斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな!   作:モブ@眼鏡

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待ち伏せは戦場の華だよね!(島津ミーム)

 

 初めに狙撃を察知したのはセイバー、アーサー王だった。未来予知に等しいその直感が、この場にいる全てのサーヴァントを滅ぼし得る超火力を把握すると同時に、彼女の口は動いていた。

 

「ギャラハッド卿、背面防御を」

 

「御意に」

 

 あのアサシンを相手に一触即発の状況でありながら、マスターの護衛を外す選択である。士郎たちは一瞬唖然としたが、次の展開には何も言えなくなった。

 

 アーサー王に続いて強襲の気配を察知したアサシンが、既に動き出している。その凶刃が、アーサー王が口を開いた一瞬で士郎の首に迫っていたのだ。

 

「させん!」

 

 空間を跳びながら走るアサシンの剣閃を前にしてなお、ランスロットの対応は完璧だった。

 

 鉄がひしゃげるような重厚な音がボロボロの聖堂にこだまする。

 

 首元を狙う鋭い横薙ぎを、無毀なる湖光(アロンダイト)の一太刀で弾き飛ばし、空振りに上体の泳いだアサシンの心臓目掛けてその切っ先を突き出した!

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!」

 

 円卓の騎士ランスロット、その必殺の剣。あらゆる装甲を貫通する瞬間大魔力放出。

 

 本来ならば、それは聖剣アロンダイトに装填される魔力を光の斬撃に変換する対軍宝具となるはずだった。つまりビームである。しかしその真価は、ランスロット個人の絶技によって昇華されることとなる。

 

 すなわち、斬撃の当たった瞬間に蓄えられた魔力を完全に放出しきるエネルギー変換における最高効率の発露である。

 

 拡散する光の大斬撃をたった一点に集約し、発動されるはずだった大破壊の全てのエネルギーが瞬間的に破裂する。それは正しく奥義と呼ばれるに足る神技であり、以てランスロットを円卓の騎士最強たらしめたのだ。

 

 そして此度。最短最速、斬撃として放たれるはずの物を更に刺突として解放するその技は、或いはアーサー王の聖剣の1つである勝利すべき黄金の剣(カリバーン)の真名解放を彷彿とさせた。

 

 だが、それだけで終わるならアサシンというサーヴァントはこの聖杯戦争に呼ばれなどしない。

 

「裏切りの騎士、邪魔だァ!」

 

 その身が宙に溶け消える(・・・・・・・・・・・)

 

 ランスロットは目を見開いた。完全に刺さる(・・・)タイミングだった。間違いなく。だが届かない。

 

 泳いだ上体をそのままに、アサシンは宙を蹴った。そのまま消えて、渾身の刺突は空振った。放たれた光が糸の如き光線となって、天を衝いた。

 

 アサシンは鳥である。人の姿をしているが、その自負がある。宙を舞い、流れるように消えては、また唐突に現れる。それは災害に似て、しかし単なる技術であった。

 

「縮地天翔」

 

 アサシンの秘技、縮地。錯覚を利用する歩法であるはずのそれが、アサシンの魔の技を以てして奥義に早変わりする。地に足付けぬまま、宙に足を刺す(・・・・・・)異形の翼と化した。

 

「くぉッ!?」

 

 ランスロットが呻いた。アサシンの体がランスロットをすり抜けたその先には、一歩後退した士郎の首がある。

 

 アサシンの狙いは、あくまでも士郎だった。それはある種の因縁であり、憤怒である。士郎の身に宿る神霊は『隔てる者』であり、アサシンの飛翔を遮らんとした許されざる神だった。

 

 猫のように身を縮こませて士郎の目の前に着地したアサシンが、上目遣いにギロリとその顔を睨み付けた

 

「───かァッ!」

 

 裂帛の気合いと共に、アサシンは物干し竿を持ち上げた。士郎の股下から異形の刀の切っ先が伸びる。ランスロットの反転は間に合わない。急激な展開に慎二のライダーの魔眼も間に合わない。士郎本人も、斬撃に対応する姿勢が整っていない。

 

 絶体絶命の危機に、それでもまだ間に合う者はいる(・・・・・・・)

 

風王鉄槌(ストライクエア)

 

「ぬゥ!?」

 

 嵐、吹き荒ぶ。上方から叩きつけられる猛威に、アサシンは再び身を翻す。士郎の足下がアーサー王渾身の一撃に粉砕され、士郎の体はその衝撃に花弁の如く吹き飛んだ。

 

 しめて3秒間の攻防。あまりに濃密な殺し合いに、その防戦の当事者以外は動くことも出来なかった。

 

 そして一連の流れの一瞬後に、ギャラハッドは躊躇いなく、振り返ることすらせずに防御を行った。

 

いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)

 

 白亜の城塞が、破壊の虹を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

「防がれた。アレ、多分慎二じゃなくて衛宮くんのサーヴァントの方かしら?」

 

「その様だ。いやはや、まさか『改・虹霓剣(カラドボルグⅢ)』が防がれるとは。実に恐ろしい防壁だな」

 

 射撃の反動が強風を生み出し、高層ビルの屋上で轟々と渦巻いている。

 

 ケルトの大英雄、フェルグス・マック・ロイの大魔剣。螺旋虹霓剣(カラドボルグ)の破壊力をまるごと貫通力に乗せた巨大極まる矢を撃ち放ったアーチャーは、己の主人からの言葉に薄く笑う。

 

「…そういう言い方は好かないわね。貴方ならあの宝具っぽいのを無視して矢を届かせる(すべ)があるでしょうに」

 

「なに、だからと言ってすぐに全ての手札を晒す必要はない。然るべき時に然るべき札を切ることが勝負に勝つための最高効率というものだよ」

 

 呆れた、と凛が白髪頭のアーチャーをジト目で見上げた。教会を視界に収める件の男は静かに第二射を弓につがえた。

 

 アーチャーが声色を変えた。

 

「しかし一方的に攻撃出来るからといって油断は出来ない」

 

 正面からでは防がれた。では、次はどうすべきか。選択肢は幾つかあるが、赤い弓兵とそのマスターはその場に留まって第二射を放つことを選んだ。

 

 破壊の虹の次につがえるは赤原の猟犬である。防がれてなお、這い回っては標的の命を狙う死の狂犬。アーチャーは静かに言葉を続けた。

 

「もしかしたらこの一瞬で彼我の距離を詰めることの出来る卓越した戦士がいるかもしれない。迂回して狙撃地点を変える一手を見抜いて手勢を待ち伏せる軍師がいることも考えられる」

 

 たられば、というのは重要な話である。それが出来ない者に、戦場のコントロールは出来ない。その点、遠坂凛は優れた魔術師であり、頭脳を兼ね備えていた。唯一彼女に足りない経験を、伝え諭すのが彼の役目の一つだった。

 

 アーチャーの想像に、凛が冷静に返した。

 

「前者は考えてもしょうがないわ。貴方が対応できるかどうかの話だもの。まぁ、後者は私が考えなきゃならないところね…」

 

「そうだ。第二射にいずれの陣営も反応を見せない場合は、狙撃地点を移動する。大挙されては君を守りきれないからな」

 

 アーチャーは数々の戦場を単独で駆け抜けた歴戦の戦士であり、自らに出来ることと出来ないことの分別がハッキリついている。

 

 狙撃に気づいた目敏いサーヴァントが単騎で掛けてくるならばいくらでも相手のしようがある。

 

 そもそも第二射はそういった単騎駆けの猛者を釣るためだけの牽制だ。必殺の威力はその矢に秘めたが、あれ程の防御宝具を持つ相手を容易く抜けるとは初めから考えていない。

 

 だが相手が徒党を組んでやってくるなら話は別だ。相手が複数のサーヴァントであるならば、流石にアーチャー単独ではマスターの守りまで手が回らなくなる。

 

 それこそ単独行動スキルを活かしてマスターを本拠地に置いたまま動くべきなのだが、凛に提案されたアーチャーは静かにその選択を拒否した。

 

『あまり戦争というものを侮らない方がいい』

 

 無表情のまま告げられた、鉄の如く重い言葉を凛はよく覚えている。つい先日のことであり、具体的な遠坂陣営の戦略について打ち合わせる寸前の話だ。

 

 あくまでも、サーヴァントはマスターの(そば)に置くべきだと主張したアーチャーは、頑としてその論を曲げることはなかった。

 

 潤沢な魔力供給からなる一定の攻勢を維持するためとはいえ、わざわざマスターである凛がこの場にいるのはそのためだった。

 

 それは確かに納得できる理詰めの道理ではあったけれど、どこか私情のようなものが紛れ込んでいることに凛は気付いていた。

 

 アーチャーの鋼を彷彿とさせる双眼が、教会の方向を鋭く見定める。

 

「何時でも撃てるぞ。マスター、指示を頼む」

 

 矢を放つは命令によってのみ。自らを強力な兵器でもあると心得ているアーチャーは、たとえ厳しくとも凛にマスターとしての責任を自覚させる。

 

 手厳しいことだ、と頭の片隅に思い浮かべながら、赤いアーチャーの主は号令した。

 

「───撃ちなさい、アーチャー。私たちは私たちの責任を(まっと)うしなくてはならない」

 

 冬木の管理者(セカンドオーナー)、魔術師として。そしてそれ以前に一人の責任ある社会人として。

 

 そう付け加えた少女に、弓兵は悲しげに口元を歪めた。それは遠坂家の当主として立つ遠坂凛という少女の未来を思ってか、子供のまま大人としての責任を負った境遇を憐れんだのか。

 

 それでも、命令には粛々と従う。

 

「了解した、マイマスター」

 

赤原猟犬(フルンティング)

 

 チャージに要した時間は一分ほど。コミュニケーションによる戦術思考の共有を無駄なく済ませ、立ち上る赤い魔力の粒子が恐るべき矢の臨界を告げる。

 

 アーチャー驚異の第二射。最適解を常に辿りながら敵に追い縋る魔剣が、歪な矢となって放たれた。

 

 しかしまぁ、泰然としているようで気負う性質(たち)の女性だ。そう率直な主人への評を思い浮かべて、アーチャーは頭の片隅で懐かしそうに苦笑した。

 

 しかしアーチャーの冷徹な戦術思考は、片隅の感傷を一顧だにせず次の一手を考察する。

 

 高層ビルの屋上は、今や(むしろ)の如くに剣群突き立つアーチャーの"殺し間"であるが、さて…。

 

 それを分かって飛び込む者など、いるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 冬木教会の中は荒れ果てていた。強力なサーヴァントが暴れまわったのだから当たり前である。

 

 慎二が目付きを鋭くしてライダーに声をかけた。

 

「起きたね? じゃあ僕らに出来ることをしようじゃないか」

 

「まさか殺気で気絶するとは不甲斐ない…。まぁ、はい、やることはやりましょう」

 

 ライダーは苦々しい表情でセイバーとアサシンが対峙する修羅場を視界に収めた。

 

 散乱する椅子や床の破片があちらこちらに広がる中で、空間がねじ曲がらんばかりの圧力が一ヶ所に集中している。

 

 方やセイバー、そしてその騎士たち。方やアサシン、単身の魔人。そして背後では教会が崩れ落ちそうな轟音が何度も何度も響き渡っている。

 

 推定、アーチャーによる遠距離射撃。だが、ともすればトップサーヴァントをすら屠り得るその衝撃。あれほどの火力をよもや連発してくるとは思うまい。

 

 正面防御では突破されることを看破したギャラハッドが、咄嗟に宝具の真名解放を解除してその盾を振るい恐るべき魔弾を防いでいる。

 

 戦闘継続の時間制限は彼が限界を迎えるか、敵の魔弾が尽きるまでとなるだろう。

 

 じゃら、と慎二が鎖大鎌を握り直した。彼の明晰な頭脳に巡る思考は、優先順位の定義だ。

 

 言峰綺礼を仕留めきることはもはや難しい。

 

 セイバーとアサシンの激突に巻き込まれたまま死んでくれているなら嬉しいが、既にその姿を眩ましている。手傷を与えた上に、確かに気絶していたはずだが、凄まじいタフネスだ。

 

 誰の目にも止まらぬ、鮮やかな撤退だった。

 

 いや、もしやすればアサシンやセイバーは気づいていたのかもしれないが、それは些事だ。

 

「ライダー、よく聞け」

 

「…はい」

 

 では次に目を付けるべきは、何か。アサシンは間違いなく脅威であって、しかしアーサー王は見事に応戦している。不意を突かれた士郎をその的確な手腕によって防ぎ、攻勢を維持させない。

 

 つまり、単独の陣営で相手が出来るということだ。

 

 そもそも、あれ程の戦士たちの中に一般通過の怪物を差し出したところで活躍させられる気がしない。というか、アサシンがこちらに注意を向け続けているのが分かるのだ。めっちゃ殺気飛んでくる。

 

 慎二は思った。

 

 お前士郎に夢中だったんじゃないの?

 

 ひどい表現だった。

 

「ライダーお前、あのアサシンを倒せるな?」

 

「隙があれば刺せますね」

 

 魔眼、神話に語られる怪物の象徴。ライダーのそれは神々にさえ手を届かせる超抜級のものだ。アサシンを殺すならば、ライダーにはその手しかない。

 

 そしてその一手こそが、本聖杯戦争においてアサシンを殺し得る手段の中で最上の勝率を叩き出す。ライダー陣営の鬼札の一つであり、逆に言えばこれを切るなら勝つか負けるか一度きりの大勝負にもなるだろう。

 

 刺されば勝てると憮然とした調子でライダーが答えたのは、確信があるからだ。確信とは何か、それはアサシンに対魔力スキルがないということ。

 

 アサシンの身のこなしに生まれた僅かな間隙を、慎二は見逃していなかった。

 

 それは、アサシンがアーサー王の風の鉄槌を避けたその時のこと。奴は、風に煽られた(・・・・・・)のだ。無茶な姿勢からその身を翻し、無傷のまま劣勢を切り抜けたのは見事。褒めて差し上げよう。

 

 だが、悪手は悪手だ。咎めさせて貰おう。

 

 慎二はなおも続けた。

 

「よし、じゃあ次の質問。仮称アーチャーの攻撃をアーサー王の手勢が防いでいる間に、その隙は来ると思う?」

 

 ライダーは逡巡した。魔性である彼女は、その本能からか不意打ちや初見殺しの名手である。そのライダーをして、アサシンは間違いなく近接戦闘の最強格であり、その精神性も含めて磐石に見える。

 

 果たしてその隙がやってくるものか。

 

「なるほど、セイバーのマスターがしきりに挑発を重ねたのは、隙が出来る確信があったのですか」

 

「無駄なことはしない。相棒はそういう風に出来てるらしいよ?」

 

「伝聞系は信用なりませんね…」

 

 慎二が深く息を吸った。覚悟を決める時、彼は深呼吸をする癖がある。

 

「現状ではアーチャーは倒せないと判断する。僕らの陣営が単独でアーチャーを仕留めるためにセイバー陣営と分かれて行動することは出来ない」

 

「そうですね。あれだけの狙撃の腕、私の仔で距離を詰めることも難しいでしょう。そもそも不意を打って距離を稼げたヘラクレス相手とは訳が違いますから…」

 

 げんなりとした顔でライダーがため息をついた。ヘラクレスはギリシャの魔性にとって触れてはならない男だった。

 

「現状の目標はアサシンを撃破、ないしは手傷を与えること。そのためのオマエの宝具だと心得なよ」

 

「了解しました」

 

 道化のように慎二が笑った。ふてぶてしい笑みだ。

 

 そう笑うのは、辛い今を耐えるため。あの娘のために、命を尽くすと決めたのだから。

 

「いやぁ、桜を置いては逝けないね」

 

 ふ、と自分から漏れた言葉に慎二は笑う。全ては情を持ってしまった、愛おしいあの娘のために。自分に黄金の遺志を託した、父と叔父の覚悟に応えるため。

 

「縁起でもないこと言わないで下さいよ。貴方がいなくなったらあのお爺さん何するか分かったもんじゃないんですよ?」

 

 仏頂面の女が言う。ふてぶてしい女だが、こんななりでも情深く、かつては女神として崇められた女だった。

 

「分かってるよ。札の切り時くらいはね?」

 

「…はぁ、それではいけないのが何故分からないのか」

 

 呆れた様子で鎖鉄杭を握り込んだライダーは、姿勢を深くして構えた。

 

「状況は仕切り直しに近い。もう一度士郎たちの挑発がアサシンに通用するか、見物だね」

 

「通用しなければ私たち置物ですからね」

 

「世知辛いこと言うね、オマエ」

 

「怪物嘗めないで下さいよ。世知辛いことしかこの世にないと思うくらい理不尽ですよ」

 

 慎二は笑った。陽気に、余裕たっぷりに。

 

「世の中そんなもんだね。まぁ、最後に笑うのはこの僕だってことで…」

 

「そんなこと言っといて、桜が幸せに笑えるなら貴方自身にとっての地獄だって作るでしょうに」

 

「僕の幸せは桜の幸せなのさ」

 

「カッコつけてもワカメヘアーじゃダサいですね」

 

「やめろ僕は無敵メンタルじゃないんだぞ」

 

 隙を窺う女は冷静で、よくよく逸る愚かな男を諌めるものである。

 

 







 今年最初にして最後の更新。ホントはクリスマスに投稿しようと思ってた(滑り込みアウト)

 例によって推敲も何もしてない突貫だから色々ガバってる、ハッキリわかんだね。というか話進んでなくない…?(愕然)

 あ、思うところがあったので生前編削除しました。

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