レギュラーメンバーが決まった翌日、今日も皆が集まることができた。最近知ったことだけど、ツクモ先輩は歌手と学生生活とを両立させる為にオファーを少なめにしかとっていないし、アイカちゃんとミナツ先輩も同様の理由なのだとか。シャロ先輩も雑務はジンナイ先輩に押し付けてやって来ていた。
そして今、私達はカグヤちゃんの淹れてくれたお茶を飲んでは和んでいた。……部活動って何だったっけ。
和やかな空気になっているところ、今日も平常運転なユー君が、扉を乱雑に開けては遅れてやって来る。
「なんだこの
「あ、ユー君」
入室早々の言葉がそれなのには突っ込まず、私はお茶を飲み干す。
ユー君が鞄を足下に置いて椅子に座ると、カグヤちゃんがユー君の分も持ってきて手渡していた。遠慮なく飲んで一息吐いてるユー君も、それはそれで人のことを言えないのではないだろうか。
「んで、ここしばらくは予定ねーぞ」
「じゃあ何するの?」
「アテナの強化に決まってるだろ」
平然と肩肘付きながら語るユー君の言葉をスルーして、私はツクモ先輩に話を振る。
「どうします?」
「そーねぇ~」
悩む素振りを見せるけれど、素振りだけで本格的に悩んでいるようでもなかった。
しかし、しばらくして何か思い付いたように、ツクモ先輩はおもむろに顔を上げた。
「そう言えば、私の
「私……ですか?」
言われてみれば、と私はあの大会の時の台詞を思い出す。
『――過去と……トラウマと……向き合わなきゃダメなんだって』
あの時、自分で言った言葉。言ってしまった言葉。過去と、向き合わなくちゃいけない。それはいずれ訪れることも分かっていたし、いつかそうしなくちゃとは思っていた。
でも、いざ
「ええ、私にもあります。トラウマ……と言うより、ただの苦手意識なんですけど」
自嘲気味にそう言うと、ツクモ先輩は何か納得したように「あぁ~」と声を上げた。
「苦手意識……ね。なに、お母さんが嫌なの?」
「いえ、ママはとっても良くしてくれる、良いお母さんなんです。私が苦手なのは……その」
言おうとしても、何故か言葉に詰まってしまう。言うことは簡単だけど、それが私にはできなかった。
その言葉を聞いて、ツクモ先輩は意外そうな顔をしては、どう言ったものかと考え始めた。
「そう言えばカグヤちゃん」
「はい、どうされました?」
唐突に尋ねられたカグヤちゃんは、手元のビギニングガンダムをテーブルに置いてから、ゆっくり立ち上がる。
「前にカグヤちゃん、サエグサにはカグヤちゃんやシオリちゃんよりも年上の人が居るって言ってたわね?」
「は、はい。確かに言ってました。私が幼い頃、神楽の稽古をしている時に褒めてくれた人です」
ツクモ先輩の質問に、カグヤちゃんは迷いなくそう答えては、笑顔で会釈して再び座り込んだ。
満足した解答を得られたツクモ先輩は、改めて私の方を向きながら、自分なりの答えを突き付けてきた。
「つまり、マサキちゃんが苦手なのは
そっと尋ねてくる様が、私の心をじわりと蝕む。その苦しみに、私は顔を歪めてしまう。
表情で察したらしいツクモ先輩は、そっと目を閉じながら「そう」と小さく言って、その場に音も立てずに立ち上がった。
「なら、お姉さんのところに行きましょう」
「そんなっ!?」
余りに突拍子もない提案に、真っ先に私が食い付いた。無理だということが分かっていたからだ。
まさかそんなに大袈裟に反応するとは思わなかったのか、ツクモ先輩だけでなく、部室に居た全員が私に顔を向けた。無論、誰も驚いた顔だった。
「あっ、その……ごめんなさい」
一気に集まった視線に気圧され、私は癖でもないのに謝ってしまう。
「別にマサキちゃんは悪くないわ。ただそう食い付いてきたことに驚いただけよ。何でそんなに驚いたのかしら」
苦笑いしながら悪くないと言ってくれたツクモ先輩は、ちゃっかり私の言葉に対する疑問を口にしていた。
「そのあの人は、今ドイツに居るんです」
「ドイツ?」
私の発した国名に、隣のユー君が反応した。他の人も似たような反応だった。シャロ先輩は、余り良い顔はしていないようだが。
「ドイツって、そりゃまた何でだ?」
「あの人、今は大学生でドイツに留学中なの。 私のパパの実家があるし、あの人の親友もそこにいるから……」
そこで部室中がしんと静かになった。地味な圧迫感に押し潰されかけたその時、ヤヤちゃんがふと疑問をぶつけてきた。
「……お主、ハーフじゃったのか?」
「まあそうなるよね。意外だろうけど」
父親の血を受け継いでるのか疑問に持たれるぐらい、母親似だし。
すると、立て続けにアイカちゃんが同じように疑問をぶつける。
「じゃあ国籍は? 日本? ドイツ?」
「アハハ、微妙なところだね。多重国籍、なのかな」
最近の法律の改訂で、国籍の取得について大幅に改訂されたこともあって、中々に微妙なところ。グレーゾーン、と言っても過言じゃないと思う。
乾いた笑い方で答えた私は、ふと自分の過ごした時間を思い起こしながら、窓の外を見た。雲が見える青い空を見て、ドイツの空を思い出す。あの時はまだ、今のような関係じゃなかったんだ。
「それで、どうやってドイツに行くんですか?」
「ぐぬぬぬぬ……そう来るとは思わなかったわ。まさか留学中とは」
私の問い掛けにツクモ先輩は唸る。そこへアイカちゃん達が割り込んできた。
「あーでもでも、一度行ってみたいなあ、ドイツ」
「ノイシュヴァンシュタイン城は見てみたいぜ」
「ふむ、洋式の建築物も悪くないな」
「私、海外には余り詳しくないのですが、お城は一度見てみたいです!」
一年生の四人が勝手にドイツの話をし始めて、ツクモ先輩も何故か唸っていた。本当は行きたいのだろうか。
私は呆れ半分に嘆息して、最後の要であるミナツ先輩を見つめた。ミナツ先輩も見つめられて気付いたのか、優しく微笑みながらも両手を合わせてから言った。
「私はマサキちゃんに観光案内してもらいたいわね♪」
そう言うことじゃないのにぃー。
呆れを通り越しては別の感情が沸々と沸き上がってくるのを抑えて、私は落胆する。
そもそも私の問題を解決するには、どうにかしてドイツに行かなければならない。だからと言って、軽々とドイツに行ける程の時間もない。またしても八方塞がりだった。
そんな時だろうか、突然放送が流れ始める。まだ完全下校時刻でもないのに――
『一年A組の芳堂木綿樹君、二年D組の鷹野月母さん! 至急的速やかに待合室までお越しくださ~い♪』
ピクリと反応した二人は、顔を見合わせて「何事だ?」と疑問符を浮かべる。待合室と言うことは、お客さんだろうか。
慌てて立ち上がった二人は、私達だけを残して