ハイスクールD×H ~龍と人間と世界の流れ~ 【本編完結】 作:みずしろオルカ
仕事場の変更とか、環境が変わったりとか、勤務形態が変わったりとか、ネットを四月頭に申し込んだのに、完了したのが今日って言うね?
勤務形態が変わったので、今までのような投稿ペースを維持できそうには無いので、ご理解いただければうれしいです。
今回は外伝です。
これは、海原曹護が活躍し、龍人となったすぐの出来事。
曹護本人も知らない、物語の裏側。
旧魔王派が瓦解し、求心力であったオーフィスも居なくなった。
その影響で禍の団は徐々にその力を失いつつあった。
しかし、そこで組織を立て直そうと動いたのが、英雄派と呼ばれる一団だ。
曹操を筆頭として、有名な英雄たちの子孫や生まれ変わりが所属している。
英雄の生まれ変わりだからと言って、所属しなくてはならない訳でもない。
現に、アーサー・ペンドラゴンや孫悟空の末裔である美候らは、英雄派には属さずにヴァーリチームに所属している。
リーダーであるヴァーリ自身、旧魔王であるルシファーの血筋だ。
基本的な枠組みであり、例外をヴァーリチームが集めているという側面もあるのだが。
そんな中、急激に禍の団を立て直そうと動き始めた英雄派の幹部は考えた。
どうすれば、流れ出て行く戦力を止め、再び立ち上がれるだけの力を手に入れられるのか?
たどり着いた結論が、『龍人となった海原曹護をどんな手段を用いてでも殺す』という事だった。
オーフィスのお気に入りとまで言われているこの男を殺せば、オーフィスは確実に敵対する。
しかし、海原曹護というファクターを失った場合。
オーフィスは当然として、その周囲の者達も冷静で居られるか?
答えは否である。
あの手足を失った状態で、オーフィスも周囲も異常な混乱と恐慌状態を引き起こしていた。
ならば、失われれば?
もっと明確で付け込みやすい隙として表れるはずなのだ。
そう考えた曹操達は、曹護自身が龍人となって間もない今が最後にして最高のチャンスであると踏んだのだ。
人間と龍人という圧倒的とも言える性能の差に慣れてしまう前である今ならばと……。
子供が車を運転すれば、確実に事故を起こす。
感覚が伴わず、知識が無いからだ。
だが、感覚が追い付き、知識を修得し、経験を得たならば?
その時こそ、海原曹護は無限龍と同等の存在として世界にその名を轟かせるだろう。
その前に、右も左もわからない赤子同然の状態のまま、殺してしまう事が最善なのだ。
海原曹護を殺すため、英雄派は複数での襲撃を計画していた。
「ジークとゲオルク、レオナルドはかく乱のために海原曹護の周囲の人物を狙ってくれ。俺とジャンヌ、ヘラクレスで畳み掛ければ、力に慣れていない奴なら十分に倒せる」
リーダーである曹操が判断し、塔城小猫及びオーフィスは曹護と離されていた。
「どうせならゲオルグを連れて来て、曹護の奴を隔離したほうが良いんじゃないかしら?」
「いや、ジャンヌの言うことも考えたが、空間を隔離したとして、海原曹護に全力で戦われるのも困るんだ」
ああっと納得したようなジャンヌと、理解していないヘラクレス。
「ああ? 何でゲオルグを連れてこない理由になるんだ?」
「龍人となって日が無いからな。周りを積極的に破壊するタイプじゃない」
曹操が説明していると、ジャンヌが続けるように話し出す。
「要は、全力出されてめんどくさくならない様に、町とか人とかを盾にして行動を制限するのよ」
「ケッ、龍人とはいえ最近なったばかりの餓鬼なんだろうが! とっとと、抵抗できなくしてぶっ殺そうぜ!」
そして、彼に対して不意打ちを仕掛け、致命傷を与えられれば曹操側の勝利に近づく。
しかし、その寸前だった。
海原曹護を確認し、それぞれの神器を展開、禁手化して初手から最大戦力を叩き込もうとしていた矢先だった。
「わりぃけど、うちの息子にゃ手出しさせねえよ?」
三人の背後に立っていたのは、三人とも存在は確認していた人物。
しかし、圧倒的な脅威である息子の曹護に比べて見劣りする上に、今現在は日本に居ないという情報があった男。
「海原……修護!」
曹操は搾り出すような、忌々しいものを見るような目で男を見ていた。
この男には因縁がある。
黒いトレンチコートとスーツ、Yシャツまで黒い。その中で真っ赤なネクタイが異様に目立っている。
ポケットに手を入れた状態で、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、海原修護は三人を見下していた。
雰囲気が敵を前にしているものには見えないからだ。
こちらを侮っている。
悪魔でも天使・堕天使でも、ましてや龍でもないただの人間だ。
今までそんな相手ばかりと戦ってきた彼らにとって、修護の態度は苛立ちと同時に不気味さを感じさせるものだった。
常に微弱ながら波紋の呼吸を続けている曹護とは違い、この男はただ立っているのみだ。
波紋で活性化しているわけでも、気功で強化しているわけでも、魔力で衣服を強化しているわけでもない。
ただ、そこに立っているだけ。
「なんだ、あの野郎の親父か? 丁度良い、テメェをぶち殺して奴の前に晒せば絶望すんだろ」
「そうね。肉親を殺されて感情が乱れないタイプには見えないし、そんなに強くなさそうだしね。恨むなら、こんな所にノコノコと出てきた自分のうかつさを恨みなさい」
ヘラクレスとジャンヌがそれぞれ神器を展開して、修護を威嚇するように殺気を放っている。
この二人は不気味さを気のせいと判断し、殺してしまおうとしているが、曹操は別の感想を抱いていた。
(無防備が過ぎる。あの男の父親が弱いわけがないのだ。だというのに無防備と言って良いあの状況……なにかある!)
冷静に判断していた曹操だけが、不気味さを危機感だと判断し、ロンギヌスの槍を構えていた。
「ヘラクレス ジャンヌ! 油断するな、あの男の父親が弱い訳が無い!!」
「気にしすぎだリーダー、どう見たって中年のおっさんだぜ」
「そうね、高校生の子供が居るようには見えないぐらい落ち着きがないし、ただの出しゃばりでしょ?」
そう叫ぶと、警戒するようにその手に槍を展開させ、いつでも振るえるように構えるが、ジャンヌとヘラクレスは自信とその自信を刺激された為に軽い激高状態になっていた。
こんなに相対しているのに魔力も気力も、波紋とやらすらも使っている様子がない。
自分たちは悪魔だって堕天使にだって戦って勝ってきた。
当然、人間故に身体能力や魔力などは遠く及ばない。
常にだまし討ちや周到なる準備をしていた。
だが、目の前の男は人間だ。
神器も持たない、魔術なんて田舎の魔法の劣化版のような技術を持ち、廃れかけている波紋なんて技術を使っているだけ。
そう考えている。
(違う! 魔術は確かに魔法のように手軽に使えないし、代償だって重い。だが、その代償を持って奇跡を再現しようとしている。環境と努力などの条件が揃えば、我らが使うような魔法よりも強い効力が出る)
曹操は知っていた。
ジャンヌやヘラクレスだって、知識としてはあるはずだ。
それが、思考の端に追いやられる程に、目の前の男は異様だった。
目の前の男にロンギヌスの槍を突き立てるシーンは簡単に浮かんでいた、ジャンヌも聖剣で全身を串刺しにする様子を思い浮かべていたし、ヘラクレスにいたっては拳の爆発で跡形も残らない場面すら想像していた。
だから、気づかない。
三人のそのシーンの先を思い描けなくなっている事に。
都合のいい妄想に囚われているという事に気づけない。
彼らは神器を出しているというのに、男は魔力どころか波紋も気功すらも使っていない。
明らかに一般人ではない男のはずだというのに、ただ軽薄な態度で三人に相対している。
違和感に気づけている曹操ですら、男の瞳の中にある感情を見逃していた。
真っ黒な殺意。
曹護や子猫達に見せていたお調子者の男の瞳はそこには無かった。
あるのは純粋に、盤面上の駒を見て殺す手順を考えている目。
「本当ならさ、三人とも俺が相手するのが筋なんだけど、曹操。あんただけはリクエストが来てるんだ。だから俺の相手は二人にお願いするよ」
修護の視線は、三人を捉えていたが、その視線がジャンヌとヘラクレスへと移る。
その目は何一つ変わらない。
普段どおりの色の奥に、真っ黒なモノが蠢いていた。
「何しろ俺は第五次聖杯戦争の生き残りの一人だからな」
第五次聖杯戦争。
聖杯の持つ力が強力ゆえに、曹操たちも利用しようと考えていた時期があった。
だが、どうやってもあの聖杯戦争のシステムは魔術無しでは再現できず、完成した聖杯はサーヴァントと呼ばれる英霊でしか触れることが出来ない。
使用不可能と判断して今は放置されているが、それまでは情報収集を続けていた。
第四次聖杯戦争で勝者は何を思ったのか聖杯を破壊し、第五次聖杯戦争でも聖杯は破壊された。
公式の記録で、破壊したマスターは三人。
その三人が聖杯戦争の生き残りであり、その中の一人がこの男だ。
聖杯戦争。
戦争と名がつくだけあって、殺し合い。
召喚されたサーヴァントの中には英雄派にも縁のある英霊も召喚されていた。
「ヘラクレスにジャンヌ・ダルクと再び合間見えるたぁ、つくづく縁がある」
英雄ヘラクレスと聖女ジャンヌ・ダルク。
生まれ変わりと、聖杯に召喚された分霊。
「そういやあ、聖杯戦争にヘラクレスは召喚されていたんだったな! 雑魚共に負けるなんざ、所詮は分霊って奴だったってか!? ヘラクレスの名前に泥塗りやがってよ」
そう言ってヘラクレスは高笑いをした。
挑発のつもりだろう。
だが、その挑発にも修護は何の反応も示さない。
強いて言うなら、僅かに瞳の奥で黒いものが蠢いたように感じるだけ。
「……ッチ。つまんねぇな、だったらテメェの美人の嫁さん達を潰すのも良いな? 女なら穴開いてるしなぁ?」
英雄の子孫だからといって、その存在が高潔である訳ではない。
彼自身、ヘラクレスという英雄の名前で戦っている。
他人の褌で相撲をとるかのような、言動。
次の瞬間、ヘラクレスの胸に修護の拳が突き刺さった。
突き抜ける衝撃と、炸裂音。
「……なんだぁ? この程度かよ雑魚が!!」
派手な音と殴るまでの挙動が見えなかった以外は何の問題もない。
ヘラクレスの体にはダメージは無かった。
少々手足がしびれる衝撃があったが……ただそれだけ。
その拳を修護に叩き付けるように振るい下ろすと、すばやくその場を脱出し、元の距離に戻る。
(確かに異様に速い動きだし、俺達が捉え切れなかった。何より胸という急所を殴られるまで誰も反応できなかったが…………、威力は致命的に無い)
曹操は今の一合で、修護の実力を概算した。
致命的な力不足。
速度だけ上げても、相手にダメージを与えられないのならば、それは無意味なのだ。
不安要素が徐々に三人の中で小さくなっていく。
どんなことをしようとも、海原修護ではこの場の三人を殺すだけの力が無い。
そう判断されたのだ。
それが修護の思考誘導によるものだと、気づけない。
「ジャンヌ・ダルクは聖処女って呼ばれてるんだよな?」
いきなり、修護はジャンヌに対して声をかけた。
思い出したといった感じの声のかけ方だったが、誰がどう見ても目的はわかる。
「それがどうかしたのかしら?」
「いや、お前って聖処女って感じじゃねえよな。せいぜい性悪ビッチって感じだ」
これ以上に無い挑発行為。
だが、見え透いた挑発行為も、鈍らされた思考のため誰もが気づかない。
「それと、俺の知るヘラクレスは、狂化の魔術を施されていても小さなマスターのために十二の命を賭した男の名前だ。間違ってもオメエの様な街のチンピラじゃねえ」
第五次聖杯戦争のサーヴァントの一人。
バーサーカーとして召喚されたヘラクレスは、彼のマスターを文字通り命がけで守り通したのだ。
しかし、宝具である『十二の試練』で得た十二の命のストック。
それらをすべて捧げても足りず、マスターを死なせてしまった。
「最後の最後で生前の逸話を越える者達と、手前らの様な他人の名前でしか生きられない恥知らず……」
だが、最後の一瞬。
ヘラクレスは己の限界を超えて、敵に対して力を振るった。
敵ですら、賞賛した最期。
「比べるのも失礼だな」
見下し、嘲笑うかのような声色でそう言い放った。
ブチッと、ヘラクレスとジャンヌのあたりから何かが切れる音。
挑発に挑発を重ねた結果だ。
冷静な判断など無い。
ただ、二人は修護を殺すため、全力を賭す。
「いいわ! その大口、二度と叩けなくしてあげる!」
「うるせぇんだよクソボケがぁぁぁ!! そんなに死んだ奴がいいんだったら、ぶち殺してあの世で会わせてやるぜ!!」
禁手化。
二人は怒りに任せて、自身の技を全力で展開する。
聖剣がいくつも重なり、絡み合い、龍を模す。
聖剣の塊であるその姿は、神々しさと全身が粟立つような恐怖を振りまいていた。
ヘラクレスの全身から突然突起が現れ、グズグズと気色の悪い姿に変貌した。
突起物一つ一つに、明確な殺意が込められ、今にも修護に襲い掛からんばかりの闘気に溢れている。
いくら魔術師とはいえ、人間に対して禁手化を行うのは明らかなオーバーキルになる。
しかし、そんな絶望とも取れる光景を目の当たりにしていても、修護の態度に変化は無い。
いや、英雄派の人間は気づいていないが、彼の口元は僅かに歪んでいた。
ヘラヘラとした笑みではなく、何かが思い通りになったときの笑み。
勝利を確信した笑みだ。
「銀色の闘気・千臥連山弾!」
両手に銀色の闘気を固めて作った弾を、マシンガンの様に次々と聖剣で作られた龍に向けて乱射していく。
しかし、当たっても怯むどころか、まるでスポンジが水を吸収するかのように次々と放たれた弾を吸収していく。
「あっははは!! なに? あんたの技、聖なる力に弱いんじゃない? 効かないどころかどんどん吸収して、私の断罪の聖龍が更に強くなったわよ!」
その言葉通り、聖剣の間を埋めるように銀色の闘気が満ち、一回り大きくなった龍は更なる威圧感を放っていた。
だが、修護は攻撃の手を緩めようとしない。
次々と聖剣の龍に向けて自分の闘気を食わせ続けている。
「もしかして、力の供給過多を狙っているのかしら? だったら残念、私の断罪の聖龍はいくらでも後から聖剣を継ぎ足せる。つまり、いくらでも受け皿は大きくなるのよ!!」
そう言うと、更に聖剣が龍を包むようにして展開されていく。
そして、更に断罪の聖龍は強く大きくなった。
それだけでも、修護にとっては絶望的な状況。
その上、
「俺を忘れてんじゃねぇぜ!」
突如、ヘラクレスの体の突起がミサイルのように修護に向けて放たれる。
不意打ちのつもりだったはずの攻撃は、修護がまるでそのミサイルの軌道を知っていたかのように、必要最小限の動きでかわして行く。上体を反らし、片足を軸にふわりと回転して、反らした上体を戻す勢いでそのまま屈む。
余裕。
負けるはずの無い戦いをしているつもりの二人は、その余裕が無性に腹立たしいものだった。
異様なほどの苛立ち・焦燥感。
なぜ、こんな奴に攻撃を避けられなければならないのか? という感情。
「真面目にやってる?」
その言葉が戦場に響いた。
一切ダメージを与えていないのにも拘らず、こちらを見下しているかのような発言。
それには、元々殺意をたぎらせて相手をしていた二人だったが、今まで以上に殺意が膨れ上がった。
それこそ、周囲が見えなくなるほどに。
「……!! 死になさい!!」
「くたばりやがれクソザコガァァァァ!!!」
銀色の闘気を喰らい、通常よりも強力になっているジャンヌの攻撃が先に修護に届いた。
まるで修護を飲み込もうといわんばかりに、大口を開けて上空から修護へ襲い掛かった。
しかし、モーションが大きい攻撃は速度のある修護には通用しない。
不意打ちでもなければ、太りきった龍の速さは容易に避けられる。
炸裂音が響き、周囲に土煙が舞い上がる。
地面を龍が抉った結果だが、同時に龍は爆発し砕けた。
修護に向けて放たれたヘラクレスの超人による悪意の波動が断罪の聖龍に直撃してバラバラに砕いたのだ。
「ちょっと!? どこ狙ってんのよヘラクレス!」
「うるせぇ! テメエこそ邪魔すんじゃねえ!!」
感情を、行動を完全に誘導されている。
そう最初に気づいたのは、修護への警戒心が一番高かった曹操だった。
(英雄派は我の強い奴ばかりだ。だが、最低限の連係は出来るし、禁手化でこんな下手なミスを犯すわけがない!)
気づくと同時に、それは絶望に進んでいる自らの仲間の姿がはっきりと分かった。
禁手化を二人同時に、たった一人で捌き切っているという事実。
同士討ちのようにジャンヌの龍は砕かれた。
「忠告だ、ジャンヌ・ダルク。早く禁手化を解いた方がいい……」
今までのヘラヘラとした態度とは違い、静かで冷徹な表情。
それは、将棋やチェスで相手の駒を取るときの手順を考えているような、人間を見るような目ではなかった。
「な、何を言って……」
「がぁぁぁぁぁぁ!!??」
突然叫びだしたヘラクレスの全身は血に塗れ、苦しそうに地面にもがく様に倒れこむ。
曹操とジャンヌは驚いたように、そして修護は勝利を確信した顔でも無表情でもない。
その表情は、『魔術師』としての表情だった。
思ったより長くなりました。
というより、全体で12000字超えて、まだ終わってないから慌てて分けました。
分けた部分も中途半端なんで、違和感があるかもしれませんが、完成したら続きもあげますので、それまでお待ちください。