紅魔館の中にある数多くの部屋の内の一つで、混沌の少女は着替えていた。
殆どの部屋がそうであるように、窓のないその小さな部屋は薄暗くて、少女の影は燭台に立ったろうそくに揺られている。
不安定なその光源に背を向けて、少女はまずひらひらとしていた黄色と白色のマーブル模様を脱いで大事に畳んで置いた。
そして少女は沢山の来客用の着物の中から、黄色が主立ったチェック柄のスカートと、真っ白なブラウスを選んで纏ってネクタイで首を絞める。
その首元でぶらりと揺れて、吊っているのだか吊られているのだかよく分からないネクタイの色は紅く、少女が心中でこの館を気にしていることが自ずと知れた。
「はぁ……それにしても面白い所だなあ、ここは。ホント、奇跡的。もしも二人がツーカーの仲だったら、きっとここに屋敷は建っていなかったんだろうねー」
魔女と悪魔が親友で、悪魔は人間に願いを叶えてもらっていて、居を構えている場所も流れが緩い湖とはいえ弱点である流水に囲まれた中にある。
レミリアとフランドールが上に立って、他を使役しているだけの関係ではないことは明白だ。
移転した場所が霧の湖の畔であるのも魔女の勧めであるという可能性が高かった。
そう、姉妹仲良く好き勝手に選んでばかりいたら、そんな奇妙な形には成らなかっただろう。
悪魔の館という割には、どこか優しいおかしな場所である。力で支配する方がよっぽど【らしい】というものなのに。
その歪さには、誰かに頼らざるを得ない理由、例えば姉妹に不仲でもあったのではないかと、少女は考えていた。
「妹さんと意思の疎通が取れないのかな。繋がることのできない相手はアンノウンだし。そうでなくとも、見た限り遠慮はありそう。なら、二人にとっての紅魔館はそういったものを隠すための箱だったのかもしれないなあ」
少女は、木製の机に乗っかっている人形に向かって、語る。
また間違えてしまうのが嫌だと思っている少女は、人形を黙らせていた。
丈の低い少女と人形は薄暗闇によく映える。悩んでいる様もどこか、幼く見えた。
指先を曲げて顎に当てて考える、その背伸びしているような素振りも相まって、少女の憂いも傍から見ればそれは微笑ましいだけの独り言でしかなかった。
「箱の中は不明すぎて明暗が分かりにくいのかな。みんな一緒に見えてしまうなら怖いものなんてないものね。だからこそレミリアさんは、落ち着いている今の内にもっと不明瞭な混沌の闇を教えて、妹さんを明るくさせたいんだろうなあ」
少し勘違いをしながらも自分が必要とされたことから、少女はどうにか正解に似た答えにまで辿り着く。
要は、好奇心は猫をも殺すかもしれないという、それだけのことだった。少女のやるべきことは、それを挫いて落ち着かせることなのだろう。
別に、少女にとって自分が使われるということには異存がない。流されやすかった過去と比べても、その辺りはあまり成長していなかった。
ただ、今は自分の意思で動いているということだけ、大きく変わっていた。
「うーん。多分、放っておいてもなってしまうのだろうけれど――――さて、嫌われ役をやってみようか」
黒く閉ざした瞳を開いて、少女は心中の混沌を覗かせる。ひしめき合う感情は、未だに纏まらずに形を持たない。
そして、その精緻な容姿がまるで魂が篭っていないかのように、彼女をどこか不明にさせる。
それを知ってか知らずか、少女は両の口の端を持ち上げ歪ませていた。
「あはは……ねえ、私今、綺麗かな?」
少女が鏡台から目を逸らして卓上に目を向けても、答えてくれるものは誰もいなかった。
見られることがなければ、定まることだってない。
だから少女は見られることに固執して、そして見つけてあげようと思ったのかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「次はこれよ。 禁忌『恋の迷路』!」
「まだあるの……って、うあ! 弾が速過ぎるよ」
「そう思うなら、近くに寄ってこないでよー」
「それしか出来ない私に、無茶を言わないで」
綺麗な弾幕を背景にして、起きているのは、しかしただの追いかけっこのようなものだった。
もし光景から人物だけを切り取ることが出来たのなら、子供が無邪気に遊んでいるようにも見えただろう。
しかし、微笑ましさはその幼さだけである。余人には干渉することすら難しいくらいに、彼女達は空中で力を炸裂させていた。
衣服をボロボロにしながら路は不要とばかりに、弾を切り裂きながら迫る少女は弾幕の中心に居るフランドールには届かない。
そして、痛みすら甘受するタフな少女に対しては、フランドールの弾幕ですら一様に狙わなければ倒しきれない。美しさを競うスペルカードでそれは難しいことである。
時折放たれる少女の妖弾も余波しか及ぶことが出来ない故に、弾幕を展開可能な時間が過ぎるまでその場は硬直する。
避けきれないからといって、芸術的な光を放つ魔弾を力尽くで乱していく少女は、どこまでも無粋だった。
「くぁ、痛いなあ。痛いけれど……これくらいなら気持ちいいくらいかな」
「強がりを言っても駄目。そんなに血を流して気持ちいいなんておかしいわ」
「あはは。痛いのも楽しめないことはないんだよ?」
「それは、おかしいなぁ。なるほど貴女は、とてもおかしな変態さんだったのね」
「まあ、私は変わっているのが常態だからねえ」
「とっても、気持ち悪いわ」
嫌味を口にしながらも、沢山の魔弾に飲み込まれて嗤いながら返事をすることが出来る少女に、フランドールは歪な心の隙間から目を見張る。
少女のやり方には遊びが少な過ぎていて、フランドールにはそれで楽しめている少女が不可解だった。
フランドールは、壊れたぜんまいが目の前で玩具を正しく動かした時に受けた、違和感のようなものを胸に抱く。
外見は若くとも少女には妖怪らしさが色濃く表れており、何時ぞやに取材に来た天狗のようにどこか胡散臭くて計り知れないものがあった。
「時間がなくなっちゃった。この弾幕もお終いね」
「お疲れ様。近すぎてよく分からなかったけれど、とても綺麗だったよ」
「むぅ。だったら離れなさいよ、このっ!」
「ああ、危ない、危ない」
次のスペルカードを用意するための牽制として放った弾幕は避けられて、フランドールの心にはさざ波が起きる。
焦燥感が胸を焼き、苛立ちが顎を撫でて逆さの鱗を挑発する。
そして、どこか人間にも似ている少女のブラウスを染める紅が、フランドールの喉を渇かせて仕方ない。
全ての不快感は、気持ちの悪い蝿のようなものを倒すのに、時間がかかり過ぎていることに対する焦りから生じていた。
もちろん、少女を倒し難いのにも理由はある。
何しろ少女はフランドールの弾幕を耐えられるほど堅い上に異常な回復力を持っていて、そして射程は短いが高い威力の妖弾を放つことも出来るのだ。
終始フランドールが圧倒してはいるが、それでも妖弾が上手く命中したり等すれば、勝敗はどちらに転がるか分からないくらいである。
それに、フランドールはあずかり知らないことだが、少女の並外れた膂力は鬼と比べても何ら遜色のないものであるために、一度【掴まれてしまえば】ただで済むことはないのだ。
なるほど、確かに少女はフランドールにとっても強敵といえるだろう。格闘ありの弾幕ごっことはいえ、こうも彼女の弾幕をしのげる存在はそうは居ない。
「でも、この程度しか強くはないと、つまらないわね」
「そう? それは残念。貴女は心が狭いのね」
しかし、ただ強いだけでしかない少女は、存外単調でつまらないものでもあった。
時折近くで炸裂する妖弾にはヒヤリとさせられても、基本的に防戦一方の相手を圧し続けているのは面白みがない。
確かに、爆発はそれなりに綺麗なものではあったが、それでも星の美しさや結界の精緻さと比べたら数段落ちるもの。大切にしたいと思えるほどではない。
広がる少女の血の匂いにもじきに慣れて、それが美味しそうな香りだとも思えなくなる。フランドールに飽きが来るのは存外早かった。
「そんな狭い心を満たすことすら出来ない貴女が弱いのさ。つまらない玩具なんて、要らない。コイン一個の価値もないわ」
廃棄作業はお手の物。フランドールは狂気の燃える瞳で少女の五体を睥睨し、その崩壊を想像する。
そう、幾ら頑丈な玩具であっても、その手で一捻りすれば容易く壊れてしまうのだ。だからこそ、フランドールに躊躇はない。
どんなものだって自分が不快に思っただけで、簡単に逝ってしまうのだ。与えられた何もかもが、彼女の元を去っていく。
その辺りを鑑みれば、フランドールに堪え性が育たなかったのも仕方のないことであると思うかもしれない。
彼女の短絡な稚気は狂気の様に周囲には映ってしまうので、その様な事情と内情を理解している者は少なかった。
そして、更にフランドールは元々価値観が狂ってもいたのだ。自分なんて、彼女はとうの昔に壊していた。
心の檻が壊れているフランドールは容易く禁忌を犯す。だから余計に、誰も彼女の心を理解することはできなかったのだ。
「うふふ……さあ、壊れちゃいなさい!」
その言葉が、合図。そっと、フランドールは破壊活動を開始する。
フランドールはその【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】によって、自由に手の中にモノの『目』を移動させることが出来る。
結び目を切り取ってしまえば紐はバラバラになってしまうように、彼女は『目』を潰せばそのモノを問答無用で壊してしまえるのだ。
だから、その手を握れば全てがお終いだった。
怖さも楽しさも足りない相手を見切るのも、別に尚早だとは思えなかった。
退屈な時間はお終い。後は五体の欠けた人形を握り締めながら眠るだけ。大好きなお姉さんのことはもう忘れていた。
レミリアやメイド達の心遣いを理解しながら、それを台無しにすることを躊躇わない彼女は、狂気に任せて玩具を壊す。
その小さな手で、フランドールは少女の『目』を握った。
「よしっ、捕まえた。もう、遊びの場で【そういうもの】を使っちゃ駄目でしょう?」
「え?」
でも、対象は壊れなかった。
しかし、それは当たり前のことである。だって、握りつぶされているのは、【フランドールのその手】なのだから。
その、手の中から現れた手に握りつぶされるという怪異は、少女の能力を一面でも知ってさえいればそう不思議でもないことだった。
もしも『目』が少女の一部であるとするならば、少女はそこを発端として力の混沌を発生させることが出来るのだという、それだけのこと。
少女は人知れずに賭けをしていて、そして勝っていた。そう、少女の『目』から混沌は生まれて、そして形を成していたのだ。
目には目を、手には手を。混沌から生まれた少女の手が、フランドールの手を握って潰していた。
だが、当然のことながらそんなことはフランドールに分かる筈もなかった。あまりの驚愕に、彼女の心は凝る。
それは、例えるなら深遠を覗いていたと思っていたら、深遠に覗かれていたことに気付いた時の感覚に近いだろうか。
見飽きたと思っていたものに、底まで見つめられたということに、フランドールの認識は更に狂う。
手に奔った痛みをきっかけに、驚き固まった彼女の心の内からは、徐々に恐怖が湧き出していた。
「な、何なのよコレ……痛、いっ!」
「あはは。教えてあげない」
痛みに突き動かされて引き剥がした白い手の平は、離れた途端に消滅する。
そして気付けば、弾幕と心の間隙をついて、少女はフランドールの直ぐ近くにまで接近していた。
そのまま息がかかるくらいの距離に迫った少女の手に引かれて、フランドールは少女の腕の中にすっぽりと納まる。
少女の温もりが背筋に走る悪寒を際立たせて、フランドールはぶるりと震えた。
「貴女が今感じているのが【本当に】怖いということ。ねえ、半端に怖がるのはもう止めようよ、破れた蝙蝠さん。――――壊れたものだって、何時かは治ることもあるのだから」
そして、ここでフランドールは少女に【掴ま】る。
妖しく、幽かに、至近で放たれた少女の言葉は壊れたフランドールの心に、するりと入り込んだ。
そして、息がかかる距離で赤目と黒目が線を結んで合わさった。濁って動いたままで安定している感情を、フランドールはその目で覗く。
「あはは。悪い子は、食べちゃうぞ?」
得体の知れないものが、ざらりとフランドールの心に触れた。
間近に見える笑顔がこの上なく、気持ち悪い。むき出しの牙が、恐怖を更に煽る。
少女の脅しは普段ならば一笑に付しているはずのものだ。しかし、それが何よりも、今のフランドールには恐ろしいことに思えてしまう。
「あっ、ぃあ……」
合わない歯車を必死に噛み合せようとしているかのように、フランドールの歯はカチカチと音を立てて擦れる。
目の前の何者かが怖くて、言葉は喉の奥から出てこない。なら、溜まった恐怖はどうすればいいというのだろうか。
分からないことがこれほど怖いことだということを、フランドールは知らなかった。
そう、アンノウンは彼女だったのだろう。中身の観察の出来ない箱に入っている子猫は、影響を受けることも箱の外に何かを及ぼすことも出来ない。
だから、暗闇の中にある瞳が恐ろしくて助けを呼びたくなれば、自らクローズド・サークルを破るしかないのだ。
幸いなことに、フランドールは破壊することが得意だった。故に、気付けば恐怖で固められていた壊れた心に、早く切れ目を入れることが出来る。
「い、嫌、嫌……」
「あれ。ひょっとして、やりすぎちゃった?」
「嫌、あっ、う、ああああぁ!」
「な……くぁっ」
痛みと混乱で恐怖を処理できなくなったフランドールの心は、ついには狂って弾ける。
そうしてここで、癇癪玉は破裂した。
感情の爆発によって加減を失ったフランドールの弾幕は、能力に引かれてそれこそ破壊的な威力を発揮する。
少女も妖弾で応戦したものの、焼け石に水。払った爪も、容易く粉々に破壊されていく。
イエローシグナルが点滅した直ぐ後に、レッドアラートは鳴り響く。
破壊の力をただ混沌としているだけのものが上手に受け止めることなんて出来やしない。
波紋のように広がっていくその力に、少女が抗うのは難しいことだった。
「あぁ、嫌よ、嫌い、大嫌い! 私の前から、居なくなっちゃえっ!」
そして、フランドールは何時の間にか手にしていた魔杖を大きく振って払った。
渾身の魔力が篭ったそれは、世界ごと少女を焼き払ってやると言わんばかりの威力で傷だらけの少女に迫っていく。
「あ、やばいなあ。これは、死んじゃうか、も――――」
言葉を最後まで口にする前に、紅の魔法が少女を覆う。
窮鼠猫を噛むのなら、追い詰められた百獣の王はどれほどまで噛み殺せてしまうのだろうか。
一際大きな力が炸裂した後には、全てが吹き飛ばされて、立っているものは一人もいなくなった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「妹様にあの妖怪を近づけさせた理由、教えてもらえませんか?」
紅魔館のテラスでお茶を楽しんでいたレミリアに、傍で世話をしていた十六夜咲夜は、そう訊ねる。
主はこの場所で朝の光を望むこともある奇特な人物であるが、現在は闇の向こう側を望んでいるような様子であったので、咲夜もある程度余裕を持って給仕していた。
そうして気が緩んでいたからこそ、彼女の口から気がかりがポロリと零れ出てしまったのだろう。
案の定、突然の質問にレミリアも多少驚いたかのように目を開き、そしてその驚きを楽しみながら彼女は口を開いた。
「ああ、それは単純なこと。価値ある人間を壊したくないと思ったら、次に壊れない妖怪が居ることを知るのも悪くはないと思ったのよ」
「そして次は、壊れても直ってしまうような関係、ですか」
「そうね……今は無理でしょうけど、何時かそうなっても面白いんじゃないかしら」
レミリアは喜色を漏らさずに綺麗な笑みを見せる。
どんな形であっても、レミリアは少女に期待をしていたのだ。
弾幕はお粗末なものだったが、自分が逃れ得なかったほどに強い妖力と腕力を思えば、フランドールに対して何も出来ないということはないだろう、と。
それが毒でも、効くのであれば使う。
それに、生きしぶとそうな少女と続いていく運命を思えば、二人が仲良くなるという展望をしてもいいではないかとも考えていた。
そんなことを思いながら、レミリアはティーカップに口をつける。
少し渋みが強い中身を嚥下した後だから、タイミングは辛うじて悪くなかったのだろう。
そう――――足元を揺らすほどの轟音に口に含んだものを吐き出すはめにならなかったのは、幸いだった。
「けほっ、な、何事?」
「仔細は把握できませんが、どうやら妹様がお力を解放されたようです。……大丈夫ですか、お嬢様」
「大丈夫。そう、大丈夫なのよ。安心なさい」
思わず全てを振り捨てて走るために地を踏みしめてしまった足の力を抜いて、レミリアは誤魔化すように紅茶を啜る。
その様がどれだけ滑稽に見えるかを度外視にして、部下を安心させるためにも優雅であろうと彼女は無理をしていた。
そんなレミリアだからこそ、その下で働きたいと思えるのだろうと、咲夜は内に巣くった忠誠心を再確認する。
「お嬢様がそうおっしゃるのならば安心ですが……一応、確認だけはしておきますわ」
「頼んだわ」
陽炎のように咲夜は揺らいで消える。
そして、レミリアが瞬く間に彼女は既にその場に戻っていた。
「妹様は無事、ではあるみたいですが、どうにも少し……言葉では完全に伝え難い事態になっているみたいです。申し訳ありませんが、ご足労くだされませんか?」
「えっ、ええ。直ぐに向かうわ」
口に出すこともはばかられるような事態に成ってしまっているのかと勘違いしたレミリアは、咲夜に負けず劣らずの速度で駆ける。
恐ろしい速さで向かう吸血鬼と時間を操る人間はあっという間に、地下の現場へと到着する。
そして、煙を上げているフランドールの部屋に、歪んだドアを破って突貫していった。
「大丈夫、フラン!」
所詮、フランドールと少女の出会いも、レミリアが妹のために手繰った最良の運命の中にある一つの出来事に過ぎない。
しかし、それによって妹が痛みを受けるのは我慢しがたいことでもあり、石ころが潰されてしまうのも僅かしかない良心が痛まないこともなかった。
最近は所々でぼろが出て来ている【レミリア・スカーレット】を脱ぎ捨てて、レミリアは妹の無事を祈ってフランドールの下へと向かう。
「ひっぅ、え、えぇん……」
「あ、あら?」
そして最初に、ほぼその全てを再生しつつあるが、片手が潰れた痛みによって泣くフランドールがレミリアの目に入った。
次には、視界の端に、ものの見事に上半身を丸ごと吹き飛ばされて身動きの取れない少女の姿を目に入れる。
大切な一張羅が破損するのは嫌だから何かないか、と少女が言ったために咲夜が気を利かせて用意した服も、最早足に僅かに布切れが残っているくらいである。
遊びの最中に何をやったらこんな事態に成るのか、確かに理解しがたい様子だった。
「これは、ええと……ああ、そんなことがあったのね。もういいわ、咲夜。興奮しているフランの前なのだから、以前のように咲夜は姿を隠してなさい」
「かしこまりました」
形容しづらい現状に、思わずレミリアは繋がっている先の運命から過去を推測して安心する。
泣かして爆発されたのならば、少女の自業自得である。二次災害が起こるのは嫌なので、直ぐに脆い人間である咲夜は避難させていた。
「酷いわねぇ。半分以下になっても、相変わらず気持ちの悪い生き物だこと」
レミリアは下半身だけになっても生きている少女の生きしぶとさに、自分の再生力を忘れたままゴキブリを連想して、眉根を寄せる。
そうしてから、嫌なものを見るまでして目を背けていたかった自分の妹の泣き顔に目を向けて、歩み寄った。
「ほら、フラン。泣いてばかりいては駄目よ。前を向きなさい」
「う、うぁ……お、姉さま」
「アレ、怖かったでしょう? よく分からないものに向かって下手に手を出すのは駄目だって、学べたかしら?」
「うん、うん……うぅ」
「よし、よし」
レミリアは胸に縋りつくフランドールの頭を優しく撫でる。
滂沱の涙を流すフランドールは外見年齢相応か、それ以下にまで思えてしまうくらいに幼く見える。
狂気に歪んでいればこんなにも脆くなってしまうのかと、その手に想いを込めながらレミリアは自分の行動を肯定した。
それでも、これが一番良い選択だったとは、到底思うことが出来なかったが。
被害の程度は違うが、互いにこうむった損傷の度合いを比べてみれば、二人の勝負は痛み分といったところだろう。
あまりの惨状にレミリアも少しは心が痛んでいるようだが、アフターフォローをしなければならない咲夜にとってもこの事態は頭が痛いことである。
それでも、少女とフランドールがどんな風に相対したとしても、このような形になっていたことだろう。
何せ、純粋なフランドールに少女の毒は強すぎるのだから。
絆も運命も手繰るもの。待っていて手に入るものではない。
毒に侵されても治ることだってあるし、破壊されても直すことだって出来るものだ。
そんな風に考え、少女は手を伸ばして、失敗した。
もっとも、それはその失敗こそがフランドールの糧になると分かっていたからこその行動だったのだが。
まあ、それでも何時かは慣れと変化によって二人で手を繋ぐことも可能になるかもしれない。
だから今は、半分になった全身で聞いていた微笑ましい会話から耳を逸らし、少女は壊れた体を戻すのに意識の全てを使って、眠った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
フランドールがきゅっとされてドカーンな話ですね。
変質者に抱きつかれるというのはきっと怖いでしょう。