魔法戦記リリカルなのはForce~世戦の軌跡~   作:岸辺 翔

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牙・第3章 ありがとう、そして

―――時空管理局・地上本部は、今までにない敗北に期した。

約7年前に起きたJ・S事件で地上本部は大損壊をを受けたが、今回はそれの比ではなかった。損壊―――ではない……完全に倒壊している。

その周囲一体の地盤そのものを破壊され、地上本部のあった場所は瓦礫以外の何物もなく、ただ…………絶望の傷痕が残っていた。

 

 

「……………………んなのって…………ねぇよ…………」

 

 

舞い上がっていた砂塵を打ち落とすように、ただただひとしきりに雨が振り続ける。

いかなるものも立てぬよう、強く、強く、叩き付けるように―――打ち付けるように。

人は天に抗えぬ。その言葉を体現するように、皆、顔を伏せて倒れていた。

 

 

「…………で……だよ。なんで…………こん……こと……!」

 

 

雨粒の音以外に、1つだけ声がする。

大和和輝―――銀狼の精神力さえも凌ぐ防御を持った、唯一の人物。

……しかし、その和輝ですらも意識を保つのが精一杯だった。

動くことも、ロクに考えることもできない。

 

 

「…………なんで……!」

 

『―――知りたいか、三銃士』

 

「…………ッ……。…………おまえ……いんのか、そこに……」

 

 

目は見えない。

鼻も効かない。ただ、聞こえるだけ。

誰かが近くで止まった音と、声。

 

 

「なぁ………………なんで、こんなこと…………」

 

『…………世界とは―――銃騎士とは、その世界に危機が訪れるときに現れる仕組みだ。それを救済するのが銃騎士の役目ではあるが……その方法は問われない』

 

「…………意味、わかんねぇよ……」

 

『意味など無い。俺は今後この施設が邪魔になると判断し、破壊しただけだ。それに重ね管理局員がいると厄介でな、今回の襲撃で戦力は失わさせてもらった』

 

 

遠ざかっていく足音。

和輝はなんとか動いた手を伸ばすも―――それが、届くことはなかった…………

 

 

 

  ああ…………俺ぁ、なんでこうも無力なんだ……―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

†★†★†★†★†★†★†★†★†★†★

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………管理局の地上勢力は消滅。残った戦力も管理局全体で40パーセント程度……。酷い、もんやな…………」

 

「……………………私には、あの方の意思がわかりません……。いつも間違っているようで、どこか筋の通っていたあの方のやることの意味が…………わからないのです」

 

「…………あいつは、昔みたいに暴走してるようじゃなかった。あのあと、俺に話しかけてきやがった。『邪魔だった』とかいう理由で……俺らは潰されたらしい」

 

 

時空管理局・本局。

その中にある病室で、3人が集まっていた。

 

 

「ほんま……恐ろしいやっちゃなぁ。ほっとんどなにもできへんで、こっちは損害のパラダイス……」

 

「…………やはり、EC因子(エクリプス)があるせいで……。私が遠隔操作できればよいのですが、融合していないとなにも……」

 

「リィンフォースが落ち込む理由なんてあらへんよ。悪いんは……あの人や」

 

「あ、あの……出来れば、あの方を攻めないでください。あの方は…………我が主は、考え無しにこのようなことをする人ではありません」

 

「そやろか。今まで思いつきでやってることも……あったんとちゃう?」

 

「……否定は、しません。ですが、必ず意味がありましたっ」

 

「せやけど、今回の件は「意味ならあったらしい」……遊騎、さん?」

 

 

重々しい口調で切り出した遊騎は、うつむいたまま顔を見せない。

下を向き、手の平だけを眺めている。

 

 

「…………あいつは、俺にこう言った。〝意味など無い。邪魔だから破壊した〟……って」

 

「邪魔って……それだけで、私らを……地上の平和を、破壊したっていうんか!? たったそれだけの理由で!」

 

「荒らげたって意味はないぜ……はやて。あいつに何を言っても無駄だし、ここにもいない」

 

「せやかて納得いかへん! 私らは平和のためにやってきた! なのに邪魔って……!」

 

「……あいつにとっちゃ、邪魔なんだr―――」

 

 

和輝の言葉を遮るようにしてアラートが鳴り響き、あたりは緊張の色に包まれた。

3人は驚きはしたものの、いつものように出動はせず……ただ、うつむいてしまった。

 

 

「…………行かないのか、はやて」

 

「……行けへんよ、こんなんじゃ」

 

「……私とて、出たいですが……」

 

 

暗い、重い空気。

緊急出動だ。3人とも行きたくて疼いている。

……しかし、その反面わかっている。今の自分が出ても足手まといになるだけだと。

 

 

「………………………………さっきの、なんやった?」

 

「…………―――ッ! フッケバイン一家だ!」

 

「なっ―――! …………けど、俺達が行ったって……さ」

 

「……報告だけでも、見ましょう」

 

 

リィンフォースはモニタを写し、その内容に驚愕した。

映っているのはフッケバイン一家の乗る船と、それの進行を妨げ、向きあうようにして後進している船。

そとには銃座などの武装が取り付けられ、物々しい外見をしている。

 

 

「……ありゃ、ウルブズだ」

 

「ウルブズ? でも、あれは処分されたって聞いたんやけど……」

 

「俺が見間違えるはずがない! あの船には7年も乗ってたんだ!」

 

「……はい、たしかに、あれはウルブズです……。私も確認できました」

 

「どういう……ことなん。あれにはあの人が乗ってるとでもいうん!?」

 

「そうとしか……おいあれ! 甲板だ!」

 

 

和輝の言葉に反応してかそうでないか、カメラはウルブズの甲板に寄っていた。

……というより、むしろ甲板から取られているようなアングルだ。

 

 

『……………………時空管理局諸君、俺のことを忘れもしないだろう。先日は少々派手にやらせてもらったからな』

 

 

忘れもしない声。

それはたしかに、あの人物だった。

鉄壁の守りと歌われていた地上本部をわずか7分で壊滅させ、管理局の戦力を半分以上削った男。

最強にして最凶。かつての英雄がそこにいた。

 

 

『存分に恨むといい。それはお前らの勝手だ。……今、俺はお前らの敵と対峙している。お前らのような魔導師では手のでない……厄介な奴とな』

 

『無用な損害を出さぬための手段とでも思ってくれ』

 

『……イェーガー、無駄な口を挟むな』

 

『お前は口下手すぎる。素直に言えばいい』

 

『俺は俺の感じたとおりに言っているつもりだが……』

 

『……はぁ。これを聞いている者につぐ。この先頭に参加すれば、君等の命は無かっただろう。怪我で済んだだけいいと思うといい』

 

『あ、ああ……まあ、それでもいいか。お前らの危険性を教えるため、今回はイェーガーが放送に徹してくれている。これを見たのなら―――危険性が理解できたのなら、二度とEC因子(エクリプス)には関わるな』

 

 

危険性。

EC因子(エクリプス)が、管理局員にとってどれだけ危険なものなのか、どれだけの天敵になりうるのか。

無駄な死を、招かぬために―――

 

 

『7年前に俺は消えた。俺の手が要らなくなったからだ。…………しかし、今、再び必要にされている』

 

『……銀狼、そろそろ、あいつらが呼んでいる』

 

『了解だ。…………管理局員たち、それに三銃士、これを見たのなら二度と関わるな。これは……お前らの手におえるものではない。たとえいかなる力を使おうともな』

 

 

青き空、澄んだ海。

その世界は瞬時に消え、2つの戦艦は荒野に座礁していた。

地には茨が生え渡り、刺さる銃に絡みつく。持つことを許さぬ武器、逃げることを許さぬ刺、壊すことを許さぬ荒地、崇めることのできぬ死天。

銀狼が望む世界の行く末、その心理風景。

捉えられた者は抜け出すことすら叶わぬ絶対の結界―――真理結界。

 

 

『今、ここは全ての次元から隔離されている。安心して見るといい』

 

 

ふとカメラアングルが浮き上がり、天から見下ろすような視点になった。

どこを歩けど武器と茨に挟まれ、平和などかけらも見当たらない世界。

 

 

『聞こえているだろうフッケバイン! お前らは既に隔離した! このまま消滅を望むのであれば勝手だが、そうでなければ俺と戦え! 貴様らをここで処分する!』

 

『…………懐かしい声がすると思えば、テメェか……銀狼!』

 

『……久しいな、ヴェイロン。前宵はお前か』

 

『テメェくれぇは俺で十分っつーことだ、カス!』

 

 

ドンッ!

数発のエネルギー弾が発射されるが、それは銀狼の直前で消し飛んだ。

流したわけではない。受けてもいない。ディバイドでもない。同等のエネルギーを着弾地点に集結させて相殺した……と見るべきだろう。

 

 

『騒ぐな、糞餓鬼』

 

『ヘッ。シールドもいらねぇってか』

 

『……お前は昔から、敵わぬと知っていて突っかかる癖があるな。いい加減直せ。…………カレンはいないのか』

 

『今は俺が相手してんだよ!!』

 

 

ヴェイロン―――そう呼ばれた男が駆け寄り、ショットガンのようなものに付いている刃で斬りかかった。

銀狼は何をするでもなくただ見つめ、刃が触れるその瞬間に動いた。

 

 

『どうした、糞餓鬼。良く見て狙え』

 

『……なにをしやがった』

 

『人とは認識を超えたことを拒むものだ』

 

『ならその認識の外で何をしやがった』

 

『知る必要など無い』

 

 

銀狼の姿が消えたかと思うと、既にヴェイロンは倒れていた。

何が起こったのか、説明は無い。イェーガーと呼ばれた誰かも解釈を入れない。

必要が無いからなのか、それとも、単純にイェーガーすらも理解できなかったのか。

 

 

『……俺はまだ戦いを続ける。こうして犠牲を出してでもな。それがわかったのであれば、管理局員は―――死にたくないものは、戦から身を引け。先日の襲撃はその忠告だ』

 

 

ブツンッ!

突然回線が切れ、砂嵐が映し出された。

向こう側から無理やり切られたのか、それともなんらかの干渉なのか。

 

 

「…………終わって、もうたな」

 

「………………ああ」

 

「……主……」

 

「ま、まあでも、元気っちゅうことはわかった。それに、私達が共通の敵をもってるゆーんも」

 

「そ、そうだな。これを理由に、共闘……できりゃ、いいけど」

 

「…………無理でしょうね。管理局に立ち向かったのですから、次元犯罪者に格上げされるのも時間の問題かと……」

 

「……だよなぁ」

 

 

共闘戦線。

管理局にとって、EC因子(エクリプス)を保有しているフッケバイン一家は逮捕の対象だ。それもかなりレベルの高い、超重要案件ではあった。しかしその危険さから誰も手を出さなかったのだが……。

それを相手にしているということは本来管理局にとって、邪魔以外の何物でもないのだろ。

 

 

「せめて理由がわかりゃ、少しは対応できたのによ……」

 

「それをしないのが我が主です。……ですが、あの方は無意味な行為はしません今回もなんらかの意図があるとは思うのですが……」

 

「流石のリィンフォースもわからないか……。となると、声のでてたあの人くらいやねぇ、きっと」

 

「声の特定はできますが、今の情報では本人の確認まではできません。音声の波長は機械的で…………、なにか、人の声帯とは違った音でした」

 

「人と違う?」

 

「ええ。スピーカーから出しているような、規則的な波長です」

 

「音から生体反応はとれるん?」

 

「重機などの機械音であれば特定できますが、さすがに人の声かどうかまでは……。もしかしたら録音した音声を使っているのかもしれませんし、録音ではなく合成されているのかもしれません」

 

「合成……さすがに音源がわからないと、俺達でも無理だな」

 

「とおりあえず、今の音声はとっとこ。後で本局の捜索班にお願いするわ」

 

 

少し、3人に希望が見えた。

有力な手がかりなのだ。これを少しでも利用し、銀狼の居場所を探すのも重要な役目ではある。

…………しかし……。

 

 

「こんなんじゃやることもやれねぇよ……。せめて治療班でもまともに機能してりゃあな……」

 

「私達よりも他の人のほうが先や。街の修復準備もできてへんのに……ん?」

 

 

コンコンッ

ドアがノックされる音が聞こえたので、はやては何気なく返事を返した。

本局の局員が見舞いに来てくれたのだろう。そう思ったからだ。

 

 

「はーい、どうぞー」

 

 

誰が来るんやろなー、などと考えていた矢先、3人は目を丸くせざるをえなかった。

―――吹き飛んだのだ、ドアが。

 

 

「無用心だな、門前にいるのが敵とも知らずに招き入れるとは」

 

「んなっ……!? 何をしに来た!!」

 

「何、か。そうだな……OHNを潰す前に、手土産でも用意しようと思ってな。ついでに止めを刺しに来た」

 

「……甘く見られたもんやね。どうやってここまで来たのかなんて、聞くだけ無駄なんやろうけど……悪魔でもここは本局や。逃げられへんよ」

 

「逃げる? フン……その必要はない。貴様らのような体たらく、武器の1つもいらん」

 

 

現れたのは、本来ここにいるはずではない男。

男は近くにあった椅子を取ると、そのまま何事もなかったかのように座ってしまう。

今さっきまで画面の向こうにいたはずの銃騎士。何故ここにいるのか、何故こうして平然としているのか。

 

 

「……一応言っておくが、俺はここへ戦いに来たわけではない。先にも言ったが土産を用意しにきた」

 

「ハッ。テメェの言う土産ってのは、ロクなもんじゃねぇだろ」

 

「事実だ。もしここで争うというのであれば……俺は構わんが」

 

 

空気が凍りついた。

和輝が銃を構え、逆に男以外の空気が変わった。

勝機へのものではない。逆に触れてはならない地雷に触れてしまったような、そんな空気だ。

 

 

「…………敗者への情けだ、俺の今回の目的を―――世界から指示された内容を教えてやる。〝破壊者は更なる上へ、再生者は更なる先へ、全ての覇者は更なる極みへ。主らの刻を賭け戦え〟……だ。俺は内容通り覇者となるべく、こうして動いている」

 

「……銀狼さん、なんで……その言葉を間に受けるん?」

 

「俺は銃騎士だ。それ以上の理由はいらん。……リィンフォース」

 

「……………………なにか」

 

「俺と共に来い。OHNを崩落させるにはお前が必要だ」

 

「………………自ら集めた同士を、貴方(・・)は殺すのですか」

 

「馬鹿なことを言うな。俺が消すのはOHNであり、その個ではない。……来い、リィンフォース」

 

 

男は―――銀狼は立ち上がり、リィンフォースに手を差し伸べた。

それに呼応するように彼女も立ち上がり、まるで人に引かれるように歩き―――

パンッ

……唐突に、乾いた音が響いた。

 

 

「……………………?」

 

「…………ふざけないでください」

 

 

震えた声。

うつむいた彼女の顔は見えない。

驚きを隠せない男は、ただただ目を見開くばかりだった。

 

 

「…………貴方は、そんな方だったのですか……?」

 

「………………これは……」

 

 

機械のような、いかなるモノをも拒絶するような黒の右腕。その手が抑えていたのは、自身の右頬だった。

うっすらと赤くなるその頬は、確かな痛みを伝えている。

 

 

「……一体、なにが……」

 

「…………目的のためなら自己犠牲ばかりして、他者をを少しでも危険から遠ざけようとしていた。なのに、貴方は……!」

 

「…………なんのことだ。お前は……なにを言っている」

 

 

震えた声が重なる。

困惑と疑惑に満ちた弱々しい声。

 

 

「俺は…………銃騎士だ。個ではない。例え切り離されても、世界に従うしか……」

 

「そんなに……私達が頼りないですか? そんなに、私達が邪魔ですか? なら、ここで全員殺せばいい。殺せばいいじゃないですか!」

 

 

彼女は銀狼の襟を掴み、強引に引き寄せ―――震える唇を奪った。

普段ならありえない。あの男が、抵抗もなく、体の自由を奪われたのだ。

 

 

「あ…………カッ……」

 

「貴方には私達を殺せない、殺したくないから。ふざけるのもいい加減にしてください! 私たちはあなたの守りがなくてもこうして生きてきた! いつまでも見下さないでください!」

 

「ちがう…………俺は、お前らなんぞ……」

 

「ではなぜ! こうしてここに来ているのですか!!」

 

「……違う。違う……俺は、ただ世界の意思を……!」

 

「…………我が主(・・・)。主は、戦いすぎです。常に気を張って……常在戦場と理由をつけて、羽を休めようとしない」

 

「俺は……戦い続けねばならない! いかなる時もだ! そうでなければ、俺は存在意義さえ……!」

 

「お休みくださいっ、我が主。許されない行為をしたとしても、主はこの世界にとって英雄です。どうか、少しでも」

 

「やめろ、やめてくれ! 俺は……俺はッ、ちがう……違う! あ………………アアッ!」

 

 

襲われる脱力感。

今までしてきたこと全てが否定されてしまったような虚無。

〝意味など無かった。価値など無かった。無駄な時を過ごしていた〟 ただそれだけの事。それは存在理由そのものを剥奪されたのと同意義だ。

銀狼はついに膝をつき、リィンフォースに抱き寄せられていた。

 

 

「俺は銃騎士だ……! 戦って、殺し、世界を歪みから奪取してなおも戦わねばならない! 休息も、平和も、俺には……俺にはあってはならんのだ……ッ!」

 

「いいえ……主は、休まねばなりません。もし万全の主であれば、今のように……自我を崩落させたりなどありえません」

 

「俺は……俺はッ、平常だ…………何も変わりはない。俺は俺でしか無い……銃騎士だ……」

 

「お眠りください、我が主。その時(・)が来るまで、銃騎士は……眠るのです」

 

「違う…………嫌だ、俺は違うんだ、ただッ、平和が……争いが……。ぁあっ…………ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

銀狼は崩れ落ち、ついには瞳から生気が抜けていくのがわかった。

存在理由そのものを失った銃騎士は魂のない人形と同意語だ。抜け殻は眠ることしか出来ず、時が来るまでただ永遠に……。

 

 

「―――…………安らかに、眠るのです……。銃騎士は和平の騎士、その力を以って全てを破壊することで、平和を作り為す。そのために休息を……我が主」

 

 

ゆっくりと、リィンフォースは人形を抱き止めた。

もう動くことはない、糸すら繋がっていない抜け殻。人の血肉を食らい続けた悪魔の孤児(みなしご)は、深い……深くとも浅い眠りに導かれた。

 

 

「…………申しわけございません。はやて、説明を……今ここで」

 

「してほしい、ってのが正直な感想やな」

 

「わけわかんねぇことばっかだ。あいつが大人しくなるなんてありえねぇぞ」

 

「……主は、数十年に一度……こうして、混濁期を迎えます。何故自分が銃騎士になったのか、何故ここまでやってきたのか、今為すべきことはなんなのか。存在理由を考えるために眠りにつかねばなりません」

 

「その都度こうして錯乱してるってか?」

 

「いえ……。本来、正常な周期で混濁期を迎えていればこうはならないのですが……。恐らく私たちの下から消えて、主の時間軸で数百年、戦い続けてきた結果だと思われます」

 

 

いつしか彼女の瞳には涙がたまり、頬を伝って流れていた。

 

 

「主は……強く見えて、弱い存在です。弱い本体を見せまいと無茶をして殻にこもり、こうして……混濁期で全てに本心であたるのです。孤独で小さな心で、数千億人の心の声と……!」

 

 

溢れる涙は男の頬に当たり、何故か…………機械質の右腕に赤黒い炎が灯った。

熱はない。ただの光であるかのように、なにかが宿ったように。

 

 

「………………………………敵意反応無し。……この場にイる全員へ警告。我、銃騎士とアりし世界の闇。現時刻を持って事を始めン」

 

「主!? なぜ、目覚めて……!」

 

「否。我が名は闇。ここにイる全ての者へ伝エる。この世の敵は……我が御身の敵。敵意を評した者はイかなる事情がアろウと、この場で消エてもらウ」

 

 

リィンフォースを突き放し、銀狼は右腕を正面に構えた。

腕から幾多もの欠片が手に集まり、それはかつて愛用されていた長大な剣―――斬馬刀(スライサー)へと豹変する。

黒い長刀・斬馬刀(スライサー)。

銀狼は……これを失っているはずだった。

 

 

「Wer geliebt habe, mochte ich das Wort sagen」

 

 

長刀は腕のマウントラッチに装着され、静かに歩みを始めた。

3人は止めることをせず、ただ見ているしかできない。

いつもの気ではないのだ。なにか狂っているような、混ざりすぎたような……混沌とした気配。生きているのか死んでいるのかも明確ではない。

 

 

「…………Trafen sich zum ersten Mal in mehr als 100 Jahre.Nicht wollen……,War das Sie nicht wollen」

 

「―――…………百余年もの時が経ち、再び会い見えたと思ったらこれか。戦争など……戦争なんぞ、望んでもいないというのに」

 

「リィンフォース? なにを……」

 

「和訳しているだけです。主は……自分の本心を、話している……?」

 

 

銀狼はフェイトの隣に立ち、頬を撫で、静かに涙を流していた。

機能していないはずの右目からも、なぜか雫が垂れている。

 

 

「Schalten Sie den Krieg.Also werde ich der Feind sein.Schutzen Sie die Menschen, die geliebt」

 

「戦争を無くす。その為に俺は敵になる。愛した人を、守りたいからだ」

 

 

イヴの手を握り、久しくして見えた成長に憂いながらも涙を垂らす銀狼。

別れを惜しむ用に、そっと放した。

 

 

「―――Reinforce」

 

「は、はい」

 

「……Danke.war froh.……………………こんな俺を愛してくれて、ありがとう……!」

 

「え、あっ……」

 

 

彼女は銀狼に抱かれ、戸惑いを隠せずにいた。

混濁期に入ったら最期、数日起きることはない。今回は反動も大きかった。なのに、こうして数秒で復帰している。

それになにより、あの銀狼が素直に〝ありがとう〟と言ったことにも驚いていた。

 

 

「だから……さよならだ。俺は、世界の為に、世界の敵になる。俺を見たら確実に戦え、躊躇なく、最大の敵として当たれ。手加減など……してくれるなよ……?」

 

 

銀狼が右手を自らの顔に当てると、フルフェイスタイプのヘルメットに包まれた。

着ていた軍服も形が変えられ、アサルトベストのような機能性を持つものに変わっている。いわば戦闘用の着衣だろう。

 

 

「……ッ」

 

 

右腕の炎が激しく燃えると同時に、その姿は消えていた。

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