『織斑一夏を監視せよ』
私のパソコンに映っているのは、それだけ。いつも思うが、少し丁寧にやってもいいんじゃないだろうか? こちらは死と隣り合わせの現場、あちらは冷暖房完備の会議室だ。組織というシステムはそれで成り立っているのだからそれ自体は仕方がないだろうが、もう少しくらい、下の者を気遣ってほしい。例えその組織が、秘密結社であったとしてもだ。
しかし監視とは……上も中々彼の扱いに困っていると見える。だが、それを任せられる私の身にもなってほしいものだ。男であるため周囲からの目も他のIS操縦者以上、さらに姉はあの世界最強の織斑千冬だ。下手をすればすぐにやられる。まあだからこそ、
「レイン、私だ」
「お前が電話掛けてくるなんて珍しいな、どうしたんだ?」
私のやや小さい声と正反対と言える、堂々とした声が返ってくる。彼女と話していると、任務遂行の為細心の注意払っている自分が馬鹿らしく思える。実際は私が見ていないだけで、彼女も色々と注意しているのだろうが、その声からはそんなこと微塵も感じさせないのだ。
「織斑一夏を監視せよ、と指令が来てな」
「ん? ……ああ、確かにお前なら適任だな」
彼女との協力は一年以上経っている。人の立場くらい考え方なくても言えるようになってほしいものだ。まあ、彼女と私の立場の距離は、近いようで遠い。大目に見ておこう。
「それでだ。お前は専用機持ち、私の目の届かないところの一つをカバーしてもらいたい。彼の行動を私に伝えてくれ」
「それ自体はいいが、お前が入手できない情報を、オレが伝えられるとは思わないぞ。あいつは世界初の男性操縦者だが、ただの男子高校生だろ?」
「仕事に手を抜くわけにはいかないんでな、仕方がない。そしてその質問は上に言ってくれ。私は知らん。用件はこれだけだ、それではな」
「じゃあな、頑張れよ」
電話が切れる。まったく、頑張るのは私だけじゃないだろうに。
「あ、織斑先生、おはようございます!」
「おはようございます」
私と挨拶を交わしたのは、世界最強と謳われ、さらに監視対象の姉でもある織斑千冬だ。驚くべきことだが、彼女とは同僚なのだ。その眼光は私の体を貫いてしまうのではないかと思う程鋭い。情けない話だが、初めて会ったときは1分ほど動けなかった。しかし、話せば分かる人でもあり、数ヵ月程の交流を経て、今では二人で飲みに行くこともある。因みに、酒癖がいいとは言えない。
「すまないが職員会議のせいでクラスへの挨拶には間に合わなさそうだ。代わりを頼む」
「はい、任せてください!」
「ではな」
私が了承すると彼女はすぐに職員室を出て行った。同僚ではあるが、あちらの方が多忙である。少々悔しいが、潜入先での仕事が忙しくなりすぎてもいけない。このままの関係だろう。
私が教室に入るが、生徒達の視線は集まらない。まあそうだろう。何せ目の前には世界初の男性操縦者、織斑一夏がいるのだから。だが、皆がその興味を失うまで待つわけにもいかない。私は自分の仕事の完遂を優先させてもらう。
「皆さん入学おめでとう! 私は副担任の山田真耶です!」
さあ、任務の開始だ。これからよろしく頼むよ、織斑一夏君。
……挨拶したんだ、全員無反応は止めてくれ。
最後で名前を出すようにしましたが、あらすじでバレてますよね……