EPISODE-55:風来のファイター
フランスの首都パリ。ヨーロッパの中でも「花の都」と称されるほど、観光名所として誰もが真っ先に思い浮かぶであろう都市。建物や街並み一つ眺めてみても、歴史を感じられる芸術的な風景に胸をときめかせることもある。
そんな芸術の街でもあるパリでも、やはりガンプラバトルは熱狂的人気を誇っていた。
「ハッ! これで十連勝!」
だから、パリのとあるガンプラカフェで意気揚々と勝ちどきを上げても、何らおかしくないのである。
見れば、バトルシステム上に転がるのは十機ものガンプラ。そして反対に直立不動の構えを取るのは、たった一機のガンダムヴァーチェであった。無論、勝ちどきを上げたのはヴァーチェのファイターである。
無邪気に勝利を喜ぶのは、十代後半に差し掛かった辺りの少年。珍しいと言われれば珍しい髪色をした、どの国の出身かも分からない特徴を持った少年であった。
その少年の傍らには一人の少女が立っており、少年の様子に呆れつつもその勝利を喜んでいた。
「やったぜルシア! これでパーツが十個だ!」
「ええ、そうね。でもまだまだ挑戦したい人が居るみたいだけど?」
ルシア、と呼ばれた少女の言葉に少年が振り返ると、次は自分だと言わんばかりにガンプラを構える人が数人現れる。
やれやれと首を振った少年は、ニヤリと口許を歪めつつ再びヴァーチェをその手に取った。
「良いぜ、やってやるよ。何人でも掛かってこい! ……その代わりお前らが負けたらパーツを一つずつ貰うかんな!」
■
「おー、大漁大漁」
そう言った少年は、パーツボックスの中に数十個ものパーツを放り込む。他にもかなりの数のパーツが入っていることから、この少年は相当数負かしてきた実力者なのだと分かる。
隣の席に座るルシアはと言えば、ストロー越しにコップの中に注がれたアイスティーを飲みながら、手元の可愛らしい装飾のされた小さいノートに箇条書きで何かを書き込んでいた。
「これで修理用の予備パーツ分は揃ったかしら?」
「ああ、この分なら余裕あるだろうぜ。ヴァーチェも直せるしな」
「はぁ……この子を直す身にもなりなさいよね。ヴァーチェだってきっと悲しんでるわよ? もう少し丁重に扱うべきだわ」
ルシアは運ばれてきたケーキを一口頬張りつつ、愚痴を呟くように言う。しかし、それを彼が素直に聞いてくれないことは重々承知なので、正直なところ骨折り損なのは間違いない。
「……まぁ、そういう強引過ぎるところが好きなんだけど……」
「何か言ったか?」
「いーえ、別に」
それでも彼に付いていってる辺り、自分はやっぱり彼のことが好きなのだ、と再確認したルシアは再びケーキを頬張る。やはり、甘いものはどの国へ行っても万国共通で美味しいものだ。
して、二人でのんびりとくつろいでいると、店の奥の席から、一人の少女がこちらへやって来た。
いきなりテーブルの目の前に立たれ、ルシアだけがその少女を見上げる。十代半ば辺りの見た目で、何やら正義感に満ちてそうな顔でこちらを見ていた。
ルシアはそれだけで何を言い出すのか分かってしまい、面倒なことになったと顔をしかめる。
そんなルシアの心情など知る由もない少女は、ルシアの方など見向きもせず少年へ向けて話し掛けた。
「貴方ですか、噂のパーツハンターというのは」
唐突にそんなことを言われ、ルシアはやっぱりかと言いたげな顔をするも、当の少年は気付いていない様子だ。……自分が話し掛けられたことに。
ルシアはこのままじゃ話が進まないと思ったのか、コホンと咳払いして少年を肘で小突く。そこで初めて気が付いたのか、少年は目を丸くしていた。その一部始終を見ていた少女は、顔を引きつらせながらも話を続ける。
「ここ最近でガンプラファイターからパーツを巻き上げる輩が居ると聞きましたが、まさかこんなに近くに居るとは思いもよりませんでした」
「パーツを巻き上げるとか、誰がそんなことしてるんだろうな」
「貴方ですよ!」
「…………はぁ?」
いまいち話が噛み合わないことに、ルシアは酷く取り乱しかけるが「いつものことだ」と平常心でなんとか保つ。
その間にも少女はまるで苛立ちを隠せないかのように、その人差し指を少年に向けた。
「貴方が例のパーツハンターだと言ってるんです!」
「んだとぉ!? 俺がそんな強奪犯みたいなことするかよ!」
少女に言われて少年にも火が着いたのか、力強く「ダンッ!」とテーブルを叩いて立ち上がった。
「現にこうして巻き上げたパーツを見ていたじゃないですか!」
「巻き上げてねーし! 譲ってもらっただけだし!」
「嘘を言わないでください! このまま警察まで行ってもらいますよ!」
「だぁー! 何でサツの世話になんなきゃならねぇんだよ!? 俺は何もしてねぇだろ!」
あーだこーだと言い合う二人に、ルシアは深く溜め息を吐く。
先程から話に出てくる「パーツハンター」とは、ガンプラバトルに勝利した場合、相手のガンプラのパーツを強奪する者のことを指す。中には、攻撃を当てた部分のパーツを強奪するという悪趣味なパーツハンターも存在する。そのため、一種の犯罪行為として警察側でも認められており、窃盗で現行犯逮捕されることも珍しくはない。大体はチンピラなどが行う行為で、最近では若者の間でも多くなってきたこともあって世界的には問題視されている事項の一つである。
だから、この少年がパーツハンターと呼ばれてしまうのは別段珍しくもなんともない。だが少年の言う通り、少年はパーツハンターではない。
最初から誰もが分かってくれるとは思わなかったが、ルシアは仕方がなしにと立ち上がる。今まで黙りを決め込んでいたルシアの行為に、二人は思わずルシアの顔を見上げた。そして少年は、幾度となく見たその顔に、今度は自分が顔を引きつらせるしかなかった。
「お店ではお静かにお願いします、二人共」
「「は、はい……」」
笑顔の圧力によって制圧された二人は大人しく座り込み、ようやく話し合いができるとルシアも座る。
「まず、私達はパーツハンターではないわ。これだけは確かよ」
「そんな筈はありません! 噂では確かにパーツハンターだと――」
「噂は所詮噂よ」
ピシャリとルシアに言われ、少女は口を噤む。
少し冷たくし過ぎたかと思い直したルシアは、ふと手を軽く叩いて場を切り替える。
「じゃ、まずは自己紹介といきましょうか。……私はルシア、ルシア・アスナよ。このバカの専属ビルダー兼保護者兼嫁よ」
「オイ、いつ嫁になった」
「黙らっしゃい」
「あ、はい」
「それで、こっちのバカがサイナよ。サイナ・フィール・ユークリウス。単純だけど、これでも腕利きのファイターなのよ?」
今の自己紹介に異議を申し立てようとしたサイナは渋々引き下がり、ルシアは淡々と自己紹介してみせる。しかし、その顔はどこか嬉しげであった。
そして二人の自己紹介が終わり、続いては少女の番が回ってくる。
「あ、えっと、僕はシャルル・レイリーって言います。一応ビルダーですが、ファイターもやってます」
「そう、シャルルちゃんね。シャルル………あれ? シャルルって確か男性名……?」
納得しようとした手前、ルシアの頭に一つ疑問符が浮かび上がる。
「はい、男ですよ」
「嘘っ!?」
机を勢いよく叩いて立ち上がったルシアの顔には、目に見えた驚きがあった。しかし直後には、叩いた掌の痛さに堪えられずに涙していた。
今まで少女だと誤解していた少年――シャルルは、別に気にしていないという素振りで苦笑いする。
「大丈夫ですよ、
「ご、ごごごめんなさい……まさか男の娘だったなんて……」
「いえ、ちゃんと僕が男の子ってことを理解してくれたなら、気にしなくて構いませんよ!」
(あっれー……今すっげー誤解が生まれてる気がしなくもないような)
謝るルシアに対して、気にしないでと声を掛けるシャルル。端から見れば初々しい少女達の会話であるが、
「ほんじゃまあ、バトルしようぜ、バトル」
『はぁ!?』
――訳もなく、さらりとガンプラバトルを申し出ていた。無論、唐突過ぎる会話に二人は驚愕しない訳がなく。まさに「どんな神経してんだコイツ」とでも言いたげなシャルルは、度肝を抜かれた気分であり、一方でルシアは顔に手を当てて「やってしまった」とでも言いたげな様子で項垂れていた。
良くも悪くも、サイナの
シャルルも、彼女らがパーツハンターではないと念を押されてしまってはバトルも諦めようかと考えてこそいたが、寧ろ好機かと考えてみた。
(このバトルで、もしかしたら何かを見出だせるかもしれない。この手で作った、あの機体に)
そんなシャルルの考えなどいざ知らず、ルシアはサイナに向かって怒鳴る。
「向こう見ずな行動は厳禁って言った筈よ!?」
「元々コイツが俺達にバトル吹っ掛けてきたんだろ? パーツハンター云々はどーでも良いけど、バトルせずに『はい、そーですか』で帰せるかっての」
「どういう思考回路してるの!? このまま平和的に終わるかと思ったのに!」
「そう怒るなって。コイツからはパーツ貰わねーから、セーフセーフ」
「も~、これならちゃんと教養させてから出てくるんだったぁ……」
深く深く吐かれる溜め息に、シャルルからの同情の視線が突き刺さる。今更後悔を吐き捨てたところでもう遅いのだが、こうでもしていないとやっていられないのがルシアである。……そして、それを覆すのがサイナである。
仕方ないと割り切ったルシアは、アイコンタクトだけでシャルルに謝り、シャルルもそれを了承してくれた。
(立て続けにごめんね、サイナの言葉に付き合ってもらっちゃって)
(いえいえ、こちらも海外のファイターとの交流は余りないことなので、大歓迎ですよ。今回の目的の半分もそれでしたし)
フランスにも紳士は居るものだ、と染々感じたルシアは隣の馬鹿にも見習って欲しいものだと考えるも、やっぱり今のままでも良いかと思ってしまう自分に顔を顰める。
かくして一行は、ガンプラバトルができる場所――先程何十連勝もしていたガンプラカフェ――へとやって来た。
「お、さっきのボウズか。なんだい、またパーツ貰いに来たのか?」
「ちげーよ、そこのヤツが俺とバトルしてぇからってここに来たんだよ」
「冷やかしならお断りなんだがなぁ……」
「ギャラリーは多い方が良いだろ?」
「ま、精々そのギャラリーを楽しませてくれや!」
「当然だろ」
店長らしき人物とサイナが言葉を交わし、互い拳をぶつけ合った後に、バトルシステムの前へ立つ。
「いつの間に仲良くなってたの?」
「んー、ついさっき?」
ルシアからヴァーチェを受け取りつつそう答えたサイナに、ルシアは相変わらずだと考えながら、近くの席に座る。ルシアが出来るのは見守ることだけだ。
対面にシャルルが立ち、GPベースとガンプラを構えていた。既にバトルする準備は整っているようであった。
「さ、始めようぜ。骨があるヤツが中々居なくてよ」
「このガンプラでどこまで出来るかは分かりませんが、その期待に添えられるよう尽力はしますよ」
その言葉を皮切りに、バトルシステムが起動し始めた。
《GUNPLA BATTLE Combatmode Start up. Mode damage level set to“C”》
機体へ全くダメージが及ばないダメージレベルCが選択され、次のステップへ移る。
《Press set your GP-Base》
二人が音声に従いGPベースをバトルシステムへ嵌め込む。
《Beginning [Plavsky Particle] dispersal. Field7, Forest》
するとプラフスキー粒子が散布され、フィールドが形成される。今回は鬱蒼と木々が生い茂る大森林だ。
《Press set your GUNPLA》
互いにガンプラがセットされる。サイナは先程のヴァーチェ、そしてシャルルはガンダムダブルエックスに似た機体だった。
《BATTLE START》
「サイナ・F・ユークリウス、ガンダムヴァーチェ! 標的を排除する!」
「シャルル・レイリー、ガンダムメーヌリス! 出ます!」
広く緑の広がる真夜中の大地に、二機のガンプラが互いに飛び出していく。河や山々が望める自然の宝庫で、サイナは森を文字通り
対するシャルルは慎重に敵の様子に探りを入れていた。
「随分と無茶苦茶な……。ヴァーチェでありながらあの大剣と言うことは近接機か」
画面上に映るヴァーチェはある意味気迫のこもったように地面を滑走しており、その姿はさながらドムを連想させられる。その手に持つのはバズーカではなく巨大剣なのだが。
今回は本機の有用性を確認する目的のバトルだが、まずは相手の出方を捉えるべく敢えて空へ飛ぶ。
それに合わせて相手を視認したサイナも、獲物を見付けたように瞳孔を細め、一気にその場から跳躍してみせた。
「なっ、速い!?」
「ハッ! ロボットっつーのはな、鈍重そうな見た目してるから遅いって訳じゃねえんだよ!」
メーヌリスは慌てるようにビームマシンガンを構え、ヴァーチェへ向けて連射するがその手の巨大剣によって防がれてしまう。
「剣そのものがシールドに?」
「隙あらぁっ!」
咄嗟に軌道を読んで回避しようと下がるも、左手に構えたシールド「リフレクトディバイダー」に何故か巨大剣が命中した。その疑問に判断の遅れたシャルルは急いで森の方へと退き、何とか頭を働かせてみる。
(剣の軌道からは確かに免れた筈。それなのに直撃!? そんなの、物理法則でも無視しなきゃ土台無理な話だ!)
その間にも、爪先から落下しては巨大な土埃を巻き上げつつまたしても迫るヴァーチェへ、メーヌリスはディバイダー表面を開放し、内部から露出した計十九門ものビーム砲群、通称「ハモニカ砲」で牽制を試みる。しかし、それらもあの巨大剣に遮られてしまっていた。
(このままじゃ、
「ぼさっと考えごとかぁ!? んなもん
「くっ! いつの間に?」
明らかに自分の知るヴァーチェのスピードではない。そうシャルルは焦っていた。
そもそも、その巨体故に関節の柔軟性に乏しいヴァーチェで激しく挙動しようなど、自殺行為もはなはだしいのは明白だ。元々、その分厚い装甲のお陰で――かと言って装甲が分厚いのには明確な理由があるのだが――機動性が低く体積があるため躱すことを苦手とするヴァーチェは、GNフィールドによる圧倒的防御力によって「避けて躱す」のではなく「受けて弾く」ことで、低い機動性による弱点を克服している。
その弱点を晒しつつ、近接格闘戦を行おうなど馬鹿なのか阿呆なのかシャルルには分からなかった。寧ろその機体でよくパーツハンターなどという噂が立ったのか、疑問が尽きなくなるレベルである。それなら極端な話、ストライクやエクシアやバルバトスなどで十分な筈だ。何故、ヴァーチェなのか。
「おぉらぁっ!」
「ぐうっ!」
再び振り下ろされる巨大剣を、再びディバイダーで受け止める。その威力故に、一撃がとても重い。ディバイダーで受け止めるので精一杯である。
――それよりも着眼すべきは、やはりそのスピードか。よく見れば、左足での踏み込みの際に動きが加速していた。錯覚かとも疑うがそんな暇もなく次の一撃がやって来る。
「へっ、射撃の精度がまだ甘いな。攻撃を受け止めるので精一杯か。……でもなシャルル、
「ぐぁぁっ!」
横薙ぎが来る、そう構えたもののその予想は大きく外れ、左振り払いではなく右足からの強烈なキックを食らった。あえなく蹴り飛ばされ、木々を薙ぎ倒して大の字に広がったメーヌリスは、上体を起こしてヴァーチェを見る。
(なんて可動域だ! ヴァーチェでこんなに大股を開ける筈がない!)
ご存知の通り、第三世代ガンダムの腰関節は全て中心のロールと脚を繋ぐボールジョイントで構成されており、その可動範囲は最近のキットと比べるとやはり窮屈に感じてしまう(第二世代で唯一発売されているアストレアも同様)。そう言った改善はモデラー・ビルダー共通事項であるが、幾らなんでも動き自体が少ないヴァーチェでそこまで大股開く程の動きはほぼ必要がない。
ますますヴァーチェで近接戦を行う理由が不明瞭となってくる中、サイナは再び巨大剣を携えてやって来る。
「オイオイオイ、なに座り込んでんだシャルル。早く立てよ。まだバトルは終わっちゃねぇだろ?」
「……斬らないんですか?」
「はぁー?」
シャルルの言葉にサイナは聞いて分かるぐらいに、まるで意味不明だと言いたげに返した。その答えにシャルルは思わず目を丸くした。
「だ、だって今なら斬れるじゃないですか。何故それをしな――」
「あん? 無抵抗の奴を斬って楽しい奴がどこに居る? んなもんただの卑怯者だっての。それともアレか、お前はバトルを諦めたのか? だったら叩っ斬ってやんよ!」
「――ッ!」
「なんだよ、ちゃんとまだ戦えんじゃんねぇか。なら立て。立ってバトルしろ。それだけだ」
ニヤリと笑みを浮かべたサイナに対し、シャルルは歯を食い縛りながらメーヌリスを立ち上がらせる。大きく深呼吸を繰り返し、ディバイダーとビームマシンガンを構える。
(そうだ、考えるだけなら後で幾らでもできる。全部終わった後で答え合わせすれば良い)
本来の目的を見失いつつあったシャルルは、しっかりとその手にコントロールスフィアを握り締め、武装の中から背面のツインサテライトキャノンを選ぶ。
背面の砲身が可動したのを見たサイナは、やはりサテライトキャノン自体を警戒して後退った。
「その判断が命取りです!」
グリップを握り締め、脇下から構えた砲身からビームの本流が放たれる。
「んのぉッ!」
それを目と鼻の先で回避してみせたヴァーチェへ、もう片方から再びビームが放たれた。これもサイナの技量によって寸で躱されてしまうが、シャルルの本命は別にある。
リフレクトディバイダーがV字に変形し、バックパックから露出したコネクターへと接続される。すると背面を向いていたリフレクターが百八十度回転し正面へ向いた。その姿に思わずサイナも驚きを隠せず、機体を仰け反らせながらも、呟くしかなかった。
「んなっ……馬鹿な」
「僕も、本気で行かせてもらいます!」
メーヌリスの瞳が一層強く輝き、両腕と両脛に装備されたカバーが開く。カバーから数枚のプレート――ラジエータープレートが覗き、メーヌリスはその手のビームマシンガンを腰裏に格納し、再び砲身のグリップを握った。
一連の動作の直後、サイナは思わず空を見回す。今は完全な夜であり、絶対に月が見えている状態なのだ。するとやはり、空の彼方に真円に映る白玉の月がサイナの瞳に映った。
「クソッ! 待ちやがれ!」
「ネオ・サテライトシステム起動」
シャルルの一言によって、メーヌリスの胸部クリアパーツが明るいクリアグリーンに発光する。何とかしてでもサイナは止めようとヴァーチェを動かしたが、それよりも早くに受信部であるリフレクターが輝いてマイクロウェーブが到達してしまう。
「んなっ、速過ぎんだろぉっ!?」
最早今のサイナはそうとツッコミしてでもなければ、到底やっていけなかった。
マイクロウェーブの送信には距離や位置の関係で必ずタイムラグが生じる。月面基地へのアクセス後、照準用ガイドレーザー受信、エネルギー供給まで全部で約四秒程掛かる。だが目の前ではそれを二秒足らずでやっている。
一応それなりの知識は持つサイナでも、タイムラグを半減させることは予想外にも程があった。
しかもガイドレーザーからエネルギーを供給したメーヌリスは、原典機同様ラジエータープレートから余剰分のエネルギーを強制的に熱と光に変換し排出するため、ヴァーチェでも近付くことは不可能。まさに「手も足も出ない」状態に、サイナは歯噛みするしかない。
(サテライトキャノンをこの距離で………チッ、済まねぇルシア。俺も奥の手使わせてもらうぜ)
あることを決意したサイナはある程度メーヌリスから離れ、地面に巨大剣こと「GNフラットソード」を突き刺して仁王立ちのまま微動だにせず立ち尽くす。
流石にその行動に疑問を覚えるも、シャルルは努めて冷静に照準を合わせた。ロックカーソルが黄色から赤へ変わり、シャルルは躊躇いなくそのトリガーを引いた。
「ツインサテライトキャノン、発射!」
原典機の代名詞とも言える収束した光は、大きな束となって両脇の砲身から放たれた。
その奔流は実にあっさりとヴァーチェを飲み込んでしまった。
十数秒とそれなりに長い時間照射されたサテライトキャノンも勢いが衰え、やがて光を失う。その目の前に広がる射線上は大きく抉れ、高温によって赤熱化している部分も見受けられ、更には周囲の森が焦土の如く蒸発していた。
この情景にシャルルも少しやり過ぎたと思うが、既に両脇から覗く砲門は地面同様に赤熱し、砲身も歪んでいた。どう見ても、使いものにならないのは明白だ。
仕方がないとパージしつつ目の前を見つめていると、直線上にGNフラットソードが突き刺さったまま刃が融解してた状態で放置されていた。こちらも到底使いものになるとは言えない。だが生憎、目的のヴァーチェが見当たらなかった。GNフラットソードが残っていながら、ヴァーチェが跡形もなく残っていない、というのは流石に道理が合わない。ただ単にGNフラットソードの方が耐久度的に耐え抜いたのであれば納得はいかなくもないが、それならヴァーチェ自体も同等かそれ以上の耐久力を持っていてもおかしくはないのだ。
ふと疑問に思ってしまったシャルルは、直ぐ様近付いて確認しようとGNフラットソードの残骸へ近付く。よくもまあ形状を保っていられるものだ、とルシアの技量の高さに感心させられるが、今はそういう問題ではない。
「何でヴァーチェが消えた? バトルシステムも終了判定を下していない。と言うことはまだバトルは続行している。……でもレーダーに反応は映っていないし、周囲のどこにもヴァーチェは居ない」
おかしい、そう感じた時だった。
――背後に反応が現れたのは。
「そんなっ!?」
振り向き様に後退ると、そこには見慣れた巨体はなかった。
「この姿になるのは……あのオッサンと戦った時以来か」
響き渡るサイナの声に、どこか戦慄のようなものを覚えるシャルルは、思わず目を見開いてしまう。
「よう、お前が本気になってくれたお陰で俺まで本気になっちまったよ。……ま、ルシアにはこっ酷く叱られるがな」
月明かりが照らす細身のシルエットは、あからさまにヴァーチェではない。寧ろ真逆と言える。
第三世代のガンダム達は基本的に四機であるが、ヴァーチェの形式番号は五。三番目に当たるキュリオスの次ではない。……なら欠番となる四番目はどこに?
答えは原作を見た人なら誰でも知っている。所謂「中の人」などと呼ばれたかの機体は、
「ガンダムヘスティア、標的を消滅させる!」
後頭部から一房の青いポニーテールが揺れ、両の手に携えられた二本の剣、GNカレトヴルッフを構えて再びメーヌリスへと迫る。
「さっきより速い!」
「装甲を
寸で退き、躱しながらメーヌリスを動かすが、直撃は免れても掠り傷は免れそうにはなかった。それ故に表面に傷が増え、相手の攻撃はますます勢いを増すばかり。
何とかして切り抜ける必要があるものの、武器へと手を伸ばす隙すら与えてくれない。その上、打開策というものも浮かばず仕舞いで、結局はジリ貧になってしまっていた。
このままではこちらが不利だと確信したシャルルは、バックパックに装着したディバイダーをリフレクター面から反転させそのままハモニカ砲を展開させる。
――刹那、ヘスティアの動きが止まった。それを見逃さなかったシャルルはコンソールを前へと押し上げ、がら空きになったヘスティアの胴体へメーヌリスがタックルをかます。
「がっ! フェイントかよっ!」
「今度は僕の……番だ!」
大きく仰け反ったタイミングを見逃さず、腰裏にマウントしたビームライフルを咄嗟に選択。真正面へ向けて一発だけ放つも、ヘスティアは仰け反ったまま敢えて後ろへ倒れることでそれを躱して見せる。倒れる瞬間にGNカレトヴルッフを手放しながら手を地面に付き、バク転の要領で距離を取りつつ再びGNカレトヴルッフを手に取って体勢を持ち直すという曲芸染みた動きでメーヌリスと再び相対する。
「ハハハッ! 楽しいな、シャルル!」
「い、いきなり何ですか! バトル中ですよ!?」
「いやさ、ここまで楽しめるバトルとは思ってなかったもんでさ。久々だぜ、こういうのは」
「そんなこと言っていると、墜とされますよ!」
「墜とせるなら、墜としてみやがれ!」
ビームライフルから再び放たれるも、ビームはGNカレトヴルッフで掻き消される。それを見越して空いた左手にビームソードを構え、ヘスティアへと突き立てるがGNカレトヴルッフを盾にメーヌリスの胴を蹴り飛ばした。
「これで、終いだッ!」
残ったもう片方のGNカレトヴルッフを槍投げのように投げ飛ばし、回避の姿勢すら取れないメーヌリスの胴体を穿つかの如く突き刺さった。
《BATTLE END》
バトルが終了し、ホログラムが解ける。数秒の沈黙の後、店内から大きな喝采が上がった。どっと湧き上がった歓声に呆気に取られたシャルルは思わず周りを見渡し、最後にサイナを見た。
「……っかぁー、強かった強かったー。シャルル、お前威勢が良いだけはあるじゃんか。でも、まだまだ甘いな」
「えっ?」
「強くなれよ、十分伸び代はある。何度も何度も他人のガンプラとぶつかってぶつかって、強くなって、そん時にまた俺とバトルしろ。そして勝ってみせろ」
「……ぁ、うん!」
突然言われたことに驚くも、シャルルはその言葉の意味を理解して頷いた。バトルシステムの上に転がるガンダムメーヌリスを手に取り、シャルルは闘志に火が着いたその瞳で、案の定ルシアに叱られているサイナを見つめた。
「もう! 前触れもなくヴァーチェをパージするバカがどこにいるのよ!? 装備させ直すのは私なのよ!?」
「ぶ、ぶっ壊すよりかはマシだろ! 俺は何も悪かねぇ!」
「あ、あのルシアさん、僕も手伝いますから」
「ホント? シャルル君ってば優しい~! どこかのバカとは大違いだわ!」
先程のバトルで熱が入った店内で、そんなやり取りに笑いが巻き起こる。
席に着いた三人はそれぞれコーヒーを頼みつつ、サイナが肘を付きながらも暇そうにルシアへ尋ねた。
「それでルシア、次はどこだ?」
「うーん、そうねぇ。あの人なら、恐らく今は日本じゃないかしら?」
「日本……ガンプラバトルの聖地か!」
「ふふっ、楽しみ?」
「当然だろ、あそこはレベルの高いファイターが多いって聞くからな!」
一つ一つ器用かつ丁寧にヴァーチェへと戻すルシアの正面で、子供さながらに燥ぐ姿を見せるサイナにルシアは吹き出しながらも優しく見守る母親のように言う。
「もう、サイナったら子供なんだから……。でもそうね、私も楽しみ、かな」
活気に溢れる店内でコーヒーを一口飲みながら、ルシアはこれから起こるであろう出来事と出会いに思いを馳せるのであった。
どうもお久しぶりです。失踪はしません、カミツです。
祖父母や親戚が九月から急にばったばったと倒れるので色々追われてます、ハイ。家系がかなり複雑怪奇で面倒だからね、仕方ないね(言い訳
そんなことより!(←オイ
新たなガンプラバトルが開幕しましたね、ガンダムビルドダイバーズ。あれを見て、真っ先にある人の二次小説を思い浮かんだ私は悪くない筈だ!
そしてサラちゃんが可愛くて辛い。アイラ然り、シアちゃん然り、何でガンダムビルドシリーズの銀髪ヒロインがこんなに可愛いんだろうか。
まあ、雑談はさておき、今回はメーヌリスについて。……別に、ここで機体解説する必要ない気がするような……(今更
ガンダムメーヌリス
武装:ビームマシンガン、ビームソード×2、リフレクトディバイダー(ハモニカ砲)、ツインサテライトキャノン
特殊機能:ネオ・サテライトシステム
「HGAW ガンダムダブルエックス」にディバイダーを組み込む改造をしたガンプラ。そのためか、特徴的な意匠を持つリフレクターが廃止されている。
武装は二連装のビームマシンガン、サテライトキャノン後部に付いたビームソードとディバイダーの裏面をリフレクターに変更したリフレクトディバイダーにハモニカ砲、そしてツインサテライトキャノンを装備する。リフレクトディバイダーは、V字に変形させてバックパックに取り付けることでスラスターの代わりにもなる。勿論手持ちでのホバー走行も可能。
また、ツインサテライトキャノンは通常のビーム砲への切り換えもでき、更にネオ・サテライトシステムを発動させることで膨大な量のプラフスキー粒子を溜め込み、その粒子を収束させて腰溜め撃ち方式のサテライトキャノンを発射する。……しかし、このサテライトキャノンには欠点があり、反動が強すぎる上に制御もマニピュレーターでの保持だけでは難しく、砲身にも多大な負荷を与え、下手をすれば融解して爆発する恐れもある。
メーヌリスとは、恐らくリトアニア語で「月」を意味する「Mėnulis」から。
実はこのメーヌリス、アテナのリメイク前に登場していた機体だったりします。随分初期の頃、ドロイデンさんという方から頂いた機体案を元に、自分なりのアレンジを加えさせていただいたものです。ドロイデンさん、ありがとうございます。
さて次回からは恐らく、全国大会へと入っていきます。もう巻きで行かないとね、ほら、収拾がつかないから。あと、夏の水着回はまた今年の夏まで待っててください。流石に季節外れで書きたくないのです。
……ビルドダイバーズの方も二次は書いてみたいけど、こっちもちょくちょく進めていかなければ。
???「止まるんじゃねぇぞ……」(幻聴