魔法戦記リリカルなのはForce~世戦の軌跡~   作:岸辺 翔

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牙・第1章 忌まわしき過去

「なのは、例のブツがでたらしい」

 

「……そう。出ちゃったんだ、あれ」

 

「………………ああ。シグナムからかねがね噂は聞いていたが……ついに表に出た」

 

「…………隼人さんと同じ病気―――」

 

「EC因子(エクリプス)が―――な……」

 

 

重く圧し掛かる重圧。

EC因子(エクリプス)……それは世界を殺しうる猛毒とか言われる病気の一瞬なんだけどな……。

こいつがまたタチの悪い奴で、感染者を人あらざるものにしちまう。俺の戦友……っつーか、昔から一緒に戦ってた奴もこいつが発祥してな、そりゃもう大変だった。

元々手が付けられない上に異常になったせいで、世界どころか次元を消しちまうかとも思ったほどだ。

そのせいで俺たち管理局でも体制を強化し、感染者は殺害が許可されちまった。ひでぇもんだ。

 

 

「俺ぁ情報収集に言ってくる。新しい出現予測地点が割り出せたとか言ってたし」

 

「気をつけてね、ゆーくん。あの人たちに魔法は通じないし……」

 

「心配すんなよ。俺たちには―――三銃士にゃあ、隼人(あいつ)が残してくれた高濃度魔力圧縮弾(HMB)弾がある。EC因子(エクリプス)相手だろうと問題ない」

 

「……うん、そうだよね。隼人さんが残してくれたんだし、大丈夫……だよね」

 

「…………そういや……あいつが消えてから、もう6年か」

 

「……どう、してるかな」

 

「さぁな。俺は銃騎士じゃないからわからないが、きっとどこかで元気にやってるんじゃないのか?」

 

 

あいつの事を思い出して暗い顔になってしまったなのはを抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でる。

本来俺たち三銃士は消える運命にあった。だが隼人が無茶をすることによって三銃士は生き長らえ、今こうして幸せを掴むことができている。

感謝しても仕切れないが、あいつ自身が望んだことでもあり、そうするしかなかった。

いつだって

あいつのやってきたことはいつだって正しかったが、いつだって間違っていた。けど最期のあのときだけは……俺には他の答えがわからなかった。

コードネーム・銀狼(シルバーウルフ)、本名を隼人という。あいつが銃騎士であり、俺がその三銃士だったことを光栄に思ってる。

それだけ仲が良くて、掛け替えの無い存在だった……。

 

 

「…………行ってくる。緊急回線だけは空けといてくれよ」

 

「うん……行ってらっしゃい、ゆーくん」

 

 

小さな笑みと共に玄関を出て行き、ガレージに停めてあるバイクに跨る。

日本のメーカーで販売されていたVFR-1200F。ミッドチルダじゃあ車検に通らないのでエンジンをガソリンから魔力駆動に変更しちゃいるが、その独特の音や性能はそのままだ。

向かう先は報告にあった地点。EC因子(エクリプス)が出現したと考えられている場所だ。

ここから先は管理局からの命令じゃない。俺の独断と、あいつの……意思だ。今もなお一部の奴らによって受け継がれていく、あいつの。

 

 

「……頼むぜ、今日も」

 

[構いません。それよりも……不確定な電波が]

 

「登録なしか?」

 

[はい。ただ、ログに該当が]

 

「発信者および受信者を割り出せ」

 

 

俺の第二の愛器、ライジングソウルからの情報を聞きながら指示を出す。

不確定電波だって? ふざけんな。この緊急事態によぉ……。

 

 

[発信者不明。受信者複数。広域電波だと思われます]

 

「内容は」

 

[〝我、狼なり。墓守たちよ今こそ目覚め、世の断りを我が天秤に〟……だそうですが]

 

「狼に墓守か……。墓守はたぶんOHNのことだな。天国の外側にいる者たち……でもなぁ」

 

 

OHNの奴らに命令を出す奴。

今のところその権限があるのはリィンフォースのみだ。だが狼と名乗ったりはしない。せいぜい闇だ。

となると、考えられるのは1人しかいないんだが……そいつはもういない。消えた。いてはならない。

消えたからこそ今の世界があるし、消えなかったらこの世界は無い。

だからこそ俺が生きてるし、この世界に存在している。

 

 

[それと新たな報告書が]

 

「……内容は」

 

「EC因子(エクリプス)と思われる反応が2つ、とのことで」

 

「なっ、2つだと!?」

 

 

さっきの報告にあったのは、EC因子(エクリプス)と思われる痕跡が1種類あったという報告。

今の報告が本当なら、今現在EC因子(エクリプス)1つが同時に行動していることになる。とんでもないことだぞ。

1つでさえ苦戦するってのによ……。

 

 

「……犯人はわからねぇのか」

 

[犯行現場に残されていた証拠は2つです。1つは顔、姿の全てが写された映像。2つ目は犯人が使用したであろうTASER XREP弾です]

 

「TASER XREP? あれはIDが残るはずだろ?」

 

[いえ……それが、何故か残っていないらしく]

 

「あの弾からIDシートを除去できる人間……? いるのか? そんなん」

 

 

あの弾は発射時にIDシートを吐き出す仕様だ。

それを解除できる奴はそうそういないし、銃弾職人であっても難しいといわれてるほどだ。

 

 

「まあ、無駄口叩いても仕方ない……。ライジングソウル、次の予想到達地点は」

 

[ええとですね…………なっ、ここです!!]

 

「はぁッ!?」

 

 

驚きのあまり急ブレーキ。

危ねぇ。ここが山岳地帯じゃなくて市街地だったら事故ってるぞ。

ってか、予測値地点がここってどういうことだ?

 

 

[到達予想時間まで残り2秒! 1……ゼロ!]

 

「いくらなんでも急すぎや―――」

 

 

ズドンッ!

地響きすら軽がると超える轟音を響かせながら、山の斜面を削り取るような衝撃。

事実、俺の目の前にクレーターが出来上がっていた。ひでぇな。

砂埃が舞っているので、その中心にいる人物の特定はできない。特長さえつかめれば……!

 

 

『…………やあ、君はこの世界の住人だね?』

 

「誰だ! 両手を挙げて武器を出せ!」

 

『それはできないな。僕はまだやることがあるし、なにより彼を助けていない』

 

 

徐々に晴れていく砂埃。

腰まであると思われる黒髪に、感情を思わせない雰囲気。

なんだ、こいつは……。気配がまるで読めないし、まるで死にたての死体だ。

 

 

「何者だ!」

 

『……今は、死神とだけ名乗っておくよ。それより君も行くんだろう? 彼の下へ』

 

「なに……?」

 

『彼は今も逃亡を続けている。君の足(バイク)でも追いつけるかどうか……。まあ、僕は行かせてもらうね』

 

「あ、おい待て!」

 

 

舞っていた砂埃を一瞬にして消し飛ばし、その男も消えていた。

空を見上げてみれば、そこには黒い翼をはばたかせる何か。まさか……あれが今の男だというのか?

 

 

[マスター、次の予測地点が]

 

「……ああ。わかった。あいつのことは報告書にまとめておいてくれ」

 

[御意。では案内します]

 

 

今のあいつはいったいなんだったのか。

管理局のデータベースにでも問い合わせれば。あるいは、無限書庫にでもいけば乗っているかもしれないが……それはやめよう。

今の気配は敵意ではなかったし、どちらかというと虚無だった。

下手に干渉して敵となられても困るしな。

 

 

「敵とも見方ともわからない外部勢力……か。怖いもんだな」

 

 

 

 

 

†★†★†★†★†★†★†★†★†★†★

 

 

「こちら和輝! 至急応援求む!」

 

『増援は向かわせた! 持つか!?』

 

「かなりきついっての!」

 

 

閃光と、無数の魔力光。

俺たちは魔法を、あいつは銃弾を。

どうやっても拮抗してしまう状況だが、こっちは7人、むこうは1人だ。

数の差では圧倒的に有利なハズなんだが……。

 

 

「EC因子(エクリプス)が相手じゃ、なぁ……」

 

 

EC因子(エクリプス)。

俺たちの魔法を全て無効化し、尚且つ絶対的な肉体を手に入れるクソ厄介な病気。

その発症者が相手だ。顔を仮面で隠し、ロングコートのせいで体つきもわからない。

正直、厄介すぎてダルくなってきやがった……。

 

 

「HMBの数にも限りがあるし、なにより無駄遣いはできねぇ。なにより威力が高すぎるし、銃が持たなくなりそうだし……」

 

 

俺の戦友―――隼人が残してくれた、EC因子(エクリプス)に立ち向かうための唯一の方法。

魔力を結合させるのではなく、魔力そのものを高濃度状態で圧縮して弾丸状に形成した銃弾。EC因子(エクリプス)でも消されること無く、AMF環境下でもその威力は絶対。

けどあまりに威力が高すぎて、銃がもたないんだよな……。

 

 

「はぁ……あいつがいてくれりゃあ……」

 

 

消えてしまったあいつ。

んこんな状況ですら一瞬で打開してしまいそうな、それだけの力を持ったあいつ。

…………今頃悔やんでも、戻ってくるわけ無いけどな。

 

 

『…………手抜(ぬる)いな』

 

「ハッ。そりゃすまねぇな」

 

『これでも貴様らは世界の駒か……?』

 

「ざけんじゃねぇよ。こちとらユニゾンもしてねぇんだぜ?」

 

『融合……か。無駄なことを』

 

 

膝まであるんじゃないかと思うくらい長い銀髪を揺らしながら、男が歩いてきた。

魔法は一切効いてない。それにむこうは構えてすらいないが、俺は関係なしにナイフとPDW―――FN P90を構えた。

攻撃を仕掛けてくるような気配は無い。むしろ完全に警戒を解いているような……温和な雰囲気だ。

 

 

「……こっ、これ以上来るな! 発砲を余儀なくするぞ!」

 

『…………器の小さき者だ』

 

 

いつのまにかEC因子(エクリプス)の有効範囲内に入ってしまったのか、俺の飛行魔法が解除されて重力に引かれた。

―――と思ったら、俺は胸倉を掴まれて宙に浮いてやがる。

クソッ! なんだこいつ。敵意はねぇのに体が震えるぞ……!?

 

 

『どうした、怖気づいたか』

 

「……ヘッ。ざけんじゃねぇよ」

 

『フン……その意気や良し。だが貴様は告人とはなれない』

 

「なに言ってんだテメェ。さっさと離せよ」

 

『…………我は真判者。我が名は狼。全ての頂点に君臨し、森羅万象を駆け巡る者。貴様も告人となりたくば……世界に轟かせることだ』

 

 

瞬きと同時に男は消え、俺の飛行魔法は回復していた。

ドッと吹き出る汗を拭いながらも、なんとかナイフをしまう。

気持ち悪いくらいの威圧感に、ありえないくらいの安堵感。

怖いとか恐ろしいとか、そういうレベルの話じゃあねぇな。

 

 

「…………全部隊へ通達。目標喪失(ターゲット・ロスト)。偵察部隊は編隊を組んでできうる限り追跡。ほかは全部……俺のところに来い」

 

 

……俺は、ロクに反抗もできなかった。

かつてEC因子(エクリプス)を発動させていた隼人と対峙した遊騎みてぇに、俺は真正面から戦うことができなかった。

……あいつは強くなったな。隼人が消えてから急に守るもんが増えちまって、それを守りきれるように頑張って、今の力を手に入れた。

飛鳥さんだってそうだ。

隼人がいなくなったぶん、まわりの奴らを気遣ってばかりで……。

結局、俺はなにもしちゃいなかった。

何も、…………できちゃいなかった。

 

 

「……リック、遊騎に繋いでくれ」

 

「どうしたん、急にしょげて」

 

「ちぃとばかし……課題が増えたぜ、俺ら」

 

「せやな。きばっていこう」

 

 

EC因子(エクリプス)に対抗する手段は3つ。

1つ。魔法を一切使わず、肉体のみで戦う。

2つ。特殊な方法、および武器で生成される限定戦闘を行う。

3つ。OHNで生産されている特殊魔力弾HMBを使用する。

 

現在、これ以外に方法は無い。

……いや、あと1つだけ……ある。

同じくEC因子(エクリプス)の患者となることだ。

まさこれはリスクが高すぎて誰もやらないし、やれないんだがな。

 

 

「さあ俺たちは作戦会議だ! 遊騎がきたら巻き込んでやるぞちくしょう!」

 

 

 

 

 

対EC因子(エクリプス)戦闘メンバー

 

・空牙遊騎

・有栖飛鳥

 

 上記2名

 

 

 

 

 

†★†★†★†★†★†★†★†★†★†★

 

 

EC因子(エクリプス)襲撃事件。

その通報は私のところに来ていた。それもわざわざ緊急で、だ。

最近多発しているEC因子(エクリプス)事件を緊急で送るとは何事かと思って見てみれば、それは和輝からの報告だった。

私と共に戦い続け、銃騎士である彼に仕えていた戦友―――大和和輝からの……。

和輝からの連絡は信用できる。いつだって完璧な仔細を教えてくれていたし、この報告書だってそうだ。

でも、問題は……。

 

 

「この写真……どう見てもあの子よねぇ……」

 

 

長い銀髪、高い身長。この2つの文章と、戦闘中に撮ったであろう本人の写真。

私はこの子をよく知っているし、和輝もこの子を知っているはず。そういう存在だ。

 

 

「飛鳥さん、ちょおいいです?」

 

「……あら、はやてちゃん。いいわよ」

 

「おおきに。単刀直入に訊きますが、あの人(・・・)がこの世界にいる……ゆうん確率は?」

 

「無に等しい天文学的数字ね。自分で言っていたけれど、一度消滅しているのだし……」

 

「…………死んだ人間は蘇らない。16年前の事件で、それは立証された……」

 

「それにあの子がこの世界に返ってくる……返ってこようとする確率も低いわ。元々人に対して執着心の薄い子だったし、自分から満足して消えたんだもの」

 

 

私は、あの子が消えた瞬間にいなかった。

でもフェイトちゃんたちによれば、自分の境遇に納得し、受け入れ、そして消えたといっていた。

一度世界に『消滅』を認定された人は蘇ることもできなければ、ほかの世界から『混入』することもできない。それが長年管理局が研究を続けてきた成果だ。

もしもこの写真があの子なら、その現実すらも覆す大事件になりかねないわね……。

 

 

「まあ、この件については私が調べておくわ。はやてちゃんには上と掛け合ってもらってもいいかしら?」

 

「中間管理職は慣れてます。どうぞ」

 

「ありがとね。それじゃ私は勝手にやらせてもらうわ。……できれば、戦力はそろえておいてね」

 

「ええ、わかってます。私たちもこのままじゃ……戦えませんし」

 

 

そう言ってはやてちゃんは立ち去り、長い廊下に私一人が残された。

冷酷な女、そういう風に言われることは多々あるが、私とて大切に思っていた家族がこうして現れかねないことを危惧していないわけではない。

あの子とは一緒に遊びもした、暮らしもした。だからわかる。

 

 

「…………この写真は……あの子に間違いない……!!」

 

 

膝まである長い銀髪。何者の干渉も許しえない気高き狼。

銀狼―――いえ、隼人。

貴方はまた、私の前に敵として阻むの……? 貴方はまた、彼女たちと戦おうとしているの……!?

貴方が愛し、守ろうとした彼女たちを……また……!

 

 

「そんなのって…………あんまりよ……!」

 

 

愛する人と戦わなくてはならない苦痛を、私は知っている。

愛する人を傷つけなければならない痛みを、私は知っている。

それは、何事にも例えがたい雲雀で、胸をえぐってくる。

とてつもない……痛みなのよ。

 

 

 

 

 

†★†★†★†★†★†★†★†★†★†★

 

 

今日未明、一通の報告書が私の下に届いた。

差出人は飛鳥さんだ。

内容はとても衝撃的で、つい確認の無線を出してしまったほど。

 

 

「OHN総帥が、この次元に……!」

 

 

全次元最大の民間軍事会社『OHN』

管理局から質量兵器の所持・使用を許可され、尚且つ管理局ですらその手を借りている超大型組織。

もし管理局とOHNが総力戦を行えば、それは10日で終わってしまうほど。無論、管理局の敗北は決まっている。

けれど、本当に恐ろしいのはOHNの兵士ではない。その総帥だ。

もしもOHNの全兵士と総帥が戦えば、1ヶ月で決着がつく。勝利するのは総帥……私の兄だ。

実質的戦力は測ることができない。そういわれ続け、どのような組織にも屈しない最強の軍隊。

それが、OHN。

 

 

「どうして……どうしてこの世界に来たの……? 6年も待って、やっとあきらめられたのに……! お兄ちゃん……!!」

 

 

私の兄は6年前に消失した。

いや、消滅したといってもいい。

これまでずっと心残りだったというのに、やって諦めがつきそうだったのに……。

もう、この気持ちを前にじっとはしていられない。

 

 

「なのはにも伝えないと。もし本当なら、終わらない戦争になりかねないっ」

 

 

報告が本当ならば、お兄ちゃんは管理局に喧嘩を売ったことになる。

私も、戦わざるをえないから。

 

 

 

 

 

対EC因子(エクリプス)戦闘メンバー

 

・空牙遊騎

・有栖飛鳥

・フェイト・T・ハラオウン

 

上記3名

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