斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな!   作:モブ@眼鏡

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滑り込みアウトなので初投稿です。




アサシンくん限界オタク説

 

 

 アサシンが聖杯戦争に参戦した目的とは。これは非常に単純な答えに終始する。

 

『強い奴と戦ってみたい』

 

 本来、そのような願いがアサシンに生ずる余地はない。アサシンの本体たる怪鳥は狂気じみた渇望によって飛翔を継続している。つまり怪鳥本体の大願は成就されているためだ。

 

 そもそもからして召喚されるメリットがなく、触媒もない。というか英霊ですらない存在なのだから、冬木の聖杯戦争で召喚することは不可能だ。

 

 だが、如何なることか。事実としてアサシンは、人間(せんし)としての自我を現し、武人としてサーヴァントとなった。佐々木小次郎という殻を纏って、おおよそそのように(・・・・・)振る舞うのだから、恐ろしい違和感が付きまとう。

 

 だが、一旦そこは置いておこう。重要なのは、このアサシンという自我が召喚されたという特異な一点である。

 

 燕返し、巌流。勿論そんな剣術を体得したわけでもないアサシンは、単に手慰みとして開眼した奥義から、その秘剣を擬似的に披露することを可能としていた。だから『佐々木小次郎』として召喚された、というのは実に都合がいい話で、実際のところは裏があるのだ。

 

「あぁ、気に入らぬ。折角オレが殺してやったというのに───」

 

 なんだってそう生き汚ねぇんだてめえらはよォ。

 

 アサシンの口調が、恐ろしげな男のものに変わった。地の底から心胆を震わせる、鬼のような声に。

 

 怪鳥は今なお生きている。渇望のままに飛翔する。聖杯は、その人間性を残滓とはいえ欲したのだ。それは何故か。

 

 明快な答えが一つある。

 

 聖杯は、悪を成就せねばならないのだ(・・・・・・・・・・・・・)

 

 そのために、衛宮士郎を依り代とする惨めな神霊を殺す必要があった。だから、歴史の中に隠された最悪の神殺しを貴重なリソースを割いてまで呼び出したのである。たとえそれが、流星の尾のような、剥がれ落ちる人間性の残滓に過ぎなかったとしても、その価値はあると断じた。

 

「む、いかん、いかんな。どうにも曖昧だ。戻り始めたか(・・・・・・)?」

 

 独り言を空に溶かすアサシンは、いよいよ剣呑な雰囲気を隠さなくなっていた。今、その身はあらん限りの殺意に満ちている。

 

「ご苦労だった。アグラヴェイン卿、トリスタン卿」

 

「ハッ、では下がります。陛下、ご武運を」

 

「出番が少なくて私は悲しい……」

 

「ふっ、許せよトリスタン卿。どうやら貴卿はアレと相性が悪いようだ」

 

 退去する円卓の騎士に、アルトリアは淡い笑みをこぼす。その間も油断は禁物、と警戒だけは欠かさなかった。

 

 さて、ここで漸く再起動を果たしたのが慎二である。口を動かす前に、気絶したライダーに軽く魔力を流して気つけを施すと、急いで防御姿勢を整えた。

 

 万が一でもここで死んだら桜がどうなるか、分からない慎二ではなかった。死期は近いが、死ぬのは桜の未来が安堵されてからと誓っているのだ。

 

「ライダー、業腹だけどクソ神父は後回しだ。横槍が入った以上、逃げるか殺すかを早く決めなくちゃならない」

 

 ライダーから厳しい指摘がとんだ。

 

「多分逃げても無駄だと思いますよ? アレ、恐らく神性やそれに連なる神秘の天敵です」

 

「神性殺し? そんな大それたサーヴァントなんて、そうはいないだろうに」

 

 神殺しの逸話を持つ英霊は稀だ。それこそ、真なる神霊の弑逆を達成した存在ともなれば、それは人間ではなく人智を超越した怪物である例が多い。神を殺すのは同格以上の存在に限られるのが常識である。

 

 だが、例外があるとしたら。それが、取るに足らない人間だとしたら。吹けば消える、灯火のような生命だとしたならば。

 

 果たして、それはどんな規格外だというのか。

 

 ライダーは理不尽に嘆く。

 

「現実にいるのですから仕方ありません。第一に、仮にもサーヴァントである私が殺気の余波で気絶する始末です。奥の手を使うならまだしも、このままではセイバーとの共闘でも倒せるか怪しいですよ」

 

「うっへぇ、そんなにかい」

 

 暴虐の果てに殺された怪物であるライダーの感覚は鋭い。数多の英雄豪傑を芥のごとく蹴散らした魔性は伊達ではないのだ。だからこそ、現状の己では太刀打ちできないことが本能的に理解できてしまう。

 

 慎二たちの会話を横で聞いていた士郎はすぐさまセイバーに尋ねた。

 

「セイバー、アレの相手はできそうか?」

 

 聞かれたセイバーは苦い顔で、しかし毅然とした姿勢を崩さずにアサシンを注視し続けている。

 

「そうですね、ランスロット卿とギャラハッド卿を召集します。それで漸く不利なテーブルに着くことができる」

 

「それほどか」

 

「恐らくは」

 

 端的だが正確な評は、士郎の中で「やはり」という既視感にも似た確信をもたらした。あまりに薄い、残滓として見る方がまだ納得のできるアサシンの狂気は、しかしこの場にいる全てを殺し尽くして余りある猛威である。

 

 それだけの埒外が、ほぼ己のみに殺意を向ける事実に心胆が凍りつく錯覚すら覚える。だがそれを表に出せば憑依側の動揺を見抜かれて一瞬で斬り殺されるだろう。

 

 その戦慄をおくびにも出さず、士郎はアサシンを睨み返した。

 

 不快げなアサシンが異形の長刀を構えて口を開く。

 

「相談事はそこまでにしてもらおう。貴様らは皆殺しだ、生かして帰さんと決めている」

 

「物騒なことだ、怪鳥の化身」

 

「ふん、神だろうがなんだろうが所詮ゴミクズだろうが。その分際で我が飛翔を妨げたのだ。とりあえず死ね」

 

 殺意を滾らせるアサシンは、もはや根切りの意思を隠そうともせずに嗤った。

 

 冷静を欠けば、隙はあるか?

 

 士郎は自問した。無い、というのは当然で、このアサシンという武の怪物は、精神的にも完成している。

 

 それは一端の人間としてサーヴァントになったアサシンが奥義を開眼するほどに卓越した戦士であることから、精神的な要素が行動に反映されないことを如実に示している。

 

 だが、どうだろう。今のアサシン(・・・・・・)なら、殺意が行動の間隙を生むかもしれない。ある根拠を以て、士郎は決断した。

 

 決めたのならば行動は早い。士郎は早速アサシンを挑発した。

 

「短絡的だな」

 

 嘲笑う。底が浅いと侮辱する。プライドも一丁前なアサシンの事だ。何かしらリアクションが起きるのは想定内である。

 

 アサシンは心底不愉快なようで、しかし律儀に受け答えをする。それが自らの身を蝕む毒とは知らずに、そうして吐き捨てる。

 

「そうでなくば人の身で空など飛ぶ気も起きんわ」

 

「道理だ。考えなしだからこその飛翔か」

 

 徹底的にバカにする。そうだ、冷静をなくせ。理性からの躊躇いを喪え。牙を剥けばそこには罠があるのだから。

 

「貴様に理解されたところで嬉しくはない。早々に死んでもらう」

 

「できると思うか? 異形の男」

 

 セイバーは士郎の意図を理解し、その助勢に回った。口先は王の仕事道具である。言葉を回す頭脳と共に、アーサー王は優秀極まった。

 

 徐々に苛つきを増していくアサシンが、遂に低い声で威嚇するように言葉を発する。

 

「できぬと思うか、セイバーのサーヴァント。邪魔をするなら一切を斬り倒すのみ」

 

 怒っている。冷静さは消えている。今この瞬間、アサシンは武人としてあるまじき隙を晒している。

 

 さあ、来い。しぶといならば一撃で首を落とせば問題ない。刃を振ればそこはお前の死地となる。士郎は罠を張り終え、蜘蛛のように攻勢を待った。

 

 その横で、蚊帳の外にならざるを得ない慎二が小声でライダーに言った。

 

「話についていけないねぇ」

 

「シッ! 空気読んでください慎二」

 

「ごめん」

 

 怒られた。

 

「来たれ円卓の騎士、ランスロット卿、ギャラハッド卿」

 

 号令と共に現れたるは湖の騎士と純潔の騎士。親子二代に渡って円卓最強の名をほしいままにした実力者が、音もなく騎士王の前に跪く。

 

「ランスロット、ここに」

 

「ギャラハッド、ここに」

 

 恭しい所作は洗練されていて、淀みない。敵に背を向けながらも、その警戒は殺気と混じってアサシンに突き刺さった。

 

 一呼吸、そしてアーサー王が命令を下す。

 

「ギャラハッド卿、マスターの護衛を頼みたい」

 

「御意に」

 

「ランスロット卿、貴公には私に降りかかる刃の露払いを担ってもらう」

 

「お任せを」

 

 ガシャリ、と立ち上がった二つの大鎧が唸りを上げてアサシンに向き直る。聖剣として在りし日の輝きを放つ無毀なる湖光(アロンダイト)の切っ先がアサシンの首を照準し、大地が如き圧迫感を解放したいまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)が静やかに士郎の前へ陣取った。

 

 しかし尚も、アサシンは悪鬼の形相を改めない。寧ろ、その鬼気は先程よりも増して円卓の騎士たちを圧倒した。

 

 ドスの利いた声が、静まり返った聖堂に響く。

 

「問答は終わりだ、諸共に死ぬがよい」

 

 紺碧の光が、異形の刃と化した物干し竿を包み込んでいく。魔力が収束しているのだ。

 

 脈動が胎動へ、胎動が拍動へ変化していく。おお見るがいい。あれこそは怪鳥の羽を刃としたこの世に二つとない大業物ぞ。

 

 備中青江。平安末期に現れた初代青江によって鍛えられた最後の刀にして異端の長刃は、それを家宝として受け継いだこの男がその身を羽根(やいば)としたことで肉に溶け、そして復活した。

 

 銘における空落としとは、つまり空っぽの空から落ちる怪鳥の羽こそがこの刀であることを示唆するのだ。

 

 しかしその行いは、刀身に刻まれた刀工の理念を塗り潰し、貶めた。美しくあり、切れ味よく、神すら斬り殺す至上の魔剣は、しかしただそれだけの物に堕落した。或いはその堕落をもって、空に落つ刀とされたのか。もはや誰も知るものはいない。

 

 骨をも砕くような殺意に身を晒され、しかし士郎は視る力でもってその来歴を探り、見出だした活路に確信を持って踏み込んだ。

 

「断らせていただこう。お前のような下らないものと違って、俺にはまだやることがある」

 

 ギロリと睨み合った士郎とアサシンは、互いに憎悪を込めて言葉を紡ぐ。戦の幕開けは近い。

 

「吠えたな案山子が」

 

「しゃしゃるな野鳥め」

 

 臨戦態勢。一瞬の後、剣が、盾が、羽が、人が、神が、神秘が、破壊的な衝撃を伴って激突し───。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーチャー、準備はいい?」

 

「無理はするな、マスター。これだけの騒ぎになった責任の一端は取らなければならないが、だからといって君が潰れてしまっては余りにも救われない」

 

 遠坂凛はこの冬木におけるセカンドオーナー、要は神秘側の管理者である。当然、今回の騒動の煽りを受けて、聖杯戦争後の後処理やら責任問題やらが押し寄せてくる身だ。

 

 言峰綺礼が取り成してくれるというならまだ救いはあるが、しかしその綺礼もまた聖杯戦争の管理不行き届きで恐らくは処される立場にある。まぁ、まず間違いなく凛と遠坂家は冬木のセカンドオーナーの立場を解任される事になるだろう。そこに更なる処罰が課されるかは、まだ分からない。

 

「ったく、誰だか知らないけど神秘の秘匿とか知らないレベルのバカなのかしら……?」

 

 これだけの騒ぎになりながら、幸いにも死傷者はない。いたとしても軽い打撲や捻挫程度の軽傷者だけだ。そこは唯一、救いかもしれない。もはや市民は退避し、冬木市に残ったのは魔術関係者のみ。

 

 ぼやく凛を見つめるアーチャーの表情は渋い。民間への被害を抑えるために奔走した若き当主、遠坂凛。横合いから殴り付けられるリスクを取ってすら当主として恥じぬ行いをした事実は、情状酌量の一助にはなれど、定められた有罪判決を覆す程ではない。

 

「ま、いいわ」

 

 あっけらかんとした感じで、凛は諸々の疲労やら何やらを投げ捨てた。やることは結局変わらないのだ。後の事は後で考えればいい。というか今考えたってどうしようもならない。

 

「アーチャー」

 

 自然な調子で呼び掛けて、件の弓兵は微笑んだ。

 

「狙撃準備、お願いね」

 

「了解した」

 

 命を受けたアーチャーは、黒い大弓を遥か彼方に照準した。魔力は潤沢、コンディションも最高に近い。赤い魔力の粒子が立ち上ぼり、その手に集約する。

 

 それは矢の如き、剣。

 

「まったく、いつ見てもインチキだわ、ソレ(・・)

 

 宝具。アーチャーの手に現れたのは、もはやその大半が世界から消え果てた貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)が一つ。英霊が英霊たる証にして、矜持そのもの。その形から放たれる神秘の重量ともいうべき濃密な魔力は、遥か神代の真エーテルすら連想させる。

 

「インチキとは、少し酷いのでは?」

 

「いやインチキでしょ。それが贋作だなんて、詐欺もいいところだわ……」

 

 だが、偽物だ。

 

「まぁ、なんでもいい。所詮は道具だ。結局は使い方次第さ」

 

「冗談。神代の魔剣、その贋作。しかもそれがこの世で最も真に迫った事実上の真作、だなんて。普通の魔術師から見たらタチの悪いなんて程度じゃないわよ」

 

 狙撃目標は2キロ先、中立地帯であるはずの聖堂教会冬木支部。要は言峰綺礼が居るはずの場所である。

 

「さて、マスター。あそこは中立地帯である上に、標的には君の知り合いも居るようだ。このまま狙撃してもいいのかね?」

 

 アーチャーの目視は、その内部でサーヴァント同士の戦闘が起きていることを明確に確認していた。その中には、衛宮士郎と間桐慎二の姿と、彼らが従えるサーヴァントがあった。勿論、それらと相対するアサシンのサーヴァントや、その前に交戦していた言峰綺礼も。

 

「大丈夫よ。慎二が綺礼に敵対した以上、あの胡散臭い後見人は真っ黒と見ていいわ。義理はあるけど、情なんて始めっからないのよ。聖堂教会のスタッフが騒ぎの始末にてんてこ舞いで出払ってるのも確認済み。私の知り合いについては……。まぁ、衛宮くんはともかく慎二のヤツがどうにかするわよね」

 

 視線を標的に向けたまま、アーチャーが問いを投げ掛けた。

 

「ふむ、防がれるということかね?」

 

「あー、説明が難しいんだけど、慎二の魔術ってかなり特殊なのよ……。簡単に言うと水の属性に、その中でも珍しい浸食(・・)の特性を持つ特殊系統……説明になってないわね」

 

「指揮官からの情報の共有は大事なんだがね。まぁ、ついでに彼の武器も解析させてもらった。なんとなく理解はできているよ」

 

「なら話は早いわ。アーチャー、容赦なく射って頂戴。できれば正体がよく分かってないサーヴァントを落としてね」

 

「さて、上手くいけばいいが」

 

───I am the borne of my sword.

 

改・虹霓剣(カラドボルグⅢ)

 

 引き絞られた弓から、力強く放たれた矢剣が獲物へ向けてひた走る。穿つ螺旋、破壊の虹。防ぐ術はなく、回避もまたアーチャーの神域の射によって叶わない。

 

 標的となった彼らは知るだろう。加減も手抜きもなく、最大火力が正しく運用されるその脅威を。聖杯戦争における火力担当(・・・・)と称されたクラスの、渾身の一撃は、間違いなく戦局を動かす決定打となる。

 

 状況は、潮目に入りつつあるのだ。

 

 


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