「はぁー……」
午前の授業が終わって昼休み、俺は弁当を食べながら溜め息を吐いた。刻々と地獄の時間が近付いてくる。……家に帰りたい。そして爆睡して嫌なことは全て忘れたい。
「……もしかして口に合わなかった?」
俺の様子を見て奈央が不安そうな表情で聞いてきた。
いつも俺の昼食は綾音が作った弁当か学食だが、今日の弁当は奈央が作ってくれた。これは綾音が来なかったから代わりに奈央が作ってくれた……というわけではない。何でも最初からそのつもりだったようだ。
それで弁当を暗い様子で食べられたら不安にもなるのだろう。
「いや、最高に美味しい」
「そ、そう……」
奈央が照れたように頭を掻く。
うん、やっぱり俺の妹は可愛い。
「ああ。何なら毎日でも作ってほしいぐらいだ」
「……い、いや、さすがにそれは。私達、兄弟だし……」
「いきなり何言っているのよ!?」
恥ずかしそうに奈央が俯いた後に綾音が焦った様子で会話に割り込んできた。
綾音もそうだが、奈央も弄り甲斐があるな。これからが楽しみだ。
「別に変なことは言ってないだろ? 一緒に暮らしているんだし」
真顔で言うが綾音は疑惑の視線を俺に向けてくる。
綾音は素直な性格をしているから結構騙しやすいのに、こういう時は勘が鋭い。将来、綾音と結婚したら浮気とかすぐにバレそうだ。
いや、浮気なんてしないけどね。……多分。
だが今はそれよりも気になることがある。
「……俺も前に同じことを言ったのに『ウケる-w-w』って笑われたんだぞ。この差は何なんだ……」
「私的にはそういうのは女の子よりも男に言ってほしいわね。……料理の上手い男って誰がいたっけ? 久世は料理とか出来ないし。……いや、あえて二人に男装させるとか?そうすれば美少女で腐れて一石二鳥に……」
久世が悔しそうに呟いて、神崎がブツブツと恐ろしいことを考え始めた。
ただ綾音と奈央が男装するというところだけは俺も賛成できる。美少女の普段と違う姿を見るというのは新たな魅力の発見に繋がるからな。
それに男装というのが良い。メイド服などの定番よりも場合によっては魅力が引き立つ。
特に奈央はスレンダーな体をしているから似合いそうだ。……綾音は胸部のせいで難しそうだが。サラシとか巻けばどうにかなるだろうか?
「……お前ら、何でいんの?」
俺はタコさんウィンナーを箸でつまみながらジト目で何故か自然な流れで一緒に食べている久世と神崎の二人を睨む。
いつもは基本的にバラバラなのに何で今日はいるんだよ。しかも二人揃って……。
お前らがいなかったら放課後のことを忘れて楽しく弁当を食べていたのに。
「そりゃ、奈央ちゃんと仲良くなるためでしょ?」
神崎が何を当たり前のことを聞いているの? と言いたげに首を傾げると久世が「俺もそうだ」と続ける。
いや、それは分かっている。俺が言いたいのはそういうことじゃないんだが二人とも理解していないようだ。というか興味がないようだ。
「奈央、こいつらとは仲良くしたら駄目だぞ。変態がうつる」
「失礼ね。久世はともかく私は悪影響じゃないわよ。少し新しい趣味に目覚めるだけで」
「充分に悪影響だ!」
何で神崎がそこまで心外そうな顔を出来るのか意味が分からない。妹が腐って喜ぶ兄はいないだろ。
「別に迷惑じゃないでしょ?私が何もしなくてもいつか目覚めるわよ。BLが嫌いな女子はいないんだから」
「嫌いじゃなくても興味のない女子はいるはずだ」
「いないわよ。それは見たことないか興味のないフリをしているだけ」
ハッキリと断言する神崎。本当にその自信はどこからくるのだろうか?
俺は百合が好きだけど、全員が好きかと言えばそうでもない。実際に俺の周りにも百合に興味のない男はいる。それと同じじゃないのか?
……男と女では感性が違うのか? 何か自信がなくなってきたし確認してみるか。
「そこまで言うなら確かめてみよう。綾音はどうなんだ?」
「……え、私? 私は、その……」
いきなり話を振られて動揺したのか綾音は箸を止めて目を泳がせる。
……予想と反応が違うんだが。これはまさか……。
「綾音ちゃんはすでに洗脳済みよ」
これまた自信満々に神崎が断言する。
……この野郎、いつの間に。
「いやいや、そんなに心配しなくていいよ、シュウくん! 前に葵ちゃんに教えてもらって少し読んだだけで、好きとかでは、その……」
必死に否定すればするほど説得力はなくなるんだぞ、綾音。
でも、そこで恥ずかしがるぐらいには正気で良かった。これなら洗脳を解くことが出来る。
仮に綾音が腐っても俺は受け入れるが、出来れば純粋で可愛いままでいてほしい。
少し安心していると神崎が不安になるような良い笑顔を浮かべる。
「ちなみに洗脳済みと言ってもまだ最初の段階。本番はこれからよ。そして、これが成功したら一気に学園中にBLを広める!」
「よし、綾音! 今夜、俺の部屋に来い!」
さすがに冗談だろうが神崎が言うと冗談に聞こえないからな。実際にどうなのか調べないといけない。
そしてもし本当だったら……どうしようか?
「部屋に、って……。駄目! それはさすがにまだ早いよ!」
綾音が椅子から転げ落ちるんじゃないかってぐらい激しく手をブンビンと振りながら否定する。
まだということは、いつからなら良いのだろうか? 俺は今から保健室に直行しても何の問題もないが。
「てめぇ、篠宮さんを部屋に連れ込んで人に言えないあんなことやこんなことをするつもりなのか!?」
久世が怒りを露にする。
そんなに大声を出すなよ。他のクラスメイトが注目するだろ、と思ったがそんなことはなかった。
普通、アニメとか漫画だったら俺に軽蔑の視線が向けられて必死に否定するところなんだがな。むしろ軽蔑の視線は久世に向けられている。
……久世の信頼感のなさは相変わらず凄いな。それでも嫌われているわけではないところが更に凄い。まぁ、どうでもいいことだが。興味もない。
俺は久世をスルーして性格の悪い笑みを浮かべながら綾音に話かける。
「何を言っているんだ? 俺は洗脳がどこまでいってるか確認するだけだぞ」
「……え?」
「……俺に何をされると勘違いしたんだ? もしかしてエロいことか? そういうことをされたいのか?」
「いや、それは……その……」
俺が問い詰めると、綾音は湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にして気まずそうにしながら目を逸らす。
可愛いけど予想以上の反応だな。どこまで想像したんだ?
テンパってる綾音に奈央が恥ずかしそうにしながら追い討ちをかける。
「……そ、そういうことするのはいいけど、声は出来るだけ小さくしてね……。リビングにいるつもりだけど、聞こえると気まずいし……」
「だからしないってば!」
綾音が力強く否定するが、今回はさすがに珍しいのかクラスの視線を集める。教室がザワザワし始める。
「……篠宮さんが大声を出すなんて珍しいな」
「またいつもの痴話喧嘩だろ」
「それにしては動揺し過ぎじゃない?」
「じゃあ、あれだ。風上がどさくさに紛れて告白して、それを神崎か久世にからかわれたんだよ」
「ああ、なるほど。そういうことね」
何かクラスメイト達は変な方向に納得し始めたみたいだ。お前らは俺をどういう目で見ているんだ? さすがの俺でもこんなところで告白紛いのことなんてしないぞ。……あ、さっき奈央にしてた。
クラスの雰囲気に気付くと綾音は羞恥心が限界を超えたのか立ち上がって教室から出る。
こういう時は下手に構うと逆効果だから放っておこう。昼休みが終わるぐらいには帰ってくるだろ。
「ねぇ、本当にエロいことをするんだったら私も呼んでね」
「仮にエロいことをするとしても神崎を呼ぶわけないだろ」
初Hは一対一の落ち着いた雰囲気でヤりたい。……で、そこから色々なプレイを試していく。まぁ、綾音の様子を見る限りすぐにはヤれそうにないが。
ていうか、弁当を食べ終わってないけど綾音はどうするつもりなんだ? 後で食べるかもしれないし、一応しまっておくか。
12話終了です。
では感想待ってます。