戦乱の幻想郷/Battle for Gensokyo 作:アシャヤ
程度の能力の独自解釈あります
地の文を誰視点にするか難しい(;-_-)
昔から、怖い夢をいっぱい見た。
こわーいオバケがみんなぱくっと食べちゃうの。
そんな夢を見た日はいつも、お姉様を起こして、お父様とお母様のベッドに一緒に潜り込みにいったのを覚えてる。
お姉様は起こされても悪口のひとつも言わない。
お父様は無言で私の頭を撫でてくれた。
お母様は眠れない私に子守唄を歌ってくれた。
そんな強くて優しい家族が誇らしく、そんな強くて優しい家族が簡単に殺される悪夢が怖かった。
時折その夢は、起きている間も妄想となって私を苦しめるのだ。
いつかその妄想が現実となり、家族を殺すのではないかと恐れる毎日。
気が狂った私を、それでも家族は愛してくれた。
あの頃から数百年が過ぎ、お父様とお母様はいなくなり、魔法使いや門番やメイドが増えた。
私は今日も夢を見る。
怪物がこの世界に身を宿し、愛しい家族を消してしまう悪夢を。
◆
ある日の逢魔ヶ刻。
紅魔館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットは大層調子が悪かった。
そろそろ夜の時間なのだから起きねばなるまいとわかってはいるが、その意に反して身体はわからず屋だった。
数分の葛藤の後、お気に入りの棺桶から体を乗り出しベッド沿いに腰を下ろす。
この体調不良は今日に始まったことではない。
心当たりはあった。
自身の能力、『運命を操る程度の能力』の不調だろう。
運命を操る、まるで全知全能の神のような響きだが、そこまで使い勝手が良い能力ではない。
せいぜい近い未来を垣間見てその因果率をブレさせることにより、本来物事が進む筈だった方向をほんの少しねじ曲げる程度。
いつでもその変化した運命が自分にとって都合の良い方向に転がるという訳ではなく、却って窮地に立たされたこともあった。
それを学習して以来、レミリアはこの能力を研究し慎重に使用することを肝に命じてきた。
その努力により、はるか昔に自身の能力は掌握済みだと思っていた。
しかし、一ヶ月ほど前からレミリアには未来のイメージがほとんど掴めていない。
長きに渡ってその力と共に歩んできた彼女にとっては、未来が見えないという常人には当たり前の常識が酷く重くのしかかり、身体のコンディションに影響を与えているのも無理はなかった。
かと言ってくよくよするレミリアではなく、重い身体を引き摺りながらも『夕食』を摂るために食卓に歩き出した。
きっと自慢のメイド長の料理ならば気分も晴れるだろう、と考えながら。
◆
「おはよう、パチェ」
既に食卓に座り本に没頭している親友、動かない大図書館ことパチュリー・ノーレッジに挨拶をする。
「こんばんは、レミィ」
いつもの返事だ。
何も変わらない。
「その顔色からすると、まだ治ってないのね」
顔をこちらに向けたパチュリーはやはり、といったように淡々と述べる。
「残念ながら、ね。能力が不調の原因は何なのかしら」
これは既に繰り返した質問だ。
昨日も、一昨日も。
いつもと変わらないとしても、今の私には返答さえ予測できない。
これはパチュリーと顔を合わせた時の習慣と化していた。
ふと、未来を予測できないのは何故か?という返答を予測できないからこんな質問をしている状況は、まるで『コロンブスの卵』だな、という考えが頭を掠めて苦笑する。
「申し訳ないけどわからないわ。確かなのはあなた自身、もしくは周囲に原因があるということだけ」
悪びれもせず言うパチュリーだが、彼女のポーカーフェイスに差し込む一筋の影と、手に持っている『因果律と時間軸について』という題名の分厚い装丁を見て、怒りが沸いてくる筈もない。
この返答も、いつも通りなのだ。
きっと私が質問する限り明日もそうなるのだろう。
明日が無事に来れば、ね。
「ふふっ。もしかしたら、もう見るべき未来はほとんど残っていないのかもね」
体を張った自虐風ブラックジョークだが、親友様はくすりとも笑わなかった。
そんなところでコンコンコンコン、と高らかなノック音がする。
夕食が来たと思い、椅子に深く座り直す。
しかし、私の目の前に現れたのはオードブルではなく、予期せぬ敵襲の知らせだった。
◆
ふふふ…。
遂に…遂に勝ったぞ…。
私の苦手分野たる『弾幕ごっこ』で普通の魔法使い、霧雨魔理沙を破ったのだ!
紅魔館の門番、紅美鈴はボロボロになったチャイナドレスと真っ赤な髪を振り乱しながら天に拳を掲げる。
「すごいわ、美鈴!」
「こんなに強い部下には褒美をとらさねば」
「美鈴のお陰で本を盗られずに済んだわ、ありがとう」
「今夜はご馳走ね」
紅魔館の皆が私を褒めちぎるせいで、顔が真っ赤になってしまう。
「さすがだな美鈴、こんなに強い妖怪を相手にしちゃ構わない。私はおさらばするぜ」
白黒魔法使いも尻尾を巻いて逃げ出した。
メイド妖精達は私の周りで花吹雪を撒き散らし、熱い声援をくれる。
「「「「「美鈴!!美鈴!!美鈴!!美鈴!!美鈴!!」」」」」
美鈴コールは今や紅魔館中から鳴り響く。
我が世の春が来たとはこのことか。
「美鈴!美鈴!美――」
◆
「――りん!美鈴!起きなさい!美鈴!」
「むにゃ……?」
目を開けると透き通るような銀色の髪をした綺麗なメイドさんがこちらを見て怒鳴っている。
「あれ?咲夜さん?なぜここに?獅子奮迅の活躍をした私のためにご馳走を作ってくれているのでは?」
「門前で立ったまま爆睡する行為を獅子奮迅の活躍というのね、知らなかったわ」
研ぎ澄まされたナイフのような出で立ちのメイドさん、十六夜咲夜は言う。
言葉まで突き刺さるような調子なのは気のせいではあるまい。
「おや……?ならばつい先ほどまでの闘いは全て夢……?いや、こちらが夢という可能性も……」
甘い考えを捨てきれない美鈴である。
「痛いか試してみる?」
いつの間にかその手に握られたナイフを眼前にちらつかせる咲夜。
「いえいえ、やめておきます」
食い気味に美鈴は返答する。
事実、今のやり取りで一気に目が覚めていた。
「なら、いいのよ」
手に持ったナイフは消えていた。
彼女はメイドでなければ手品師になっていたかもしれない、なんて思考がバレたらまたナイフが現れるのだろうな、と美鈴は思う。
「もう夕暮れ時ですね。起こしに来てくれたんですか?」
自分を気にかけてくれる人がいるというのはいつだって嬉しいものだ。
それは妖怪も人間も変わらない。
「寝ているに違いない、って思ったからね。ご馳走は無いけれど、サンドイッチくらいは作ってあげるわ」
素っ気なく咲夜は言う。
対照的に美鈴は満面の笑みで感謝を述べるが、言葉を続いて付け加えた。
「食事はほんの少しお預けになってしまいそうです、咲夜さん」
美鈴の言葉を瞬時に理解した咲夜は尋ねる。
「敵ね?数と方角は?」
「とても多いですね。五百……七百……どんどん増えてます。北東、南南東からそれぞれ集団で一直線。目的地はここですね」
咲夜は周囲を見渡すが、視認できる距離には何もいなかった。
しかし、咲夜は緊張を緩めない。
『気を使う程度の能力』。それが美鈴の能力であり、紅魔館の門番を任される理由である。
索敵能力において美鈴の右に出る者は紅魔館にはいない。
「人間ではありません。動物でもない。妖怪かしら。巨大なもの、飛行しているものもいます。一筋縄ではいかないのだけは確かですね」
「お嬢様にお知らせします。美鈴、引き続き監視と警備を任せるわ」
ニコッと笑い、胸を張って美鈴が応える。
「任されました、咲夜さん」
◆
「なるほど」
血が入ったワイングラス片手に咲夜から報告を聞いたレミリアは獰猛な笑みを浮かべる。
「この悪魔の館が気に食わない連中がいるってことね。面白い。」
胸元に着けたナプキンを投げ捨てる。
食事は後だ。
「パチェ。話は聞いた通りよ。迎撃魔法陣でも大規模破壊魔法でも何なりと使うといい」
頷くパチュリーを見遣ったあと、咲夜に向き直る。
「咲夜、暴れたいゴブリンとメイド妖精を玄関前に集めなさい。それからお前には館内の警護を任せる……」
何かを言い淀んだ後、少しの間を空けて口を開く。
「……そして、フランを頼むわ。あの子はまだ不安定だから。いざというときはあなたが守ってあげて」
レミリアは途中から口が独りでに動いている気がした。
傲岸不遜な自分が言う言葉ではない、と少し気恥ずかしくなったが、これも不調のせいなのだと強引に解釈する。
「承知しました」
ただそう言って咲夜は消える。
彼女が館中に命令を伝達するのは文字通り時間が掛からないだろう。
「さて」
グラスを傾け血を飲み干し、翼を広げて外へ向かう。
陽は完全に沈み、月明かりが薄暗い夜道を照らす。
「楽しい夜になりそうね」
紅魔館メンバーはキャラクターが勝手に動き出してくれるので書きやすいですね