「お前ら、もうSHRが始まるから席に着け!」
担任の岡崎が少し遅れて教室に入ってくると、チャイムが鳴っても立って友達と喋っていた連中も自分の席に座る。
そして全員の視線が岡崎の後ろにいる一人の美少女に集まる。
岡崎は教壇に立つと全員が席に座っているのを確認してから口を開く。
「え~、前から言っていた通り今日は転校生を紹介する。じゃあ、黒板に名前を書いてもらえるかな?」
「分かりました」
奈央は返事をすると『風上奈央』と黒板に自分の名前を書く。
黒板に書かれた名前を見て勘のいい奴は「……風上?」と首を傾げている。
「今日から皆さんと同じ教室で勉強させてもらう風上奈央です。よろしくお願いします」
奈央が丁寧に頭を下げて挨拶すると野郎共が立ち上がって騒ぎ立てる。
「うぉぉぉっ! 超可愛い!」
「物凄くタイプです! 付き合ってください!」
普段からノリの良いクラスメイト達だけど今日は更にテンションが高くてうるさい。
こういうのって漫画やアニメの中だけだと思っていたけど実際にあるんだな。
「彼女はいるの?」
おい、神崎。何で彼女なんだよ。奈央は女なんだから普通、彼氏だろ。
「くそっ! 女だったか! これでジュースを奢らないと駄目になったじゃないか! 今月ピンチなのに!」
一人の男子生徒が頭を抱えて残念がっている。
おい、余計なこと言うな。もし賭けのことがバレたら参加していた俺まで怒られるんだぞ。
「ちなみに私はこのクラスにいる風上秀二お兄ちゃんの妹です」
奈央が周りの空気を一切気にせず宣言するかのように言うと、さっきまでのが嘘みたいに教室がシーンと静まり返る。
……これ、絶対に嵐の前の静けさってヤツだよな。
だって皆、一瞬固まったと思ったらギギッと機械みたいな動きで俺の方を見てきたのだから。
隣の席の綾音も同じことを考えているのか、すでに耳を押さえている。
「えぇぇぇぇぇっ!? どういうことなの!?」
「お前、妹がいたのか!?」
「秀二、本当にこんな可愛い妹がいたのか!?」
さっきとは違い女子も参加しているので単純に二倍(このクラスは男女の人数がほとんど一緒)の騒がしさだ。
あまりの勢いにどう対応していいのか困るほどだ。
他のクラスから文句がくるんじゃないか?
「お前ら!静かにしろ!他のクラスに迷惑だろうが!」
岡崎が怒鳴って注意するもクラスメイトはとまらない。
さすがに岡崎も我慢できなくなったのか教壇をドンッと力強く叩いて低い声を発する。
「……静かにしないとどうなるか分かっているんだろうな」
極道映画に出てくる役者よりも激しい凄みに皆は体を震わせながら席に座る。
本当に教師かと疑いたくなるほどのオーラだ。漫画とかでよくある裏の人間だと言われても信じられる。
岡崎は大学の時に空手で日本一になったという経歴を持つ化け物でこの学校の誰も逆らえない。
俺はボクシングをやっていたので前に調子に乗って岡崎に逆らったことがあるが、その時は一瞬で保健室送りにされた。
教師が生徒に暴力を振るっていいのかと思ったが、怖すぎてツッコむ気にもなれなかった。
ちなみに岡崎の担当教科は体育じゃなくて何故か物理だ。運動だけじゃなくて頭も良いらしい。
キーンコーンカーンコン。
「ん?もうSHRは終わりか。お前ら、転校生が気になるも分かるが、ちゃんと授業に集中しろよ!」
それだけ言い残して岡崎は教室から出ていった。そして奈央は何事もないかのように空いている俺の後ろの席に座る。メンタル強すぎだろ。
その後、一時間目の国語の先生がやって来たが授業は何の問題もなく静かに終わった。
一時間目が終わるとクラスのほとんどが俺の周りに集まってきた。どうやら国語の授業中に落ち着いたらしい。
落ち着いて騒がしくなるってのも変な話だが。
「で、本当に奈央ちゃんは風上くんの妹なの!?」
「どうなんだよ!?」
くっ……。周りがうるさくて数学の宿題に集中できない。
この後の休み時間もこの調子だったら間違いなく間に合わない。早くどうにかしないと。
でも俺自身も状況をよく理解していないんだ。こいつらが満足する説明を出来るとは思えない。
助けを求めようと隣の席を見ると綾音も同じように質問攻めにあって困っていた。何で俺の問題なのに綾音まで質問攻めされているんだ?夫婦だと認識されているからか?
後ろの奈央は喧しい連中に丁寧に対応している。よく初めてでこいつらの相手をマトモに出来るな。思わず感心してしまう。
とか思っていると不意に気になる質問が聞こえてきた。
「風上くんと奈央ちゃんって兄妹なんでしょ? 何で同じ学年なの?もしかして飛び級?」
ああ、特に気にしてなかったけどそう言えばそうだな。
でも別に兄妹で同じ学年って珍しいけど絶対にないって訳じゃないし。
「お兄ちゃんが四月生まれで、私が三月生まれなの。だからほとんど一歳違うけど同じ学年なのよ」
まぁ、普通に考えたらそうだよな。て言うか、それ以外の理由があるのだろうか?
日本に飛び級はないし(もしかしたら一般には知られていないような特別な学校ならあるかもしれないけど、少なくともこの学校にはない)。
今思い出したけど、そろそろ俺の誕生日だったな。……って今日じゃねぇか!
完全に忘れていた。
そういや昨晩は綾音がコソコソ何かしていたような気が……。もしかして俺のサプライズパーティーの準備でもしていたのだろうか?
ふと綾音の方を見ると俺が気付いたことに気付いたのか焦った顔をしている。
ここは知らないふりをするのが優しさというヤツだろう。
そう言えば俺の両親は毎回忘れずに誕生日には帰ってくるか、無理な場合はプレゼントを送ってくれるのに朝に電話がきた時は何も言っていなかったな。
もしかして妹がプレゼントというオチじゃないだろうな? そんなプレゼント聞いたことないぞ。
その後の休み時間は他のクラスの連中もやった来て(俺に対する質問攻めじゃなくて美少女の転校生が見るのが目的だったが、事実を知ると結局俺に質問をしてきた)ずっとこの調子だったので数学の宿題は間に合わず怒られることになった。
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