「失礼しまーす!」
神崎が元気よく挨拶しながら部屋に入ってきた。
その後ろには興味深そうにしている奈央と何とも複雑な表情をしている綾音の二人がいる。……綾音だけでも逃げていいんだぞ?
部長も綾音なら俺に対してするみたいなことをしないだろうし。
「うわっ! 何、これ!?」
部屋中に散らばった桜紙を見て神崎が驚く。
この女はいつも大袈裟にリアクションを取って嘘臭いところがあるが、今回は素で驚いているようだ。
まぁ、この量だからな……。部長の靴が桜紙で完全に隠れている。
何故か奈央は桜紙を一枚拾って裏返したりしながら見ている。……別にそれ自体に深い意味はないと思うぞ。
「私がサプライズとして用意したの。……そこの駄犬のせいで失敗したけどね」
部長が不機嫌そうに俺を睨む。
誰が駄犬だ、誰が!
さすがにムカついたので睨み返す。変なことを考える部長が悪いんだろ。
二人の視線がぶつかり合い火花が散る……と思いきやすぐに興味をなくしたのか部長が奈央に視線を映す。
「貴女が秀二の妹の奈央?」
「……は、はい。風上奈央です」
部長に話かけられてその美貌に見惚れているのか言葉がハッキリとしていない。……下の椅子を見て引いているだけかもしれないが。
「私の名前は皇未来。この部活の部長で生徒会長もしているわ」
普通の挨拶だ。部長もたまにはちゃんと出来るんだな。
と、感心したがそんなものは淡い期待でしかなく次の瞬間、予想通りと言うべきか何と言うべき部長は耳を疑いたくなるような発言をした。
「簡単に言うとこの学校の支配者ね。教師とかよりも学校に対する影響力があるし。でも、そんなことは気にしなくていいのよ? 私のことは気軽に未来様と呼びなさい」
普段通りにさも当然かのような態度で喋る部長。ここまで来るとウザいを通り越して清々しくすら感じる。
大体、教師よりも影響力があるのは部長だからでも生徒会長だからでもなくても皇未来という人物の性格――キャラクター性が理由だ。分かりやすく言うと何をするか分からない部長を教師達も俺と同じく恐怖しているだけの話だ。
後、気軽に呼んで様付けはおかしいだろ? しかも命令形だし。
「……はは」
コミュニケーション能力の高い奈央でも初めて相手するタイプだったのだろう。どう反応したらいいか分からず苦笑いを浮かべている。
そして、とりあえず会話を続けようと思ったのか椅子になっている変態を指差す。
「ところで、その人は何なんですか?」
「ん、これ? これは私の自称下僕。……じゃなくて今は椅子だったわ」
「……じ、自称下僕? 椅子?」
初めて聞くであろう単語に戸惑う奈央。
俺も初めて聞いた。自称だったんだな。……うん、物凄くどうでもいい!
「いや、私は――」
「椅子が勝手に喋らないで!」
抗議をしようとした変態を部長が頭を叩いて黙らせる。その様子を見た奈央が心配そうな表情を浮かべながら話かけてきた。
「……あの人、もしかして弱味でも握られているの?」
う~ん……まぁ、事情を知らない人からしたら、それが一番妥当なところか。
でも実際は全然違うことを俺は知っている。逆……とまでは言わないが椅子の方が望んでやっていることだ。
こういうのは口で説明するより証拠を見せた方が早い。俺は椅子の顔を指差す。
「あれを見てみろ」
「……何か幸せそうだね」
奈央の言う通り椅子(そういや名前、何だっけ? こいつのことを本名で呼んだことないから忘れてしまった)は恍惚とした表情を浮かべている。
椅子はいわゆるドMだ。それもかなり重度の。
座られて何が気持ち良いのだろうか? 俺には理解できない。
とか考えていると別の変態(神崎)が部長に近付いていく。何をする気だ? 録なことではないのは間違いないないが。
「ねぇ、部長。私は床に寝そべるから背中を踏んでくれない?」
先輩が相手であるにも関わらず同級生に話しかけるかのような口調で変態に便乗する変態。……少しややこしいな。
こういう行為って気持ち良いのだろうか……? 気持ち良いとは思えないが、否定するのは試してからでも遅くない。
じゃあ、誰に踏んでもらうか。部長は嫌だ。俺のプライドが許さない。……となると選択肢は自ずと限られてくる。
「綾音、今夜ちょっと踏んでくれないか?」
「……え?え~と……」
予想外のタイミングで予想外の事を言われたからだろう。綾音は俺の言っている意味が分からないようで戸惑いの表情を浮かべる。
だが言葉の意味を理解するとみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。昼休みの件のことも思い出しているのかいつもより更に赤くしながら俯く。
……本当に大丈夫だろうか? 脳が今にもオーバーヒートを起こしそうなんだが。
「心配するな。俺が踏まれたり乗られたりおっぱいを背中に押し付けられたりするだけだ。それ以上のことをするつもりはない」
「……今、明らかに関係ないのが入ったよね、お兄ちゃん?」
奈央がジト目でツッコむんできた。
……何のことやら。俺にはさっぱり分からない。俺は色々な攻め――具体的に言うとおっぱいの攻めを受けたいだけだ。
「じゃあ、奈央が踏むか?」
「……お、お兄ちゃんがしてほしいって言うなら……良いよ?」
そう言う奈央の頬は僅かだが朱に染まっており視線は熱っぽい。
意外とノリ気だな。Sが混じっているのだろうか?
でも奈央に踏んでもらうというのはアリだ。綺麗な足をしているからな。
それにそれを見て綾音が嫉妬して参戦してくれれば最高だ。恥ずかしがり屋の綾音には正面から言うよりも自分からやる気にさせる方法の方が効果的。
もし嫉妬よりも恥ずかしさが勝っても、俺は奈央に踏んでもらえている時点で目的は果たしているから損はない。
だったら答えは一つしかない!
「じゃあ、今夜の風呂上がりにでも頼む」
「風呂上がりにって……え? そういうのは兄妹だしどうかと思うよ!?」
奈央に言ったはずなのに綾音が激しくテンパっている。……絶対、エロい妄想をしているな。俺はそういう意味で言ったんじゃないんだが。
「いやいや、別に問題ないだろ? スキンシップをして兄妹の仲を深めようってだけのことだ」
「仲を深めるのは良いことだけど、限度があるんじゃないかな?」
急に変態……変態ばかりだから区別が難しいな。とりあえずこいつは女装野郎でいいか。
女装野郎が急に口を挟んできた。……さっきから喋りかけている奴と別の奴が答えているな。何でだ?
「お前が考えているようなことをするつもりははないぞ。ちょっと踏まれるだけだ」
「それでも充分にアウトだと思うけどね」
「マッサージみたいなものだから問題ない」
「嘘はいけないよ。踏まれて気持ち良いのか実験するのが目的なんだからマッサージではないでしょ?」
くっ……。間違ってはいない。間違ってはいないが……こいつだけには言われたくない。
よく自分を棚上げにして「嘘はいけない」とか言えるな。逆に尊敬するぞ。
その後、女装野郎――七瀬が神崎の暴走を止めて、やっとマトモな話し合いが開始することになった。
14話終了です。
では感想待ってます。