戦乱の幻想郷/Battle for Gensokyo   作:アシャヤ

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ゆかりんはプレインズウォーカーでもおかしくない気がする今日この頃。


『悪魔虫』

「いってきまーす」

 

人里にある小さな貸本屋、鈴奈庵から軽やかに少女が飛び出す。

 

少女の名は本居小鈴。

 

名前の通りの小さな鈴を髪の両脇に留め、走る彼女の頭が揺れるたびに小気味よい音が鳴る。

 

小鈴がほとんど全力で走っているのは、先日した約束のためである。

 

あの友人のことだ、遅れたら綺麗な顔しながら毒突いてくるに違いない。

 

さほど鈴奈庵から目的地までは距離はなく、もうあと百メートルといったところで、見えてきた。

 

人里一大きな建物、稗田邸。

 

まだ夏が過ぎて日も浅い。

そんな時期に全力疾走したのだから額に汗が滲んできている。時間にはギリギリ間に合いそうだし、こっちが御呼ばれしているのだから冷たい麦茶と羊羹くらいねだっても構うまい。

 

そんなことを考えつつ、門がある方向へ角を曲がると、門の前は人がごった返していた。

 

なにやら人々は互いに話をし、何かを取り囲んで見ているようだった。

 

 

「すみませーん、ちょっと通して……わぷっ」

 

小鈴の背は同年代と比べても小さい。

 

人の波に揉まれ、ようやく群衆の中から脱出すると、よく見知った顔がすぐそばにあった。

 

「あら、小鈴じゃない。どうしたの?」

 

 

稗田家当主、稗田阿求。

小鈴の数少ない友達で、今日ここに来た理由である。

 

 

「どうしたの、って……。呼んだのはあんたでしょ」

 

ああ、と解した様子の阿求。

 

「相談したいことが有ったんだけど、別の問題が出てきちゃってね」

 

阿求の相談したいことについては小鈴にも大体読めていた。

 

人里の人間の失踪事件についてだろう。

先月で三人。

今月に入って五人がいなくなっている。

 

その辺の茶屋に入れば誰でもそれに纏わる噂を聞ける程度にはこの話は有名だった。

 

曰く、里のルールを無視した妖怪に喰われた。曰く、外来人のように神隠しにあった。曰く、殺人鬼がこの里にいる。

どれも根も葉もない噂だが、現に人が消えているので頭ごなしに笑う者は誰もいない。

 

「で?新たな問題って何よ」

 

ここまで走ってきたのはなんだったのやら、と溜め息混じりに小鈴はぼやく。

 

「あれよ」

 

阿求は数メートル離れた、群衆が取り囲む中心を指差す。

 

そこには子供一人ほどの大きさをした、形容し難い物体が蹲っていた。

 

 

「うぇ、何あれ」

 

 

それの大雑把な形状は芋虫のようだった。

ぶよぶよとした長めの胴体、しかし異なるのは身体の下半分には蟹のような脚、上半分からは蛸のような触手が幾本も垂れ下がっている。

身体の色は部位によってまちまちで、毒々しい赤紫色と濃い青が混じり、全体的には水彩画を描いた後の汚いパレットを想起させる。

頭にあたる部分は陥没しており、その中には模様のない白い頭蓋骨のような球体が顔を覗かせていた。側面に突き刺さっている槍や矢が原因だろうか、その生物は死んでいるのだろう、騒がしい群衆の中心でも沈黙を貫いていた。

 

 

「わからない。似た生物の情報さえ、“私”の記憶には無いわ」

 

阿求は前世数代に渡り、幻想郷縁起を書き連ねてきた言わば幻想郷の生き証人である。

 

その彼女が知らないならば、この生物が幻想郷の『外』から来たのは間違いないのだろう。

 

「でも、何が問題なのよ?もう死んでいるんでしょう?」

 

小鈴は横目でその奇怪な生物を観察するのを続けつつ、阿求に訪ねる。

 

「死人が出たのよ」

 

阿求は群衆に聞こえない静かな声で続ける。

 

「こいつを仕留めたのは人里の外のパトロール中だった自警団。六人で行って、帰ってきたのは三人。内一人は重傷。残り二人に話を聞いても、わかったのは人里から結構離れた場所にいたということ、こいつはまだ何匹も……更に大きいのもいるってことだけ。余りの体験に混乱していたわ」

 

深刻な事態だということに気づいた小鈴は、出来る限り小声で叫ぶ。

 

「一大事じゃない!どうするのよ阿求!そんな危険な怪物が人里に現れたらとんでもないことになるわ!」

 

「いざとなったら、宗教家の奴らに頑張って貰うしかないわね。それまでは、この死体から少しでも情報が得られないか、と思って意見を聞いていたのだけれど……」

 

あーでもない、こーでもない、と議論を重ねる集団を見る限り、徒労に終わるのだろう……。

 

「あれ?」

 

小鈴が死体に近づき、何かを探し始めた。

ツン、とする臭いが鼻を掠めるが、気にしないよう努めた。

 

「どうしたの、小鈴」

 

束の間、うんうんと唸る小鈴。

 

「大したことではないのだけど……。この生物、口が無いわ」

 

「口が無いから、なんなのよ」

 

阿求は小鈴をちらりと見やる。

 

「口が無いってことは、食べ物を摂る必要がないってことか、もしくは食べ物自体が特殊なのよ」

 

小鈴は阿求に向き直る。

 

「あんたならよく知ってるでしょ?妖怪は恐怖を喰い、魔法使いは魔力を喰らう。仙人は霞を喰い、神は信仰を喰らう。それときっと同じ。こいつはこいつで、“何か”を喰うんだわ」

 

それにしても、と小鈴は続ける。

 

「いつまでも『こいつ』ではわかりにくいわね。名前を付けたらどう?」

 

確かに、と思った阿求は頭を捻る。

 

「そうねぇ。取り敢えず、仮称として――」

 

きょろきょろと周りを見渡したその時、少し離れた地面で虫達が互いを貪り合う姿が見えた。

 

 

「『悪魔虫』、なんてどうかしら」

 




・悪魔虫
MTGのストーリー内でも『ヤツら』は最初このように呼ばれていました。



ゆっくりですが、完結まで頑張りたいです
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