魔法戦記リリカルなのはForce~世戦の軌跡~   作:岸辺 翔

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狼・第2章 チルドレン

【汝、なにを望むや?】

 

「……………………」

 

【汝、なにを求める?】

 

「……………………」

 

【汝、世界の意思は?】

 

「……………………」

 

【……汝、その意味とは?】

 

「………………………………俺は…………」

 

【汝、その存在は?】

 

「―――…………俺は、未来へ走る人類の足元を照らす……篝火(かがりび)だ」

 

【それは、こんな?】

 

 

真っ暗闇の世界から、一瞬にして1本の道が現れた。

どこまでも直線を描く、人が2人通れるかどうかギリギリの道だ。

 

 

【……汝、その道を示せよ】

 

「…………なに……? 意味が―――ッ……!」

 

 

道の先に現れた、アサルトライフルを構えた男。俺は瞬時に左太股に付けられたレッグホルスターから単発式スナイプハンドガン―――タンフォリオ ラプターを抜き、男の顔を撃ち射抜いた。

なんだ……唐突な殺気で殺してしまったが……。

 

 

【汝、示せよ】

 

「なッ……意図は知らんが、悪趣味だな……!」

 

 

突然崩落し始めた1本道。俺の後ろから徐々に崩壊を始めていた。

仕方なしに俺はラプターをホルスターに戻し、順々に早くなる崩落に合わせて走り始めた。

 

 

【汝、害成す者をどうす?】

 

「消し去るのみだ」

 

 

次々と暗闇から銃器を持った男たちが現れ、俺に向かって発砲してきた。

俺も即座に応戦し、DESERT EAGLE 14inchによる50AE弾を放つ。3人、4人、7人……!

リロードをしているような暇は無いのでDESERT EAGLE 14inchを投げ捨て、後ろ腰のヒップホルスターからマテバ (Model)6(Sei) ウニカ(Unica) グリフォンを抜いて撃ち続ける。

殺しても、殺しても、殺しても……! 延々と出てくる男たちの頭を撃ち続け、5発全てを撃つと同時にグリフォンすらも投げ捨てる。

右袖からベネリ M3 スーパー90を抜き、12ゲージのスラッグ弾で頭を撃ち抜く。

 

 

【汝、メビウスに嵌(はま)りても?】

 

「終わり無きメビウスの輪……。それもいい、それが世界の意思ならばッ」

 

 

M3すらも弾がつき、残った武装はワイヤーアンカーとナイフのみ。

ワイヤーアンカーは左手首に装着しているのでいいとして……仕方あるまい。瞬時にサバイバルナイフ―――俺がかつてレジスタンス時代から使っていた特殊ナイフ―――を抜き、手首から射出したワイヤーを男たちに引っ掛け、リールが巻き取る力で移動しながら首を切り落とす。

ワイヤーで高速移動しながらの斬激は少々難易度が高いが、俺にとってそれほど難しいことではない。俺の尊敬する武人はワイヤーアンカーを使って無限の機動をし、無限の戦法を編み出していた。

 

 

【汝、なにを望むや?】

 

「人類の正しき繁栄だ」

 

【汝、なにを求める?】

 

「表裏のある平和だ」

 

【汝、世界の意思は?】

 

「意思など知るものか。俺は因果の波動に合わせる」

 

【汝、その意味とは?】

 

「真理因果の保持者(エフェクター)。此方(こなた)と彼方(かなた)を交える唯一の道だッ」

 

 

男の首を斬り飛ばし、再び走る。

ナイフを腕の様に使い、ワイヤーを鞭刃(ウィップ)のように使う。

細く、研ぎ澄まされた瞬速の鉄線(ワイヤー)は一迅の刃となり、かの者たちの血肉を貪り食う。

閃光の刃は瞬きの上をゆき、光速―――その更なる高みへと。

 

 

「故に問う。自(うぬ)は何故問う?」

 

【審判者故に、真判をせねばならない】

 

「真判とはいかに?」

 

【真実の判決。故に真判】

 

「何を判決する?」

 

【世界のあり方を】

 

「それは因果か?」

 

【因果故に無きもの】

 

 

因果律があるからこそ真判があり、真判があるからこそ因果律がある。

こいつはそう言っていた。

それは世界のありかたさえも決めてしまい、この世の全てを覆しかねない判決。

こいつは、それすらも握っているというのか?

 

 

【問う。我が名を叫べ】

 

「汝の名は」

 

【我が名は闇、そして光。そして世界を殺す猛毒】

 

「……EC因子(エクリプス)、か?」

 

【叫べ】

 

「何故」

 

【我が名は真判の名】

 

「故に何故」

 

【因果律の同調を図らば我が名を避けることはやすし】

 

「…………」

 

 

いつのまにか道は消え、足元にのみ残っていた。俺に敵意を向けている輩もいない。

俺は自然と立ち止まり、ナイフをしまっていた。

 

 

「因果の猛毒よ、俺は問う。汝在るが故に世界は歪むのか」

 

 

足元の道すらも消え、全面のフラッシュアウトと同時に景色は一変した。

鉄筋コンクリートの一戸建て。どこにでもある、普通の住宅地のようにも見える……。

 

 

「………………ここは……」

 

【少年が戦いを初めし場所】

 

「……戦い?」

 

【死戦】

 

「…………禍々しい、ものだ」

 

【可(ヤー)。歴史に名を刻みし戦い】

 

「…………なに……?」

 

 

―――もしや……。

ふと気がついて辺りを見回すと、そこには見慣れた家があった。

なんの変哲も無い家。しかし、庭へ続くカーテンは閉じられ、明かりすらついていない。……だが、人の気を感じる。

 

 

「まさか…………そのまさかだというのかッ!!」

 

 

最悪の過去を思い出してみれば、唐突に聞き慣れた音が響いた。

―――ガゥンッ……!

 

 

「クソがァッ!」

 

 

急いで走り出し、ベランダのガラスを蹴破って中に押し入る。

そこにいるのは返り血まみれになった少年と―――……永遠の眠りについた、1組の親子。

両親に抱かれて眼を瞑るその姿は、安らかそうでもあり……なによりも悲しそうだった。

俺は少年の下に駆け寄り、その手に持っていた巨大拳銃(ハンドキャノン)を奪い取った。

 

 

「貴様……やはりか」

 

「誰だ、あんた」

 

「俺は「あんたもこいつの仲間か」それは違う。だが、お前の味方でもない」

 

「ならなんでここに……!」

 

「理屈などどうでもいい」

 

「あんたはレジスタンスの仲間か!? それとも国軍の奴なのか!」

 

 

一瞬のうちにM92F(サブアーム)に持ち替え、俺に銃口を向けてきたガキ。

ああ、こいつはやはり……俺か。過去の俺だ、こいつは。

 

 

「落ち着け。俺は国軍でも反乱軍でもない」

 

「嘘だッ! いつだって国軍のスパイはそう言いながら近づいてきた。お前も同じ腐った人間に決まってる!」

 

「……ッ……。ああそうだ、俺は腐ったクソ野郎さ。いつだって戦いに身を投じているな。だからこそ戦いの愚かさをわかっているつもりだ」

 

 

ガキの銃を払い除け、俺は……静かに家を出てハンドキャノンを捨てた。

すでにそこに住宅街は無く、爆撃でもされたかのように荒れ果てた荒野が広がっていた。

……ああ、そうだな。ここはもう、存在しない町だ。復興すらされないほどに、破壊されてしまった……。

 

 

「…………酷いものだな。俺が死んだあと、こうも汚れていようとは……」

 

 

泥と瓦礫、死体と鮮血。

どうにもならない事実だけが、重く圧し掛かれた。

これが……現実なのか。

こんなものが、現実なのか。

醜いものだ。

酷いものだ。

こんな世界……存在価値を見出せるものか……!

どうしてこうも、人間は争いたがるのだ……!?

 

 

「争いから生まれるものは少ない。少ないが人の力となる。だが……代償はあまりにも大きいぞ……」

 

 

人は戦争によって文明を進化させてきた。

電子レンジは無線の電波を応用し、インターネットは戦争時の情報伝達用に、薬学は化学兵器で……。

その裏で死んでいった者たちは、はたして報われるのだろうか? 表で活躍した軍化学者は功労者と呼ばれ、やがて殺戮者と罵られる。

…………そうだ。俺も、その1人だ。

救世主として語り継がれ、破壊者として呼び捨てられ、1人の傭兵として残り続け、残影として消え逝く者。

俺は、今まで敵を征圧することが正義だと信じていた。だが、相手からしてみれば、俺の行為は全て悪だ。

この世に本当の正義など無いし、真なる悪も無ければ、公平などという現実も無い。1方からすればそれは悪で、もう1方からすればそれは正義で、まら違う方から見ればそれはどちらも悪で、正義になる。この世は不確定で留まり無く、それでいて確定した事実がある。

嗚呼、この世界は不思議だ。因果とは不定着だ。確率は予測不能だ。

一体……なんなのだろう。

 

 

【世界の声】

 

 

再び聞こえた声。

無機質で、無感情で、抑揚の無い声。

 

 

「……世界、の?」

 

【人の意思】

 

「……人の」

 

【因果の揺れ】

 

「因果だと?」

 

【世とは人と、世界と、因果で成り立っている。だが汝はなにで成り立っている?】

 

「…………俺は、俺の意思と、因果と、世界だ」

 

【そうだ(ヤー)。だが今の汝には世と因果が無い。ただの力を振るう者だ】

 

「……そうか」

 

【それでなお、汝は何を望む?】

 

 

……。

俺が、望むものか。

無論、それは平和だ。争いの無い、血の流れぬ慈しみの平和。

心と意思のみが入り乱れ、力の暴力の無い世界。

……………………しかし、そこに個々の意思はあるのか……?

統率された世界、そう言ってしまえば簡単だ。だがそれは個人の自由は無く、完全に管理された機械だ。人間とは―――世にはばかる生命とは、個々の意思と自由を持ち、その心によって動くことができねば……!

 

 

「平和……いや、和平……? …………俺が望むのは、平和では無いのかもしれないな。何か他の……」

 

【悩め、真判者よ。その先に汝の答えを示しとき、必ずや因果は声を返す。汝が道を違えしとき、因果が真を返しとき、我は再び汝の前に現れよう】

 

「……待て。俺はお前に訊きたいことがある。何故お前は俺を導かんとする」

 

【因果の意思。我は、人であり人ではなく、世でもなく因果でもない。我は―――我だ】

 

 

そう言い残した声は消え、気配は消失した。

何も感じることができず、ただただ虚無だけが立ち込めていた。いつしかそれは恐怖すらも感じられる虚空となり……自然と警戒を始めていた。

意識を張り巡らせ、針のように鋭くするにつれ―――景色は急激に変わった。

荒れ果てた町から緑溢れる森の中へ……。俺は森の上空に飛んでいて、ふもとでは見覚えのある男女と骸骨野郎が対峙している。おいおい、あれは俺の……。

なにやら不穏な空気と殺気を感じたので瞬時に空を蹴り、包帯を顔に巻いた男の前に立ち虚無の刀(イマジンブレード)を構えた。―――パァンッ!

空気の裂ける音と圧縮された物質が弾ける音。音の正体はいまいちわからんが……俺の刀と野郎の飛ばした『何か』が相殺したときの音か。

 

 

「……………………すまんな。こいつらを殺させるわけにはいかない」

 

「…………ソう。今のアれを、防いだンだ……?」

 

「……ああ」

 

「凄イね。ウん、凄いヨ。ナら、こレで消えてくれルかな」

 

 

そう言って野郎は右手を天に掲げ、何かを呟いたようにも見えた。

瞬時に膨大な魔力と気力が渦をあげ、超高圧縮され刹那の内に発射された。標的は俺。狙いは脳天ド真ん中。

速度はおおよそ亜光速か光速程度。非常に鋭く言い攻撃だ。だが―――

 

 

「虚空の叫び(エウロ・イェ)」

 

 

柄だけの刀で見えない『何か』を防ぎながら呟き、俺はその『何か』を消滅させた。

特になにをしたということではない。ただ単純にその空間そのものを切り取って消しただけだ。

そう、ただそれだけ(・・・・・・)。

 

 

「……考エたくもなイよ。僕が今使える術ノ中で最高レベルの技なノに、難なく対処しちゃウなんてネ」

 

「難なく、と言われると語弊がある。これはかなりの難度で、それなりに精神力も使うのでな」

 

「それデも恐ろしいのサ。僕は紛いなリにも神で、それなりに神力も注いだンだ。それを精神力ごときデ消されちゃうとなルと……。正直、恐怖ト好奇心が沸いてきた」

 

「ならば、その力を己の身で確かめると良い。―――天空の叫び(アウロ・イェ)」

 

 

ドッ―――!

見えない『何か』が柄から飛び出て野郎に突き刺さり、再び消滅した。

どうやら、お互いにこの攻撃は利かないらしいな。

俺も魔力を付与したというのに。

 

 

「マさか……君も全てが無に帰る刻《クラウディオ・クラウディア》が使えるとはねェ……」

 

「再び語弊だ。俺はこれを解放したのみで、発動はしていない」

 

「そウ。でも怖いモのは怖いンだ。君と違っテね」

 

「……俺は俺だ。俺は因果によって動き、己が心で考える。そしてお前はこいつらを傷つけ、俺に牙をむいた。それすなわち―――万死に値するッ」

 

 

無き刀身を野郎に向け、小さく……囲むように切っ先で円を描く。虚無へと屠(ほふ)る範囲を指定し、その空間を―――切り取る。

ただそれだけで……野郎は消え、沈黙が続いた。

 

 

「…………すまない。このような終焉を望みはしないが、いたしかたなかった。―――閃雷(センライ)! 早急に武装解除と部隊員を招集しろ!」

 

「は……はいッ! 了解!」

 

 

後ろにいた男に指示を飛ばし、ゆっくりと柄を袖の中に収めた。

先刻使用した『叫びの理(イェ・メアス)』は空間そのものを捻じ曲げてしまう術ではあるが……まあそれなりに負担も大きい。

詳しくはどうでもいいが、それよりも…………なぜ、こいつらがいるのだろうか。

魔法が使えるのはいい。どの世界でも使えた。しかし、こいつらがいる世界線は1つだけだ。俺がかつて妹と仲間たちを守るためだけに戦い、そして消滅した……あの世界だけ。

できうる限り早急に答えを見つけねばな。

 

 

「閃雷、現状の報告と現在地の情報を」

 

「ハッ。我々は閣下が現界してから現在まで監視を続け、先ほど戦闘となった謎の人物と遭遇。時刻は14時38分。次元軸はY10859-NNSOW-K38NTです」

 

「……やはり、か。子供たち(チルドレン)はそろったか」

 

「はい。3小隊全てそろいました。部隊長村雨・O・閃雷、閣下の下に召集完了しました」

 

「現時刻を持って緊急会議を行う。各小隊長を前に」

 

「「ハッ。ここに」」

 

 

森の中に閃雷を含めた9人の軍服を着た男女が集まり、その中から2人が閃雷と並んだ。

2人とも成人とは呼べない歳だが……わけあって戦闘に参加させている。本来俺は未成年を戦いに巻き込まない主義なのだが、そうも言っていられないことがあったとだけ言っておこう。

 

 

「各個、報告はあるか」

 

「いえ、H分隊はありません」

 

「右に同じく」

 

「N分隊より1つ。先ほど入手した極秘電文によると、時空管理局は我々OHNに宣戦布告を行う予兆があると」

 

「……本部の諜報課に任せておけ。現在から子供たち(チルドレン)は3小隊全てをある任務に就ける。O分隊は時空管理局にいる『高町なのは』・『空牙遊騎』・『八神はやて』・『大和和輝』・『有栖飛鳥』の5名の味方となりOHNからの特派員として指令下につけ」

 

「なにゆえ、敵対する可能性の陣営へ?」

 

「保険だ。我々OHNは敵対する気が無い、というフェイクでな」

 

「……了解しました」

 

「H分隊は『フェイト・T・ハラオウン』・『リィンフォース』・『高町ヴィヴィオ』の3名を遠隔警護。決して姿を晒すな」

 

「ハッ。排除対象はいかように」

 

「危害をなすものだ。例えOHNの仲間であろうが、俺であろうが関係なく」

 

「そのように」

 

「最後にN分隊だが、しばらくは管理局に潜入してもらう。潜入先は八神はやてと対象とし、奴が作るであろう部隊・組織・グループの全てに潜入しろ」

 

「了解です。緊急時の脱出はどうすれば」

 

「駆逐しろ―――とは言わないが、できうる限りの機動力を削いで離脱しろ。致命傷を与える必要は無い」

 

「では増援などは望めますでしょうか」

 

「無理だ。これは俺たちとお前ら10人による少数精鋭での特務であり、相当閣下直轄部隊(レジスタンス)の関与も認められない。決戦でもない限り不可能だろう」

 

 

10人―――たったの、10人。

俺が今思案している作戦は、非情で卑劣なものだろう。

先ほどから……この世界に来たときから頭の中に流れ込んでくる情報が本当だとすれば、こうしなくてはなからなかった。

世界は俺を殺そうとし、守り手はいない……。

孤独な戦いになりそうだな、これは。

 

 

「我々は世界を敵に回す。管理局も、OHNも、あらゆる企業も、善悪問わずにだ。それを覚悟してくれ」

 

「覚悟の上で、今ここにいます、お父上」

 

「御身の下に、この命はあるのです」

 

「再びの忠誠をここに、お父様」

 

 

3人は頭をたれ、命を差し出してきた。

いつだってこうだ。

俺がこいつらを受け入れたときも、戦いを忘れていた最中も、こうして戦争に介入したときも。

こいつらは……俺と共に生きてくれた。生きようとしていてくれている。

 

 

「…………これより極秘任務を開始する。お前たちにとってはこれが最初の特務であり、最後の戦争になるだろう。命を賭け、自由を捨て、己が心情を貫き、世界の糧とらんように生き抜け」

 

 

最初で最期、始まりで終わりとなる戦い。

世界は俺にこう言った。〝狼と屍は手を取り合い、神率いる王たちとの耐えぬ争いは激化の一途を辿り続けん。統べる王、夜の王、空の王は従者を従え、三銃士は王の手足となる。世は毒に食われ、毒は全てを食らう闇夜となるだろう〟 ……これが、俺に伝えられた世界の意思。

因果律の、触れ幅だ。

 

 

「矛盾こそがこの戦いの真価だ。矛盾によって純理を覆すことでこの戦いは終わらせられる。………………やって、くれるか」

 

 

全員に語りかけ、3人の前に左手を差し出した。

俺が「命令だ」と言わぬ限り、こいつらは己の意思で動くことができる。

願いも、特務も、指令も、意志も。俺はこいつらに自由を願い続けた。

……だが、今は違う。

今俺は、こいつらに願いを託した。ただ普通の願い……頼みを。

 

 

「…………閣下―――いえ、お父上、私は賛成です」

 

「僕もやる。父さんのお願いを断るなんて、できやしないしね」

 

「異議なーし。断る理由もないし、パパの考えが間違ってるとも思わないしっ」

 

 

後ろにいた奴らが続々と前に出てくると、次々に俺に手を重ねてきた。

契りの合図だ。手を汚すという言葉があるように、それに同意・または賛同する場合にのみする行動。

最後には全員が集まり、手を重ねていた。

 

 

「この場に反対するものなどおりません、閣下」

 

「なんたって、俺たちの親父だからな」

 

「……愛し、尊敬するですから」

 

「相変わらずだねぇ、兄貴たちも姉さんも」

 

 

長男の閃雷、次男の奇令(キレイ)、長女のエイラ、三男のエヴィ。

子供たち(チルドレン)の中での突出して能力の高い4人。

そして、俺が最も早く保護した4人だ。

 

 

「異存、ない。閣下を信じる」

 

「……ミィナが言うし、俺も信じてます」

 

「断る理由なんてないよん」

 

「僕も力になりたいから、やるよ」

 

「閣下は守ってくれたから……守りたい」

 

「言われなくてもねっ」

 

 

次女のミィナ、四男のアスト、三女のライカ、五男の怖宇摩(フウマ)、六男のリオ、四女の零亜(レア)。

最初の4人を助けた跡に担ぎ込まれた6人は、まだ未熟なところも多いが一般兵のそれよりははるかに強い。

全員、俺が自慢できる子供たちだ。

 

 

「…………すまない。今時をもって特務を決行する! 各人任務へ邁進(まいしん)しろ!」

 

「「「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」」」」

 

 

手を重ねていた子供たち(チルドレン)は一斉に消え失せ、一人残された俺は唐突に虚無感へ襲われた。

俺は今まで、そこそこの人数の子供を育ててきた。いや別に何度も結婚したりとかそういうのではなく、すべて孤児―――つまり、身寄りの無い子供たちなわけだが。

初めて育てた……というより、無理やり引き取ったのは、俺と同じ「戦争目的で生み出された」奴だった。細胞をいじられ、DNAを改竄され、肉体強化を施され、ナノマシンを投入された忌み子。

俺と似通った境遇に当時の俺は何を考えていたのか、俺のような思いはさせまいと必死に育てていた。

 

――――――たった、9ヶ月間だけ。

 

金銭的に辛くなったから別れたわけではない。できることならば別れたくなどなかった。しかしそうせざるをえなかった。

何でもできる超人と思われている俺でも、抗えぬことがあった。

……それは、俺の寿命だ。

元々体のあちこちを改変されているのだ。普通の人間と同じ寿命を持つわけが無い。その身体能力ゆえに体への負担も尋常ではないのだ。甘く見積もっても、体の限界は通常の人間の半分。

良くて、約35年の命だ。

俺は子供(ガキ)の頃から戦争に出ていたせいで、計算よりも早かった。僅か27歳で、俺はこの世界から旅立った。

その後も俺は様々な世界を渡り歩き、様々な人と出会い、心を持つことができた。そうして今……俺はこの世界に戻ってきてしまった。

どれほどまでに焦がれたことか。どれほどまでに望まぬことだったか!

俺はこの世界にいてはならない(・・・・・・・)存在だ(・・・)! 俺が再びこの世界に来たということは、再びこの世界に危機が訪れようとしていることだ!

止め処無く流れる血の惨劇が、またここで……ッ!

 

 

「2万8365名の戦死者を出した悲劇が、繰り返されるというのか……!?」

 

 

俺は死者たちの名をすべて覚えている。

哀れみからではない。俺が救えなかった不満からだ。

俺は……全てを救済し、頂点に君臨すると決めたのだ……!

 

 

「誰か……教えてくれ。この世の全てを救うには、どうすればいい……!」

 

 

この数百年間、どれほど考えようと答えの出なかった問い。

誰に聞くこともしなかったが、それでもいいと考えていた。そうしなければならないと考えていた。

頂点に立つものこそ、下々の盾とならなければ世界は崩落を始める。そうであるからこそ均衡を保ち、1人の支配者によって和平がもたらされる。

ただしき政治、統治、再生、破壊。それぞれが平行線にあることで……平和は訪れるのではないだろうか。

 

 

「英雄王……騎士王……征服王よ……! 〝王の名〟を持ちし者たちよ、俺に……俺を導いてくれ……ッ」

 

 

世界各地の史跡に名を刻んだ王たち。偉大な夢とそれを成し遂げた意志。俺はそれらを知りたい。

そして、あわよくば物にしたい。世界を我が手にし、円滑に進められる争い無き世界を見てみたい。俺が望み続けた平和は……どこにあるのだろう。

 

 

『…………ん。……さん!』

 

「………………ノイズ……。自動周波数調整(オート・クリアランス)、雑音除去《ノイズ・キャンセリング》。誰だ、名を名乗れ」

 

『―――銀狼さん!』

 

「……トーマ? どうした」

 

『どうしたじゃありませんよ! 急に気絶して変な装備を出したと思ったら、通信がつながらなくなってるし、今までどうしてたんですか!?』

 

「あ、ああ……すまない。少々力の暴走がな。今、どこだ」

 

『Y-108,X-558です!』

 

「了解した。すぐに向かおう」

 

 

現座標は……Y-933、X-186か。かなり遠いな。魔法でも使うか。

すぐさま思考を切り替え、俺はトーマたちの待つ森の中へと消えた。

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