IS原作にたどり着け! 『本編完結』   作:エネボル

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26 中学での『出会い』

 秋斗達が中学に進級すると、遂にそこで“女尊男卑”の息吹が見えた。

 そこにはモンドグロッソでの千冬の影響も、もちろん有る。

 そして“己も強くあろう”とする思春期特有の気の強い大柄な女子が、1~3年のどの学年にも一定数存在していたからだ。

 同時に教育者として少し破綻気味な、処女をこじらせた喪女教諭の、女子生徒贔屓な態度もあるのだろう。

 中学に進級する事で近隣の小学校の卒業生は、一同に一つの学校に集められた。そして先輩後輩という序列の中に放り込まれた。それから程なくして新入生は、上級生の醸し出す“男より女が優れている”という態度によって思想に感化される。

 それは二次成長期が男子より一足早い女子程に顕著になる。そして男子はそんな女子の掌を返したような態度の変化に追従できず、つい従ってしまう。そんな悪循環がそこにはあった。

 世間は未だ、それ程に強い女尊男卑の思想はない。が、しかし少なからず女性側の立場が向上していたという空気はある。

 そして社会の縮図とも言える中学校という狭い世界の中では、既にそうした後の社会の歪な規範が出来あがりつつあった。

 ――――そしてそんな世界に新入生として入学した織斑兄弟は、入学早々にして全校の注目の的であった。

 

 『爽やかな方の織斑』と呼ばれる一夏は、姉譲りの剣才で瞬く間に剣道部で名を挙げた。

 その実力と、日に日に成長する身長、面立ち、社交的で穏やかな振る舞いによって、入学してから一週間で、一夏は8人の上級生から告白を受けたと噂になった。

 対する『不健康な方の織斑』と呼ばれる秋斗は、脇目も振らずに帰宅部に在籍。そしてゲームセンターで知り合った御手洗数馬と、その小学校時代の友人であるオタク集団と共に模型部の助っ人としての学校生活を始めた。

 当初の評価としては、一夏の方に軍配が上がる。が、しかし秋斗も“織斑”である所為か、所謂普通に比べると十分に目立つ事を直ぐにやらかしてのけた。

 

(――――はぁ、かったる)

  

 出席番号05 織斑秋斗。

 出席番号の順で席に並び座ると、秋斗は丁度廊下側の後ろ角にその席が出来る。

 立て付けの悪い学校の引き戸からは常に隙間風が吹き、最も日の当たりが悪いポジションにある為、そこは5月なのに肌寒い位置だ。

 コレだけでも相当に不愉快なのだが、それ以上に秋斗は中学生活を辞めたいと悩んでいた。

 授業を担当する教師の珍しいモノを扱うような視線と、他の小学校からやって来たクラスメイトから見世物パンダ扱い。更に噂の“織斑”を一目見ようと、次々上級生が顔を拝みにやって来る。――――しかも秋斗の席が廊下側にある所為で、いやおう無しに見物客の視線が集中する。

 

「……はぁ」

 

 どうせ義務教育なら不登校でも卒業出来る。高卒の資格は通信教育で取って、大学なり専門学校に出れば新卒採用の資格は十分取れる。就職が出来なくても別に今までどおりの手段で金を稼げば良いだけの事。文句を言われるなら早々に家を出れば良い。つまり何も問題ない。と、そこまで下らない妄想を広げた末に、秋斗はシャープペンを置いた。

 教卓の上の時計を見て、秋斗はまだ残り時間が15分もある事に気づく。

 

(……さっさと帰りてぇな)

 

 秋斗は大きく欠伸をしたのち、先程まで解いていた数学の“中間テスト”の用紙を裏返した。

 それから続く英語、歴史、理科、国語の試験を同じ調子で受けた秋斗は、答案の返却日に498点と言う学年最高の結果を一学年の生徒全員の前に叩きつけた。

 

「――――なんかお前等兄弟ってさ、チートだよな? 姉もスゲェし」

「……何がだ?」

 

 五反田弾の台詞に一夏は首をかしげた。

 そんな一夏を見て、弾は呆れた様子で言った。

 

「なにがって、兄は剣道部期待の星。弟は学年の主席。姉貴は世界一位……コレを“チート”と呼ばずして何と呼ぶんだよ?」

「……しいて言うなら変わり者、かな?」

 

 そこへ秋斗が口を挟む。

 ボケなのかマジレスなのか分からない秋斗の微妙な返しに、弾は短く「馬鹿言え」とぼやいた。

 ある日の昼休み。

 給食という文化の無い中学校の為、秋斗と数馬は共に昼飯を囲んだ。そこに隣のクラスに在籍する一夏と、その友人になった“五反田弾”という少年がやって来た。

 折角だからという一夏の鶴の一声で、一同は屋上に場所を移して弁当箱を開けた。

 男――四人。後に互いを親友と呼び合うこの4人の友情は、この時に始まったと言えるだろう。

 

「しっかしまぁ、話は変わるが一夏はホントにモテるな? 何でそんなにモテるんだ? 何かの特典か? 神様ってマジでいるの?」

「……なんやねん。その二次創作SSみたいなんは?」

 

 特徴的な赤毛男――五反田弾の軽口に、関西弁の少年――御手洗数馬は呆れた様子で突っ込みを入れる。

 

「いや、だってそう思いたくなるだろ? 8人だぜ、8人? これはもうトラックに轢かれて加護をもらったとしか説明できないだろ?」

「んなわけあるかいな。と、言いたいところやけど。せやな~。まぁ、そう思いたくなる気持ちは分からんでもない」

「だろ?」

 

 自己紹介もかねて一同は軽く身の上を話した。

 数馬は小学生時代に一度関西から引っ越して、その影響が強く口調に出ると言う旨を話し、弾は実家が定食屋で家族にリアル妹が1人居る事を明かす。

 そうした家庭の話を続けるうちに段々と打ち解け、遂に一同の矛先は話題の宝庫である一夏に向いた。

 

「に、しても不思議と言えば秋斗君の方はモテへんなぁ? なんで? 似たような顔しとるんに?」

 

 数馬は首を傾げて尋ねた。

 確かに双子と言う出自で、面立ちもそれ程に差があるとは思えない。秋斗も尋ねられると確かに疑問に思った。

 

「そうだな。確かにそんなに見た目は変わらねェのにな? なんでだろ。遺伝子の不思議なところだ。多分一夏の顔は、織斑の子孫を残すのに最適化されてるんじゃね?」

「マジで?」

「マジでか!?」

「いやいやいや、んなわけねーだろ! 秋斗も適当な事言ってんじゃねーよ!」

 

 と、一夏は恥ずかしそうに声を荒げた。

 一夏は垂れ目で温和な顔。

 秋斗は千冬と同じく鋭い眼に加えて、束のような隈が特徴。

 どちらも整った顔立ちなのは明確なので、入学して早々に“双子”の兄弟は注目された。

 しかし一夏と違って秋斗の方はまるで異性に告白される気配が無い。この場に揃った一同――秋斗も含めて、それが不思議でならなかった。

 その話題で一同はしばし駄弁る。

 

「――――オタク趣味やからかなぁ。“模型部”って典型的なそれやん? 俺らとつるんどる所為もあるんかもね」

 

 と、数馬は吐息をつく様に言った。

 するとそこへ弾が気づいたと言う様子で言った。

 

「あ~、そう言えば数馬は模型部だっけ? だったらそうかもしれねーぜ? 最近俺の妹もそうなんだけどよ、ちょっとアニメの美少女抱き枕を使った(・・・)ぐらいで蛇蝎の如くキモがりやがったんだよなぁ――――」

 

 そんな弾の意見に秋斗と数馬は反射的に口走った。

 

「……いや、それは弾がキモイだろ?」

「せやな。それは流石に弾がキモイわ。趣味は客観的に見て、多少は隠すなりのデリカシーは利かせんと」

「秋斗、数馬も! お前等、ヒデェな!」

 

 弾は辛辣な秋斗と数馬の台詞を受けて、衝撃を受けたようにのけぞる。

 そしてグリンっと、首を一夏の方に向けた。

 

「一夏!?」

「な、なんだよ、弾」

「……俺の趣味はキモイのか?」

「あ~、おう、多分な」

「……………」

 

 一夏は若干引くような顔で、弾に止めを刺した。

 そして丁度そこへ、チャイムが響いた。

 

 

 

 雑然とした街の繁華街。その場所は住宅地から自転車でおよそ15分といった場所にある。

 古くから商店街として栄えたその場所は、今日も多くの人通りで賑わっていた。

 立ち上る紫煙。路上の吸殻。ゴミ箱からはみ出した空き缶。そして繁華街ならではの吐瀉物の痕跡――――。

 そんな薄汚れた路地を歩いた先に有る一軒の雑居ビルには、ゲームセンターがあった。

 ゲームセンターという土地柄は、古くから――と、言っても対戦格闘ゲームが登場した辺りから、あまり青少年が屯する場所として、相応しく無いと言う評価を受けている。

 特に極端な物言いをする教育者は、訪れる客層に問題があると言った。

 しかしそれは流石に言い過ぎだと、多くの若者は思う。

 金を使っての遊戯を楽しむ施設である故に揉め事が起こりやすい印象はあるものの、実際はそこまで“世紀末”な環境ではないのだ。

 ――――しかし例外は存在した。

 

「――――おい、馬鹿共。ちょっとツラ貸せ」

「ぁん、なにお前? 誰?」

「中学生?」

 

 へらへらとした調子で歩く2人組みが人気の無い路地に入ったところで、首から懐中時計を提げた少年が後ろから声を掛けた。

 2人組みの男はかったるそうに振り返る。――――が、その返事を聞くよりも先に、少年は手前に居た1人目の膝を素早く蹴りつけた。

 

「―――ッ!?」

 

 痛みに呻くよりも先に体勢の崩れたところを狙って、少年はその顎先に掌打を叩き込む。

 その一発で完全に意識を立たれた男は、路上に崩れ落ちた。

 

「なっ!? なんだよ、いきなり!?」

 

 2人組みの片割れは、相方が突然地面に倒れた事で完全に戦意を喪失していた。

 しかし少年はそれすらも意に介さず、呆気にとられて何も出来ずに居る片割れの男に足払いをしかける。

 男は姿勢を崩して尻餅をついた。

 いきなり仕掛けられた暴力に恐れ戦いた男は、慌ててその場から逃げようと尻を浮かす。――――が、それより早くに、少年はその肩口を踏みつけるようにして靴底で蹴りつけた。

 

「な、なんすか! なんなんすか!? 一体――――」

 

 その時点で勝敗は決まった。既に成人に程近い男は鼻水をたらして、涙目で敬語を使った。

 その様がこの場の強者を明確に証明していた。

 

「……財布出せ」

「へ?」

 

 懐中時計を揺らす少年は男を踏みつけたままの姿勢で、真上から顔を覗き込むように短く言った。

 

「財布を出せ。早く」

「は、はい!」

 

 男は慌ててポケットからヴィトン皮の財布を抜き取り、ソレを震えながら差し出す。

 少年はソレをひったくるように奪い取ると、中身の数千円を抜き取り、空の財布で男の頬を引っ叩いた。

 

「――――大の男がガキからカツアゲ(・・・・)するんじゃねぇよ。今度、俺のダチから金とってみろ。次は前歯を叩き割るから覚えておけ」

「は、はい! すいませんでした!」

 

 少年――織斑秋斗は止めに一発鋭い回し蹴りで男の意識を刈り取ると、急いでその場からダッシュで離脱した。

 そして一目散に道を走り、待たしてた友人と合流した。

 

「おい、“数馬”。ほら」

「――――取り返してくれたんか!?」

 

 数馬の頬には殴られた痕跡が残っている。それは先程のチンピラにカツアゲされた痕だった。

 秋斗は数馬に、先程チンピラから取り返した5000円を渡した。

 

 

 ――――織斑秋斗と御手洗数馬と出会ったのは、繁華街に有るとあるゲームセンターであった。

 そのゲームセンターには1フロアの半分を占有する二つの人気対戦格闘ゲームの筐体が有る。

 “浮かされたら負け”というシビアな目押しのコンボで凌ぎを削りあう3D格闘ゲーム――『剛拳』の筐体郡と、同人から出自したキャラクターを対戦格闘に持ち込んだ『プリズマブラッド』の筐体郡。その2つのタイトルに命を燃やすプレイヤー達が醸し出す(・・・・)、どこか一触即発に近い微妙な空気――――。

 秋斗はそこに蔓延する相変わらずな空気に、思わず苦笑を漏らした。

 精度の高い目押しコンボと、“浮かされたらほぼ負ける”というシビアなゲーム性故に、『剛拳』は初心者には敷居が高いと言う印象がある。

 加えてこのゲーセンに訪れるプレイヤーの印象が、余計に初心者への“とっつき辛さ”を与えている。

 薄汚れた作業着姿で椅子に胡坐を掻く厳ついオッサン、ピアスを開けて髪を染めた強面の若者、そしてホスト、等――――。

 たまたま秋斗が訪れるゲームセンターの『剛拳』プレイヤーがそうなのかは分からない。

 だがどうにもこの周辺の『剛拳』プレイヤーには、そんな厳しい印象を持つ者が非常に多かった。

 ちなみに隣り合う『プリズマブラッド』の筐体だが、こちらはガリガリな中高生や、大学生、キモデブ眼鏡の大きな御友達といった“如何にも”な風体のオタク勢が多い。

 ――――故に、だろう。

 『剛拳勢』は『プリブラ勢』をキモいオタク集団と軽蔑し、『プリブラ勢』は『剛拳勢』を態度の悪いチンピラ集団だと内心で軽蔑する空気が有る。

 直接煽りを口に出したり、プレイヤー同士が拳で対立するという大きな揉め事はまだ起きていない。

 だが何れそうなるであろうという空気が、そのフロアには感じられた。

 

「……ま、別にどうでも良いけど」

 

 秋斗は肩を竦めて、さして気にする様子を見せずに目的の『剛拳』の筐体の方に歩いた。

 中学に進級した秋斗は暇を見つけると大抵ゲームセンターに通っている。趣味も多分にある。が、その理由の半数は劉老人から格闘技の手解きを受ける様になったからだ。

 意外に格ゲーが“イメージトレーニング”の役に立つ。――――とは流石に言い過ぎかもしれないが、劉老人から手ほどきを受ける前の精神統一に、格闘ゲームは丁度良かったのだ。

 そしてその日の鍛錬前にも、秋斗は乱入を待ちながらCPU戦を消化しているプレイヤーの台に乱入した。

 相手は“浴衣はだし”コスの『リリ』。対する秋斗が使うのは“デフォルト色違い”コスの『ブライアン』。

 コレは秋斗の偏見だが、美麗なグラフィックと無数にあるコスチュームの影響で、『剛拳』プレイヤーを使うがその持ちキャラの見た目は、そのままプレイヤーの自身の趣味や性癖に直結する。

 故に今回の『浴衣はだしコス』のリリを使う対戦相手を、秋斗は密かに「中々、業が深いな……」と評した。

 ――――ちなみに余談だが、秋斗のもう一つの持ちキャラはレザースーツの『ニーナ』である。

 

「……あれ、織斑君やん?」

「ぁん?」

 

 実力伯仲。

 互いに譲らず、何とか秋斗が勝ちをもぎ取ったその瞬間だった。

 秋斗は対戦相手から声を掛けられた。

 対戦相手の顔を態々覗き見るのは余りマナーが良いとは言えない行為。しかし秋斗は特に気にせず、その声にふと顔を上げた。

 そこには同じ年頃の眼鏡の少年が座っていた。

 彼こそが、秋斗の後の友人となる“御手洗数馬”である。

 

「……誰?」

「いや、同じクラスの御手洗なんやけど。織斑君やろ? 弟の方の?」

「あ、あぁ」

 

 対面に座っていたのは、今年四月に秋斗と同じクラスに組み入れられた眼鏡の少年――“御手洗数馬”だった。

 そして『はだし浴衣リリ』というチョイスを堂々選ぶ数馬を見て、秋斗はその時、直感的に『コイツとは友達になれる』と確信した。

 それが、御手洗数馬との出会いであった。

 

 

 ―――――そんな御手洗数馬と知り合ってから程なく。

 秋斗は中学で知り合った友人が、皆所謂“苛められっこ”に近いと気づいた。

 それは趣味がキモがられると言う表現が一番しっくり来るだろう。

 特にクラス内の気の強い女子やDQN系の運動系男子というスクールカーストの上位層の過激派から、余り良く思われていないタイプが多い。

 そういえば、と秋斗は思い出したが、始めの頃は“あの”織斑という事で数馬や今の友人達とは少し距離が置かれていた様な気がした。

 なので『剛拳』の台で勝負する“きっかけ”がなければ、秋斗は未だに“彼ら”と話をする事はなかっただろうと感じた。

 

「――――そもそもだ。絡まれたら走って逃げるぐらいの事はしようぜ? 数馬だって客層の悪いゲーセンってのは、空気でわかるだろ?」

「……ごめん」

 

 中学の昼休み。

 秋斗は昨日の起こった“カツアゲ事件”のちょっと説教をかねて、数馬を筆頭にする模型部のメンバーと昼食を共にした。

 御手洗、若原、山口。皆、秋斗と同様に模型部に所属し、件のゲーセンで“拳を交わした”友人達である。

 そして全員が、同中学では有名なオタクの巣窟(模型部)に生息する所為か、不健康そうな顔ぶれが多い。

 

「でも『剛拳』の筐体置いてあるのって、あそこしか――――」

「行くなとは言ってねぇだろ? 気をつけろって言ってんの。それと。まさか次も“助けて貰える”なんて、都合の良い事考えてるわけじゃねぇだろうな?」

「……うっ、せやね。それに関しては本当にゴメン。次からは気をつけるわ」

「おぅ」

 

 秋斗の持つ千冬譲りの鋭い眼光を受けて、数馬は苦い顔で肩を竦めた。

 そこへ若原が茶化すように口を挟んだ。

 

「逃げろと言われても、デブがそう簡単に走れたら苦労しねぇよ。デブの機動力は並じゃないぜ?」

「なら尚更、走って減量しろよ微笑みデブ(若原)。てか、絡まれて逃げないなら、せめて財布護って一発殴るぐらいの気合は見せろよ。それが出来ないなら冷静に店員か警察呼べ。後、ちなみに立会いでその“贅肉”は間違いなく武器になるぞ?」

「でもさ、秋斗。いきなり人を殴るのは流石にやばいんじゃないの?」

「ぁん?」

 

 そこに山口が真面目を気取って言葉を挟んだ。

 

「別に誰彼かわまず殴れとは言ってないだろ? ボコられて、財布取られるくらいなら、せめて相手に手傷を負わせてやるぐらいの気合は“見せろ”って言ってんの。それが出来ないなら“逃げろ”だ。お前等文句多すぎだろ。どっちも出来ねぇっていうなら最初からゲーセンなんて行くの止めとけ、アホ」

 

 手厳しい意見だったが、下手に絡まれ、金を失い怪我を負わされる事を思えば、その方がマシだと秋斗とは思った。

 一応友人なのだ。なので忠告はした。

 しかしそれでも懲りないならば、後は各々の自由――。“捨て置くだけ”だと、秋斗はそれ以上の叱責をやめた。

 

「……なぁ、秋斗君はなんぞ武道とかやっとったん? 財布取り返すぐらいやから強いんやろ?」

「ぁん? あぁ、なんだったら紹介してやろうか? ジークンドーの達人なんだけど」

「…………マジで?」

 

 恐る恐ると言った様子の数馬の質問に、秋斗は何気なく武術の師匠――劉老人の事を話した。

 ひ弱な模型部のオタク達だとは言え、彼らも一応男であるらしく、“強さ”というモノにはそれなりの興味がある様子だった。

 

「近所に住んでる“劉”っていう胡散くせぇ爺さんなんだけどな? なんだったら会ってみるか? 習うなら毎月、月謝に3,000円取られるけど」

「えー、金取るの?」

「そりゃお前、この世に無料なんてあるわけねぇだろ?」

 

 強さに対して少なからず存在する“憧れ”。

 この時の秋斗は、少なからずソレを兼ね備える存在だった。

 故に一同は秋斗の話に食いつき、程なくして数馬を初めとする模型部の面々は、劉に会う事を決めた。

 ――――コレの出会いが、そしてこの模型部達との“交友”が、後に起こる事件の引き金になるとは、この時の秋斗はまだ予想すらしていなかった。




難産でした……。
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