斬撃増やそうぜ!お前TSUBAMEな!   作:モブ@眼鏡

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あけおめ!(遅刻)


ぜんぜん分からない―――俺たちは雰囲気で聖杯戦争をやっている(後)

 

 立ち並ぶビル群の間隙を、二頭の馬が牽く時代錯誤な戦車(チャリオット)が猛スピードで駆け抜けて行く。既にして射手の圏内であるからには、その機動は幻惑の妙を尽くす戦場のそれであった。

 

 さて、この戦車にしろ、灰色のマハ・黒いセングレンと彼らを導く御者王ロイグにせよ、全てランサーの宝具だという。縁ある者を独立したサーヴァントとして召喚する物だが、戦車と併せて一つの宝具であり、それ故に強固だ。

 

「ロイグ、跳びのタイミングは任せたぜ」

 

「応」

 

 クー・フーリンの命令に、痩身のロイグは言葉少なに応え、力強く手綱を操る。少しずつ速度が上がり、機動も激しく複雑に。遮蔽物となるビル群を縫うようにして目標へと近づいていく。

 

 ランサーのマスター、バゼットはゆっくりとグローブをはめ直す。そして二、三度手を握りしめると、深呼吸をして目を開けた。積雪には遠くとも、その予感には十分な寒さが肌を叩く。煩わしげに開けた目を細めた。

 

「接敵までは?」

 

「20秒。迎撃に併せて跳んだら後は殴り合いだな」

 

「良いでしょう。アサシンの乱入は心に留め置くように」

 

「分かってらぁ」

 

 今回の標的となるアーチャーは、先ほどまで別所の狙撃に努めていた。横合いから殴りつける形を狙って強襲する作戦だが、不安要素はやはりアサシンだった。

 

 戦闘中に漁夫の利どころか全滅しかねない相手を想定しながら、バゼットは結局前に出る事を選んだ。それしか能がない、というのもあるが、それ以上に乱入に対処する為に人手が必要だった。

 

 思い返されるのはアサシンの空間転移めいた移動術である。気配遮断状態からインファイトの距離まで持ち込まれると被暗殺の確率は跳ね上がる。

 

 戦力の喪失を最小限に収めるには、単純に腕の立つ者が複数相互監視の状態を維持するのがベストとランサー陣営は判断したのである。

 

 連なる建物の影を出入りし、射線を切りながらジリジリと距離を詰める。瞬間、その中でも一等高いビルの屋上から、閃光が迸った。

 

「ロイグ、迎撃四発だ」

 

「応。見えているぞ」

 

 光弾。アーチャーの射。短く応答。遅れてくる炸裂音。ロイグが素早く手綱を手繰ると、軍馬二頭が即応し、戦車の機動が鋭角に変じる。

 

 一発目、余裕がある。スルリと抜けた。

 二発目、まだ余裕がある。

 三発目、稲妻の如き機動は死の光弾を寄せ付けない。

 四発目、直撃コースの射が魔法のように躱される。

 

 正に人馬一体、御者王の駆る戦車は小動もしない。

 

 バゼットは回避機動に振り回されぬよう姿勢を低くし、アーチャーの狙撃位置を見据えた。

 

「本命ではないようですね」

 

「ほぉ。弓兵が決戦をお望みってわけか?」

 

 珍しいねぇ、とランサーは口角を吊り上げた。

 全力の迎撃ならばバゼットの斬り抉る戦神の剣(フラガラック)で詰めとする所だったが、祖先より受け継ぐ魔剣の絶技はまだ披露されない。

 

「それでも避け損なえば死ぬ。まぁ当たらんがな。そら、ギアを上げていくぞ」

 

 ロイグはそれが当然とばかりに宣うと、更に速度を上げるようマハとセングレンに促した。

 

 回避機動から蹂躙走行へ、鋭角から一直線に。ビル群を縫って空へと飛び出したランサー陣営が突然、急速に距離を詰める。爆発的な魔力放出が飛行すら可能にする。

 

 だが、空へと身を晒したランサーたちを狙うのは超火力を誇るアーチャーだ。急速接近に対して即座に照準を合わせたのか、極大の魔力がビル群を紅く照らし出す。

 

「あれも本命じゃねぇんだな?」

 

「そうですね。対処は―――」

 

 任せます。と続けようとすると、ロイグが割り込んだ。

 

「クー・フーリン。いつものやり方で構わんな?」

 

「応。かましてやれや」

 

 戦場の王と御者の王が軽やかに笑った。それが彼らの青春であり、日常だった。

 

 ロイグがその魔力を昂らせ、マハとセングレンが嘶く。

 

「小手調べ、と言うには力が入っているがな。まぁ、弓兵殿の顔は拝ませて貰おうぞ」

 

 弓兵の放つ魔力光が収束するのを眺めながら、機を待つ。極大の閃光が射出される。死が迫る。まだ待つ。着弾までは1秒もない。まだだ。

 

 着弾まで―――今!

 

 

「『幽冥を往く戦王の戦車(シアヴルハルバド・クー・フーリン)』!」

 

 伝説に曰く、その戦車は消える(・・・)という。

 

 クー・フーリンとロイグ・マク・リアンガヴラの死後にも両者の魂に付き従い、冥界にあってなお威容を誇ったというその兵器。

 

 閃光が、戦車のあった中空を貫いて駆けていく。

 

 炸裂は、していない(・・・・・)

 

 

 

 戦車の真名解放が行われた瞬間、バゼットは空を堕ちるかのような感覚に身を固めた。

 

「力むには早いな」

 

 ロイグがその様子を見て笑う。

 

「笑ってやるなよ、初めてならこんなもんだろ」

 

 クー・フーリンも口では窘めつつ、薄く微笑んでいた。

 

 ムッとして言い返そうとしたバゼットは、しかし眼前に広がる異様な光景に息を呑む。

 

「これ、は…」

 

 敢えて表現するならば、『海』だろうか。茫洋と、漠然と、波のように寄せては返し、揺蕩う『何か』。気を抜けばその中に溶けてしまいそうな未知の恐怖。

 

「バゼット、まずは気をしっかり持ちな。これから戦なんだぜ」

 

 どこかズレた物言いではあるが、即物的な真理である事に間違いない。腹に力を入れて前を見据えた。

 

「俺たちが生きてた頃とは様相が違うがな。ここはもう冥界、死の領域だ」

 

 クー・フーリンが言う所の冥界とは、即ち影の国である。その事はバゼットにもすぐに分かった。

 

「…つまり、現代の表現に直すなら―――虚数空間」

 

 魔術世界において、現実世界―――実数世界の裏側に存在するという可能性の大海。全てを備えながら、全てが不定形の虚数の世界。

 

 クー・フーリンの戦車に宿る神秘は、確かに姿を消す力を持つ。だが、より厳密に表現するならば、その本質は姿を消すこととは全く異なる。

 

 この戦車は潜航する(・・・・)

 

 俗に言う虚数潜行者(ファントムダイバー)。冥界なき現世にあって、幽冥の影に裏返る物。

 

 その正体はフェルグス・マック・ロイの持つ魔剣と同じく、旧き神威の片鱗。戦車の姿をした神の遺骸である。そして、その神秘を乗りこなし、乗員ごと文字通りに現実から消失する。御者の王ロイグと二頭の軍馬による絶世不抜の神技であった。

 

「クー・フーリンのマスター。すぐに浮上し、直後に弓兵と接敵する。構えておけ」

 

 時間の流れもまた曖昧なこの世界で、ロイグは全てを感覚頼りに航海する。職人芸など生易しい、一つ間違えれば永遠に戻ってこれない状況を、見事に手繰ってみせる。

 

「さぁ、ここからが本番だ」

 

 戦車が浮上する。目標はただ一つ。敵弓兵の撃破である。

 

 

 

「凛、探知は出来ないのだな?」

 

「無理。多分宝具なんだろうけど、文字通り消失してるわ。その場所だけ透過してるとかでもなく、ね」

 

 戦車が消えて5秒。すぐさま状況の共有に努めたが、分かったのはランサー陣営の完全消失のみ。つまり、相手方が撤退したわけでもない限り、ランサーの奇襲が成立する状況になった事だけだ。

 

「陣地は問題なく機能している。不利はあれど、元々それを承知で釣り出し戦術を選んだわけだが…どうする?」

 

 アーチャーの問いかけは、撤退の是非である。

 即時の詰みはない。だが不利である事には変わりない。

 迎撃が出来れば間違いなく優位。

 

 続行なら、賭けの時間になる。

 

「勿論退かないわ。レイズ一択。勝った時の利益がデカくて、負けた時の損失が命含めて全部なのよ?」

 

 高層ビルの屋上で、ファンシーな魔法少女衣装が強風に揺れる。寒いだろうに、毅然として凛は応えた。

 

「良いだろう。ではプラン通りだ」

 

 そう言うと、アーチャーは陣地を稼働させた。

 

投影開始(トレースオン)

 

 に魔法陣が広がると、周囲のビル群の屋上がそれぞれ光を放つ。もし上空から地上を眺めてみればすぐに分かった事だろう。これは魔法陣だ。

 

「じゃ、接続するわ。アーチャー、ルビー、やるわよ!」

 

「了解した」

 

【あーあー分かりましたよー。ナンデコンナメンドウナコトヲシナキャイケナインデスカー】

 

「おい」

 

【チッうっせーな反省してまーす】

 

「おい」

 

 アホなやりとりをしながらも、魔術の起動は速やかに遂行された。龍脈から汲み上げられる魔力にアーチャーが笑みを浮かべる。

 

「問題ないようだ。流石はこの地のセカンドオーナー、といった所だな」

 

「はぁ、本当はこういう用途の術式じゃないんだけど…。まぁ、ここの補強も含めて役立ってるから良いけどね」

 

【どうでもいいですけど、とりあえずいつ相手が来ても良いように防護だけは掛けときますねー】

 

 そう言うと、ルビーが勝手に魔術を掛け始める。効力は確かだが、一抹の不安は否めない。

 

「ともかく、すぐにでも敵が現れる可能性はある。いつでも動けるように―――」

 

 言い切るより前だった。虚空へと視線を投げたアーチャーが即座に投影した槍を突き出した。

 

 何事かと凛が目を向けるよりも前に、轟音が響き渡る。

 

「―――危ねぇな。なんでテメェが俺の槍を持ってやがる」

 

「君の御者をすぐにでも倒せるようにしておくためだよ、ランサー」

 

 戦車が凛の目の前を浮上(・・)する。先行したランサーを追ってすぐさま戦士が降り立った。

 

「アーチャーのマスター、遠坂凛ですね」

 

 いざ、尋常に。そう言わんとして、バゼットはジト目でその礼装を睨めつけた。

 

「なんですか、それは」

 

「…礼装だって見た目重視の時代が来てるのよ。お願いだから何も言わないでくれる!?」

 

 半ばヤケクソで、凛は吠えた。

 

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