斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな!   作:モブ@眼鏡

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別にオリ主が無敵とは言ってない感じのアレ

 

 崩壊寸前の言峰教会が軋む。床の上で散乱するステンドグラスの破片が、アサシンの魔剣が放つ紺碧の光を反射していた。

 

 セイバーはじっくりとその様子を眺めていた。聖剣を片手に鋭い眼光を向けながら、泰然としてどっしりと構えている。

 

 さて、コレでアサシンが平静を失ってくれると動きやすくていいのだが…。

 

 援軍は意識を取り戻したライダーだ。ライダーの援護が刺さってくれればこの魔人を仕留めるのも随分と楽になる。アサシンの手札が全て晒されたわけではない中で、早期に討伐出来るならこの聖杯戦争も楽な展開に持ち込める。

 

 厄介なのはアサシンが平静を失ったとて技が錆びつくわけではないということだ。切れ味は落ちない、鋭くなる。達人の技というのはそういうものだ。

 

 本当に姿を消す異能染みた気配遮断は高速でなんらかの手段で空間掌握と解除を繰り返すマスターが封じてくれている。だが、それはあくまで場当たり的な対処であって、永遠に封じ続けられるわけではない。いずれは対処される。

 

 ここで仕留めねば、苦しい。セイバーは素直にそう認めた。

 

 火力が必要だ。殺す程度の効率では殺しきれない。消し飛ばすまでいかなければ、この男は死なない。直感はそう訴えた。ならば、そうするまで。

 

「ランスロット、マスターの守りに徹しなさい。アサシンは私が斬りましょう」

 

「御意」

 

 セイバーが方針を固める中で、アサシンも挑発合戦の最中にライダーが動き出したことを把握していた。

 

 意識を取り戻したのは構わない。あの眼も発動する素振りを見せた瞬間に破壊すればいいだけだ。現状、ライダーへの認識はその程度のもの。

 

 そんなことより、問題となるのは目の前にいるセイバー陣営である。数は元より、質が厄介だ。少なくとも、雑に斬り込むのではランスロットに防がれる。

 

 一度空中機動を見せたのが失策だった。これはもう通じない。アレで神宿しの小僧を始末できていれば良かったが…出来なかったものは仕方がない。

 

 圏境も封じられた手札の一つだが、こちらはなんとなく変化する環境に慣れつつある。要はタイミングを合わせてやれば良いのだ。

 

「死ね」

 

 短く呟いて、滑るように動き出したアサシンが姿を消した。仙術の域に達した縮地の歩法がもたらす空間跳躍によって士郎の背後を突く。

 

 セイバーは士郎を守るように前方に構えていたため、防御は間に合わない。

 

 予備動作など無く、無拍子の隙間から魔剣が閃く。偏在する絶死の閃光は神性神秘を滅する凶鳥の狂気の具現である。

 

「くっ!」

 

 不意を突かれながらもランスロットのカバーが入る。アロンダイトの魔力放出を利用して推力を得た剛剣が士郎の首を狙った刃に割り込んだ。しかし、凶刃は数多なれば。

 

 防いだ一太刀から花が咲くように五つの剣閃が花咲くように広がり、ランスロットと士郎に襲いかかる。

 

 げに恐ろしきはアサシンの秘剣、同時偏在する閃きは多次元から呼び寄せられた刃の檻ということだ。防ぐことも避けることもままならぬ故に、必殺足りうる。

 

 そして、セイバーがその追撃を許すわけもない。

 

「はぁッ!」

 

 直後に、破壊的な魔力放出を伴うセイバーの突撃を認識して、アサシンは即座に離脱する。魔剣の檻も消え失せ、士郎は辛くも死から免れた。

 

 木片と埃が宙を舞う中で、ぬるりと剣光の残滓が尾を引いた。

 

「面倒だな」

 

「……」

 

 アサシンが苛立たち混じりに吐き捨てるのを、士郎は静かに聞いていた。

 

 この刹那の攻防の中で、士郎は逡巡を重ねた。自分の命はサーヴァントに預けて、打開策を考え続けた。現状、挑発は有効に作用している。アサシンには既に精神の乱れがある。そこから一瞬の隙さえあれば、セイバーは欠片すら残さずにアサシンを消し飛ばせる。

 

 だが、その決定的な隙を見出だせない。

 

 あと一歩、キーワードがあるはずだ。この男の狂気は激憤に似る。狂気の権化であった怪鳥の化身こそこのアサシンである。身に宿す者(カミ)が喚くのを無視しながら、思考を深くしていく。

 

「あぁ、やはり目障りだ」

 

 一方でアサシンももまた平静を保ってはいられなかった。威力偵察などという当初の目的はお空の彼方にあり、とりあえずセイバーのマスターは殺そうというくらいしか考えていない。

 

 ぶっちゃけ原作知識も忘れ去って久しい程度には時が流れたし、お気に入りのキャラを多少覚えてるだけの身である。

 

 然るに、あろうことかこの男、自分の言う『原作』でいうところの主人公たる衛宮士郎をすっかり忘れていたりする。そりゃあ最初から殺す気で動くわけだ。

 

(あーもう面倒くさいな。ランスロットは邪魔だしセイバーは言わずもがな…絶対殺してやらあクソがぁ…!)

 

 意固地になってもやることは変わらない。物干し竿を握り直して一息に距離を詰めた。

 

「手脚を削ぐのが先決か」

 

 即座に士郎のカバーに入るランスロットを見て、アサシンがもう一度空間跳躍する。

 

「なっ!?」

 

 剣閃を受け止めるべく振り抜かれたアロンダイトが空振った。ランスロットが目を見開き、アサシンは嘲笑った。

 

 ランスロットの直上に、アサシンの姿がある。異形の大刀がアサシンの急落下によって風を斬った。

 

───標的は紙一重で士郎への迫撃を防ぎ続けた騎士ランスロットだ。

 

 切っ先は肩口から心臓を貫く軌道を描き、静かに落下していく。時間が引き伸ばされるような錯覚を起こしながら、ランスロットはニヤリと笑みを形作った。

 

───もちろん、セイバーがいる以上そう上手く行かせるわけがない。

 

「甘い」

 

 セイバーは既に対処を完了している。未来予知に等しいその直感が、ランスロットの頭上へ『風王鉄槌(ストライクエア)』を解き放っていた。

 

「それも温いな」

 

 しかしアサシンも負けてはいない。奇怪な姿勢制御で魔剣を挙動させ空圧の壁を一刀の元に斬り伏せる。その勢いでくるりと身を翻して猫のように着地すると、ランスロットの剣撃が迫る。

 

「フッ!」

 

「……」

 

 ガキン、と金属の噛み合う音が一際大きく響いたと同時にアサシンとランスロットの闘志が激突した。

 

 乱舞、乱舞、乱舞。刃の暴風が両者の間で衝突する。

 

 0.3秒の攻防の中で交わされた斬撃は百を超えた。

 

「チッ、どっせい!」

 

「なんと!?」

 

 刃の隙間を縫って、強烈な蹴り足がランスロットの腹に炸裂する。鎧によって守られている故に負傷は無いが、これでランスロットが後退した。

 

 不利な姿勢からの防戦を強いられながら、ランスロットが誇る精緻の剣技を凌ぎきったアサシンが、再び迫るセイバーを認識して吹き飛ばしたのだ。

 

 二対一は危険。人間だった頃やたら乱戦をさせられた経験はアサシンに根付いていた。

 

「聖剣限定解放」

 

「すぅ、はあ」

 

 呼吸を整える。意識を集中させる。苛立ちは消えない。邪魔者を始末する時は決まって面倒ばかりだ。だが技の精彩は欠くことなく、武技は十全である。

 

 ごう、とアーサー王の聖剣が光を帯びて振り抜かれる。厄介なのは物干し竿がリーチで負けるということだ。膨大な光が刀身から溢れ出し、聖剣の間合いを何倍にも増大させている。

 

 圧倒的な魔力放出による剛剣には、アサシンをして身を翻し避けることに終始せざるを得なかった。

 

「…っ」

 

 ランスロットの復帰が近い。吹き飛ばした先から急接近する気配に、アサシンは腹を括った。

 

「ォおッ!」

 

 極光の隙間に身を乗り出して、宙を不可思議な挙動で闊歩する。聖剣の間合い6メートルを潰すための前進は、死出の旅路に等しい難行だった。

 

「……良いでしょう。勝負だアサシン!」

 

 セイバーもまたアサシンの狙いを理解していた。全力で接近してリーチを潰す。然る後に斬る。最もリスキーで、最も素早くリターンの得られる解法だ。

 

 聖剣の極光が掠める度、膨大な熱に身を焼かれる。苦痛に耐えながら、アサシンはついに聖剣の間合いの内側に踏み込んだ。

 

「応ッ!」

 

 ここしかない。

 

 魔剣が檻となり、セイバーに襲いかかる。ランスロットは己がセイバーを斬り伏せてから離脱するまで数瞬だけ間に合わない。

 

「───聖剣、再封印」

 

 間合いが縮まる。極光が消え去る。アサシンは失策を悟った。斬撃の檻を、単純な魔力放出の推力だけを纏った聖剣が一刀迎え撃つ。

 

「ッ!」

 

「ぐ、う」

 

 檻が粉砕される。規格外の魔力放出によって実現する途轍もない膂力と技量が、魔剣の秘技を退けた。

 

 だが侮るなかれ。アサシンの執念は、逆境に尚も抗い、これを打ち砕き続けた狂気そのものなれば。

 

「キィェエアアアア!」

 

 ずん、とアサシンが深く沈み込んだ。

 

 床を舐めるような低姿勢のまま駆けて、セイバー渾身の横薙ぎを潜り抜け、切っ先を腹に突き立てんと振り上げようとして───

 

「その執念がオマエの敗因だよ、アサシン」

 

「『無間結石(キュベレイ)』」

 

「───っ」

 

 その瞬間、アサシンは形振り構わず物干し竿を投擲していた。

 

 自身に迫る追撃が未遂に終わったセイバーが再び振り上げた聖剣も、無毀なる湖光(アロンダイト)の限定魔力放出でかっ飛んでくるランスロットも、未だ推定アーチャーから防戦を強いられているギャラハッドも、ぼけっとして突っ立っている士郎も何もかもを意識の外に追いやって。

 

 ライダーが魔眼を解放した瞬間に見たものは、アサシンの魔剣、物干し竿の刀身だった。

 

「ぐっ!?」

 

 認識下に、アサシンは無い。紺碧の光のみがライダーの意識を満たした。

 

 認識さえしていれば、その効果を及ぼすとされる超抜級の魔眼は、しかし神殺し、神秘殺しの魔力が放つ燐光に封じられたのだ。

 

 そして、ライダーの顔面に物干し竿の腹が直撃した。神秘殺しの力で意識を断ち切ったのだ。ただし、アサシンにとっては残念ながら、目を潰すには至らなかった。

 

 こうして即死を免れたアサシンだが、危機は去ったわけではない。即死を回避するために隙を晒した以上、その身は直近の危機に襲われる。

 

「聖剣限定解放」

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!」

 

 迫る殺意に、武器を投げっぱなした姿勢を戻す暇はない。アサシンにとって不運だったのは、セイバーの剛剣を掻い潜る為に極端な低姿勢で機動していたことだ。

 

 それでも、前方への推進力と武器を投げた慣性のまま身を振り回して身をよじらせた。不規則な挙動によってセイバーとランスロットは惑わされた。

 

 だが、苦し紛れの逃げ足なにするものぞ。

 

 それでも歴戦たる英雄たちは、怪物へ渾身の一撃を命中させた。

 

「……ぐ、ご…ぉぼ」

 

 アサシンは遂に傷を負い、血を吐いた。

 

 片腕がセイバーによって切り落とされ、左の横腹はランスロットの宝具に抉り取られていた。

 

「だがまだ死んでいない」

 

 士郎が呟いた。音が耳に届くのを待たずに二人は動いていた。

 

「ゔ、おぁア!!!!」

 

「ぐ、お!?」

 

「……むっ!」

 

 アサシンが血を吐きながら吠える。欠損など無いかのようにセイバーを蹴り飛ばし、残った右腕でランスロットの顔面を殴り飛ばした。

 

 恐るべき速度で暴れると、お得意の空間跳躍で物干し竿を拾い上げ、その場から姿を消した。

 

 凄まじい撤退劇だった。

 

 外から響く轟音を聞きながら、慎二が深くため息をついた。

 

「はぁ、ともあれ、生き残ったか…」

 

「ぐ、セイバー。俺も空間掌握を繰り返して消耗が激しいから、後は任せる」

 

「……了解いたしました。ご無理はなさらず、マスター。ランスロット、ご苦労だった」

 

「仕留めきれず、申し訳ありません。次こそは奴を斬り伏せてみせましょう」

 

 弓兵の狙撃は続いている。だが、ギャラハッドの活動限界には間に合った。次は、言峰教会からの撤退だ。

 





 ちょっと作りに納得できてないので大きく修正するかも?

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