神名火の山――カンナビの山――   作:紅東

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夢見る人

 (まぶた)の裏が明るい。今まで眠っていたんだ、と自覚した。ああ、いい夢を見ていた。幸せな夢だった。

 体は未だ休息を求めて動かず、ふわふわと心地よい微睡(まどろ)みが意識を溶かそうとしている。だめだ、目を開けなければ。話したいことがある。

 違う、話さなきゃいけないことがある。

 ん? 違う、俺が話したいだけで、別に話さなきゃいけないなんてことは……ない、よな? あれ、どうだっけ?

 

 うとうとと、意識が微睡みに負けそうになる。

 いや、負けていたと思う。自分では途切れなく思考を続けていたつもりだったけど、きっと眠気に負けて、途切れ途切れに考えていたいただろう。

 そんな事に考え至れるくらい眠気から脱して、俺はようやく瞼を上げることに成功した。

 

 眩しいやら、眠いやら。重たい瞼は細くしか開けない。そんな朧気(おぼろげ)な視界いっぱいに、見覚えのあるゴーストの、ユカリの顔が広がっていた。大きな目がじいっと見つめてきてる。なんで、そんな心配そうな顔をしているんだ?

「……ぉ、し……」

 どうしたの、そんな顔して。何を心配してるの。

 そう聞いてやりたかったのに、未だ夢現を彷徨(さまよ)う体は重く、唇も持ち主である俺のいう事を聞きゃしない。

 もっと眠気を押しやろうと思っているのに、気づくと瞼が落ちている。誘惑上手な睡魔が、こっちこっち、身を委ねてみて、とても心地いいでしょう? と絶え間なくおいでおいでをして、俺を絡めとろうとしている。ううう、こんなに思考できてるのに、話すことさえ難しいなんて、どういう状況なんだ。

 

 何度か睡魔に袖を引かれた後、重たい腕をなんとか動かした。ユカリが手を繋いでくれると、そこからほんのり暖かさが伝わった。

 あれ、俺、手冷えてる? ゴーストタイプの子は、基本的に人間より体温が低いから、こんな風に感じるなんて変だな。……ああ、だからユカリは心配そうだったのか。

 

「……ぃ」

 ユカリ、大丈夫、ちょっと冷えてるだけだよ。どこも悪くはないよ。

 そう伝えたいのに、口も声帯も仕事をしてくれない。

 ああ、たくさん話したいことがあるのに。

 なあ、いい夢を見たんだ、すごく、いい夢。懐かしいくて暖かい思い出。それの最後に、懐かしい俺の弟がここへやって来るんだ。おかしいだろう、ここへは来れないのに。でも、俺を訪ねてくれるんだよ。懐かしい弟に再会するなんて、いい夢だろ?

 

 俺は締りのない顔で笑ったのだろう。ユカリの顔がふと緩んで、優しく笑った。ユカリ、これを教えたらきっとお前はもっと笑うよ。

「ぅ……と……ふもと……れっどが……」

 俺を訪ねて来る。

 幸せな気分に浸ったまま、辛うじてそれだけを伝えた。

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