IS原作にたどり着け! 『本編完結』   作:エネボル

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2話同時ですのでさきに前話をどうぞ。


34 走り出したら、止まるな! 前篇

 コイントスで進退を決めたとき、秋斗は“裏”を出した。

 それは単独で日本に残るという結果である。

 秋斗には、それはまるで世界の意思がそうした様に思えた。

 “原作”という世界の基準を下に考えれば、モンドグロッソに赴くのは千冬と一夏だけなのが正解だからだ。

 しかし不思議な事だが、そんな風(・・・・)に考えると不意に“ある考え”が秋斗の脳裏に過ぎった。

 故に、秋斗は覚悟を決める事が出来た。

 

「身内以外で俺の部屋に来たのはアンタ(・・・)が初めてだ。歓迎するよ、盛大に」

「――――っ!?」

 

 秋斗は捕獲したテロリストの一人を自室に引きずりこんだ。

 容赦の無い攻撃で無力化した秋斗は、捕獲した男に事前に用意した手錠を嵌め、頭に被せた袋で視界と言葉を封じた。

 そしてそう(・・)言い聞かせた。

 秋斗にとって幸運だったのは直接出向いた人数が4人だった事。

 そしてたった1人で“突入”してくれた事である。

 秋斗は最低でも2人以上を同時に相手にする可能性を考えていた。故に、予想に反して相手が侮ってくれた事に、秋斗は安堵する。

 そして気合を入れるように、大きく息を吐いた。

 ココから先の、大まかな“プラン”は決めている。が、それは殆どアドリブ(・・・・)のようなものだ。

 故に結果がどうなるかは、秋斗にも分からない。

 ――――しかし、“それで良い”。

 未来は分からない方が正しいのだと、秋斗は己に言い聞かせた。

 そして“走り出したら止まるな”、“その時はそれで良い”と、憧れた映画のヒーロー達の様に立ち向かう事を選んだ。

 秋斗は覚悟を決めていた。

 日本に残ると決めた際に湧き出た考えと、それに殉ずる覚悟を胸に、秋斗は己が“最善”だと思うように行動を開始する。

 秋斗は気絶させた男から奪い取った上着、目出し帽、拳銃、パスポート、携帯電話、トランシーバーを身につけた。

 そしてノートPC(トチロー1号)に予め作っておいた“プログラム”を起動させると同時に、“WEBカメラ”である動画を撮影する準備を手早く進める。

 目出し帽をかぶった秋斗自身と、足から血を流して手錠を嵌められ、頭に布袋を被せられたテロリストが映る様に――――。

 

「さて……イイ声で泣けよ?」

「っ!? ――――っ!?」

 

 秋斗は奪った拳銃をチラつかせると同時に、捕獲したテロリストの耳元でリューターの(バイト)をギュィンと回転させた。

 そして徐にカメラに向けて言い放った。

 

「さて、皆さんこんにちは。我々は亡国機業(・・・・)だ。我々は現在のIS社会と、その先にある歪みについて警鐘を鳴らす者である。モンドグロッソに出場中の全てのIS乗りに告げる。今すぐに大会を中止しろ。で、なければこのよう(・・・・)に、諸君らの身内の安全は保証出来ない。諸君らの賢明な判断を願う。以上だ」

 

 そこで秋斗はギュインギュインとリューターの切削刃を回転させた。

 顔に袋を被せられて捕獲されたテロリストはそのドリルの音に恐怖し、くぐもった声で悲鳴を上げた。

 その様子を見て、秋斗は大げさに悪辣な声で笑う。

 これで一見すると秋斗がテロリストで、テロリストが秋斗と言う構図になる。

 そこで秋斗は動画撮影を終了した。

 そしてノートPC(トチロー1号)の中に出来上がった動画ファイルを、拝借したテロリストの携帯端末から流れるようにセットし、数年前に見つけた“ある場所”に向けて送信した。

 

「……よし。これで嫌でも警戒(・・)するだろうよ。後は――――」

 

 秋斗が準備を終える頃。

 敵から奪った無線に通信が入った。

 

『おい、まだか?』

 

 痺れを切らした玄関口に待機する男の声だった。

 かつて束が“日本語喋れない奴にISを教える気は無い”と、無理やり日本語を共通語にしてくれたお陰か、テロリストも日本語で尋ねていた。

 故に、秋斗は反射的に応えた。

 

「うるせぇ。今、終ったところだよ。ガタイが良過ぎて(・・・・・・・・)少し梃子摺ったんだ。っつうわけで、ちょっと手を貸してくれ」

『……わかった。なら撤収準備だ。カルロ達は車を回してこい』

『了解』

『あいよ』

 

 秋斗の堂々とした物言いの所為か、テロリストの仲間達は普通にそう返事を返した。

 多少の声の違いは無線の影響。そんな風に多少の違和感を誤魔化す理由もあったのだろう。

 テロリストたちに気づかれる事無く、秋斗は密かに入れ替わる事が出来た。

 早鐘のように打つ心臓の鼓動を抑えるように一度深呼吸してから、秋斗は二階廊下でテロリストの仲間が階段を上がってくるのを待つ。

 

「――――随分と手間取ったな?」

「あぁ。まったくだ」

 

 階段を上がってくる男に軽く返事を返しつつ、秋斗は男が階段を登りきる直前で、劉老人から習った鋭い足技で、男の顎を蹴り上げた(・・・・・)

 織斑家一族特有の長い足が、真っ直ぐに天井に伸びる。

 加えてこの日の為にずっと土足で生活していた秋斗の足は、既にブーツに包まれている。

 そんな予想外の不意打ちによって、大きくバランスを崩した男は、派手な音を立てて吹き抜けの階段の頂点から一階に落ち、そのまま気絶した。

 秋斗は階段を下り、蹴り倒した男を助け起こすようなそぶりを見せつつ、その懐にあった武器を回収する。

 そして奪った無線で周囲のテロリストに呼びかけた。

 

「おい、馬鹿がドジ踏んで階段から落ちやがった。誰か近くに居ないか?」

『はぁ? なにやってんだよ』

 

 無線から呆れた声が漏れた。

 

「俺に聞くな。文句ならこの馬鹿に言え」

『ったく、ちょっと待ってろ。何にやってんだよお前等。こんな簡単な仕事に手間取ってんじゃねぇよ』

「分かってるさ」

 

 秋斗はそこで無線を切る。

 そして奪った目出し帽とテロリストの上着を身につけた出で立ちで、堂々と外に出た。

 するとしばらくして玄関の前に二台(・・)の乗用車が止まった。

 一台はそこそこに大きい4WD、もう一台は乗用車(シルビア)だ。

 応答に応えた方の一人がこちらに歩いてくる姿を見て、秋斗はハンドサイン(・・・・・・)で家の中だという風に指示を出す。

 そんな秋斗の指示に男はおもむろに肩をすくめると、小走りで家の中に走っていった。

 ――――すれ違い、見送った後、秋斗はホッとした安堵の吐息を漏らす。

 そして家の前に停めた二台の車の内、アイドリング状態にあるシルビアの方に足を進めた。

 

「おい」

 

 運転席にいた最後の一人を呼び出すように、秋斗はドアガラスをノックした。

 

「―――ぁん? どうした?」

 

 秋斗が来る(・・)ように誘うかたちで手を振ると、カルロと呼ばれた最後の一人は車をアイドリングさせたままドアを開いた。

 そして身を乗り出した瞬間を見計らい、秋斗はカルロの襟首を強引に引っ張り、足を引っ掛けて地面に引きずり出した。

 その瞬間、男の足がクラッチペダルから外れた事で、車がエンストを起こした。

 

「っ!? おい、何の冗談だ!? お前誰だ(・・)!? 待て!?」

 

 秋斗は相手の言葉を無視して、車の内装を確認し素早く運転席に乗り込んだ。

 この場合(・・・・)はMTの方が都合が良いか――――。

 と、秋斗は素早く奪ったシルビアのドアを閉めて、再度キーを回した。

 そして蹴るように右足でアクセルペダルを踏んでエンジンの回転数を上げると、ギアを一速に入れて、二速、三速と段階的に加速して、一気にその場を離脱した。

 逃走の途中で秋斗はスマホで“110”と操作する。

 

『どうされました?』

「織斑さんの家に変な集団が押し入って行くのを確認しました。その後変な物音が響いて、中に居た子供が外に逃げるのも見ました。不審者はまだ織斑さんの家に居ると思います。住所は――――」

 

 秋斗は手早く警察に通報した。

 

 

 

 

 程なくして、更識家一家の有するあらゆるパソコンに謎の動画が送りつけられた。

 それはオンラインゲーム“幻想惑星”をプレイ中の少女――更識簪のパソコンにも届いた。

 

「……あれ?」

 

 ゲーム画面が突如停止した事に簪は思わず首をかしげる。そして直後にモニターがブラックアウトし、奇妙な映像が強制的に再生された。

 映像には薄暗い部屋の中にいる拳銃を持った覆面の男と、黒い布を被せられた男が映っていた。

 

『さて、皆さんこんにちは。我々は亡国機業(・・・・)だ。我々は現在のIS社会と、その先にある歪みについて警鐘を鳴らす者である。モンドグロッソに出場中の全てのIS乗りに告げる。今すぐに大会を中止しろ。で、なければこのよう(・・・・)に、諸君らの身内の安全は保証出来ない。諸君らの賢明な判断を願う。以上だ』

 

 そしてその直後、歯医者で聞く様なけたたましいドリルのようなキュィインという音が響き、布を被せられた男のくぐもった悲鳴と悪辣な笑い声で動画が終了した。

 まるでそれは趣味の悪いスプラッタームービーに出てくるような映像だった。

 

「うわあぁあああ!」

 

 簪は思わず叫び、椅子から転げ落ちた。

 その悲鳴を聞いて、ドタドタと部屋の外から足音が響いた。

 

「簪ちゃん、どうしたの!」

「お、お姉ちゃん!」

「一体どうしたの!? なにがあったの!?」

 

 簪の悲鳴を聞きつけた更識家の長女――刀奈が、蹴破るような勢いで簪の部屋に突入した。

 簪は思わず、現れた姉に抱きついた。

 家庭の事情とすれ違いから、姉妹の間にはそれまで、聊か不穏な空気が流れていた。

 しかしこの瞬間は簪も刀奈も、そんな些細なわだかまりは捨てていた。

 簪は昔のように、思わず姉に抱きついた。そして刀奈はそれを当然のように受け止め、恐怖に震える妹を強く抱きしめた。

 

「お、お姉ちゃん……」

「大丈夫よ、お姉ちゃんがついてるわ。一体どうしたの?」

「パ、パソコンがいきなり変な風になって、変な映像が――――」

「変な映像?」

 

 簪が悲鳴を上げた件の映像を刀奈も見た。

 画面には先程の映像がループしていた。

 

『さて、皆さんこんにちは。我々は亡国機業(・・・・)だ。我々は現在のIS社会と、その先にある歪みについて警鐘を鳴らす者である。モンドグロッソに出場中の全てのIS乗りに告げる。今すぐに大会を中止しろ。で、なければこのよう(・・・・)に、諸君らの身内の安全は保障出来ない。諸君らの賢明な判断を願う。以上だ』

 

 この時、“亡国機業”と名乗る者によって作られた悪趣味な犯行声明は、同時に第2回モンドグロッソの開催委員会にも送りつけられていた。

 またそれから程なくして織斑千冬の自宅に不審者が侵入したという通報が、警察に届けられた。

 

 

 

 

「失敗しただと!?」

 

 日本に用意した作戦室で、オータムは余りにもふざけた実行部隊の報告に思わず声を荒げた。

 その傍らに立つスコールも普段はその顔にたたえる笑みを一切消していた。

 そんな2人の空気に、作戦室につめる後方の部隊員は戦々恐々と震えた。

 

「んで、もう一回言ってくれ。……ガキはどうなったって?」

 

 聞けば聞くほど、部下達の無能に怒りが込み上げる。

 

『すいません! 逃走用の車両を奪ってそのまま――――逃げられました』

「お前等、ふざけてんのか! 武装して4人がかりだぞ!? ガキ1人まともに捕まえられねェってのはどういう了見だ!」

『すいません!』

「この落とし前は後できっちりつけてやるから、覚悟しとけよ」

『っ……』

 

 怒気を一切隠そうともせず、オータムは怒りに任せて近くにあったゴミ箱を蹴りつけた。

 

「……侮りすぎた。という事かしらね。流石、プロフェッサーの認めた少年と言ったところかしら?」

「おい、どうするんだよ。スコール?」

「まだ、手はあるわ。こちらの用意した車を奪って逃走したという事なら、追跡は出来るわ。直ぐに追って」

 

 スコールの吐息交じりの声に部下は、一斉に秋斗によって奪われた車のナンバーを割り出し、搭載されたGPS機能を使ってその位置の割り出しを開始した。

 

「奪ったのはシルビアだったな。MTだろ? ……あのガキ、何処でドラテク(・・・・)なんて覚えやがった?」

「さぁね。でもコレで確実になった。こんな荒唐無稽な少年なら、篠ノ之束が愛称で呼ぶのも頷ける」

「…………………」

 

 スコールの言葉に、オータムは腕を組んで眉間に皺を寄せた。

 

「ちょっと、その(ツラ)を拝んでみたくなったぜ。アタシが行く。いいだろう?」

「えぇ、お願いするわ」

 

 オータムは踵を打ち鳴らして短くスコールに問う。

 スコールも同様に短く返した。

 そして付け加える様に言った。

 

おいた(・・・)が過ぎる子みたいだから、多少派手にやってくれても良いわ」

 

 スコールはそう言って、ジェラルミンケースに収めたアサルトライフルをオータムに投げ渡した。

 一見冷静さを保っていたスコールだったが、実は静かに怒りを感じていたのだ。

 この時ほど、この作戦にISを持ち込んでおけばと後悔した事はない。

 あれば、それさえも使ってのけただろう。

 

「……OK」

 

 オータムはニヤリと悪辣な笑みを浮かべる。

 作戦が隠密だったために、日本に来て大っぴらに銃を撃つ機会など無いと思っていた。故に、そんな笑みが込み上げるオータム。

 そしてオータムは数人の兵士を引き連れ、作戦室を後にした。

 

 ――――それから程なくしてだ。

 

「リーダー大変です!」

「今度は、どうしたの?」

「警察が織斑家周辺に集結中! それと、コレ(・・)を見てください!」

 

 コンソールについていた電子工作班の一人が悲鳴に近い声を上げた。

 そして映し出された映像を見て、流石のスコールも今度はその顔面を蒼白に変えた。

 

『さて、皆さんこんにちは。我々は亡国機業(・・・・)だ。我々は現在のIS社会と、その先にある歪みについて警鐘を鳴らす者である。モンドグロッソに出場中の全てのIS乗りに告げる。今すぐに大会を中止しろ。で、なければこのよう(・・・・)に、諸君らの身内の安全は保証出来ない。諸君らの賢明な判断を願う。以上だ』

 

 映像の中で拳銃をチラつかせ、拷問を匂わせる覆面の装備は、モノクローム・アバターが用意した物である。

 そして直ぐにそれをやってのけた犯人が、スコールには想像できた。

 

「……やってくれたわね。織斑秋斗!」

 

 初めから襲撃を見越されていた。亡国機業の名前も知られていた。

 そして何よりこの作戦を成功させる以外に、スコール達が組織の中で生き残る道を断たれたのだ。

 “天災”

 そんな単語がスコールの脳裏を過ぎった。




姉妹の仲はコレで問題なし

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