魔法戦記リリカルなのはForce~世戦の軌跡~   作:岸辺 翔

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影・第1章 死神と云われし影

「人の悪意と敵意の入り乱れた世界……嫌な場所だ。こんなにも混沌としているとはね……」

 

 

僕はさっき、この世界の住人であろう人に出会った。

確かに登場のしかたは怪しかったかもしれないが、まさか殺気を向けられるとは思わなんだ。

この世界の人は少し野蛮なのかな……?

 

 

「まあ……僕を知っている人はいなさそうだし、多少本気になっても問題ないかな。ここには彼もいることだし」

 

 

僕がこの世界に来た理由は一つ。彼を助けるためだ。

EC因子(エクリプス)に魅入られてしまった彼を……。

それにはこの世界の情報が欲しかったんだけど、もうそこらじゅうで報道されてるね。EC因子(エクリプス)発症者を発見―――って。

あれは厄介なウイルスだ。僕でさえ完全抹消が出来ない。まあ作ったのは僕の友人なんだけどさ。

 

 

「さあ、行こうか。早く彼と―――この世界を安定させなきゃ」

 

 

黒い一対の翼を出し、僕は森林から飛び出た。

僕は死神。それは比喩表現ではなく、実際にそうだ。

死を届けるからではない。僕は死後の世界―――いわゆる『あの世』で生まれて名を馳せてはいたけれど……まあ色々あってね。今のところ、僕はただの敵になるのかな?誰を基準かは知らないけれど。

もう一度翼を羽ばたかせ、魔法を組み合わせて瞬時に別世界へ移動する。あの気配は探しやすい。死にたての死体みたいな、全く意欲が無くて生気が微かに感じられるあの気配。

言い換えれば、僕が殺した人たちの気配と同じ感覚だ……。

 

 

「やあ、久しぶりだね。君と会うのは26年ぶりかな?」

 

「…………貴様は……」

 

「覚えてるかな? ……いや、覚えていないだろうね。君と会ったのはほんの数秒だ」

 

「……失せろ。今は誰とも……会いたくない」

 

「そうもいかない。僕は君を止めなくちゃ」

 

「………………そう……か」

 

【敵性生命体確認。排除行動を実行】

 

「なっ―――ッ!? ……これはこれは……不思議なものだね……!」

 

 

突如現れた魔導書。

それが鼓動をなしたかと思うと、僕の内臓がことごとく荒らされていた。

相手の体内を操作する魔法……? そんなもの聞いたことが無い。……っていうか、僕じゃなかったら死にかねないよ……。

 

 

「……無傷、か」

 

「お生憎様。こっちは頑丈なものでね」

 

「こいつの排除行動を凌ぐとは……貴様、人間か?」

 

「いーや残念、死神だ」

 

「……神、自らを神と云うか。言い得て妙だな」

 

 

細くて真っ黒いバイザーと、それにつながった顎まである仮面(のつもりか?)を付けた男。この人こそ、僕が探していた人なんだけど……。

なんだか、嫌な感じだ。

僕を見ているのに見ていないような、見ようとしていないような……。

 

 

【甲の抹殺を提案】

 

「提案を考慮。……全力での戦いを所望しよう」

 

「……いいよ。やってあげる。君が死んでも責任は取れないけどね」

 

 

男は魔導書を投げ捨てると、男は空に舞い上がった。

ロングコートの右袖がそのせいで揺れていたけど……今の揺れ方、なにかおかしい。まるで関節の無いまっすぐなものが入っているような、不自然な袖の揺れ方だった。

いつまでも下から眺めているわけにはいかないので、翼を羽ばたかせて空へ追いかける。

 

 

「……行くぞ」

 

「ああ。第1門、完全開放」

 

 

刹那。

1秒よりも短い時間で、僕を黒いマントが包み込んだ。

武器は人斬り鎌(デスサイズ)。武具は髑髏の仮面。故に死神。

……というより、これそのものが僕の姿なんだけど。

 

 

「奇怪な姿だな」

 

「まア……ネ。だからッて手加減ハしないヨ」

 

「そうしろ」

 

 

男が左手で空を切ると、鋭い風斬り音と共にマントの端が切れていた。

見えない剣(ツルギ)……? 嫌だね。幻想の宝剣(イマジンブレード)を見るのはこれで2度目だ。

 

 

「アあ、良い剣ダね」

 

「……そう思うか……?」

 

「少なクとも、僕の死人の怨念(デスサイズ)と斬りアえるんじゃなイ?」

 

「……そう、だな。その切れ味、触れることなく感じるさ」

 

「なラ始めよウじゃないか」

 

 

ガァンッ!

低く轟く金属音。決して激しくぶつかり合ったわけじゃない。ただお互いの斬激がぶつかっただけのこと。

ほんの少し……数センチ刃先を動かして生まれた斬激同士が、ね。

 

 

「防いだか」

 

「遊ビかイ?」

 

「……いや、小手調べのつもりだったが……よもや遊戯と間違えられるとはな」

 

「ハハッ。君らしいネ。でも手加減はデキナイ!!」

 

 

長い柄を利用して鎌を高速回転させ、刃先の速度を音速から光速へ向かわせる。

どれほど早い物質も、どれほど硬い硬質も、この鎌の前では無意味。全てを切り離すこの鎌ならば、見えぬものでも存在せぬものでも、全てを刈り取ることができる。

けれど、やはりそう簡単に隙は見せてくれないね……。

 

 

「EC因子(エクリプス)ノ方は抑えられテいるのカな?」

 

「そこそこだ。奴の意識が6割程度……自我が負けている」

 

「凄いネ。常人なら死ンでいるのに」

 

「俺は人ならざるものだからな。この程度はどうということないが……」

 

「謙遜しなくてイい。実際に凄いんだかラ」

 

「……そうか。なら、この攻撃は予測できるか?」

 

 

彼が左腕を振った瞬間、斬撃ではなく銃弾が僕の体を貫いた。

おや……? おやおや? なんでかな? しかも後ろから……。

 

 

「こレも君の攻撃カい……?」

 

「……知らん。俺はまだなにも……」

 

「………………邪魔が入りソうだ。これデ失礼するよ」

 

「またの機会に戦おう」

 

「あア」

 

 

一瞬でその場を離れ、先ほど銃弾が飛んできた位置を地面から計算する。

角度的にはこの先だけど、はたして犯人はいるのやら……?

 

 

「いてクれると、説教ノ1つでもでキるんだケど……」

 

 

別段、僕は怒っちゃいない。でも戦ってる最中に横入りされるのはたまらなく嫌いだ。

それだけわかってほしい。

 

 

『命中は確認……その後の追跡は不可能』

 

『だな。次の現れる可能性も高いし……閣下を観察(スネーク)するぞ』

 

『同意(ジャッジ)。任務続行……』

 

 

…………たまらなく怪しい人たちがいた。

10メートルほど先に、若そうな男女2人組み。歳は17……くらいかな?

それにしても物騒だなぁ。1人はアサルトライフルを改造した狙撃銃まで持ってるし、もう一人は多機能型の双眼鏡とサブウェポン多数……。

怖いねぇ、全く。

しかもギリースーツ半脱ぎと見慣れない軍服かぁ。

 

 

『対象(ターゲット)に動き無し……』

 

『全周囲警戒に移る』

 

『了解』

 

「ぉわっト……」

 

 

ライフルを構えた男がこちらを向いたので急いで木に隠れ、デスサイズを消して様子を伺う。

ただでさえデスサイズはでかいし、今は骸骨がマントを被ってるような格好だ。怪しさ200%超えだろう。

見つかったら射殺されかねないよこれ……!

 

 

『? ……今、声がしなかったか?』

 

『した。5時の方向……1人』

 

『見てくる』

 

「……終わっタね、こりゃ」

 

『まただ。いるんだろ、出て来い』

 

 

ありゃ、完全に見つかってるね。

諦めて木陰から出て、両腕を上げて敵意が無いことをアピールする。

 

 

「……………………やぁヤあ、こんニちは。決して不審者じゃナいよ? 本当だヨ?」

 

『いや、不審者感丸出しなんだが……』

 

「……本当……だヨ?」

 

『…………』

 

「…………」

 

『…………』

 

『…………拘束』

 

「ヒぃっ!?」

 

 

女の子が小さく呟くと同時に男は銃を投げ捨て、ナイフ片手に走ってきた。

怖いって畜生! なんで僕の言葉を信じてくれないのかなぁ!?

 

 

「ちょっ、やめロって!」

 

「んなッ!?」

 

 

ナイフを避けて腕を掴み、体ごと地面に叩きつける。

おー怖い怖い。刺さったら痛いよあれ。

いやまあ、すぐ治るけど。

 

 

「は、速ぇ」

 

「いや、遅いでシょ……。時速20キロ無かったヨ?」

 

「流石閣下とやり合うだけのことは……」

 

「…………嗚呼、やっぱリ見てたンだ。さっき撃たれたしねぇ」

 

 

マントの下から背中に手を回し、防具用の外骨格で止まっていた弾を投げ渡す。

この装備は人の骨格標本みたいなもので、まあ見た目は骸骨だ。一応僕が入ってるわけだけど、特殊な偏光で見えなくなってる。

骸骨人形の完成さっ!(orz)

 

 

「これ、返すよ。僕はいらないし、必要も無いから」

 

「……弾ぁ食らって平然と返した奴、お前が初めてなんだが……」

 

「HAHAHA。人生色々あルさ。……さて、とりあエず僕はね? これヲ撃った君たちをちょろーっト説教したイんだ。結構痛かっタんだよ?」

 

 

なんかこう……トスッ! と来る感じでさ。

 

 

「ト、いうワケで……Are you Redy?」

 

「え……ちょ、まっ―――」

 

「なんで私まで―――」

 

「レッツ、説教タァイム!」

 

 

…………。

その後、説教は4時間続いた。

 

 

 

 

 

†★†★†★†★†★†★†★†★†★†★

 

 

「…………さて、これで僕の痛みヲ理解してくレたかな?」

 

「はい……すいませんでした」

 

「……誤る」

 

「うん、素直なのハ良い事だヨ。でもどうして……増援がいるのカな?」

 

 

説教も終わり、ひと段落着いたところで僕の右肩のあたりで何かが爆ぜた。

反応炸裂弾かな? まあ、死神姿の僕に何をしようが、普通の攻撃は何一つ効かないけどね。

 

 

「無駄ダよ。僕に銃ハ効かない。君たちならそレ以外の方法もアるんじゃなイかな?」

 

『……………………先刻、閣下と戦闘を繰り広げていたようにお見受けするが』

 

「アあ、そうダね。今ジゃ彼は閣下だ。そして審判者であり……僕は死神だ」

 

『…………下がれ、チーム・ホース』

 

「「……了解」」

 

 

僕を撃った2人が1歩さがり、武器をしまった。

おいおい……完全に警戒解いちゃってるよ……。いいのか? 僕がいるのに。

 

 

「私の部下がとんだ失礼をした。侘びをしたい」

 

「……おや、随分と……芸達者な隊長さんだ」

 

 

全身に包帯を巻きつけ、その上から迷彩服を来た面白い人。

右目しか出ていないのも面白いけれど、何より拳銃ばかり何丁も持っているのが面白い……。

 

 

「私の名は村雨。見ての通り手負いだが、こいつらよりは有能だと思ってほしい」

 

「みたイだね。警戒ノ仕方がまルで違う」

 

「……気配探知、かね?」

 

「少し違ウかな。僕からシてみれば、君たちの『気』自体ガ可視性なンだ」

 

「人の『気』を見る……? 不可思議なものだ」

 

「だネ。人にとってはソうだ。……僕はそロそろ帰りたイんだけど、イいかな?」

 

「…………すまないが、そうもいかないな」

 

 

動きこそ無いが、その気配は確実に僕を射抜いていた。

おお怖い怖い。殺気が凄いね。これじゃ……逃げられそうも無い。

まあ、さっきの彼ほどではないけども。

 

 

「……見逃しテは、くれナい?」

 

「…………言葉は無用と申し上げよう」

 

「……そウ。少シ、悲しイよ」

 

 

こうして敵意を向けられ、戦いが避けられない以上……やるしかない。

僕は元々、あまり戦いが好きじゃない。できれば誰も傷つけず、平和的に解決したいと思ってる。

それが故に手にした力だ。…………というより、それが故に与えられた生、かな。

 

 

「君ノ、名ハ?」

 

「村雨(ムラサメ)・O(オー)・閃雷(センライ)。OHN総帥より頂しこの名に懸けて、誇り在る戦いを所望する」

 

「……僕ハ、死神。死を恐れル人に絶望を、死を崇メる者に断絶を、光亡キ人に闇を送ル……先導者ダ」

 

「先導者、か。良き響きだが……邪悪な念を感じる」

 

「そうダね。僕ハ悪だ。デも……闇ノ中にも光があルことを教えてあげよう」

 

 

僕はデスサイズを構え、閃雷は腰を落として両腕を構えた。

なんだ……? 徒手格闘でデスサイズを防げると思っているのか……? 無駄だ、デスサイズは素手で防げるほど鈍らじゃない。

 

 

「……本気かイ?」

 

「ああ」

 

「……そウ。ナら、手抜きはシないよッ」

 

 

デスサイズの柄を持ち変え、ゆっくりと……徐々にスピードを上げて回転させていく。

刃先は徐々に速度を上げ、終には―――音速をも超える。

断続的に発せられるソニックブームとヴェイパーコーンを弾けさせ、僕は右手だけでデスサイズを回転させ続けた。

 

 

「……寄らば斬る、ということか」

 

「違ウよ。寄らズとも斬る!」

 

 

―――ジュァッ!

鈍い、金属同士が響く轟音。それと共に高速回転していた刃は唸りをやめ、閃雷に向かって一直線に飛翔した。簡単な話、柄が細かく分裂し内蔵されたワイヤーで長さを調節できるようになっている。

ちなみにデスサイズは鎌ではない。多形態型融合武器という新カテゴリー。剣・鞭・槍・鎌・斧の5つに変化する、万事に対応すべく僕が開発した宝具だ。

効果としてはまだ明かせないが、死神らしいということだけは言っておくよ。

 

 

「無駄だ」

 

「ナッ!?」

 

 

眼前まで迫っていたはずの刀身は急に角度を変え、閃雷の横を素通りしてしまった。

……ありえない動きだ。まるで光の角度が変わるみたいに……。

 

 

「………………そウか。君、光の屈折を操っテいるね?」

 

「今の一撃で見破ったか。流石は閣下とやりあうだけの腕は在る」

 

「わカりやスいんだよ。弾かれたのなら柄(ロッド)も曲がるはずなのに、君の近クに行った瞬間そコだけが曲がっていた。これは光の屈折と考えルのが妥当じゃナいかな?」

 

「……流石だ。もう子供だましは通じないな。正々堂々、正面からお相手しよう」

 

 

閃雷がファイティングポーズをとると、腕の周りに風の流れができていた。

なんらかの魔法か……それとも、特殊な波動か。なんにせよ警戒すべきであることに変わりは無いんだよなぁ。

嫌だね。こんな自然の法則を無視されたものを見せられたら……殺さなくちゃいけないじゃないか。

 

 

「…………ごめンよ。でも、さようならだ」

 

「参る!」

 

「―――死を運ぶ闇(デスサイズ)・根源の刹那(ヘルダイバー)……」

 

 

小さく、僕だけにしか聞こえないように呟く。

同時にデスサイズは姿を消し、螺旋状の衝撃波だけが閃雷に向かって駆け出した。音速を超え、人の反応を許さぬ速度へと。

だから……これで、終わ―――

パァンッ!

……り、だ?

 

 

「……………………すまんな。こいつらを殺させるわけにはいかない」

 

 

見えない剣。

さっきまで戦っていた彼が、そこにいた。

 

 

「…………ソう。今のアれを、防いだンだ……?」

 

「……ああ」

 

「凄イね。ウん、凄いヨ。ナら、こレで消えてくれルかな」

 

 

デスサイズなき右手を空に掲げ、再び小さく呟く。

全てが無に帰る刻《クラウディオ・クラウディア》――――――

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