IS原作にたどり着け! 『本編完結』   作:エネボル

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12 分岐点 前篇

 夕日が照らす安アパートの駐車場で、竹刀を正眼に構えた少女がいた――。

 意志の強さを象徴する釣り眼がちの鋭い眼光で、千冬は仮想の相手と対面する。

 鍛錬の際、千冬が想定する相手は師の柳韻である場合が多い。

 しかし此処最近は、千冬は自分自身を仮想敵に選んでいた。

 

「――――っ」

 

 千冬は悩んでいた。

 選ぶべきか否かを――。

 事の発端は7月の終わり頃だ。

 同級生でありながらも既に己の進路を決め、ある意味で社会に出ている束が、千冬の下に寄越したある電話の内容。

 IS乗りになって欲しい――。

 束は千冬にそう提案した。

 世間を多いに震撼させた『白騎士事件』――。

 公式には発表されていないものの、千冬も束と同様にその渦中の人物だった。

 親友の頼みとはいえ、己が世界を混乱させたテロに等しい行為に手を貸した事を、千冬は今も内心で密かに恥じていた。

 故に、束の後を追うようにISの分野に身を投じる事を素直に良しと出来なかったのだ。

 気にしなくて良いと束は言うが、ソレを判断するのは千冬自身である。

 真面目に慎ましく、不義理を良しとせず、清廉に生きよう――――。

 師である柳韻を無意識にも倣って生きたが故に、千冬は悩む――。

 

「――――ふぅ」

 

 息を一つ吐き、剣を降ろす。

 答えは既に出ているに等しいのだが、その最後の一歩が踏み出せない――。

 ここまでにするか――と、剣を担いで家に戻ると、珍しく双子の弟の秋斗の方が、キッチンに立って夕餉の支度を行なっていた。

 

「ん、今日は秋斗が作るのか?」

「あぁ。一夏の奴は明日に備えてまだ剣を振るってさ。たぶん、まだ道場にいると思う」

 

 手早く豆腐を切り、油揚げと戻したワカメを鍋にくべて、秋斗は味噌汁を作っていた。

 料理といえば一夏の印象が強いが、秋斗もそこそこ以上に料理を得意としている。

 千冬は秋斗の手際を見ながら、ふっと苦笑を漏らす。

 

「秋斗は器用だな」

「ん、そうか?」

「あぁ。羨ましいよ――」

「――俺は、どれかを極めれる方がよっぽど凄いと思うけどな」

「私の場合は融通が利かないだけさ」

「俺の場合は飽きっぽいだけだよ」

 

 ふっと、お互いに笑みがこぼれた。

 自分に足りない部分を羨ましく思うというのは、本当らしい――。

 千冬は密かに思った。

 秋斗は姉馬鹿なフィルターを通さずとも、非常に器用で優秀な子供だ。

 常人の斜め上を行く発想を思いつき、ソレを実現する行動力を持ち合わせる。

 そして監督を無視して、勝手にどんどん歩いていくような少年だ。

 秋斗が大人の庇護を求めなくなったのはいつからだろう?

 千冬はふと考える――。

 

「――なぁ、姉貴よ?」

「ん、なんだ?」

 

 千冬は思考の海から浮き上がった。

 秋斗は夕餉の支度をする手を止めずに、予定を聞くような何気ない調子で口を開く。

 

「――今日、剣道辞めてきた」

「――――は? 辞めた?」

 

 千冬は秋斗の台詞に思わず眼を丸くした。

 良い意味でも悪い意味でも千冬は秋斗に驚かされる事が多い。

 そして今回もそうだった。

 

「――なぜだ?」

 

 千冬は問うた。心なしか、声が低くなってしまった。

 だが問う以前に、千冬には何となくその理由を察する事が出来てしまった。

 以前、秋斗は剣道にさほど興味が無いと言っていたのを覚えていたから。

 しかしこうもあっさり――。

 しかも既に辞めている(・・)というのはどういう了見だ? と、千冬は思った。

 

「剣よりやりたい事を見つけたから、そっちに時間を割きたい。そんだけさ――」

 

 秋斗はあっけらかんと言った。

 その様子はどこか、親友()の浮かべる空笑いに似ていた――。

 

「――そうか」

 

 本人にやる気が無いのなら仕方の無い話――。

 だが千冬にとっては非常に思い入れ深い分野だ。

 故に、簡単に捨て去った秋斗の行為に、千冬は少なからずショックを受けた。

 

 

 

 

 

 

 秋斗達の住む地域では、毎年秋~冬の頃に市の剣道の大会が催される。

 なのでこの季節になると、剣の腕に自信のある面々は、その表情に険を作り始める程だ。

 会場にはテレビの中継も入る為、学生でない社会人などは寧ろ、この大会に出て成績を残す事を目標にする事も多い。

 

 篠ノ之道場の中で、特に今年の大会に対し、強い意気込みを見せている者が3人居る。

 一人は一夏。

 一人は箒。

 そしてもう一人は千冬である。

 まず一夏と箒だが、2人は子供ながらもその背中に背負う偉大な名前があるからだ。

 そして、それを意識出来る様になった年頃だからだろう。

 一夏は昨年の大会覇者である“織斑千冬”の名前が――そして箒には、己の剣の師であり父の“篠ノ之柳韻”の名前がある。

 しかし低学年の部門で大会優勝と言う頂を狙うには、お互いに相手を打ち倒すのは必須となる。

 故に2人は、この大会で間違いなく戦う宿命にあった。

 ――――だが2人のその関係には、以前のような険悪さが見られなかった。

 箒が徐々にだが、周囲に歩み寄る姿勢を見せたからだ。

 最初は織斑兄弟に対して、敵意に近い一方的な嫌悪を抱いていた箒。

 しかしちょっとした歩み寄りの機会があり、夏頃から“好敵手”とも“友人”とも言い換えられる関係に変わった。

 少なくとも秋斗はそう感じていた。

 そして最後の一人の織斑千冬の方は言わずもがな――。

 千冬は同大会に出場する面々の中では、中学生の頃から毎年優勝、もしくは準優勝と言う驚異的な成績を治めている。

 家庭の事情から部活動に参加する事はないが、その実力は付近の高校に通う剣道部員に決して引けを取らず、また容姿からファンも多い。

 大会でもっとも注目される選手の一人と言っても過言ではない。

 そんな千冬だが、最近はいつも以上の覇気に満ちて、修練を重ねていた。

 千冬は普段から、並々ならぬ努力を苦とも思わない文武両道の体現者である。が、今年は夏の終わり頃から異常なほどに己を追い込んでいるように見えた。

 その理由に関しては、秋斗も一夏も分からなかった。

 だが、明日の大会で、何か強い決心を固めようとしている――。

 そんな予感がした。

 

 大会を前日に控えたある日――。

 

 秋斗は最近、夕食の準備を代わってくれと言う一夏の頼みに応え、今日も晩の食卓を司った。

 秋斗は姉と兄の明日の勝利を祈って串カツを作った。

 

「まぁ、とりあえず俺は応援してるから、2人とも頑張ってくれ」

「――――なぁ、秋斗は本当に剣道辞めるのか?」

「あぁ」

「……なんでだよぉ」

 

 一夏は寂しそうに口を尖らせる。

 心なしか、千冬も寂しそうに見えた。

 秋斗は本日付けで、篠ノ之道場を辞めた。

 そしてその旨を、先ほど姉と兄に話した。

 たまたま託児所代わりに預けられた場所が剣道場だっただけで、秋斗自身にはそれほど剣に対する強い思い入れがない。だからこの先もズルズルと道場に通い続けるより、いっその事、きっぱりと足を洗って自分の道を行こうと考えた故だ。

 加えて、束の“弟子”になった事もある。

 だが、それについては千冬にも一夏にも明かしていない。

 言う必要も無いと思ったからだ。

 だから秋斗は『やりたい事を見つけた』という言葉で、一夏と千冬を突き放した。

 その言葉も本心ではある為、嘘ではない――。

 

「まぁ、姉弟といっても、皆が皆同じ道を行く必要もねぇだろ?」

「もう決めたっていうなら、何も言わないけどさ――。一言ぐらい相談してくれたって良いだろ? 突然、辞めるってなんだよそれ――」

 

 一夏は、秋斗が剣道を辞める事に対して、最後まで不満そうだった。

 夕食の時も風呂上りも、そして寝る直前になってもしつこく説得してきた。

 が、秋斗の決心が固いと知ると、遂に諦めた。

 

「――じゃあ、明日に備えて先に寝るから」

「あぁ。おやすみ」

 

 まだ20時だというのに、一夏は明日に備えて先に布団に潜っていった。

 リビングには千冬と秋斗が残った。

 

「――――なぁ、秋斗?」

「ん?」

 

 千冬はテレビの音量を下げながら、PCで作業に向う秋斗に尋ねた。

 

「お前、私に何か隠してないか?」

「――――何で?」

「……なんとなくだ。後、もしかして剣を辞めた理由もそこにあるんじゃないか?」

「――――っ」

 

 動揺が表に出そうになった秋斗は、咄嗟に内心で素数を数えながら、穏やかに一拍呼吸を置く――。

 千冬は秋斗に視線を向け、小さな溜息を吐いた。

 

「……もう一回聞くが何を隠してる?」

「寧ろ、姉貴は何が気になるん? 俺が何を隠してると?」

「質問に質問で返すな、と言いたいところだが、まぁいい――。そうだな。最近、束と何をコソコソ始めたんだ?」

「あぁ。それか――」

 

 改造フィギュアを売っていた事は、まだ知られていなかったらしい。

 なので、秋斗は内心で少し安堵した。

 

「――博士から電子工作(ハッキング)を教わってる。まぁ、プログラムの云々についてとか、設計やらなんやら――説明が難しい事さ」

 

 これは本当のことだった。

 秋斗は此処最近になって、束から電子工学やプログラミングと言った、束が専攻する分野の一部を教わっている。

 千冬は秋斗の顔をジッと見た。

 

「――――はぁ。あれほど言ったのに結局そっち(・・・)に進んで行ったか」

「そんなに俺が博士とつるんでるのが嫌か?」

「嫌というか、アイツと関わって碌な事になった(ためし)がないからな。――まぁ、それはいい。ただ、危ない事はしてないだろうな?」

「何を持って危ないと言うかは理解しかねるけど、出来ない事を無理やりやろうとはしてないよ。流石にそこまでの度胸はないし」※(ハッキングの勉強中)

「――――そのイエスともノーとも取れない曖昧な言い回しを聞くと、あの馬鹿を思い出すな」

「気のせいだろ? 俺は元からこんな感じだ」

「………………」

 

 千冬は眼光を鋭くするが、直ぐに眼を伏せた。

 

「余り、アイツを真似してもらいたくない」

「寧ろ、真似しようと思っても出来ない事のほうが多くて困ってるくらいだ。世間じゃ色々言われてるけど、実際、真面目な話をしてみると尊敬出来る科学者だよ、博士は」

「そうか――。まぁ、お前もアイツの認める数少ない友達らしいからな。今更、奴との付き合いを辞めろとは言わんよ。だが、余り影響されてくれるなよ? 私の周りに束は二人も要らん――」

「んな、大げさな――――」

 

 千冬は嬉しそうにも、寂しそうにも見える笑みを浮かべた。

 

「――そういえば、姉貴も明日の大会に出るんだよな? 最近よく駐車場で竹刀振ってるけど、なんか去年より気合入ってないか?」

「そう見えるか?」

 

 秋斗は、ふと気になった事を尋ねた。

 千冬は秋斗の質問に、ジッとテレビに視線を向けたまま曖昧に頷く――。

 

「別に誰かを打倒する為に剣を振るってるんじゃないさ。まぁ、機会が来たら話す。遅くとも今年の春には、な」

 

 千冬はそこで話を打ち切り、風呂に向った。

 

 

 

 

 同じ土俵に立って分かる“偉大さ”というモノが存在する。

 秋斗は最近、強くそれを感じた。

 千冬に改造フィギュアを売って稼いだ事を誤魔化す為、軽い気持ちでハッキングを教えてくれと束に嘆願した秋斗は、気づけば束の弟子になっていた。

 秋斗は総数1000枚に上るであろうPDFファイルに眼を通し、束が世界から“天災”と呼ばれている所以を知る。

 束が学者として専攻している分野は、化学、科学、電子、光学、工学、医療、物理、量子、機械設計、整備と、大雑把に分けるだけでも非常に多岐。

 そして言うまでも無く、それらの分野はどれ一つとして容易いものではない。

 束と言う存在は全てにおいて、並み居る世間の天才達を軽く凌駕する逸材だったと、秋斗はこの時改めて思い知った。

 

『――じゃあ次は、昨日の続きから行ってみよう♪』

 

 束が専攻する分野の中で、秋斗は機械と電子工学とプログラム――そして“IS”に関するその他諸々を師事した。

 毎日束から送られてくる課題を解き、夜は音声通話による指導を受けながら、プログラムの構築や束手製の電子模型キットの制作に励む――。

 教えについていけたのは、前世の記憶と言うある程度の学習の下敷きがある事、そして己の身体が想像以上に高スペックだったからだ。

 

「――――感謝しねェとな」

『ん? 何か言った?』

「いや、なんにも」

 

 最初は頭の痛くなりそうな分野だと感じた勉強が、日を重ねる事に少しづつ理解出来るようになった。

 自分の知識や行動の範囲が広くなる手ごたえを感じると、不思議と勉強の日々が楽しくなった。

 何より秋斗は、己の中にある才能に気づけた。

 考えてみれば当然の事だが血の繋がる姉兄同様に、秋斗も十分に才気溢れる器だった。

 それが、秋斗の成長を加速させていく――――。

 

『――――じゃあそろそろ、あっくんお待ちかねの“情報の改竄”に挑戦してみよっか』

「――いざ自分でやるとなると、結構緊張するな」

『大丈夫大丈夫、バックアップしてあげるから肩の力を抜きたまえよ、少年♪』

「スゲェ頼もしいけど、ある意味で滅茶苦茶怖い援護だぜ」

 

 秋斗は束の作ったファイヤーウォールで、プロテクト解除を含めた電子領域への侵入、そして情報改竄と言ったハッキングのノウハウを学んだ。

 そして今日は遂に、“実地訓練”である。

 一夏が寝静まり、千冬がバイトに向った深夜。

 今日も束の弟子としての訓練が始まる――。

 

「――で、実地として今日は一体何を?」

『なに、簡単なお遊びさ。ちょっと覗いて帰ってくるだけだよ♪』

 

 秋斗の最終目標である企業のネットバンクの情報改ざんは難易度が高いので、手始めに手軽な“悪戯”を以てして、学んだ技術のテストをする事になった。

 その教材として運悪く白羽の矢が当たったのが、以前秋斗が自作の改造フィギュアを売りつけたネットオークションの顧客達である。

 束は秋斗のPCにテスト内容を送った。

 

『――それじゃ説明するね。この間、あっくんがフィギュアを売ったお客さんのメールアドレスから相手のPCに進入して、モデムからIPアドレスを取得。そこから個人情報を抜き出して、その勤め先からお客さんの給与明細を拾ってきたら合格ね』

「相手がヒキニートだった場合は?」

『その場合はその家族のでいいや。あぁでも、個人事業主だったらちょっと厄介になるね――』

「個人情報を抜いてくるまでで良くないか? 流石に国税庁に仕掛けるのは勘弁して欲しいんだけど――」

『う~ん。まぁ、それでいいか』

「じゃあ、それで――。で、制限時間は?」

『まぁ、初めてだし15分でお願い。束さんが作ったソフトがあれば余裕でしょ?』

「――やってみる」

 

 秋斗はメールボックスから、改造フィギュアを高値で落札してくれた大きな悪いお友達のメールリストにザッと眼を通した。

 

「――――こいつにするか」

『お、どんな奴だい?』

「ん~俺のフィギュアを40万ぐらいまで競り合って落としてくれた中国人――かな? 名前がそれっぽい」

『へ~』

 

 秋斗はメールの文章を開き、束にも読めるように繋がるチャットにコピペした。

 これでもしもの時のバックアップに、束も対応がとれる。

 

『――ガクバリ? ブキバリ?』

「どっかで見たことあるんだけど、なんだったか忘れた。たぶんまぁ……中国人だろうな」

『そうだね。じゃあコイツにしよう♪』

 

 ちなみに秋斗と束は読めなかった嵌張(カンチャン)というHNである。

 

『さて、それじゃあ、準備してね、よ~~い』

「――――――」

『はじめ♪』

「っ!」

 

 秋斗はHN嵌張(カンチャン)に向けて、ハッキングを敢行した。 

 束側のモニターでも秋斗の状況は見られる為、2人はしばし無言で状況に対応する。

 

「――――送信元を辿ってみたかぎりだと日本人っぽいな」

『だね。だけど――――ちょっと癖のある相手かなぁ』

 

 メールの送信先を辿ってアドレスから登録住所と家族構成を抜き出していく――。

 が、侵入の段階で思わぬ抵抗を受け、秋斗は少し焦る。

 

『落ち着いて。ちょっと手ごわいけど、こっちの情報が抜き出される事は無いから』

「そうは言ってもめっちゃ手ごわいぞ。 なんだこれ――――」

『…………確かに、初めてでこれは厳しいかもね。援護するから撤退して』

「くっそ!」

 

 何時に無く、束は冷静な声で言った。

 その判断に舌打ちしつつ、秋斗は回路を遮断する。

 

『――――っと、コイツは意外に手ごわいね。ど素人かと思えば中々強固なサイバーテロ対策してるじゃないか。あっくん。コレたぶん――相手は“素人”じゃないよ』

「……マジかよ」

 

 秋斗は思わず困惑した声を漏らす。

 

『時間稼ぎに特化してるソフトを積んでるね。多分、仕掛けた相手に反撃する為のシステムだと思う。その手の事に詳しいバックアップ体制が向こうにはあるみたい。相手のPCのプロテクトを組んだのは恐らく、本職(ハッカー)の人間かな?』

「おい、博士大丈夫か?」

『余裕余裕。まぁ束さんに任せなさい。どう頑張ってもあっくんが疑われる事はないし、相手はサーフジインターネッツの途中で運の悪い事に粗悪なウィルスに感染したって思うだけだよ。まぁ、情報は貰うけどね♪ ほいっ、完了!』

 

 束は手早く情報を抜き出して、回線を閉ざした。

 秋斗にも見えるように、束はチャットに相手の情報を載せた。

 ――その情報を見た瞬間、秋斗は思わず声を失う。

 

「………………」

『いや~中々いい暇つぶしになったぜ。に、してもあっくんって、かなり籤運がいいよ。いや、悪いのかな? こんな大物引っ掛けるなんてさ♪ “更識”って確か、日本のなんかの組織だよ。絶対ヤクザを殺すヤクザみたいな組織? よく分からないけど、どうやらそこの“娘”のPCだったみたいだね。しっかしまぁ、予想以上に抵抗するもんだからつい中のデータもろもろフッ飛ばしちゃったぜ♪』

「まさかとは思いたいが――――」

 

 秋斗はある一人の原作キャラを思いだした。

 そしてそれを決して言うわけにもいかず、秋斗は心の中でその青い髪の少女に深く頭を下げる。

 

『個人用のPCにここまでプロテクト掛けてる相手もいるんだねぇ。まぁ、話が本当なら金持ちらしいし。えっとこのサラシキ――トウナ? カタナナ? って読むのかなコレ?』

「――多分、カタナって読むんだと思う」

『へーまぁ、どうでもいいけど』

「せやな」

 

 恐らく妹にプレゼントしてやろうと思って、秋斗のフィギュアを買ったのだろう。

 秋斗はこの秘密もまた、死ぬまで秘めておこうと心に誓う――。

 またそれはそれとして、更識家の次期当主と目される青髪の少女は、PCに溜め込んだ秘蔵の妹画像のデータが吹き飛んでいる事を知って発狂したらしい。

 

『――まぁ、流石に今回は運が悪かったね。でもまぁ、この経験も確かな血肉となったでしょ? じゃ、次行って見よう!』

「……了解」

 

 天災の弟子として、秋斗はこの日6人分の個人情報を、実地訓練として取得した。




ハッキングとかクラッキングとかについてはSF(すっげーファンタジー)っていう感じの解釈でお願いします。
あと次の更新は不定期です。

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