「何でマサキはあんなに食うのが遅いんだ」
「く、口が小さくてユー君みたいに大きく開かないの!」
「マサキさんって、小柄で可愛らしいですからね。食べてる姿も可愛らしいですよ?」
昼間のことを指摘されながら歩く放課後の道。今から向かっているのは、夜天嬢雅邸だ。因みに私は絶賛猛抗議中で、隣ではカグヤちゃんが必死にフォローしてくれていた。当のユー君はどこ吹く風だ。
それはまあ良いとして、ヤヤちゃんのお家は高台にある関係上、道程は案外遠い。特に学校からならば、一旦家へ帰ってからの方が早いのだ。更に高台へ至る上り坂は、緩やかだけど地味にカーブが多かったりするので、地味に体力が削られる削られる。体育の成績がかんぼしくない私にとって、これはほとんど心臓破りにも近い。……前にアイカちゃんと来られたのは、休み休み来たからかな。
対してユー君は言わずもがな、カグヤちゃんですら汗一つ掻いてないという始末。もう限界も近かったのか、ようやく中間って所で私は地面に膝を付いてしまった。
「うぅぅ、脚が震えるぅ……」
「おま、馬鹿力はあるのにどんだけ体力ねぇんだよ」
「……ここで立ち止まる訳にもいきませんから、私がおぶりますね」
私がへたりこんでしくしくと泣いていると、カグヤちゃんが意外なことを言っては私の前に来る。……え? おんぶするの? 私を?
有無を言わさずおんぶさせられ、私はカグヤちゃんの背中で謝っていた。
「ゴメンねカグヤちゃん、私が体力ないばかりに……」
「いえ、私にとってこれぐらいは日常茶飯事でしたから、問題ありませんよ。それにマサキさんは軽いですから」
「同姓に軽いって言われたの初めてだよぉぉぉ……」
自分でも衝撃的な言葉に、私も震え声が出てしまった。ユー君は私とカグヤちゃんの荷物を持ちながらも、私を見て疑問符を浮かべていた。
「お前、何キロだよ」
「女の子に体重聞くなんてデリカシーないね! この変態!」
「あー、うん? 何かスマン」
全く反省の色を見せないユー君に、私は後で鳩尾に回し蹴りしてやろうと誓った。ユー君は女の子に対する態度がなってない気がする。と言うか、大事なものが欠けている気がする。
そうこうしている内にも、夜天嬢雅邸の門が視界に入り、ようやく辿り着くことができた。
「相変わらず、ヤヤさん
「オイ、カグヤ。一度お前ん家の実家を歩き回ってみろ。あんな迷宮みたいな家よか狭いぞ」
「ユウキさん、昔それで迷子になって泣いちゃったことありましたね」
「あーなつか……って何で覚えてんだよそんなこと!?」
門前で何をやっているんだ、という突っ込みは置いといて、カグヤちゃんとユー君が一通り話し終えると、ユー君がインターホンを押してくれた。
『どちらさまでしょうか』
「芳堂木綿樹です、ヤヤさんはいらっしゃいますか?」
『お嬢様ですか? 分かりました、直ちに門を開けます』
インターホン越しの会話を経て、門のロックが外れて開く。中へ入ると前来たときと変わらない様子の庭園が広がっていた。そして奥にはレンガ造りの洋館。
門を潜って体力的に少し回復した私はカグヤちゃんに降ろしてもらい、自力で歩くことにする。
数分掛けて門前からドアの前までやって来ると、ササネちゃんがニコリと笑って待っていた。
「お久し振りですね、マサキ様、ユウキ様、カグヤ様。お待ちしておりましたよ、中へどうぞ」
促されつつ中へ入り、そのままササネちゃんの後に付いていく。まだ二回しか来たことのないここに慣れているわけがなく、まるで迷路だと染々思ってしまう。よく迷わないものだと感心するべきか……いや慣れたらそうでもないのかな。
「……わざわざお嬢様にお見舞いなどと、ありがとうございます」
「いやいや、自分の主になんて言い種なんですか!? ――そういやササネさん、ヤヤは風邪なんですか?」
「いえ、ただの熱です」
「熱って……こんな時期になんでまた……」
「ストレスに起因する熱でして、恐らく心因性発熱ですね」
「何ですかそれ」
いきなり言われた病名に、私もカグヤちゃんも疑問符を浮かべるけれど、病名で何となくどんなのかは察することができた。当のユー君は、あんまり理解していないみたいだけど。
ササネちゃんもそれを汲み取ってか、足を止めて笑顔で振り向きながら親切に教えてくれる。
「心因性及びストレス性ということは、慢性的または強烈な心的負荷によって起こるということです。ストレスが溜まると、交感神経に作用して働きが活発になり、体温が上昇します。この時、発熱は基本三十七度以上と決まっているので直ぐに分かるのですが……。……心因性の場合、ウイルスが原因ではないので炎症が起こらず、市販の解熱剤や風邪薬が効かないのです。よって通常の発熱じゃないと断定、簡単な心理的ストレステストをした結果、私やお医者様は心因性発熱と断定したのです。しばらく安静と言われましたので、恐らく心も落ち着けば自然と熱も下がる筈です」
「は、はぁ……」
笑顔かつ早口で捲し立てられた言葉の羅列に、ユー君も顔を引き吊らせながら曖昧な言葉を出すしかない。まあ、私も似たような心境だけど。
そうこうして再び長い廊下を歩き続けて、ようやくヤヤちゃんの部屋にまでやって来ると、ササネちゃんは「では、ごゆるりと」と一礼してどこかへ行ってしまった。
立ち尽くしているのもあれなので、私達は顔を見合わせつつ、早速部屋へ入ることにする。数回、ドアをノックすると、内側から聞き慣れたヤヤちゃんの声が聞こえた。
「入れ」
「んじゃお構いなしに失礼するぜ」
「お邪魔します」
「お邪魔します、ヤヤちゃんお見舞いに来たよ」
「ふぁっ!?」
どうやら私達が来るのが意外だったのか、ヤヤちゃんはいつもと違う格好をしながらも、驚きの様相でベッドから体を起こしていた。いつも括られている髪は下ろされ、所々寝癖らしきものも跳ねていて、少し新鮮だなとも思う。でも、ちゃっかり額に解熱用のシートが張られ、顔もハッキリと分かる程赤く紅潮していて、熱なんだなと一目瞭然でもあった。
「お前が熱なんてなぁ」
「何じゃ、信じられんか。儂とて人じゃ、熱ぐらいなるわ」
「そりゃそうだな、スマンスマン」
心外そうにヤヤちゃんが不貞腐れながらそう言うと、ユー君は茶化すように謝りつつ、近くのテーブルから椅子を三つ持ってくる。私はそろそろ脚が限界だったのもあって、持ってきてもらった椅子へいち早く座った。
カグヤちゃんとユー君がそれぞれ座ると、カグヤちゃんが単刀直入にヤヤちゃんへ質問を投げ掛けた。
「さっきメイドさんから聞きましたが……ストレスから来る熱だそうで。もしかして、この前のことですよね?」
「……まあそれも一理あるかのう」
「?」
疑問符を浮かべるカグヤちゃんに、ヤヤちゃんは窓の外へ目を移しながら答えた。
「先日、姉上がこちらへ来ると駄々を捏ねてのう……。……途中で倒れたりしないか、喘息が再発しないか、誰かに狙われないか、その他諸々の影響で眠るに眠れず……こうして熱を出してしもうたのじゃ」
「ヤヤちゃんのお姉さんって、ナナさんだよね?」
「うむ。姉上め、一体どうやって儂の居場所を……って何故マサキが知っておる」
「知り合い……だから?」
苦笑いで答えると、三人から見事に微妙な反応が帰ってきた。……お願い、その意外みたいな反応やめて! 私も偶々出会って知り合っただけなの!
かと言って、本当に信じてくれるかは分からないし……はぁ。
そこへ、ノックもなくドアが開く音がする。皆ドアの方に視線を集中させると、そこにはひょっこり顔を覗かせる――
「あれ、お話し中……だったかな?」
話題に上がっていたヤヤちゃんのお姉さんこと、夜天嬢雅七々さんが居た。
■
「ま、マサキちゃんもお見舞いだったんだ。奇遇だね」
ヤヤちゃんとは正反対、とも言えるナナさんは、相変わらず清楚な笑みを振り撒いていた。カグヤちゃんと似た雰囲気だけど、やっぱり何かが違う。
ナナさんは思い出したように茶菓子を取り出して、皆に食べるかどうかを尋ねてきた。ヤヤちゃんには、すりおろした林檎を食べさせていた。
「そう言えばナナさんは、何でこっちに?」
ナナさんから貰ったクッキーを一齧りした時、私はふと聞いてみる。
「そうね、ヤヤの様子見かな。マサキちゃんにも会いたかったから、丁度良かったわ」
「私の様子見するなら、大人しく家で安静にしていてよ……」
「あれ?」
今、ヤヤちゃんが普通に喋ったような……。
「うん? マサキ、どうしかしたの?」
「えっ? あー、いや、その……ヤヤちゃん、珍しく普通に喋ってるなぁ……なんて?」
「あっ」
『?』
そして流れる変な空気。……また私なの? また私の所為なの!?
取り敢えず何か喋ろうと思っても、ふと話題が出てこない。何か最近あったことと言えば――。
「あっ、そうだユー君」
「んあ?」
「この前来ていたお客さんの話、まだ詳しく聞いてない」
「いや、その話は良いだろ。ヤヤのお見舞い来といて話すことがそれって……」
「良いわ、聞いてみたい!」
「ナナさん!?」
突然の参入にユー君も動揺して、キラキラとしたナナさんの視線に敵わず、ヤヤちゃんの方へ視線を泳がすとヤヤちゃんは瞑目して首を横に振っていた。
大人しく降参したユー君は、仕方がなしに嘆息した。
「来たのは、【
「く、クロイツェア・ケーニゲン?」
中二病のようなその呼び名に、私は思わず疑問符を浮かべてしまう。するとナナさんは驚いたように立ち上がっていた。
「あの人が、あの人が東京に居るの!?」
「ウェッ!? ……あー、何かまた来るみたいなことは確かに言ってましたけど……」
「私も居ちゃダメかしら?」
「姉さんは家で安静にしていてください」
「ヤヤちゃんのいけず!」
いきなり訳の分からない人物の名前(?)が出てきて、それだけでもアレなのに、夜天嬢雅姉妹のキャラ崩壊が激しい気がする。何だろう……胃が痛いような。
それは意識の片隅に追いやるとして、そのドイツ語の人は何なのか。
「その人、すごいの?」
「凄いも何も、ガンプラバトル選手権世界大会優勝者の一人で、最年少のガンプラマイスターだ」
「が、ガンプラマイスター……」
また変な単語が出てきた。もうだめ、ゴールしても良いよね? ダメ? あ、ハイ。
「あー、次から次へ新しい単語がぁ~。カグヤちゃんは分か――」
頭のこめかみを抑えて唸りつつ、私はカグヤちゃんの方へ話を振ってみると、
「……ぷしゅー」
「カグヤちゃん!?」
既にキャパシティオーバーしていたらしい。そう言えばカグヤちゃんって、見た目だけは完璧そうなのに英語の授業だけやたら嫌がっていたような。
「外国語? 何ですかそれ、日本語だけ分かれば十分です。横文字なんて知りません!」
「ダメだよカグヤちゃん! もうちょっとグローバルに行かないと! ノイシュヴァンシュタイン城見たいんじゃなかったの!?」
「いーやーでーすー! カグヤは外国語なんて分からなくて良いんですー!」
「現代においてそれは死活問題だよ!」
もう会話がしっちゃかめっちゃかてんでんばらばらで、数分後には皆、ぜぇぜぇと息を荒くしていた。一体絶対、何がどうなってこうなったのか。それが分かるのはきっとこの場には居ないと思う。
やがて呼吸を調えると、ようやく落ち着きが出てきた。そう言えば、病人が目の前に居るのに、何をしていたんだろう、私達。
「ああ、【十字架の女王】か。また会ってガンプラバトルしてほしいなぁ」
そんな台詞に、ユー君が尋ねる。
「ナナさん、戦ったことあるんですか?」
「少し前に一度だけ……ね。あ、そうだ!」
懐かしげに虚空を見据えた直後、ナナさんは不意に大声を上げた。いきなりのことで、その場に居た全員が驚くのも無理はなかった。
ナナさんは、それはもう満面の笑みで私に手を差し伸べてきたのだ。
「私とガンプラバトル、しましょうか!」
「ええっ!?」
唐突かつ突飛な発想に、私は椅子に座りながらも後退ってしまう。
今、手元にはクロスアストレアしかない。因みにアテナは家のテーブルに起きっぱなしである。
「わ、私まともなガンプラ持ち合わせてなくてその」
「大丈夫よ、私のフラッグ貸してあげましょうか?」
「一つだけあるので……大丈夫です」
結局、言いくるめ……と言うより押し切られてしまった。
「マサキはもう少し押しの強さを鍛えた方が良いな」
「それを言うならヤヤもじゃねぇか?」
「押しの強さでしたら私、自信ありますよ?」
「カグヤのそれは洒落にならんから止めてくれ……」
周りが何か変な話をしているも、私は近くに置いてあった鞄から、クロスアストレアを取り出す。外での実戦としては、恐らく今回が初。その相手が、あの時一目見ただけでも相当な実力者だと分かるナナさんなら、不足はない。この機体の特性も掴めてきた。なら後は実戦するだけ。
「ヤヤちゃん、バトルルームは?」
「どうせ言っても聞かぬのであろう? 一階のエントランスホールから右側の三番目の部屋じゃ。……儂も付いていこう。……ユウキ、おんぶ」
「俺かよ!?」
「病人を一人にするとは、薄情な奴じゃのう。別に移るものでもあるまい、おんぶ」
「しゃーねーなぁ」
そう言って渋々ヤヤちゃんをおぶったユー君は、隣のカグヤちゃんから、物凄い棘のある視線を食らっていた。当のヤヤちゃんは未だ顔を紅潮させながらも、満足げに笑っていた。
私達一行は部屋を出て、真っ先にヤヤちゃんに言われた部屋へとやって来る。辿り着くと、少しひんやりとした空間で、中央には七基構成の大型バトルシステムが配置されていた。
「大きい……」
「これなら、心置きなくバトルできるわね」
そう呟いたナナさんに同調し、私は奥側の対面へと走ってナナさんと向き合う形となる。
「勝負は一回、通常の大会規定のルールに則って行うわ」
「異論無し、です」
大会規定……つまりはダメージレベルA。心して掛からないと、クロスアストレアを失う羽目になる。
照明が消え、いよいよナナさんとのバトルが始まろうとしていた。
《GUNPLA BATTLE Combatmode Start up. Mode damage level set to“A”》
バトルシステムが起動し始めた時、ふと私の耳にナナさんの言葉が届く。
「一度、貴女とは戦ってみたかったの」
「私と……ですか?」
驚く私に、ナナさんは瞑目しながら大きく頷いた。
「すごーく、単純な理由よ。貴女、とっても似ているもの」
「似ているんですか」
《Press set your GP-Base》
苦笑いしながら返しつつ、私とナナさんはGPベースをセットする。ナナさんも微笑で返しながらも、青く染まる視界の中、薄く見える天井を見つめながら言った。
「えぇ。私が、ガンプラバトルを始める切っ掛けになった人と、とても」
「ナナさんの切っ掛けとなった人……」
《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Field1, Space》
互いの顔がホログラムの壁に隠れた時、私はアテナの姿を思い浮かべる。自分が始めた、切っ掛け。やめられない、理由。私にとっての、それはきっと――。
《Press set your GUNPLA》
クロスアストレアを台座に乗せ、現れたコンソールを強く握り締める。
《BATTLE START》
「ガンダムクロスアストレアX1ヴァイスフルクロス! 七種真幸、勝利を切り拓く!」
「夜天嬢雅七々、アマテラス! 出るわっ!」
ドーモ、ドクシャ=サン。カミツ=デス。
友人の家でフルブやっていて、シュピーゲルで友人のバンシィ・ノルンに「ハイクを詠め、カイシャクしてやる(意訳」していたら友人に「ニンスレならぬガンダムスレイヤー止めろし(笑)」と言われました。やっぱりフルブのバンシィ・ノルンは死すべし、慈悲はない。けれどね、特格の連打はやめてくださいしんでしまいます(切実
今回、ヤヤちゃんだけじゃなくナナさんも登場させて書いてみました。初の姉妹対面ですが、姉妹揃っての出撃はまた別の機会に。
次回はマサキ対ナナ。前回の機体解説時には「?」で隠していた部分も明かしていきたいかなと思います。
そう言えば、先日から今日に掛けて静岡ホビーショーがあるそうで(つい先日友人から聞いて知りました(笑))、RGユニコーンガンダムや、待ち望んだガンダムビルドファイターズの特別編に登場するガンプラなどがあるとのこと。是非とも行ってくる予定ですが(殴
またビルドファイターズ界隈が賑わいそうで、二次小説も順次増えていってくれたらなぁ、と染々思います。
P.S.
気が付いたら、何気にUAが一万五千を越えていました(笑)。早くもリメイクから、約一年と七ヶ月くらいが経ちますが、拙作ながら誰かが読んでくれているということに、感謝感激の至りですね。まだまだ至らぬところばかりではありますが、これからもどうかお付き合いください。