ガンダムビルドファイターズ アテナ   作:狐草つきみ

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EPISODE-31:悩みの種は突然やって来る 前編

 朝九時を過ぎた頃だろうか。俺は未だに布団の中に篭もっていた。このまま明日にならないかと何度も願いながら。

 危機感と言うのはふと唐突にやって来る。そんなことに縁がなかった俺が言うのもアレだが、案外恐ろしいものだ。

 例に上げるとすれば、地区大会の待合室であった一件がそうだろう。あの時ノックもせずに入ったのは普段の癖故、と言うのは言い訳か。取り敢えず、前触れもなくやって来るものなのだ。

 

「お邪魔します」

 

 慎ましやかな透き通った声が僅かに聞こえてくる。

 今日はやけに早いな、と思いつつ、これは嫌な予感がするぞ、と本能的に思っていた。

 今すぐ窓から逃げるべきだった。しかしそんな隙すら与えてくれないのがカグヤなんだと、最近知った。

 

「ユウキさん、失礼しますね」

「……………」

 

 ドアの向かい側からカグヤの声が聴こえるも、俺は無言で返す。

 それを肯定と受け取ったのか、ガチャリと普通に入ってきた。そのままベッドに引き篭もる俺の側までやって来ては、掛け布団の裾を掴んで引っ張り始める。

 負けじと俺も食い付いてまで引っぱり返すが、弓と真剣を扱う彼女の腕力には勝てず、俺の抵抗も空しくあっさり負けた。

 布団を引き剥がした彼女は、それはそれは輝かしい笑顔を振り撒いて、ベッドの上でだらしなく大の字になる俺を見下ろしていた。

 

「どうかお引き取り願います」

「もう、起きるのが遅いとお母さまから伺ったのでカグヤ、態々起こしに来ました!」

「帰れ!」

 

 俺が全力でそう言うが、子供っぽく不貞腐れるカグヤがそうそう簡単に引き下がる筈も無かった。

 

「前々から憧れてたんです。幼馴染みの彼女が、好きな男の子を起こしに来る毎日……カグヤ、憧れてたんですよ」

「お前の憧れているものが何となく分かったが、生憎俺はお前の彼氏でもないだろうが!」

「ケチはいけませんよ、子供っぽいユウキさんも好きですが、そこは譲れません!」

 これはダメかと嘆息した俺は、ゆっくりと体を起こした。

「……今日は本当は来てほしく無かったんだよ」

「ど、どうしてですか!」

 

 目を見開いて驚くカグヤに、俺は後頭部を掻きつつ答える。

 

「どうしてもこうしても、ツクモ姉ぇ達が来るんだよ」

「……()?」

 聞き返すカグヤにただ俺は頷く。

「模型部の部員全員な」

 

 ポカンと口を開いて呆けるカグヤに、俺は再び嘆息する。

 目を幾度か瞬きさせたカグヤは、唐突に俺の両肩を掴んできた。

 

「でも大丈夫です! ユウキさんには私が居るんですから! 他の女に(なび)くなんてことは無いですよね?」

「いや、俺はお前に靡いた覚えも無いからな」

 

 さらりと突っ込んでおくと、カグヤは相当ショックを受けたように顔を青くして項垂れる。だが直ぐに顔を上げては何処からともなく梓弓を取り出して構え始めた。

 

「ゆ、ユウキさんを奪う女は……この弓で射貫いて……」

「お前は何がしたいんだ」

 

 取り敢えず片っ端から人を殺しかねないカグヤを落ち着かせていると、玄関からインターホンの音が響く。

 瞬時に訪ねてきた人物が脳裏に浮かび、俺は力無く言った。

 

「丁度来ちまったみたいだな」

 

 仕方ないという風に、溜め息を吐くと同時にベッドから立ち上がると、部屋のドアから顔を出して玄関の方を見る。

 ホノカが待ちに待ったと言いたげに玄関へ向かっていたから多分問題はないだろう、多分。

 ドアを閉じて俺は再びベッドの上に座り込む。するとカグヤも嬉々として隣に座り込み、俺の肩に寄り掛かるようにして微笑んでいた。

 

「ふふっ、ユウキさんの匂いは相も変わらず良い匂いですね。カグヤは嬉しいですよ♪」

「俺はあんまり嬉しくないんだがな」

「何か言いました?」

「いや、言ってない」

 

 俺は両手で顔を覆い、どうしようもないこの事態をどう乗り越えるべきかと考えた。

 俺がカグヤの好意を知ったのはつい先日。俺の居ない間に何があったのかはともかく、好きなのは分かった。

 その好意の深度が何処まであるかは知らないが、一度会わせたら剣呑な雰囲気になるのは明白だろう。

 

「カグヤ、一度ツクモ姉ぇ達の様子見てくるから、ここで待っててくんね?」

「良いですよ、でも他の女とイチャラブはダメですからね」

 

 笑顔のまま了承してくれたカグヤに感謝しつつ、俺は部屋から出ることが出来た。

 こっからが正念場だ。気を引き閉めなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーの家に来るのはいつぶりかしら? それくらい年が経ってるわね。

 今回は模型部皆で来てみたけれど、皆の反応が見ていて面白いわねー。これはラッキーかも。

 

「ツクモちゃん本当にお久し振りねぇ~。そう言えばこの前の大会優勝したんでしょう? おめでとう!」

「えへへ、ありがとうございます。でも、正直勝てたのはそこのマサキちゃんのお陰なんです」

 

 私はそう言ってマサキちゃんに視線を向ける。ロシアンティーを美味しそうに飲むマサキちゃんは、私達の視線に気付いてカップをお皿に置いた。

 

「私は大したことなんてやってません。純粋にゲームを楽しんでただけですから」

 

 ニコリと微笑んだマサキちゃんに、ユーのお母さん――つまりエレナさんが首を横に振った。

 

「そういうことに全力で取り組めるのは、おばさん凄いと思うな~。ユー君と似た者同士かしら?」

「へっ!?」

「あー、確かに」

「ツクモ先輩までっ!?」

 

 あわあわと慌てるマサキちゃんを弄りながら笑っていると、台所に向かったエレナさんが冷蔵庫からケーキを取り出してくれた。しかも丸々ワンホール。

 それを持ってきてはテーブルの上に置いた。

 

「……あのー、これは?」

「うん? それのお祝いの為に作ったケーキよ? 皆で食べましょう?」

「良いんですか?」

「んふふ~♪ おばさん張り切って作っちゃったのよ。食べてくれると嬉しいなぁ~」

 

 笑顔で勧めてくるエレナさんに圧されつつ、その間にお皿をちゃっかり用意していたホノカちゃんが、包丁を片手に持っていた。

 

「わーいケーキだ!」

「こらこらホノちゃん危ないですよ。ママがちゃんと人数分切って上げるからお貸しなさい。……あとユー君とカグヤちゃんを呼んできて? 当分出てきそうにないから、引っ張り出しちゃいましょう」

「はーい!」

 

 エレナさんとホノカちゃんがそう言い合っている間、私達の頭上には疑問符が浮かんだ。

 そんな時、ホノカちゃんと入れ替わるようにユーが部屋に入ってくる。ジャージ姿のユーは寝癖を直さずにこっちへ来たらしく、何時ものイケメンっぽさは何処へやらだった。

 

「あらユー君、ようやく起きてきたの? ケーキ皆で食べるから着替えてきてね」

「いや、カグヤから逃げてきたんだが」

「大丈夫よ、もう少しでホノちゃんがカグヤちゃん呼んでくるから」

 それを聞いた途端、ユーは脱兎の如く駆け出して、部屋に戻っていった。

「何だったんだか」

 

 私達は皆首を傾げながらユーの奇行を不思議に思ったのだった。

 

 

 

 

 

 俺はカグヤのことを話そうとしてリビングへ向かうと、直ぐ様部屋へと駆け出す。まさか来て数秒で戻ることになるとは思わなかったぜ。

 しかし物事はそうそう頭の中で引いた図面通りにはいかないもの。ましてや人が胸の内に秘めた思惑など、容易に解るものではない。

 俺が戻ると既に、ホノカは部屋の中に入っていた。

 

「カグ姉ぇ、皆でケーキ食べるんだって! カグ姉ぇも一緒に食べようよ!」

「ケーキ……ですか? 別に良いですよ、行きましょう」

 

 そんな会話が聞こえてきて俺はガックリと項垂れた。もうだめだぁ……おしまいだぁ。

 俺が四つん這いにして萎れていると、廊下に出てきた二人にばったり遭遇する。いやまぁ当然と言ったら当然なんだが。

 

「……どうしたのユー兄ぃ?」

「ユウキさん、どうかなさいました?」

「いや、何でもない」

 

 ふらりふらりと立ち上がり、俺はそのまま部屋に入って着替える。部屋着にさっさと着替えると、俺はそのままリビングへと再び向かった。

 そこには既に美味しそうにケーキを頬張るマサキ達が居た。

 

「はぁ……何かもう逃げたい」

 俺の呟きが聞こえたのか、側でケーキ食べていたマサキが俺に振り向いた。

「あ、ユー君。……逃げたいのは山々だろうけど、大人しく座ったら?」

「そうだな」

 

 俺がカグヤとマサキの間に座ると、カグヤが笑顔で俺の分のケーキを差し出してくれた。

 

「はい、ユウキさん、あーんです」

「いや、自分で食べられるから」

「恥ずかしがらなくて良いんですよ、はい、あーんです」

「むぐぐぐぐぐ……」

「く・ち・を・開・け・て・く・だ・さ・い!」

 

 意地になって口を開けずにいると実力行使で開けてこようとする。そんな終わる気配のないいたちごっこに皆は思わず吹き出していた。アイとツクモ先輩は特に。

 カグヤもまた、皆に釣られてかクスリと吹き出してしまい、俺はその間にカグヤからケーキの乗った皿を奪い返す。

 

「取った!」

「あっ!」

 

 何とか取り返した俺はケーキを一口頬張る。やっぱり母さんお手製のケーキは美味い。

 皆食べ終える頃にはいつの間にか談笑しており、俺は杞憂だった心配にふうと溜め息を吐いた。

 

「えへへ~、もうワンホール作ったんだけど……食べる?」

『……………』

 

 母さんが何時もの笑顔で何時もの調子で言ったが、まさかもうワンホールも作っていたとは。それを聞いた皆は思わず静寂に包まれてしまう。

 流石の母さんもこの空気には堪えられず、段々と雲行き怪しくなってきた顔になっていき、最終的には不安気な様子になっていく。

 正直どう切り出せば良いのか分からないだけで、別に普通に切り出せば言い話なのだが……やっぱりそこは人間、切り出し難いのだろう。俺もそうだ。

 そこで母さんは何を血迷ったか、拳を頭にコツンと当てて、

 

「作りすぎちゃった♪」

 

 と舌をちょっぴり出してそう言った。

 それを聞いた俺らの心境はただ一つ。

 

(母さん(エレナさん)可愛えぇぇぇぇ!!!)

 

 ただそれだけ。思わず息子である俺までそう思ってしまった。母親相手に何を考えてるんだ俺は。

 しかしこのままじゃ色々マズいと感じて、こうなりゃ自棄だと切り出した。

 

「よし、食べようか、もうワンホール」

『……うん……』

 

 全員、満場一致で同じように頷いた。何なんだよこの空気、かなり息苦しいぞ。

 今度は俺が切り分けて、それぞれのお皿に盛り付ける。紅茶も新しく入れては人数分のティースプーンとお手製ジャムも用意して、それぞれの目の前に置いた。

 するとその手際の良さを見て、ヤヤが物欲しそうに俺を見ていた。

 

「何だよヤヤ、そんな目で俺を見つめて」

 気になった俺が訊ねると、ヤヤは目を泳がせながら口を開いた。

「この手際の良さなら、儂の執事にでもなれば良かろうに……と思ってな」

「えぇぇー」

「なんじゃその態度は! この儂が言うておるのじゃぞ!?」

 思わず身を乗り出すヤヤに、俺は死人の様な目で答えた。

「お前の要求水準に達する執事なんざ、この世を探しても片手で数えるぐらいだろう。ましてや地獄や天国にも居なさそうだがな」

 

 俺の解答にヤヤは当然剥れた。若干我が儘なのは今も昔も変わらず仕舞いか。

 するとヤヤはボソリと何かを呟いていた。

 

「……ユウキなら、十分達してるのに……バカ……」

「何か言ったか?」

「いいや、何も言っとらんぞ」

 

 そう言ってそっぽを向くヤヤに、俺はまたしても溜め息を吐いてしまう。今日で何度目だ、この溜め息。

 俺も座ると、隣のカグヤは少し不服そうにしていた。

 

「そこの人だけズルいですよ。私とも喧嘩してください」

「お前と喧嘩すると必ず負けることは確定してるのでやめてください死んでしまいます」

 

 俺は何故か必死に土下座していた。……まぁカグヤと喧嘩すれば実力行使で負けるのは確定してるので本当に土下座しないと不味いのだが。

 俺が顔を上げるとカグヤはしょんぼりしていた。何故だ。

 

「……夫婦喧嘩……一度してみたかったのに……カグヤ、ショックです」

「何を抜かすかお前は。俺とカグヤがやりあったら確実に仕留められるのは俺だぞ」

 ただでさえお前に体力が劣ると言うのに、ハンデ無しは却って辛い。

「大丈夫です、カグヤが家出するだけですから」

「結局家っちに来るだろうが」

「そうですねー」

 

 可愛らしい笑顔を取り繕って言ったカグヤに、俺はガクリと首を下げる。何のやり取りをしてるんだ俺達は。

 俺とカグヤがそんなやり取りをしている間に、何時の間にやらホノカがマサキとゲームを始めようとしていた。

 

「お、ホノカ、ボロボロに負ける勇気があるとは中々だな」

「ま、負けないよっ! ボク絶対に負けないもんっ!」

 俺がニヤニヤしながら言うと、ホノカは強がりながらもコントローラーを強く握り締める。

「えへへ、お手柔らかにお願いね、ホノカちゃん!」

 

 彼女らがやり始めたのは「機動戦士ガンダム EXTREME VS. FULL BOOST」だ。早速対戦を始めては、ホノカはヘビーアームズ、マサキはアテナに近い形をしているエクシアに決定した。対戦内容は残念ながら省かせてもらおう。

 

 

 

 結果、三戦やって、当然の如くマサキの圧勝で終わった。

 

 

 

「ううぅ……ゆ、ユー兄ぃ」

「おーよしよし、マサキにゲームで勝とうなんざ誰も無理だって」

「ボク……弱いのかな……」

「弱くはないさ、周りが強すぎるだけだ」

 俺がホノカを撫でて慰めていると、リリカがコントローラーを握る。

「次はリリカがやるー!」

「いいよ~」

 

 今度はリリカがマサキに挑んだ。……だがこの可愛い笑顔が数分後には泣き顔に変わるなんて誰も想像できないだろう。

 マサキは変わらずエクシアを使い、リリカはガイアを選んだ。……どうして俺の妹達はそう玄人向けの機体を使うのやら。

 

 

 

 当然こちらもマサキの圧勝で終わった。

 

 

 

 大人気ないとか言いたくはないが、マサキが強すぎるのがいけないんだ。因みにリリカは既に泣き出していた。

 

「うぇぇん! ユー兄ぃ!」

「よしよしよし、リリカはよく頑張ったよ、本当に。あんな玄人向けでよくあそこまで削れたよ」

 

 うん、あんな扱いづらいとしか言いようのない機体でチート化したエクシア相手によく頑張ったよ。

 ただのゲームの筈なのに、トランザムのスピードがおかしかったぞ。ゲームの中にまで影響するのかよ。

 

「一体何を使ったらそんなチート染みた性能になるんだよ」

 俺は疑問と言えば疑問な台詞を言ってみる。

「……え? 一瞬の判断と、どれだけ早く入力を済ますかで一気に変わるよ?」

「ほ、本当に人間かよ」

 

 結構失礼な事を言ってしまったが、マサキは一向に気にせず、今度はアーケードモード遊んでいた。……機体はランダムで決めたみたいだが――

 

 

 

 

 

 

 ――流石にお前にジオングはアカンだろう。

 

 

 

 

 

 




ようやっと書き上げられました!でもかなり適当なんだ、すまない。
カミツです。

今年のバレンタイン回は来年に持ち越しつつ、実は密かに書き上げていたりする。ヤヤを思いっきりデレさせるぞ~(ゲス顔
さて次回は修羅場にもならないハーre……女子達の雑談回。最後にバトルを持ってくるかも。
そしてようやく短すぎる二章にも終わりが見えてきた。このまま早く終わらせねば(コラボが三つも残ってるからね☆

何時になったら最後のヒロインが出せるんだろう……。
ではまた、ノシ!


P.S.
今宵の礼号作戦、駆逐艦のレベリングを怠った為に苦戦している模様。ちくせう。
今ならまだ間に合う筈だ……。
くそっ、待ってろよ瑞穂!
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