それは死者すらも恐れるという伝説的な行事。
魔大陸・神奈川に聳え立つという地獄の山。『箱根山』山頂を目指して、生贄となる若者が生まれてきたことを後悔しながら、重い十字架を背負い歩かされる恐るべき儀式が今年もこの神奈川で開催されるという。
箱根山オリエンテーション、2日目の朝。
俺達は登山道の入り口に立たされていた。
これから各班に分かれ様々な課題、任務を言い放たれる。
その任務の内容は班それぞれだが中には強襲活動や要人警護などもおり、俺達の班はくじ引きの結果、強襲任務となった。
犯人役の教師を捕縛せよ、というかなり難易度がアレな任務だ。
しかも、犯人役は複数いるみたいで、実銃あり。弾は非殺傷のゴムスタン弾とはいえ、当たりどころ悪ければ死ぬかもしれない。
かなり難易度高い鬼畜ゲー仕様だ。
で、その任務にあたる
「山だー! ハイキングだ! ハンティングだー、皆頑張ろう☆」(怪盗娘)
「昴君と一緒、昴君と一緒……」(黒髪ヤンデレ剣士)
「……はぁー、なんで私がこんなところに来なくちゃいけないのよー。面倒くさいわねー。きゃあ⁉︎」(不知火LOVEなツンデレ少女)
「うぉっ! ……っと、大丈夫かぃ? 怪我はないな。それにしても可愛いな。昨夜の雨で道が濡れて滑りやすいから気をつけた方がいい。そうだ。少しの間お姫様にしてあげよう~」(普段はネクラな女タラシ)
今の数秒(滑って転びそうになった平賀をキンジが受け止めたが運悪く胸が顔に当たり)で『あのモード』になったみたいだが……まぁ、いいや。キンジは『あのモード』の方が頼りになるしな。
「……」(キンジを冷めた目で見る極道の娘さん)
「……右手が疼く。くっ、堪えろ!」(常に右手に手袋をはめてるツンツン男)
「みんな、背後には気をつけるんだよ? 背中の傷は一生の恥だからね」(どこぞのスナイパーみたいに背後への警戒心めちゃくちゃ強い女剣士)
「山といやぁ、狩りだよなぁ。春になると良い獲物が捕れるんだよ。単位不足で卒業、進級できなかった生きのいいヤンキーとか、な?」(喧嘩っ早い戦馬鹿)
……大丈夫か?
……このメンツで?
「……なんだか胃が痛くなってきた」(ヤンデレホイホイ)
「あはは、みんな張り切ってるね」(1ーAの良心)
胃を押さえる俺に不知火がイケメンスマイル全開で語りかけてきた。
「張り切りすぎだろ! まだ朝の6時だぞ。確かに5時から始められるからって、張り切り過ぎだろー」
「それだけ楽しみにしてたんだよ。ポピュラーな言い方だけど、僕もみんなと過ごせるのはワクワクするしね」
そう言って不知火は微笑む。
が、残念。
俺、ノンケだからドキっとかはしないんだ。別の意味でドキっとはしたが。
不知火に微笑まれただけで何故か凄い目つきで睨む奴がいるからとか、「浮気駄目浮気駄目、絶対」とか。「昴を真人間に戻す」とか呟いてるヤンデレ共の視線が入ったからとかそんな理由でドキっとはしたが。
というか、ヤンデレホイホイってなんだ⁉︎
チーム内で変なコードネーム付けるのやめろー。
「次ぃの奴来いやー、って……なんやお前らか。
模擬訓練の内容は、山に逃走した犯人の確保や。
犯人に成りすました教師を捕獲するのが目的や。
訓練とはいえ、くれぐれも気をつけて殺りやえや〜」
そう言い放ち、蘭豹は次の生徒の元へと言ってしまった。
「りこりんが一番のり~~~」
そう言うと理子は、一人でどんどんと山の険しい道を進んでいく。
「おい、理子!!一人で行動するな!!」
そう言って理子を何度か立ち止まらせながら進んでいくと山の中腹地点に小屋があった。
「皆、あそこの小屋を調べるぞ!!
一人は残って見張りをやろう
警戒しつつ、何か異常があればすぐに知らせてくれ!!」
「俺は中に入るぞ!!」
そう言って、先に入っていったのは坂本竜次。
幕末の偉人。坂本竜馬を先祖に持つガタイのいい男だ。
結局、見張りは小鳥遊が残り、俺達は小屋の中を調べることになった。警戒しながは慎重に中を捜査しようと小屋の扉を開けて一歩入ると、突然上から何かの粉が降ってきた。
「ケホケホ。なんだ、コレ?」
この粉の正体は口の中に入った食感、味からしておそらく小麦粉か? 扉を開けると落下をする仕掛けになっていたようだな。
「ふふふ、20点だね」
突然声が聞こえて、小屋の中に男の声が聞こえてきた。
目を凝らして見てみると、部屋の奥にあるソファに誰かが座っているのが目に入った。
「神奈川武偵高附属中学伝統行事、『死のハイキング』。それは訓練という名の一種のゲームだが、遊びではない。もし、小麦粉ではなくこれが触れただけで死ぬような即死性のある危険物なら君たちは今、そうやって話すことも歩くこともできなかったよ?」
どうやら試験用に罠が仕掛けられていたようだ。
「僕を捕まえるのが君達の目標だが、常に周りを見渡さないといけないよ。なぜなら危険は常にそこらじゅうに溢れてるものだからね」
そういい放つ犯人役の教師。
「クソー」
すると、坂本が突然立ち上がり一人で教師に向かって飛び出してしまった。
「あの馬鹿……」
「彼はどうやらチームで動くことの意味を理解していないようだね……」
残念そうに教師は言う。
次の瞬間、二発の銃声が鳴り響き、坂本の体が崩れ落ちる。
目を見開く坂本。
そして、唖然とする俺達。
なんで? どうして?
何故お前が……?
「理子……?」
俺が彼女の名前を呼ぶと、右手に
「ち、違う。体が勝手に……」
「ふふふ、どうだね? 仲間に撃たれる気分は」
教師はニヤッと笑い、俺達に銃口を突きつける。
「言ったはずだよ? これは遊びではない、と 」
マズイぞ! 今、何をされたのか全くわからなかった。
撃たれた坂本の状態も気になるが、ぱっと見た感じは右肩と左膝を撃たれたんだな。
ただし、解ったのは理子が右肩を撃ったことだけだ。それも、自分の意思ではなく、目の前の教師が何かをしたってことだけ。その何かはわからない。
「君達の班に与えられた任務は僕の捕縛だったね?
さて、君達に僕を捉えることができるのかな?」
「やってやろうじゃない!」
平賀が日本刀を抜き、構える。
続くように、北条、仁、風香、坂本……そして、不知火までもが銃や拳銃、刀を構えてしまう。
「待て、お前ら」
「落ち着け」
俺やキンジが呼び止めるが。
「止めても無駄よ」
平賀達は止まりそうにない。
「止めないで昴君。今なら合法的に泥棒猫を殺れ……やっつけられるから!」
風香、お前だけ目的変わってるだろう!
理子は敵じゃないぞ。多分。
「……はぁはぁ。俺もやるぞ。遅かれ早かれ、捕縛が任務の内容ならそいつとの戦いは避けられないからな。それに、やられっ放しってのは耐えられねぇ」
坂本が起き上がり、刀を構える。
「やめろ。お前らじゃ勝てねぇ!」
「らしくないなぁ。昴君。僕が
「そうだが、そうかもしれないが。……待て。やめとけ。そいつとは戦っては駄目だ! そいつは! そいつは____」
俺にはわかるんだ。わかるんだよ。
そいつはただの
俺達とは筋肉のつき方とかが違うんだ! ”違い過ぎる,, んだ!
俺の制止を聞かずに風香達は飛びかかってしまう。
そして、薙ぎ払われた。
見えない攻撃、見えない
地面に這い蹲ってしまう。
「……なんだもう終わりかぃ? 弱いな。あっけないな。情けないな」
なんなんだ。なんなんだ。お前は?
「お前は……一体」
何者なんだ?
と、俺が尋ねる前に彼は口を開く。
「ああ、そう言えば自己紹介まだだったね。僕の名前は風斬龍一。そこに這い蹲る風斬風香の兄で、主人で、所有者で、今は神奈川武偵附属中学の臨時教員をやってる
まるで普段、俺が他人に言ってるみたいな自己紹介をしやがった。
「お前みたいな一般人がいて堪るか!」
そう突っ込んだが、理子、風香、キンジ、不知火達から『何いってんのコイツ』みたいな目で見られた。
「「「「昴(君)が言っていいことじゃないな(よ)」」」」
なんでだよ! 俺は普通の人間だよ。ただの一般人だよ。
っていうか、風斬ってことは風香の兄?
だが、なんで風香は「?」ってまるで知らない人を見る目で見てるんだ?
謎だ。怪しすぎる。何かあるな。その話には。
「星空君、君は来ないのかぃ?」
理子達に内心突っ込んでたら、風斬……間際らしいから龍一と呼ぶが、龍一がそんなことを言ってきた。
「遠慮しなくていいから、かかってきなさい。一撃入れたら内申点を上乗せしてあげるよ」
内申と聞いて、俺の殺る気がUPした。
「いいのか?」
「ああ、入れることができるのなら、ね」
どうやらかなり舐められてるみたいだ。
確かに、彼は強い。
理子やヒステリアモードのキンジとはいえ、戦闘経験の差では敵わないだろう。
臨時教員とはいえ、相手は武偵附属中学の教師をやるくらいの男だ。
武偵高で教師をやる人間が並の人間のはずがねぇ。
だけど、な。
自分より強いただの人間じゃない奴となら、こちとらほぼ毎日戦ってんだッ!!!
「そんじゃ、まずは軽く一発いきますよ?」
俺は小手調べに武器を何も持たずにゆっくり歩いて接近していく。
「武装しないのかぃ? もう、諦めたのかな? ……いや、違う。これは⁉︎」
気づくの遅いよ。
もう、十分この技の射程距離内だからな。
それに武器は必要ない。下手に武装したら殺してしまうから。
俺は武装した方が何十倍も強いからな。
そんなことを考えながら、肩と腕の筋肉を連動させて、一気に前へと力を放出させた。
行くぞ! この3年で鍛えた俺の筋肉に刮目せよ!
「行け____!!! 」
(多段、『彗星』ッ!)
この技はキンジの『桜花』をヒントに……というか、ほぼまるパクリして編み出した音速の突き技を、さらに改良したもの。マッハ1で繰り出す超音速技、『彗星』を身体の筋肉や骨格の使い方を工夫することで、マッハ8以上の撃力を生み出すことができるように改良した。
しかも、『筋形質多重症』なんて特異な体質を抱えてるせいか、さらに威力を上げることもできる。
試しに爺ちゃん相手にマッハ10をぶっ放したらあの爺ちゃんですら、一週間寝込むくらいの威力が出せた。
普通ならマッハ8以上出せば空気抵抗で腕が燃えかねないが、桜が作ってくれた『御守り』による回復魔術を常時使用することで燃えても回復できるからな。ま、痛いけど。逆にそれを利用して、摩擦熱で皮膚を燃やして敵を殴る『炎帝モード』もなんて技もできるようになった。ま、それを使うと痛いし、血出るし、使った後、貧血になるリスク高いのと持続時間短いのと体力を過剰に消費し、寝込むことになる欠点があるから多用はできないけど。
とりあえず、まずは……。
「これは……操られた理子の分だあああぁぁぁ!!!」
____ゥゥゥゥゥゥゥキュドンッ____!
『
今やったのは、マッハ8の正拳突き……の寸止め。
寸止めの理由は当てたら確実に殺してしまうから、というのもあるが、筋肉の突き方が普通の人間じゃないにせよ、教師をぶん殴るのはさすがにマズイからな。俺は不良生徒じゃなく、普通の学生を目指したいからな。
普通の学生は教師殴らない。寸止めならセーフ!
だから、寸止めにして、その時発生する衝撃破だけで、教師を吹き飛ばしたんだ。
何も考えないで小屋まで爆破しちゃったけど、理子達無事か?
理子達を探すといた。
崩壊した瓦礫がモゾモゾ動き、ガシャーンと音を鳴らしせながらその瓦礫を吹き飛ばしながら、坂本が起き上がる。
その下にいた。
理子と菊代が。
さらに、瓦礫が動いたと思ったら、その下からキンジや不知火が出てきた。
それぞれ女子を守るように背中で庇いながら。
平賀は不知火に庇われたのが嬉しいのか、ニッコリしてやがるし。
ただ、風香の姿が見えないな、と思っていたら。
「もう、昴君。無茶し過ぎだよー」
上空から風香の声が聞こえた。空を見上げると風香は空中に浮いていた。
やはりというか、魔術で空も飛べるんだな。最早なんでもありだな。
魔術万歳!
などと現実逃避していると。
その時、坂本が抱き抱えていた理子の身体からプチプチと何かが切れる音がすることに気づいた。
これは……ワイヤー?
ああ、そうか。
目に見えにくいくらいの細いワイヤーを理子の身体に巻きつけていたんだな。
それで理子の身体を操ってたのか。
見えない斬撃の正体もおそらく、このワイヤーだったんだな。
「まだ、坂本の分をやり返してないけど……気失っちゃたし、どうしようこれ?」
倒れた風斬教諭の方を見ると、理子がツンツン、と突っついていた。
突かれた教諭は無反応なままで身動き一つしない。
あれ? もしかしなくても……やり過ぎたか、これ?
「……うん、あれだな。これは……訓練しくじり先生」
ま、武偵高で教師やる奴なんて大抵、人生しくじってるんだろうけどな。
「「何やってんのよ! この、ドアホ!」」
北条と平賀にど突かれたが、なんだ、元気じゃんお前ら。
こんなに元気なら心配する必要なかったな。
なーんて思いながら、軽く彼女達の肩に手を置いたその時。
プチプチビリィッ____!
なんだか不吉な音が聞こえた。
恐る恐るといった表情で、二人の身体に目を向けるとなんと。
二人が身に着けていた防弾制服が粉々に破け散り、生まれたままの姿……ようは、すっぽんぽんな姿へと大変身してしまった。
「うん、なんというか……ご馳走様です?」
そう言ってから、俺は
「星空昴ぅぅぅううう!!! 待ちなさい! 風穴開けてやるんだからぁぁぁあああ!!!」
「背中の傷は剣士の恥だけど、前なら傷付けていいなんて言ってなーい! 全裸にしたら……ブチ殺すわよ」
「ふふふふふ、あはははっ! 全裸にしたいなら私に言えばいいのに。なんで? ねえ、なんで?
なんで私以外の雌を脱がすのかな? 調き……お仕置きが足りないのかな? かな? あははは!」
マッハ8で武偵高の教師倒せたけど、そのせいで、俺の胃にマッハで風穴開きそうです!