっほーすばる〜ん♡ 愛しのりこりんが来ましたよ〜」




筋肉を鍛える能力……じいちゃんに与えたらよりバグるから……どうしたもんかー。
じいちゃんにマッスル神の加護を付けることも真剣に考えた。

『筋肉を鍛えれば鍛えただけ筋肉が付く能力』

それを与えるのはもちろん……
マッスル神『我を従わせられるのはこの世でただ二つ! 右と左のオッパイだけだ!』
で、おなじみ? なこの神!

照神『止めたげてー! 昴(精神的に)死んじゃうからー!!!!!』

じいちゃんにガンダールヴの能力あったら心震わせなくても筋肉で大抵の敵は殲滅出来ますね、きっと。
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