EPISODE-12.5:深夏のフルアーマー教室
「はーい! ミナツ先生のフルアーマー教室~!」
放課後の模型部部室に、ミナツさんが何処からともなく着替えてきたスーツ姿で黒板に可愛らしい丸文字で、台詞の通りのことを書いてあった。
名付けて「ミナツ先生のフルアーマー教室」。
何なんだ一体。何で俺と先輩が巻き込まれなきゃなら………あだっ!?
「余計なことを考えていたら、チョーク投げですからね~♪」
「このご時世に体罰!?」
「因みにユー君限定」
「まさかの俺だけっ!?」
何なんだろう、凄く不安しか残らねぇ……って言うか「フルアーマー教室」って何だよ、聞いてて一つしか頭に浮かんでこないんだが。しかもミナツさんノリノリだし。
「それでは早速始めましょうかしら」
そう言って黒板に問題を書き始める。……問題書く意味ってあるのかよ。
綺麗な字でスラスラと問題を書き終えると、ミナツ先生がこちらに振り返る。
問題は「Q,ジムを強化する場合、どの方向へ強化すべきか答えなさい」とあった。……こんな問題、直ぐに答えられるぜ!
「はいっ!」
「あら、ユー君どうぞ」
挙手した腕を下げて、自信満々な俺はその場に立ち上がる。この問題なら絶対これで合ってる筈だ!
「ジムの弱点は可動域と火力の低さだ! ……よって強化されるべきは、可動範囲と武装の追加だ!」
俺は清々しく言い切ると、僅かな沈黙が訪れる。そしてミナツ先生は笑顔で判定を下した。
「ぶっぶ~♪ 惜しいけど残念、外れです」
「何故にっ!?」
俺はバンッと机を叩いて反論しようとするが、即座にチョークが投げられ、俺の額にクリーンヒットした。
俺は不満な態度で渋々席に座り、隣の先輩を見る。先輩はクスクス笑いつつも答えを提示してくれた。
「可動範囲は尤もと言えるけど、ミナっちゃんの場合は“装甲と火力の増強”ね」
「……………くっ」
フルアーマー教室、って本当にそう意味だったのかよ。FSWS計画に感化されたかミナツ先生。
……敢えて説明するなら、FSWS計画とは、地球連邦軍上層部が発案したガンダム用増加ウェポンシステムの開発計画のことだ。フルアーマーガンダムやフルアーマーガンダム7号機、ヘビーガンダムとかがその計画によって開発された。
ミナツ先生はどうやら「重装甲&高火力」に惹かれてしまったようだ。こうなったら誰も止められない。やるぞ、この人は。
「さて、ツクモちゃんが正解を言ってくれたので、実際に作っていきましょう♪」
「何かやけにご機嫌だな、ミナツ先生」
「まぁ、普段は羽目外せることなんてないしね」
そう言いつつ、取り出されたのは「HG ジム・カスタム」。カタログスペック上、ガンダム以上の性能を誇るらしいこの機体に何をするつもりだよ!
きっとこれからこのジムはもっと頑丈且つ屈強なジムに生まれ変わるだろう。……哀れなジムに、魂の救済を。ただし慈悲はない。
■
「まずは
サクッと十数分で仮組みを終えたジムカスは、中々にカッコいい。このままでも十分カッコいいのだが……これから重装化が始まるのか。
「この形状の上に増加装甲を加えて着脱式にするか、それとも形状そのものを変えて装甲自体を強化するか、どちらが正解でしょう?」
突然の問題に思わず驚くが、今度こそ間違えないぜ! これで合ってる筈だ!
「はいっ!」
「はい、ユー君」
俺は立ち上がって意気揚々と答える。
「答えは前者だ! 形状そのものを変える……所謂ヘビガン方式にすれば汎用性はうんと下がるし、前者と比べて重くなるからな!」
微妙な間が開いては笑顔のままミナツ先生が再び判定を下した。
「……本当は“両方”が正解なんだけど、ユー君の言ってることは正しいし、正解にしちゃおうかしら」
「よっしゃ!」
俺は正解したことに思わずガッツポーズを決める。……何やってんだよ俺。いや、少し考えれば分かるから。
取り敢えず前者の方向で改造することとなり、まずは改造に良く使うエポキシパテやプラ板、ディティールアップパーツ等を用意して、改造の構想を練ることにする。
「武装はどうするんだ?」
「良い質問ね、ユー君。まずはアレックスの腕にあるガトリングガンを、本体のジム・カスタムに取り付けます」
「……まるでシルバーヘイズ改の腕だな」
あっちは左腕だけだがな。
「腕の改造は、ユー君頑張ってね?」
「俺がやるのかよ!」
すると再びパコーンと軽い音を立てて額に当たる。しかも同じ場所に。どんな命中精度だよ。
渋々言われた通りに両腕の改造を済ませると、ミナツ先生は無地のCa○pusノートに武器のデザインを描き込んでいた。一つは斜め背後から見たジェネレータ直結式ビームキャノンだろうか。ビームサーベルの位置も考えてか、バックパック左側に装備しているみたいだ。もう一つは同じアングルからの大型ミサイルランチャーだろうか。立方体の先端に開いたハッチが見える。更には右腕部の三連装ビームライフルに、脛辺りのミサイルベイらしきものまで。……って言うかデッサン力高いなミナツさん。
「それがイメージですか?」
「正解よ。余り大胆な発想が無くてね、困ってるのよ」
「大胆な発想って、フルアーマー機体なら大口径砲とか、そんなんが良いと思いますけど?」
「“ガンプラは発想が命”よ? ……そんな陳腐な発想じゃ、ガンプラは強くなんてなれないわ。私ね、思うの。ユー君が頑張って作ってる姿を見てね、どんなガンプラになるんだろうって。私には作れる技量はあっても、それを考えられる創造力が無いもの」
ミナツさんは無理な笑顔を作りつつも俯いてしまう。時々、どこか羨ましそうな目線を向けるのは、その所為なんだな。……でも、
「――俺だって、それこそ真新しいものを思い付くなんて稀ですよ。最近はマサキやヤヤ、アイとか、皆が入ってきてくれたからこうして作れてるだけです。……確かにミナツさんの言う通り、ガンプラは発想が命、ってのは良く分かります。だって俺は“作る側”だから」
俺はすぅと一息して再度続ける。
「別に真新しくなくったって良いじゃないですか。既存のものから新しい発見をして、それを新しいものへと活かせば良いんですから。……ほら、俺の作ったこのエクストリーム/ナハト」
俺は鞄の中から
「ベースはコイツですけど、後々ファンネル系の装備を積ませてアイオスっぽくしようと思ってるんです。……そっから更に新しい姿へ変えていければって思ってます。だから、無理に新しいものを考え付かなくとも、温故知新、ってやつですよ」
「そっか――そうよね。ごめんなさい、後ろ向きなこと言っちゃって。辛気臭くなっちゃったわね」
「そうですね……ってあれ? 先輩が居ない」
俺は部室の中をキョロキョロと見回すも、やっぱり見当たらない。すると机の上に置き紙が。えーっと何々? 「お先失礼します」? ……帰ったのか。
「あらあら、帰っちゃったのね。仕方ない、ユー君と二人っきりで授業ね♪」
「………………えー」
俺は冷や汗が止まらなくなる。絶対チョーク投げ連発の予感。逃げたくても逃げれない、それがミナツ先生。
「ふ、二人っきりは勘弁してくださいって!」
「大丈夫よ、二人で仲良くガンプラを改造するだけだから、ね?」
「……不安しかねぇ」
ボソリと呟けば、何度目か忘れたパコーンと軽快な音が、部室に鳴り響く。やはり同じ所に直撃した。……チョークだけに。
「さ、くだらないジョークも程々にね? 続きをしましょう」
「はーい……んで、三連装ビームライフルは賛成しますけど、他はどうするんですか? 特にバックパック」
「そうね、ビームキャノンとミサイルランチャーの選択式にしようかしら」
「となると三ミリジョイントで簡単に取り付けられた方が便利ですね」
色々と構想を練っていく内に、武装の彼是や装甲の形状、取り付け方、エトセトラエトセトラ……ガンプラの改造話に花咲かせては五十分以上も経過するのだった。
■
あれから話している途中でガンプラ製作に取り掛からねばと気付き、慌てて用意した物を確認する。
まずは0.5ミリプラ板。装甲板や武器作成として使う。次にエポキシパテ。これは細かなパーツやパーツ複製、盛り付けと武器作成に使う。デザインナイフ。これはスジ彫り用。ディティールアップパーツ。これは「ウェアラブル・アーマー」再現用。そしてゲルシート。これは装甲への接着用。……一応このぐらいか?
俺はそれらを一瞥した後、小改造を施したジムカスを見る。
「なるべく各部位に干渉しないように、か……」
そういやジム・キャノンⅡはチョバム・アーマーっぽいものが採用されてたっけ。外れないけど。……あれぐらいなら逆に大丈夫、か?
疑問に思った為に、早速脚部と肩部の増加装甲を作成してみた。因みにミサイルベイ付き。
「可動を阻害しないくらいには削ってあるが……お、上手くいった」
ゲルシートを貼らずにまず形合わせから。少しズレが気になるものの、大方上手くいった為多少調整を加えて満足する。
今度は前腕の装甲だ。と言っても、左右で形状は違うから、大体一緒でも左右で大きく違う。因みに左腕にはグレネードランチャー、右腕には三連装ビームライフルが付く予定だ。
腕のサイズに合わせて、0.5ミリのプラ板を積層化していく。積層化する際に、粒子変容塗料で対ビームコーティングを施す。これによってある程度のビーム攻撃を防げる様にしている。他の部位の装甲もそんな感じだ。ただしミサイルベイのハッチだけは別だが。
「武器類はミナツさんがやってくれてるけど、大丈夫なんだか」
まぁミナツさんの腕を疑ってる訳じゃないが、あの人マイペースだからなぁ……。
兎に角、本体は胴体と腰回りだけだし、ちゃっちゃかやっちまうか。
私はスケッチの図を元にビームキャノンとミサイルランチャーを作っていた。本体の方はユー君が作ってくれてて、私はジャンクパーツとかを基にプラ板やパテで武器を作ってるの。ユー君は「フルスクラッチの方がやり易い」なんて言ってるけど、大半のモデラーはこっちの方がやり易いと思うんじゃないかしら。
「えっと、ガンキャノンⅡの砲身をベースに、さっき作ったこれと……これを組み合わせて……っと」
本当なら7号機のでも十分なのだけれど、やっぱりそこはオリジナルな形状でいきたいじゃない?
だからこうして製作を始めたんだけど、やっぱりイメージ通りって中々いかないものよね。ビーム・バズーカでも基に作ってみようかしら。
「確か、ジャンクパーツの中にあった筈よね……?」
がさごそと漁ってみると、意外にも二丁程ジャンクパーツになってたわね。これはツクモちゃんかしら。うふふ、グリップを折っちゃったのね。ツクモちゃんらしいわ。
「この砲身を……この小型ジェネレータに見立てたパーツにくっ付けて、っと」
見た感じビーム・バズーカのバレルに箱形ジェネレータが付いた感じかしら? 左側に設置する分には大丈夫よね。砲身は上下に動くようにして、グリップも加えちゃいましょう。後は三ミリジョイントを付けて完成ね。
お次はミサイルランチャーね。こっちは二連装大型ミサイルと四連装追尾式誘導ミサイルの複合ミサイルランチャー、と言ったところ。まだこっちの方が作るのは簡単ね。
ベースはすでに出来てるし、後は入れ物とアームだけね。
う~ん、ちょっと流石にスジ彫りに凝りすぎちゃったわね、時間かけちゃった。取り敢えずは完成したし、後はサフ吹いて、乾かして、色塗って完成ね。
「ユー君終わった~?」
「とっくにサフ吹いて、乾くの待ってるよ。ミナツさんは?」
「……今終わってサフを吹くところよ?」
「……………え」
ユー君が呆れた顔でこっちを見てきた。私、また呆れられるようなことしたかしら? それよりもサフ吹きね。
私は白いスプレー缶を取り出して、マスクとゴーグルをした後、ゴム手袋にエプロンをして取り掛かった。制服にサフが付くのは困るしね。
「――出来た!」
慎重にやった後、それぞれを乾燥させる為の段ボール箱に入れる。
これで後は乾くのを待つだけね。……ってもうこんな時間? 帰ってお夕飯作らなきゃね、今日は私が当番だし。
「ユー君、もうそろそろ帰るわよ。お夕飯作らなきゃならないから。忘れ物ないわよね?」
「ミナツさんは俺の母さんかよ」
「うふふ、ユー君はおっちょこちょいだからよ♪」
口許に人差し指を当ててウインクした私は、そのまま鞄を持って部室を後にした。当然、ユー君も慌てて私の後ろに着いてくる。……本当、可愛い弟君なんだから。
■
「ユー君、今日は何が食べたい?」
帰路に着くミナツの質問に、ユウキは唸りつつも答えた。
「うーん、ハンバーグとか」
「家に挽き肉ってあったかしら? ツクモちゃんに聞かないと」
ミナツが携帯を取り出してツクモにメールで確認を取っている間、ユウキは空を見上げていた。夕焼け空が藍色の空に染まりかけた夕暮れ時、ユウキは見慣れた筈の空を見て、ポツリと呟いた。
「…………今日は良い経験になったかもな」
「何か言った?」
隣で確認のメールを見ていたミナツがユウキの方に振り向く。
「いんや、ただちょっと、誰かと一緒に作るってのも楽しいなってさ」
「……………」
急に黙ったミナツは、ふとその足を止めてユウキを見つめた。それに気付いたユウキも、ミナツの数歩手前で立ち止まり、ミナツの方に振り向く。
「どしたの? ミナツさん」
「……ユー君ったら、嬉しいこと言ってくれるわね!」
ユウキも見たことが無いくらいの満面の笑みで、ミナツはユウキの腕を組んだ。そしてそのまま夕飯の食材を買いに、ユウキの腕を引っ張って歩くミナツだった。
「さ、帰って皆でお夕飯食べよ?」
「……あぁ、そうだな」
はい、ちょっとしたネタ回みたいに書こうと思ったら別物になってたでござる。
カミツです。
話数を見ると分かるんですが、EPISODE-12の後の話になってます。因みにEPISODE-12の最後でミナツが鞄から取り出してたガンプラが今回のジム・カスタムですw
さて次回はヤヤとマサキがメインです。何かヤヤが人気なんで、ちょっと主役張らせたかっただけなんですけどね!バトルもあるよ!
ではまた次回、ノシ