「――――――んあ?」
あれ? 俺は……寝てたのか?
気が付くとベッドに大の字で寝ており、左右にはホノカとリリカが俺の腕を枕代わりにしてスヤスヤと静かな寝息を吐いて寝ていた。実に微笑ましいが、こうすると起きれないな。
「つーても、ホノカ達を起こすわけにもなぁ……」
するとその時、「ガラガラ~」と玄関の戸を開ける音が僅かに聞こえた。この時間帯から鑑みると、誰なのかは大体察しがついた。
「ただいま~、ホノちゃんリリちゃん居る~?」
懐かしい声だと思うと同時に、ホノカ達がパチリと目を開く。するとやっぱりそのまま俺の部屋を出ては、玄関の方に駆けていく。
「「ママ~!!」」
「あら、ホノちゃんとリリちゃんたら、ユー君の部屋で寝てたの? 駄目よ、お兄ちゃんが帰ってくるまで綺麗にするって、約束でしょう?」
「でも、でも~」
「今日は特別なんだ~!」
「……?」
玄関から聞こえてくる二人の言葉に対して、疑問符を浮かべたのは俺の母さん。ホノカに似た銀髪赤眼の美人さんだ。余談だが、因みに俺とリリカは父さん似ってわけだ。
ドア越しに覗いてみると、纏わり付く二人に笑顔を振り撒きつつ、母さんはそのまま台所に向かっていった。
それを見て、俺はどのタイミングで出ようかと考えてると、ホノカとリリカがまたしても戻ってきた。
「どうした、母さんの手伝いしなくて良いのか?」
「ママ、ユー兄ぃ帰ってきたこたに気付いてないよー?」
「このままじゃユー兄ぃご飯食べられないよー」
……何だ、そんなことか。
「今、どのタイミングで母さんの前に出るか考えてんだよ。ってか案外フツーに出てったら驚くか?」
母さんって割りと天然だし。
「よし、ちょっくら行ってくる。二人共着いてくるか?」
「「ううん、ここで待ってる」」
「そか」
俺は素っ気なく返しつつ、部屋から出て台所に向かう。台所では今日の夕飯を作ってる母さんの背中が見えた。
俺は小学校の頃、帰ってきた時のお約束を言ってみた。
「母さん、今日の夕飯なにー?」
「うーんとね、ユー君には内緒だけど、張り切ってオムライスにしようかな♪」
ラノベで言うなら、幼馴染みの女の子が振り向くが如く、母さんが笑顔で振り向く。……そういや今思うと、母さんって幼馴染みみたいな感覚だな。我が母親ながら、笑顔で振り向いた姿が可愛い。いや、そんなんじゃなくてだな。
「………あれ? ユー君?」
「おう。ただいま」
母さんは笑顔で固まる。俺は無表情で母さんの顔を見る。何だこの静寂、静かすぎて逆に冷や汗がするな。
すると笑顔のまま小首を傾げつつ、母さんは棒読みで尋ねてくる。
「ママ、帰ってくるって知らなかったんだけどなー?」
「そう妙にへそ曲げるなよ。久々に息子が帰ってきたのに喜びも無しか」
「も、勿論嬉しいわよ? ……でもね、一言ぐらい、連絡入れてくれれば良かったのに」
「ホノカ達が黙ってた所為だな」
それを聞いた母さんは、溶き卵の入ったボールを近くに置いて、嘆息しつつホノカとリリカを呼んだ。
一声ですっ飛んできたホノカ達は、若干慌ててる。声音で大体は察したらしい。流石俺っち家族、一言で何が言われるか分かるらしい。
「ママが言いたいこと分かるわね?」
「「うん」」
俺は多少藪らか棒に答えた。
「どうせ素直に言ってくれれば、好きなもの作れたのにーとか、そんな感じだろー?」
ふと母の動きが止まる。――図星か。
「コホン、取り敢えず、今度から帰ってくる際には一言私に連絡入れてね? ユー君分かった?」
「分かったよ」
結果として驚かすことは成功したが、何か逆に怒られたな。他の人から見て怒られてたのかは微妙な話だが。
とまぁ、なんだかんだありつつ俺達で料理を手伝った後、ようやく夕飯が食べられた。
「……でも母さん、俺の靴が玄関にあった筈だぞ?」
「それはママの落ち度だけども、連絡一つ入れない息子なんてママは知りません」
ツンとそっぽを向く母さんは、どことなく最近のヤヤに見えてきた。どちらもお嬢様なのには変わりないからか。
今更ながら、彼女は俺の母親の「芳堂エレナ」。名前がカタカナなのは母さんの髪質の通り外国人の血が混ざったハーフだから。元々母さんは財閥の娘だったらしいが、病弱だった体質の為に過保護に育てられ、大人になった後に父さんに出会って今に至る。結構その間に壮絶なことがあったらしいが、俺ら兄妹はそれを知らない。因みに見た目はどう足掻いても十八歳にしか見えない。
そんな母さんは俺が中々反応しないので、寂しそうにこちらをチラチラと見ていた。子供かアンタは。
「母さん、俺だって一々反応出来るほど器用じゃないぜ?」
すると一瞬にしてぷくーっと頬を膨らましては、不機嫌になった。女性の扱いって実に難しい。
そんな母さんは、一層不機嫌な様子でオムライスを食べ終えてしまった。俺も直ぐに食べ終えて、母さんの分も纏めて流し台に出した。そして慣れた手付きで皿を洗う。
「いい歳こいてなに不貞腐れてんだか……」
呆れにも近い溜め息を吐けば、
「聞こえてるんだからね!」
と母の声。そんな俺らの様子に嫌気が差したのか、妹二人は神妙だった。
「……ホノカ、リリカ、食べ終わったらお兄ちゃんが何でもしてやるから。早く食べ終えろよ?」
「「!」」
俺がそんな風に言ってみると効果があったらしく、一分も満たない内に食べ終わっていた。
妹に対してそんな態度を取ると、母さんは俺の方をまたチラチラと見ており、俺は嘆息する。
「母さんも俺の部屋に来る?」
「良いの?」
「何だよ、その子犬みたいな上目遣いは。良いからそう言ったんだろ」
「うぅ、パパだって、年頃の男の子は部屋とか入られたくない生き物って言ってたから……ね?」
もじもじと両手の人指し指をつんつんさせる仕草が可愛いのは置いといて、何だその見解は。父さんは母さんに何を吹き込んだんだ?
――それはさて置き、場所は打って変わって俺の部屋。最近女性に囲まれることには慣れてきた俺だが、唯一母さんが傍に居ると中々落ち着かない。羞恥心から来るものなのかは分からないが。
「久々のお家だからって、緊張しなくても良いのよ?」
母の頭が肩に当たり、ツーサイドアップに纏められたセミロングの銀髪が俺の肩に少し掛かる。そこから漂う香りが俺の鼻孔を擽った。ふんわりと甘いクリームのような匂いがして、俺は目を游がせる。
ベッドに座るのは良いが、母親が横から
「ユー君もパパに似てきたわね。元々パパ似だったからかしら? ……ふふ、顔立ちそっくりだものね~」
「……………」
嬉しそうに、懐かしそうに、でも悲しそうに母さんはそう言った。当然ながら俺はなにも返せず、ただ横で寄り掛かる母さんの感触と、俺の部屋で燥ぎ回る妹達の様子を見てることしか出来なかった。
■
翌朝、今日は早めに目覚めた。最近の習慣になってきたが、いつもと比べれば早い方だ。
因みに静岡県は――自慢ではないが――朝食を食べる時間がかなり早い。俺っち家もそんな感じで、六時半となれば既に妹達や母さんも起きて朝食を食べてる頃。生憎今は六時で、窓辺から見える外はまだ暗い。
「……う~む、どうしたものか」
そういや今日は、カグヤは来るのだろうか。どうせ九時頃には一度神社まで行ってみようと思うし、その時に聞くか。
そんなことを考えると案外横道に逸れるもので、いつの間にかカグヤのことを考えていた。
「カグヤ、おっきくなったなぁ~」
主に胸が。
――いやいやいや、そうじゃなくて違う違う、身長とかだ。
昔はかなり低身長の部類で、小柄だったんだがあそこまで育つとは。ヘッドロック決められたら一発K.O.の自信はあるな。……だからそうじゃない!
自分は何を考えてるんだと、変な自問自答を繰り返すこと三十分。すると母さんが唐突に起こしに来た。思いっきり抱き付かれて、急過ぎたもので反応が遅れたうえに何が起こったのか把握しきれなかった。……と言うか苦しい。
「………か、母さん、胸、邪魔……」
息が絶え絶えになりつつも必要なことは言えた。母さんもそれで分かったのか、渋々離れた。何だその嫌そうな顔は。
「抱き付くんだったら腕か胴にしてくれ、その方がまだ思考が安定する」
「ホント!?」
抱き付くことを否定しなかったことに喜んだのか、母さんは嬉しそうな顔をしていた。……いや、そうじゃなくて、俺は一体何を言ってるんだ。
自分の筈なのに、何を言ってるのかサッパリになってきたぞ。
そうこう考えてると、母さんが俺の服の裾を引っ張ってきた。何か妙にその仕草が可愛い。……俺は母親になんて感情を抱いてるんだ。そろそろ自分を殴りたくなってきたぞ。
「朝御飯冷めちゃうから早く行こっ?」
笑顔でそんなこと言われたら即行くしかないじゃないですかヤダー。
何だよ何だよ何だってんだよ、このちょっと歳上の幼馴染みは! 俺の幼馴染みなんて巫女と歌手とお嬢様しか居ねえぞ? ……それでも十分おかしいけどさ!
「母さん」
「なぁに? ユー君」
「俺をぶん殴ってくれ」
「へっ!?」
俺の隣で結構大袈裟に驚く母さん。いきなり息子に「殴れ」って言われた母親なんて、きっと世界で数えるぐらいだろう。そんなことは今関係ない。
だがそこは母さん、息子を殴るなんて出来る筈もなく、若干俯いてしまう。
「……うん、今のは俺が悪かった。最近頭がイカれてるのは分かってるから。
「どんなクラスメイトさん!?」
再び大袈裟に驚く母さん。今日は疲れるだろうな、きっと。いや多分、絶対。
そんなこんな寒い廊下で何をコントしてるんだと思いつつリビングに向かう。そこには既に朝食を待つ妹達が居た。
「おはよう二人共」
「おはよー、ユー兄ぃ」
「おはよう、ユー兄ぃ」
「さぁ、朝御飯食べましょう?」
皆で食卓に着いては「いただきます」と言って早速食べ始めた。若干冷めかけていたが、それでも母さんの料理は本当に美味しい。
「今日の夕飯は何食べたい?」
そう話題を振ってきた母さんに俺は素直に答えた。
「久々に母さんが作ったボルシチでも食べたいかな。三年間練習しても、母さんのボルシチみたく上手く出来ないし」
「そんなことないよ、ママだって失敗することあるもの。……えーっと、河童の川流れってやつね。でもユー君のリクエストならママ張り切っちゃおうかな♪」
謙遜気味に答えつつも、楽しそうに振る舞う母さんに俺は苦笑する。
「母さんも仕事忙しいんだから、あんまし無理してほしくないんだがな」
「大丈夫、いざという時の貯金もあるし、ユー君が居てくれれば、ホノちゃんリリちゃんを任せられるしね」
「それに過保護なお姉様が居るから大丈夫よ」と付け加えた母さんは朝食をいつの間にか食べ終えていた。……あの叔母さんは、あれはあれで苦手なんだが。
俺も直に食べ終えて、改めて見支度を終えた母さんの見送りをする。
「えへへ、ユー君のお見送りもなんだかんだ三年ぶりだね♪」
「そうだな。さっきも言ったけど、あんまし無理しないでくれよ? 俺やホノカ達が心配するし」
「うん、ありがとねユー君。それじゃあ行ってきます!」
「おう! 行ってらっしゃい!」
笑顔で母さんを送り届けた後、ホノカ達のとこに戻る。すると食器洗いは自分でやってたのか、二人共手が濡れてた。
「ほらほら、そんな手で走り回るなよ~?」
「タオルどこー?」
「洗面所にあるだろー!」
「無いよユー兄ぃ」
「はぁ!?」
リリカの一言に俺は洗面所に行く。ホントだ、無い。
俺は仕方なく昨日畳んで乾かした洗濯物の中からタオルを一枚取り出して、それでホノカ達の手を拭かせた。
「ねぇユー兄ぃ、僕達暇だよ~」
「ユー兄ぃ、遊んで~?」
「しゃーねぇなぁ……」
端から見たらシスコンとか言われるのがオチだが、実際にこう言われると断れないのが現状だろう。現実とは非道なものよ。
……とか思いつつ、俺の部屋に戻ってくる。何をしようかと考えていると、ふとガンプラが目に入った。父さんが昔、俺に作ってくれたガンプラ――デルタガンダムだ。それを見てると懐かしくなり、ベッドの下に何故か溜め込んであったガンプラの箱を、複数個取り出した。いくつかは
そこへ二人も丁度やって来て、俺は折り畳み式の小さなテーブルを取り出す。それを部屋の中央に置いて、その上にガンプラを置いた。
「あ! ガンプラだ!」
ホノカの反応にちょっと微笑む。
「あぁ、これはHGUC デルタプラスだ。あそこに飾ってある金色のガンダムの量産機みたいなものかな」
「パパが作ったってユー兄ぃが言ってたやつ?」
「そ。これからこのデルタプラスをにーちゃんと一緒に作るんだ」
それを聞いて二人共、笑顔で俺にすり寄ってくる。そんな二人を見て唖然としてると、二人が勝手に箱を開けてしまう。
「ユー兄ぃは僕と作るんだ!」
「ユー兄ぃはリリカと作るの!」
今度は意見が対立してしまう。そこで啀み合いに発展しかけるが、俺は苦笑混じりに渋々もう一つの箱を取り出した。デルタガンダム、デルタプラスと来たら、もうこれしかない。
「ほい、HGUC ガンダムデルタカイだ!」
そのパケ絵をまじまじと見つめる2人は、どうするか悩んだ。そこで俺は「コホン」と軽く咳払いすると、案の定二人がこちらを不思議そうに向く。そんな二人に俺は補足を促した。
「デルタカイはどっちかと言えばデルタプラスよりも火力が高い。……だがその反面デルタプラスは汎用性はあってデルタガンダムの特徴を色濃く継いでる。色は同じじゃないけどな」
それを聞くや否や、二人はそれぞれの箱を手に取った。ホノカはデルタカイ、リリカはデルタプラスだ。
しかし二人は不満気な顔をする。まだ足りないのか家のお嬢様は。
「「この機体、金じゃない!」」
「そこかっ!」
意外性を突いてくるとは思わなかったが、そうか、金か……そこは塗装で何とか出来るから大丈夫だな。
「それなら、にーちゃんが何とかしてやるから安心しろ」
「ホントに?」
「リリカの分もやってくれるのー?」
「ああ!」
その直後に二人共ジャンプしながら喜びあってた。妹に甘過ぎるとか言われてはいるが、こんなに可愛いと甘くせざるを得ないだろう。親バカならぬ兄バカだと罵られようが俺は構わん。
それに妹達に塗料の臭いはキツすぎる。使う塗料が塗料なんだが、結局は俺がやるしかないんだ。
「さて、二人共パッケージを開けて中身を確認しようか」
そう言って、二人はパッケージから袋に包まれたランナーを取り出した。
書いていてユウキが羨ましいと思ってしまった私は敗者です。どうも、カミツです。
でも妹がいるとどうしても過保護気味になってしまうんですよね……(←そうなってる人
しばらくはユウキメインの話になると思います。ヤヤは出てこれないんだ、残念無念。
と言うわけでしばらくガンプラバトルの話も薄くなってしまうのでご了承を。
ではまた、ノシ