マサキ達が部室で会話を交わしている間、学園の門前に純白のロールス・ロイス・ファントムが止まっていた。
その目立ちやすさから、やっぱりと言うか帰宅部の少年少女の視線の的となっている。
ドライバーである金髪碧眼の女性は周囲の視線を特に気にする様子はないが、助手席に座っていた女性は
「あら、これから妹に会いに行くっていうのに、フキゲンね」
「こんだけ目立つ車ならね。カナ、他の車なかったの?」
「あら740iやi8、M2ならあるけど?」
「全部B○Wじゃないの! 私はフォ○クスワーゲンの方が良いの!」
「あそこはイヤよ! お祖父様だってそう言ってたわ!」
やや訛りのある日本語と流暢な日本語で言い争われた論争はしばらく続く。数分していがみ合った二人は、最終的にそっぽを向き合うかたちで収束する。その後、助手席に座っていた女性が一つ息を吐いてからドアに手を掛けた。
「それじゃあ、行ってくるわ」
「……これで姉妹喧嘩に決着付かなかったら、困るのはアタシなんだから」
「手厳しいわね」
「何年、アンタの親友やってると思ってるのよ。いい加減、アタシ達姉妹の身にもなんなさいよね」
呆れるようにやれやれと首を振った女性に、助手席の女性はクスリと微笑み、ドアを開ける。その手には、一つのガンプラが握られていた。
■
突如放送で呼ばれて早速、部室から応接室へと急いだ俺とツクモ先輩は、ドアの前で頷き合ってからそのドアを開ける。
そこで待っていたのは、一人の女性。
非の打ち所がないと言うか、完璧と言うか、何と言うか簡単な感想しか述べられないが、シンプルな言葉の方が
そんな人物に、まさか生きている間に会えるとは、夢にも思わなかった。
元々女には余り興味がない俺すら、多分擦れ違ったら振り返る、そんなレベル。
「………美人だ」
「はぁ!?」
思わず溢してしまった言葉に、隣で口をポカンと開けていたツクモ先輩が驚く。……俺がそんな言葉を知っていたのかと言いたげな、信じられないと言う顔で。
勿論、俺もそんな言葉が漏れるとは思わなかった。
しかし、目の前の女性はそんな俺らの反応すらどこへやら、優しく微笑んでから話し掛けてきた。
「貴方達ね、マーちゃんがお世話になってるって言う子達は。お母さんの言ってた通りね」
……マーちゃん? はて、知り合いにそんな子はいただろうか、と考え込んでいると、ふと女性に何か共通点が見えた。白い肌に翡翠の瞳、そして
ツクモ先輩も同様の答えに行き着いたのか、一瞬だけ驚いた顔をしつつも、直ぐ様身構えるような顔になった。
「あら、もしかしてマーちゃんから話を聞いてたのかしら? そんなに身構えなくとも良いのよ、灯月母さん。そちらの男の子は、まだ話を聞いてくれそうね」
「ハハ、生憎そこまでお利口じゃないですよ」
彼女の言葉に首を横へ振りながら答えると、女性は「そうかしら」と呟く。だが女性の一言を聞いても構えを解かないツクモ先輩は、密かに俺にアイコンタクトしてきた。
(もしかしなくともそうよね?)
(十中八九、アイツの姉だろう)
(まさか、向こうから来てくれるなんて。旅行費が浮いたわ)
(軽口叩けるのも今の内だろうよ、なんせ相手は――)
(ええ、分かってるわ)
俺も首筋に冷や汗が流れる。たった今思い出したが、正直言ってこんなこと予想外だ。世界はこんなにも狭いのだと。
そんな彼女がやって来た目的なんて、恐らく一つだろう。
「貴女がここへやって来た目的は、やっぱりマサキですか」
「あら、話が早くて助かるわ」
「まあ、似てますからね。何となく察しただけです」
「似てる、か。私にとっては嬉しいけれど、マーちゃんにとってはどうでしょうね」
皮肉るようにそう呟いた彼女は、そのまま俺を見つめる。だが、先程の優しい目とは違う、射貫くような鋭い目だ。
ここでマサキの下へ連れて行けば、どうなるだろう。そんな時にさっきのマサキの台詞を思い出す。
『私が苦手なのは……その』
自分から言えない程にまで苦手な相手。そんな相手と無理矢理引き合わせたらきっと、マサキは逃げ出すだろう。
「マーちゃんに、会わせていただけるかしら?」
「それは無理だ、と答えたら?」
「私がその程度で引き下がる人間だとでも?」
「こちらにも譲れないものはある」
「何もタダでとは言わないわ。一つ条件をあげる。……私とガンプラバトルをしましょう。それで貴方達が勝ったなら、私が引き下がってあげるわ」
誇らしげに笑う彼女の顔を見て、俺は
「良いわ、乗ってあげる。バトルしましょう、私達と」
「あら、そうこなくっちゃね」
「先輩!?」
予想外の台詞に、俺は驚かざるをえなかった。しかし、勝手に話を進めた先輩の目は……本気だ。今から戦う相手が
「それじゃあ、改めて名乗らせてもらおうかしら」
「名乗らなくても、ガンプラバトルをしている奴なら誰でも知っていると思うんですけどねぇ」
「それでも名乗るのが礼儀よ?」
余裕ぶったその顔は、どうしようもなく綺麗で、これが彼女なのかと嫌でも知らしめてくれる。
そして彼女は勿体ぶらずに自己紹介を始めた。
「私は
それだけ言った彼女は、とんでもないことを平然と、しかもニコニコとした笑顔で話す。俺もツクモ先輩も、そのことに対してただただ息を飲むしかできなかった。
――七種令奈。今から十一年前の第四回ガンプラバトル選手権世界大会にて優勝した、最年少で「ガンプラマイスター」の称号を得た女性。彼女の優勝によって、現在の女性ファイター達があると言っても過言ではない程、彼女の存在は大きく、揺るがない不動の覇者だ。そんな彼女も名字の通り「七種家」の人間であり、次期当主と言われている。一般的に「七種」と言えば彼女を示す場合が多い。
最早ガンプラファイターである人なら、誰でも知っている周知の事実だ。最近になってマサキもサエグサの人間だと知った俺らは、何となく感付いてはいた。まぁ、ご本人を見ることになるとは想像もつかなかったが。
「俺は芳堂木綿樹。マサキのクラスメイトで、模型部の副部長をやっている」
「私は灯月母、もとい鷹野月母よ。模型部の部長をやっているわ」
「本物のツクモさんに会えるだなんて、カナに自慢できるわね」
クスクスと笑った彼女、レイナさんは
■
マサキ以外の部員全員が体育館へと集まった。当のマサキには少し寝てもらっている。その方が色々と都合が良いと判断した、ヤヤの独断行動だ。責める気はない。
そして
これから賭けるのはマサキだ。言葉だけ聞いてると人身をチップにしているように聞こえるが、そうではないことを先に言っておく。
「それで全員かしら?」
「生憎、今年設立したんでね。マサキ含めて八人しか居ないんだ」
「まあ、十分でしょう」
目をそっと閉じながらそう言ったレイナさんはケースからガンプラを取り出す。十一年経っても変わらない、その彼女の異名の由来となった機体を。
「さあ、最初に私に
先程とは打って変わる冷たい声音は、俺らにプレッシャーを掛けた。ハマーンやドズル中将達が見せたものと似た、執念のようなものを。
それに対してこちらは、俺が先頭に立った。
「まずは俺が行く。勝てるとは思ってないけどな」
「あら、男の子らしいわね。お姉さん、そう言うの好きよ」
《GUNPLA BATTLE Combatmode Start up. Mode damage level set to“A”》
初めて聞いただろうか、今回はガンプラの損傷がダイレクトに反映されるダメージレベル「A」。流石はプロだろうか、Aでもその立ち振舞いは変わらない。
《Press set your GP-Base》
GPベースがセットされ、PPSE社のロゴに続いてファイター名とビルダー名が表示される。
《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Field17, Castle》
初のバトルとなった場所は、城。大きく
《Press set your GUNPLA》
互いに機体を台座へ置き、機体データをロードさせる。これで準備は整った。後は――
《BATTLE START》
「芳堂木綿樹、エクストリームガンダム/ナハト ウラヌス・フェース! 行くぜッ!」
「七種令奈、ガンダムクロイツ。……進めッ!」
新しいフェースへ換装したエクストリーム/ナハトが宙を掛ける。打って変わって彼女の機体は、重厚感溢れる地響きを伴い、地面を抉った。
砂煙が消えると共にその機体が姿を現す。
「あれが、ガンダムクロイツ。十字架を背負った絶対王者……」
その姿はまさしく「王」。機体各所にあしらわれた十字架のデザインが、一層威圧感を醸し出している。
ただその姿に釘付けになっている間に、クロイツはその背中に背負った巨大な十字架を取り出した。
「はっ、マズッ――」
「クロイツェアヴァッフェ、フォームカノーネ」
十字架から巨大なビーム砲へと様変わりしたクロイツの武装が、こちらを捉える。だがそのトリガーを引く前に、俺が先に動いた。
「
「ハッ!」
まるで何もかもを飲み込みそうな極太のビームが、エクストリームガンダムを横切る。しかしそのビームの奔流に飲まれかけ、俺は大きく体勢を崩される。
「なんつーバカ威力だよ! 本当にガンプラかっての!」
これが兵器として運用されていたら、堪ったもんじゃねぇぞ。
地面スレスレで体勢を立て直した俺は、コンソールを押し上げて高度を上げる。少し卑怯ではあるが、仕方がない。
「シグマシス・サイコ・キャノン展開っと。粒子供給開始、フルパワーで葬ってやる」
高度上昇中にエクストリームの背部に備わったビームキャノンが展開する。砲身が上下に割れ、レールにプラズマが発生する。
「雲を突き抜けて―――反転ッ!」
フィールド上昇圏内ギリギリまで昇った俺は、機体を反転させ、真下へと向ける。高度は現実換算で約十二キロメートル、約四マイル程だ。だがその距離でもクロイツの姿ははっきりと視認できた。
「空から狙撃ってなぁッ!」
チャージが完了したのを
真っ直ぐ雲を貫いて、空を切り裂いたビームは間違いなくクロイツへ当たった。……その筈だった。
「そうね、全国だったらこのぐらいかしら。でも世界じゃ、この程度、ね」
まるでどうってことないと言いたげに、クロイツは堂々と立っていたんだ。俺の眼下に。
すると突然、フィールドの様子が一変する。色が反転し、重力が一気に増したかのようにあっさりと、エクストリームが地面へ叩き付けられた。
「なっ、今何が?」
あの距離を一瞬で移動したかのように叩き付けられた。そうなると俺の頭でも理解できない。だが機体を動かそうにも、コンソールがびくともしない。
ただ確実に分かったのは――
「残念ね、ここまで頑張れたのに」
敗北だけだ。
リメイク前より大分遅い登場ですが、真幸の姉がようやく登場。
まさかここまで次話を書くのに悩むとは思いませんでした。カミツです。
気紛れ&自己満足でヤヤ中心の番外編を書いてましたが、それはまたしばらくしたらになるかなぁ。
ではまた次回、ノシ