謎だらけの妹と送る学園生活   作:二重世界

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第16話

「私は三年の東堂時雨と申します。皇様の愛の奴隷です」

 

 何とか息を吹き返した椅子――もとい東堂(そういや、こんな名前だったな)が原型が分からないほど崩れた顔で奈央に対して意味の分からない自己紹介をした。それに対して奈央は顔を引き攣らせながらも何とか返事を返す。

 ちなみに俺は三年にはちゃんと敬称を付けるが、七瀬と東堂だけは敬う気になれないので例外的に呼び捨てだ。

 

「と、ところで、その……病院に行った方が良いんじゃないですか?」

 

 俺が東堂を叩き起こしている間に誰かに聞いたのか、今までのやり取りで何かを察したのか「愛の奴隷」という部分には触れない奈央。というより積極的に話を逸らそうとしている。

 それは正しい判断だ。聞いたら話が長くなるからな。

 

「大丈夫です。これでも鍛えていますので」

 

「はぁ、そうですか……」

 

 どう対応していいか分からず苦笑する奈央。

 俺がやっておいて何だが本当に大丈夫なのか?人に見せていい顔じゃないが。

 

「気にしなくていいよ、奈央ちゃん。部長とのプレイはもっと激しいから」

 

「いや、そんなことしてないから」

 

 七瀬の意味もなく場を乱そうとする発言を部長がジト目でツッコむ。

 部長にしては珍しい表情だな。本気で嫌そうだ。

 

「そうなの?」

 

「逆に何でそんな意外そうな顔が出来るのか聞きたいわ」

 

「だって、いつも踏んだり座ったり苛めたしているから」

 

「それが何?」

 

「だから二人っきりの時はもっと激しいことをしているのかと」

 

「そんな訳ないでしょ。時雨とは二人っきりになること自体が珍しいぐらいよ」

 

 そうだったのか。意外だな。

 七瀬が本気かどうかは分からないが、少なくとも俺はそう思っていたから。

 

「そうなの?」

 

 七瀬が東堂を見ながらさっきと全く同じ台詞で質問する。

 ……う~ん、興味ないし、そろそろ帰っていいかな?もう奈央の話をしてないし。

 それに早く帰らないと夕方からある好きなアニメの再放送に間に合わない。

 

「そうなんですよね。いくらお願いしてもヤってくれないんです」

 

「当たり前でしょ。あんなマニアックで変態的なプレイをする趣味は私にはないわ」

 

「部長が引くほどとは……。どんな内容か気になるね」

 

 俺は雑談をしている三年の三人を無視して、部室の入口を指差しながら奈央と綾音に話かける。

 

「帰るぞ」

 

「そうね。帰りに書店に寄って今日発売のBL本を書いたいし」

 

 何故か二人ではなく神崎が返事した。お前には話かけてないんだが。

 まぁ、どうでもいいか。神崎がBL本を買おうが俺には関係ない。無視だ。

 

「帰ろうか」

 

「うん」

 

 綾音と奈央も帰宅に賛成のようで、二人は部室の端の方に置いてある鞄を取りに行く。

 俺も二人の後に続くが、鞄を取ったところで部長に気付かれた。

 

「あれ、どこに行くの?」

 

「……いや、まだ下校時間まで時間があるとはいえ、東堂の奴が気絶していたせいでゆっくり話す時間はないじゃないですか。だから今日のところは帰って、また後日にでも話そうと思いまして……」

 

 咄嗟に思い付いた言い訳をする。

 色々と苦しいな。こんなことで部長が納得するとは――。

 

「そうね。確かにゆっくり話す時間はないわ。時雨が気絶していたせいで」

 

 あれ? 意外と簡単に納得したな。ある意味拍子抜けだが、嬉しい誤算だ。

 

 東堂が「え!? 私が悪いんですか!?」となんか叫んでいるが誰も反応しない。そんな皆の様子を見て東堂が何やら悲しそうな表情をしているような気がするが、やっぱり誰も反応しない。

 

「じゃあ、続きはまた明日にしましょう。後、奈央の歓迎会も」

 

 ですよねー。部長が中途半端な状態で終わらせるわけがない。

 今日はいつもよりマシ(それでも疲れたけど)だったから、このまま終わりたかったんだが。

 

「終わるんなら僕は先に帰るよ。彼女とのデートがあるからね」

 

 いつの間にか帰る準備を終えていた七瀬が入口の前に立っていた。早いな。全く気付かなかった。

 ……ていうか今、変なことを言わなかったか?

 

「いや、デートって彼女とは音楽性の違いとやらで別れたんじゃなかったのか?」

 

「ん? 何言ってるの? 僕達、音楽をしてないのに音楽性の違いなんか関係ないでしょ?それに別れてもないし」

 

 何を言っているのか分からないといった様子で不思議そうに首を傾げる七瀬。

 この野郎……。さっき自分が言ったことを忘れてやがる。

 音楽性の違い云々は嘘だと分かっていたが、まさか別れたのまで嘘だったとは。本当、何が嘘で何が真実なのか分からない奴だ。

 掴み所がない、というより掴んでも正体が分からないと言った方が正しい。こうなってくると生まれた時に性別を間違えられたという話は逆に真実かもしれない。

 

「おい、なな――」

 

 一言文句を言ってやろうと思ったが、そこで俺は言葉を失う。すでに七瀬の姿がなかったのだ。

 目線は外していないはずなのにいつの間に――というより、どうやって部室から出たんだ? 俺が瞬きをした一瞬の間に移動したとか漫画やアニメみたいなことが出来るとは思えないし。

 もしかして七瀬は妖怪なんじゃないだろうか? 突拍子もないが、何故か妙に納得できる自分がいる。

 

「時雨、部室の片付けよろしくね」

 

「この量を私一人で――」

 

 東堂が抗議しようとしたが、その前に部長は部室から出た。残った俺達も部長の後に続いて部室から出る。

 奈央と綾音は優しいので手伝いたそうにしていたが、俺が適当に説得して諦めてもらった。

 

 その後、校門を出たところで部長と別れて、神崎とは途中まで一緒に帰ったが書店が近付いてきたところで別れた。そういや俺も書いたい漫画があったんだけど、今日はいいか。神崎と一緒に行くのは嫌だし。

 そして俺と奈央、綾音の三人は真っ直ぐに家に帰った。




16話終了です。

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