斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな!   作:モブ@眼鏡

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ぜんぜん分からない―――俺たちは雰囲気で聖杯戦争をやっている(中)

 

 アーチャーと凜はちょっとした裏技を用いて狙撃地点を移していた。最後の狙撃から15秒、敵陣営の離脱開始は目で見てわかるほど派手だ。凄まじい速度で打ち上がる光弾2つは、間違いなくセイバーの騎乗馬である。

 

「なるほど、防御は考えないか」

 

 そう口に出しながら、内心では敵方の思い切りの良さに感心する自分がいることにもアーチャーは気付いていた。

 

 空へと射出された騎馬2頭に再び狙いを定めて、マスターの指示を待つ。仕留めるならば、その指示を待っている暇も無いのだが…。

 

「あれは撤退、よね?」

 

 視界を共有する凜は僅かに息を切らし、頬を薄く紅に染めている。冬の寒さだけではあるまい。宝具級の威力を持つ狙撃は相応の消耗を陣営に与えていた。

 

 その視線の先には空へと駆け出すセイバー・ライダー陣営がいる。さながら流星の如く魔力を放出し、空に尾を描いていた。

 

「そうだ。消耗に見合う対価を得たいなら追撃するしかないが、損切りするならここで引き下がるのも手だな」

 

 堅牢なる盾、ギャラハッド卿の防御にはついぞ敵わなかったが、それに拘泥して火力を重視し過ぎた。こうして初速で負けた以上、追撃は速度優先で必要最小限の威力を扱わなければならない。

 

 逡巡することもなく、凜は即答した。

 

「冗談。狙撃地点(ここ)を整えるのに何十億掛かったと思ってんのよ。しかも全部で7ヶ所よ?」

 

 負けん気の強そうな、勝ち気な笑顔で魔術師は笑った。そういう女性(ひと)だったな、とアーチャーも薄く微笑んだ。

 

「ハハハ、では追撃に移る。そして、基本方針もこちらに寄ってきたサーヴァントを叩くということで変わりない、だな?」

 

「えぇ、とにかく目立って一騎でも多く誘き寄せられればこっちのもんよ」

 

 巨大な剣を矢へと変えて、弓につがえる。剣の銘は螺旋虹霓剣(カラドボルグ)。丘3つを斬り裂いたアルスターサイクルの豪傑フェルグス・マック・ロイの魔剣。魔術世界では堕ちたる神格、その破片とも伝えられる破壊の力は、本来広域に作用する爆弾とも言い換えられるだけの規模を持つ。

 アーチャーはこの破壊力を一極集中させ、指向性を与えることで狙撃用の矢として用いた。

 

 目標は、急速に霧と雲に覆われつつあった。あちらのマスターによる魔術か、或いはセイバーが優れた魔術師でも呼び出したか…。

 

「一射が限度だな。三射くらいは出来るかと思っていたが…」

 

 アーチャーの鷹の眼を以てしても、この撹乱は非常に効果的だ。純粋な視界不良に加えて、魔術的なチャフでもあり、あれほど派手だった魔力光の噴出すら、この雲霧に遮られつつある。

 

「だが、狙いは既に定まっている―――我が骨子は捻れ狂う(I am the born of my sword)

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 貫通力(或いは掘削力)重視の『改・虹霓剣(カラドボルグⅢ)』を選ばなかったのは、こちらが弾速に優れるためだ。

 

 アーチャーの手札は、まだ底を見せていない。見せてない内に出来れば大人しく仕留まって欲しい。拠点の維持運営、狙撃地点の維持、魔力供給のための補助礼装(大体宝石系統の物)、湯水の如く消えゆく資金と資源に、凜はゲロを吐きそうな想いを抱いている。

 

「えぇ、撃ちなさい」

 

「了解した。―――行け!」

 

 ドウ、と弓矢とは思えない炸裂音を響かせながら、追撃の矢がセイバー・ライダー陣営に迫る。回避運動など許さない。着弾まで、3、2、1―――。

 

 その時、アーチャーは奇妙な違和感を確認した。

 

「―――っ?」

 

 矢が、僅かに逸れた。直撃する軌道が、まるで何かに阻まれたかのようにズレて………。だが、歴戦たるアーチャーは違和感へ思考を挟むより前に次なる手を打つ。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

 矢に秘められた神秘が破壊と共に爆裂する。

 

 破壊力は十分のはずだ。盾のギャラハッドも消耗させた故に今すぐは出せまい。今この段階で彼らの防御手段は聖剣の鞘たる『遥か遠き理想郷(アヴァロン)』を携えるセイバーのみ。仮にここで札を切らせたのなら、相応の疲弊は避けられないはず。そう読み切っての手だった。

 

 だが、これは。鞘ならば分かる。一時はその格納庫をやっていたのだ。姿を現したなら間違えるはずもない。

 

 赤い爆風を切り裂いて、大した損傷もなく雲霞に消えた敵の背。その姿に、自らが考えていた物とは異なるその他の防御手段があることを、アーチャーはようやく認識した。

 

「アーチャー?」

 

「思ったより難物だな。やはり思ったようには行かないか」

 

 そう呟いて、アーチャーは凜へと向き直った。

 

「マスター、接近する敵はいるかね?」

 

「ちょっと待ちなさい………いるわ。戦車みたいなのに乗って射線切りながら近づいてくるのが一騎と、純粋にアホみたいな速度で突貫してくるのが一騎」

 

 戦車、ライダーではないのにそういうのを持ってくるのは止めて欲しいんだがな。そう心中でぼやきながら、恐らくランサーだろうと当たりを付ける。正面から当たれば絶対に勝てない以上、立ち回りは慎重にならざるを得ない。だからこそ、もう一騎よ存在はアーチャーにとって都合が良かった。

 

「三つ巴の形になるか。では、場所を移そう。まずは罠の効力を確かめなくてはな」

 

「後で仕留められなかった言い訳は聞くからね」

 

「手厳しいな」

 

「いいから行くわよ。私達の戦いはまだ終わってないんだから」

 

 凜が懐から玩具のような杖を取り出す。まさか、この礼装を扱うとは、というのはその正体を知っている者のみの話だろう。だが、それでも言いたくなってしまう。

 

「なんでさ」

 

「なんでもよ。使えるんなら使わないと勿体ないでしょうが。ほら起きなさいルビー。仕事の時間よ!」

 

 その礼装の名は、カレイドステッキ。知る人ぞ知る宝石翁の悪ふざけの賜物である。何本か存在する内の、一本は遠坂家伝来の宝物だった。

 

【えー、なんか使う頻度多くないですか?】

 

 やたらと低いテンションで喋りだした愉快犯礼装ことカレイドステッキ・ルビーは自分の性癖とは合わない使い手に不満タラタラだが、怒髪衝天の勢いにある凜にギャグ補正は流石に通じない。

 

「何のためにあんたと契約までしたと思ってんのよ。良いからやんなさいぶん殴るわよ!?」

 

【うぇー。これだから貴女に力を貸すのは嫌なんですよぉ…】

 

「まぁ、なんだ。キチンと契約を結んでいるなら構わないが、利用は計画的にな?」

 

「分かってるわよ。さっ、早くしなさいルビー」

 

【ぐぬぬ、まぁ報酬も受け取ってますし、良いでしょう!】

 

 その後の様子は、遠坂凜という魔術師の名誉のために描写を控えさせて頂く。とりあえず、彼らはその場にダミーだけを残すと空間転移の魔術を用いて別の狙撃地点に移ったということである。





中途半端な所で切りますが、後々ちょっと追加します。
皆様よいお年を!

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