IS原作にたどり着け! 『本編完結』   作:エネボル

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先に前篇を呼んでからでお願いします。


19 束の『難題』 後編

 ISコアが男に反応しない理由。否、反応はするが女の干渉に比べて著しく“反応が薄い”理由については、早々にその原因が束によって突き止められていた。

 そもそも男女の違いと言うのは何処に有るのか?

 身体機能の違いや思考の差異。それら男女の違いを発現させる因子。

 それを突き止めれば、自ずと答えは出ると束は言った。

 

「―――ここまで来ると、もはや機械(・・)じゃねぇな……」

 

 束が秋斗に譲り渡した旧研究秘密基地。そこはかつて束が白騎士を生み出した秘密ラボである。

 秋斗はかつて束が座った椅子に腰を下して、大きく背筋を伸ばた。

 《吾輩は猫である(名前はまだ無い)》という基地を統括する“自立コンピューター”に記録された白騎士の開発情報。その記録を読み解いた秋斗は、ISという代物に対してそんな(・・・)感想を抱いた。

 それから程なくして秋斗は、束からの依頼を遂行するにあたり別途でラボに送られた『ISコアに関する束独自の考察』のレポートに眼を通す。研究の前提として量産された500個の原点、つまり“オリジナル”と称される『白騎士』本体に搭載された純粋な『ISコア』について知る必要があったからだ。

 そうして束の考察を読んだ秋斗は、ISコアが『まだ性別の判別出来ない妊娠初期段階の“受精卵”』に近いと知り、同時に自ら最適な道筋を思案して“自己進化”する擬似生命である事を理解した。

 秋斗はISという存在がもはや“機械”の範疇に収まらないと判り、故に呆れの吐息を吐いた。

 ISの荒唐無稽さは産みの親(篠ノ之束)に良く似ている。

 そして同時にその有り様は篠ノ之束の天才性に等しく規格外。

 

(とてもじゃないが、流石にあの人()の弟子ってのは自惚れが過ぎたな。コレが本物(天才)って奴か……)

 

 秋斗は改めて“天災の弟子”を名乗る己の不相応さに苦笑がこぼれた。

 一時期は束から直接“知識”を教え込まれた。

 それ故に多少は並の人間よりも賢しくなったという自覚があった。

 が、しかしその自信はたった今、木っ端微塵に砕かれたのだ。

 

「流石師匠、頭おかしいだろ? ……御見それしたぜ、まったく」

 

 改めて清々しいほどに己が“凡人”であると理解した秋斗は、一息吐いた後でようやく己の役目(・・)を果すべく行動を開始した。

 幸いにして秋斗に求められている役目はそれ程に難しくはない。

 とはいえ、その一端を任せられる条件を聞けば納得の仕事だ。

 ならばせめて仮にも“弟子”を名乗った以上、その仕事だけはしっかり完遂してやろうと、秋斗は気合を入れなおした。

 

「さて――――」

 

 秋斗は先ず《吾輩は猫である》に保存された設計図を開き、その手順を工作機械に“命令”として入力した。そしてメンテナンスベッドと呼ばれる作業台の上に、一年掛けて束から贈られた無数のパーツとISコアを設置した。精密な仕事であるのは容易に想像出来る為、秋斗は重ねて3回程“パーツの不足が無いか”を確認した後で、《我輩は猫である》を介し“実行”の指示を送った。

 ――――程なくしてメンテナンスベッドの脇から無数のアームがヌルヌルと現れ、各種パーツを自動で組み上げていった。

 それを待つこと10分――――。

 メンテナンスベッドの上には、図面通りの形に組みあげられた『銀色の懐中時計』が横たわっていた。

 完成したそれを確認した秋斗は、続けざまにノートPC(トチロー1号)から伸ばした接続コードを『懐中時計』の裏にあるダボ穴に接続して、時計の内部に搭載された『ISコア』に以前束から贈られたプログラムコード(命令)を入力する。

 程なくして『懐中時計』が時を刻み始め、秋斗はそのカチカチとした秒針のレトロな音を聞いて、安堵の吐息を漏らした。

 コレを作らせるために、束は一年掛けて秋斗を振り回したのだ。

 

「“IS”って言うのが、段々よく分からなくなってきたぜ」

 

 秋斗は『懐中時計』を摘み上げるように持ち上げ、ソレを繁々と眺め、確認する。

 その懐中時計は束が設計したISの“一種”にして、同時に今後のISと秋斗自身の“未来”を左右する代物だ。

 とてもそんな大きな可能性を秘めた代物には見えないが、秋斗は身に付ける為にラボに残された廃材を機械で加工して鎖を作り、『懐中時計』をペンダントの様に首から提げた。

 

 

 

 

 多くの動物はその受精卵の段階で全て“雌”である。故に“雄”という個体はある意味で、雌から進化した生命だ。

 つまり“雌”の形こそ、生命においてはもっとも純粋な形と言えるだろう。

 そして『ISコア』の有り様は、秋斗が評したようにある種の“擬似生命”と呼ぶに相応しい。それ故に、原初の『ISコア』の持つ自我、もしくは性別が“雌”に近いと考えるのは不自然な事ではない。

 ISコアの開発の段階で、理論上は束も十分、男にも反応すると思っていた。

 しかし結果は女性にしか反応せず、男がISに乗る事は叶わなかった。

 ソレについて原因を探った束は、ある日、ある一つの結論にたどり着く。

 産みの親()育ての親(千冬)

 そのどちらもが“女”であった事に原因があるのでは? という考えに至ったのだ。

 元々女性は“共感”と言う形で同性間の感覚共有に長ける。そしてISコアが雌として自我と共感の能力を用いてそう女性を理解したと考えれば、男に対する“反応の薄さ”は決して不自然な話ではない。

 つまり決定的な男に対する情報、理解の不足に原因があるのだと束は考察を纏めた。

 ならばソレ(・・)を学習させる機会を与えるのが一番である。

 束は程なくして、そう原因に対するアプローチを考え付いた。

 ――――そして他ならぬ秋斗に、その白羽の矢を撃ち立てた。

 人選について今更説くまでもない。束にとっては最も身近な男であるが故。

 加えて原初のコアである白騎士のISコアに、その生体情報を提供した織斑千冬の血縁者の“男”という出自。

 無論、今日に至るまでの積み重ねた信頼も在る。

 それに条件が“同じ”で明確な差異を持つ、双子の兄、一夏の存在があった。

 秋斗の方で蓄積したデータの“偏り”を修正する『処方箋』として、間接的に一夏についても観測すれば、自ずとISコアの学習進歩は早いだろう。

 以上の理由から、束は緻密に計画を打ちたて人知れず開発した“501”番目のコアを秋斗の手元に贈りつけた。

 そして自ら設計したISコアソケット――である『懐中時計』を秋斗に作らせたのだ。

 

 『懐中時計』内部に搭載されたISコアは、秋斗を介して男という存在に対する学習を始めた。

 蓄えられた秋斗の生体データは将来的に量産された500のISコアにアップデートされる事になり、後にIS唯一の欠陥である『女性にしか扱えない』という“バグ”を取り除くワクチンと化す。

 そんな重要な使命を請け負い『懐中時計』を完成させた秋斗は、その日以降、トレードマークのように時計を首から提げるようになった。

 懐中時計に搭載されたISコアは決して、ISとして展開する事はない。

 ISの機能として備わっているのは精々、搭乗者を保護する『シールド防御』と『絶対防御機能』と、『学習機能』のみ。

 つまり有り体に言ってしまえば護身グッズのようなモノだ。

 秋斗はそれを身につけ、なるべく年相応の日常(・・・・・・)を心がけるよう、束に頼まれた。

 

(年相応の日常、か――――)

 

 秋斗は不意に、束に課せられた使命が、後に原作一夏が自ら解き明かす謎の一つなのではと感じた。

 もしそうであるならかなり重要な未来を奪い取ったような気もするが、秋斗の持つ原作知識にも、そのような描写がない事。そしてそこまで描かれた部分を見ていない事から、直ぐにその考えを打ち消した。

 秋斗は小さく吐息を吐き、傍らの筐体に座る一夏に視線を送った。

 

「――――どうする? まだやるかい?」

「くっ……」

 

 秋斗は悪辣に笑った。

 そんな笑みを受けた一夏は、悔しさに歯噛みしながらポケットの中身をまさぐった。

 一夏は再び握り締めた“10円”を片手に、もう一度、秋斗に勝負に挑む。

 

「っ! このやろう! 次は絶対勝つからな!」

「一夏、頑張って!」

 

 一夏の後ろで覗き込むようにして立つ茶色のツインテールの少女が、ピョコピョコと跳ねる。

 彼女は4年の頃に一夏の在籍するクラスに転校してきた中国人――凰鈴音。

 織斑家の住所と越してきた鈴の家が近所という事もあり、程なくして織斑兄弟は鈴とよくつるむ様になった。

 

『Get Ready――』

 

 筐体から音声が漏れる。

 3人が訪れたのは校区から少し離れたところにある『10円ゲーセン』と呼ばれる類の駄菓子屋で、そこは型落ちした古い対戦ゲーム筐体が1クレジット10円という破格の値段で遊べる場所であった。

 小学生の小遣いでも容易に筐体で長く遊べるので、秋斗達は最近見つけたこの店に良く訪れる。

 そしてそんな秋斗と一夏が熱を上げて対戦するのは、かつては一世を風靡したタイトルにして、今は型落ちしたロボット対戦ゲーム。通称『電脳戦士タングラム/サターン』。2本のスティックと計4つのボタンでロボットを操縦して競う対戦格闘ゲームだった。

 秋斗にとっては懐かしい、そして一夏にとっては先日受けた“影響”をモロに刺激する事から、2人はこのタイトルでの対戦を繰り広げていた。

 

「“キヨカゲ”で近接格闘を仕掛けるな、とは言わねぇけど……もう少し考えて突っ込んだらどうよ?」

「うるさい! くっ、逃げずに当たれよ、くっそ! おい、いい加減、その“設置砲台”使うのやめろよ!」

「んじゃ、近づいてやるよ」

「その“変形体当たり”もヤメロォ!」

 

 一夏の駆る白の鎧武者――『キヨカゲ-747a』は、その装いに違わぬ高い格闘戦能力を持つ機体である。故に、一夏はどうしても格闘戦を仕掛けたいらしい。

 一夏は気迫を纏って秋斗の駆る『バルサイファーΔ』のピンクの影を追うが、いつの間にか設置された“ダガー”と“レーザー砲台”に翻弄され続けた。そしてじりじりと四方八方からの砲撃で大きくHPを削られた一夏の“キヨカゲ”は、遂に空中で飛行形態に変形した秋斗の『バルサイファーΔ』の“特攻”体当たりを受けて爆散。

 一夏は通算して5連続の敗北を迎えた。

 

「……終止、ってな」

「くっそ、後ろからチマチマ卑怯な攻撃ばっかしやがって。正々堂々勝負しろよ!」

「正々堂々なんて物好き同士が共有する性癖みたいなもんだ。あと、ゲーセンでその言い訳は寒いぜ?」

「なんだよそれ……よくわかんねぇけど、この外道! チクショウ!」

「なんとでも言え、負け犬」

「くぅっ」

 

 がっくりとうなだれる一夏に、秋斗は平静とそんな言葉を送った。

 篠ノ之一家が引越し道場が閉鎖された為、放課後の一夏の元気は結構有り余っている。故に対戦ゲームでソレを発散するのは非常に都合が良く、また一年ほど前まで織斑家にはゲームを買う余裕すらもなかったので、一夏はその楽しさにようやく気づけたらしい。加えてゲームとはいえ"対戦”と言う形の勝負事でこれ程に秋斗にボコボコにされた経験も薄い為、一夏はすかさずもう一度連コインをしようとポケットを漁った。

 が、そこへ鈴が一夏を無理やり押しのけるように筐体に座りこみ、操縦桿を握った。

 

「そろそろ代わりなさいよ、一夏!」

「お、おい、鈴! 押すなよ――――」

「仇は私が取ってあげるわよ!」

「……へぇ、調子に乗って潰されにきたのか?」

「今日こそアンタを負かしてやるわ!」

 

 秋斗の軽口に鈴が吼える様に返す。

 去年、転校してきたばかりの頃の鈴はもっと淑やかな性格で、日本語も今ほど堪能ではなかった。そして中国という生まれと“リンイン”と言う名前の響きから、一時期は『パンダ』という悪い意味での渾名を付けられ、クラスでからかわれていたそうだ。ソレを救ったのが例の如く一夏だったそうで、それ以来、鈴は一夏とよくつるんでいる。

 また鈴の実家の中華屋が旨い安いと評判で、最近の織斑3姉弟はそろってその店の料理の世話になっている為、鈴の存在はある意味で“妹分”に近い。

 コレがセカンド――即ち一夏の後のヒロイン2号である。

 

「覚悟なさい、秋斗! 私の『アームド-フェイ』がアンタをシバく!」

「OK。なら御望みどおり、正面から相手してやるよ」

 

 鈴が選んだのは女性型にして軽量高速近接機体の『アームド-フェイ』。

 対する秋斗は機体は鈍足重甲高火力の『テツヲ-V』。

 

「おい。正面からってお前(秋斗)……殴り合い(・・・・)するんじゃねーのかよ?」

 

 秋斗の機体セレクトを見て一夏はそんな風にぼやいた。

 対する秋斗はニヤリと口元に笑みを浮かべて、平静に言った。

 

「火力ブッパも専門用語で殴ると言うんだぜ? まあ見てろ。……ガチタンと相対する“怖さ”ってのを教えてやるよ」

「一夏、放っておきなさい。秋斗のひねくれた言い回しなんて今更でしょ。それにその装甲を正面から削りきれば何も問題はないんでしょう? 上等じゃない? 速度で翻弄してボコボコにしてあげるわ!」

 

 鈴は八重歯を牙の様に剥く。

 秋斗はそんな鈴の台詞に悪辣に笑って返し、操縦桿を握りこんだ。

 

「そんな軽い機体でこの『テツヲ-V』の装甲を削りきるってか? 心意気は“良し”だが、20秒で消し炭にしてやるよ」

「ぶっ潰す!」

 

『Get Ready――』

 

 ――――そんな3人の戦いは日が暮れるまで続いた。

 秋斗の首から提げた懐中時計に宿るISコアは、粛々と秋斗から“男”を学習し続けていた。

 

 




ゲットレディ! キュィイィイイィイキュイッキュィィイイガシュインッガュインッ! ボンボンボンボン! キュィィイイイガシュイン! バコンッ! バシュバシュバシュバシュ!ポワワワ~ン!ヒュッ!キュィイイイイバシュバシュバシュ!ヒュ!バコーン!キュィイイイイカ!カシュイーンガシュインーン! キュイイィイキュキュバコンッボボボボボ・・・テ→テ↑テ↓テ→テレレレン!

鈴「うわぁあああ!」

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