ゆっくり大妖怪   作:茶蕎麦

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第十八話 手の届かない頂き

 

 

 

「ゆー、ゆっ、ゆっ」

「おー、いいよいいよー……あー駄目だー」

「ゆぅ゛っ」

「顔にあたっちゃったねえ。まあ、痛いのも勉強だ。よし、もう一回もう一回」

「ふぅ。……ふふ」

「おお、涙目だった早苗が笑ったわ。コメディアンの才能がありそうだね、お前は」

「ゆ?」

「もうっ……諏訪子様ったら」

 

 熱いお茶を一口。それだけでも、体の緊張は少なからず緩むもの。

 そうすれば、お盆を落とさないよう頭に載せる事を繰り返しているゆっくり霊夢を、微笑ましく思うことも出来た。

 そんなゆっくりが失敗して落ち込む度に、手ずから盆を頭に載せてあやしてあげる諏訪子の余裕たっぷりな様子に、早苗の畏れ焦る心は次第に解けていく。

 

 語る前にお茶を飲んだりして間を開ける、というのは諏訪子が早苗を諭すのによく使う手だった。それは今回も、こうかはばつぐんの様である。

 話は落ち着いて聞いた方がいいのが当たり前で、強い感情も刺激せずに時間を置けば凪ぐものであると、彼女はよく知っていた。

 そう、素直にお客さんのリクエスト通りに、ゆっくりと。諏訪子は早苗の様子を見つつ、ゆっくり霊夢に触れて中身を解析したりしながら、笑顔で正体不明と遊んでいたのである。

 

「あはは。それじゃ、そろそろこの面白いヤツのことを一緒に考えてみようか」

「考える……ですか?」

「そーだよ。だってさ、早苗一人じゃあ、コイツがどうやって生まれたのか想像もつかないでしょう?」

「霊夢さんがどうにかして、生み出したというのでは……」

「これは巫女に出来る芸当じゃないわ。何しろ、こんな変なものを創る神霊はいないもの」

「はぁ。それでは、誰が……いえ、何がこの子を」

「コレを創ったのは、相当に食えない奴だよ。まず、食物連鎖からは外れてるだろうね。何しろそもそもコイツが自然から外れすぎているからさ――――饅頭生物なんて、進化の樹に生ってたまるものか、ってね」

「ゆゆー?」

「あっ、なるほど確かに……私の知る限りでは系統樹にこの子の祖先はないですね」

 

 ゆっくり霊夢には、分からない。しかし、早苗には諏訪子の言葉の意味が大体分かったようである。

 目の前で疑問を抱えながら盆に挑んでいるこの存在が、饅頭であって生き物であるということを、早苗は知ってた。それは霊夢が語った言葉を鵜呑みにして得た知識によって。

 だが、嗅いで抱きしめてそんな生き物であると確かめただけで、これがこの珍妙な世界に来るまで溜め込んできた知識に該当するかどうか試してきてはいない。

 そして、神童と呼ばれるように相応しくあろうと図鑑を漁って得た記録を調べてみても、だが相似するものすら彼女の脳裏には浮かんでこなかった。

 つまり、現に有り得るものではないのだ。その幼稚さ故に安心出来たが、どう考えてもゆっくりは進化論に縁のない諏訪子や文のように特異なものだった。

 

 しかし、ゆっくり霊夢は妖怪でも魔物ですらない。人に害を成すものではなく、ぷくぷくとした全体や縁起のいい配色も含めてむしろマスコットやゆるキャラのように福でももたらしてくれそうな外見である。

 それに何しろ、ゆっくりがそんな幻想的な存在でないことなんて、ひと目で分かるものなのだ。

 無知なその笑顔は何よりも無防備であり、緊張とは無縁の乳臭さを演出していた。そんな素直さは弱者にとって残酷な幻想郷の現実からすら遠く。だからこそ、早苗は安心して抱きしめられたのだった。

 

 

 しかし、ソレを怪しむ諏訪子の目は、厳しい。それはまるで、狐の背後の虎を見ているかのようである。

 

 

「まずさ、饅頭って人間が作った甘味じゃないの。私も好きで昔はよく作ってたけどさ、中の小豆餡って要はふやかした小豆に砂糖を入れて練ったものじゃない。そんなものが、どうして血肉になるってのよ。ねえ早苗、コイツの分類はなんだか分かる?」

「ゆー」

「え? そうですね、まず妖怪ではないですし……この子は私の知らない未確認生物、ということになるのでしょうか。饅頭の付喪神ではないことくらいなら、流石に分かります」

「そうなんだよね。こんな変テコな成りして生き物なのよ、コレは。饅頭の中身が循環してたら生きているっていう、私の手の届かない不明な道理によって成っているみたい。まあまるで、何時だって新鮮に美味しく食べられるよう、創り出されたみたいにねー」

「……そういえば霊夢さんが言っていました。布のように髪のように見える部分も、全部食べられる、って」

「早苗がマスコットキャラクターだとか言った通りに、私にもコイツが意図的に創り出されたとしか思えないのよ。そして、私たちの考えに間違いがなければ、このゆっくりとやらを生んだヤツはとんでもない相手のはずなの」

「ゆうゆう、う?」

 

 それには突然変異と至るまでの下地すらなく、ましてや妖怪や九十九神等のなんでもありというものでもない。

 それこそ唐突に、食べ物と生き物の中間を埋めるかのように創り出された存在。

 そんな意味不明は、何も分かりはしないのに、どうしてだかしたり顔で諏訪子の言葉に頷き。そうしたことで、ようやく頭上に乗せられた盆を再び落下させていた。

 

「そうだねー……連れてきちゃったのは早苗だし、情報はきっと早苗の方が持っているはずじゃないかな。何か、些細なことでも覚えていない?」

「分かりました、ええと何か、何か…………あ、そういえば霊夢さんが弾幕ごっこに使っている、丸い……陰陽玉というのでしたっけ? それに似た妖怪が最近住み始めた、ということも聞いた覚えが……」

「ん……おん……みょう……それだ! そいつだよ早苗!」

「んゆっ!」

 

 発見の喜びに机を両手で強く叩いて、諏訪子は納得する。総てを丸く収めたものを、想像して彼女の表情は満面の笑顔とすらなっていた。

 そして、ちゃぶ台の足から伝わった振動に、プルプルしながらゆっくりは盆に倒れこむ。早苗は唖然として自分の何気ない言葉にそんな不思議な反応をした二つの間に忙しく視線を彷徨わせた。

 

「落ち着いて下さい、ゆっくりちゃんがびっくりしてますよ、諏訪子様。それで……ええっと。つまりその丸い妖怪が、ゆっくりちゃんを生んだのですか?」

「合っているけど違うよ。きっと、丸いだけじゃないのよ。陰陽は万物の大別。あの玉に似てるとなれば、それは森羅万象丸々含んだカオスと同じだわ」

「カオス、って……確か善し悪し混ざった、何だかよく分からないものですよね」

「流石に早苗も、太極までは中々想像できないかなー。まあでも、巫女の勘は鋭いと聞いてるし、その表現が適当だと考えると都合がいいわ。きっと全てを持った存在だから、法則も簡単に捻れて創り出せたんだ。ええと……この、ゆっくりを」

 

 途中まではとんでもない正解を見つけられたのだと自信満々に語る諏訪子だったが、しかし彼女も次第にそのことのおかしさに気づき始めて迷い始めた。

 よく分からない存在が、よく分からない生き物を創りだすというのは、実に有り得そうなことではある。しかし、混沌の化身が饅頭作りに没頭している姿など、八百万(万物)の神の一柱である彼女ですら想像しがたいことだった。

 

「はぁ……そんな神様みたいなスゴい存在が……わざわざ、霊夢さんそっくりの、ゆっくりちゃんを生み出したのですか」

「ま、混沌のままじゃ神にも成りえないから、きっとそいつは妖怪か何かなんだろうけど……うーん確かにこりゃおかしな話だねー。そんな大げさなものが、道理を曲げてまでこんな小さな生き物を創っていたというのは奇妙だわ。形の理由は分かるけど……」

「ゆ、ゆー?」

 

 まさか問題に持ち上げられた当人が、酒に呑まれて創ったものとはつゆ知らず。思わず早苗と諏訪子は答えを探してゆっくりを凝視してしまう。

 わけも分からず緊張したのか、ゆっくり霊夢の求肥のようなもち肌に、とろりとした蜜のような汗が一筋垂れた。

 

「あーうー。流石に動機まで想像するのは、無理かも知れない。ただ、予想が外れて創った酔狂ものが饅頭怖いの妖怪とかなら問題ないんだけどねー。でも、そうじゃなくてただの力あるものの仕業だったら、ちょっと危険っぽいんだよ」

「……それは、諏訪子様と神奈子様にとっても危険な相手、ということでしょうか?」

「大雑把に言えば私と神奈子だって、天地より想像されて、結果創造するようになった者。縁が何にもないのを創れる筈なんてないんだよ。そんなこと出来るのは孤独な神様とか…………或いはすっごい悪魔くらいしか知らないなあ」

「私は……そんな人の子供を、考えなしに持って来てしまったのですか」

「そう。そこが今回の早苗がやっちゃった大きな間違いなのよ。何があってもおかしくない、ここは場違いな力を持った孤独が集まる幻想郷。だから、早苗はその内の一人として、もっと相手の事情を想像してあげなければならなかったの」

「ゆう?」

「ああっ……そうですね……私が、間違っていました」

「そう、こんなに不出来な生き物が守られずに生きていける訳ないってくらい、察せないと。で、甲斐性のない巫女はまず保護者の選択肢から除外する。そして、ゆっくりを大事に守っているだろう親から了承さえ得られて来ていれば、満点だったわ」

 

 落ち込んだ早苗のつむじに向かって、諏訪子はそう諭して微笑んだ。

 言葉にしたのは、出来るくせに中々協調を考えようとしない神奈子どころか、語った当の諏訪子にだって出来るものではない理想的な応答。

 しかしそんな無茶を言う親代わりのご先祖様に、頭を垂れる早苗は本当に素直だと、彼女は思う。

 

「それと、人の言葉は最後まで聞くって何処だって当たり前のことを忘れたことは、駄目だねー。こりゃ、稽古つけながら早苗の体に、二度と忘れないよう教え込まなければいけないかしら」

「はぁ……またあのキツい修行を……でも、仕方ないですね」

「ゆー、ゆー」

「こんな小さなのに慰められてちゃ仕方ないなあ。反発しても、別にいいのに。もう少し我を持ってもいいのよ?」

「そんなそんな! 諏訪子様のお言葉は、何時でも正しいものですから……」

「うん。そりゃ私には都合のいい答えだね。けど、別に自己解釈を載せたって一向に構わないの。間違っていても、思考停止よりはいいわ。絶対に許されないことなんて、そうそうありはしないのだから」

「はぁ……」

 

 禁忌を犯すのは、大概が無知ゆえのことである。狂わずに未だ真っ直ぐな彼女も、今回味わうだろう苦い薬がなければきっと何時かやりすぎてしまうようなことがあったのかもしれない。

 ただ、一方向に正しさを信じる早苗は、その清潔さを憂いる諏訪子の言葉を消化しきれず。そして、今回も琴線がピンと震えることはなかった。

 

「……では、まず私、ゆっくりちゃんを返してきます。心配している親がいるに違いないのでしたら、なるべく早く戻してあげないと……」

「あ、それは待った方がいいよ。よく分かんない親と、バッタリ会ってしまったら早苗が危ないし、なら向こうが来るまでしっかりコイツを保護しておいた方がいい」

「そう……ですね。相手方に手間をかけさせてしまいますが、その方が行き違いもなく確かで……っ!」

「おっ?」

 

 果たして早苗が腰を上げて、そして下ろそうとしたその間隙に、突如として轟音が響いた。

 思わず身を固めた早苗と、ぴょんと飛び上がった諏訪子。その足元で、件の生き物は音源に向かい勢い良く振り向く。

 

 

「ゆ、ゆっ! おかーさん!」

 

 

 そう、危機感のない新生物は、親が立てた派手な爆発音を、嬉しそうに受け取っていたのだった。

 

「おおっ。どうやらとうとう親が、来ちゃったみたいだねー……しかもこの様子じゃ怒ってるのかもねえ」

「そんな……」

「ま、今回は早苗の確認不足。反省すればそれでいいわ。ただ、後で神奈子にはよーく謝っておくんだよ」

「それは勿論です! 誠心誠意謝らせてもらいます! でも……」

 

 怒りの矛先が自分でなく保護者の神奈子に向かってしまったことを、早苗は受け入れられない。

 想像以上の爆音をこんな奥まで轟かせるような相手と戦う神奈子が心配ということもあるが、それ以上に一人前に憧れる早苗は責任を取り上げられることが嫌だった。

 そして何より、恐るべきアンノウンよりも見知った神奈子の拳骨の重みが恐ろしく、それを少しでも軽くするためなら、守られず矢面に立つことだって容易いものである。

 

「大丈夫。ちょっと危険な程度の相手に遅れを取るほど神奈子は弱くない。終わったら怒られて、それに早苗が耐え切れたらあいつだって許してくれる。まあ、その前に、あのゆっくりとやらの親にしっかり謝っといた方がいいかもしれないけどね」

「そう、ですね。私が行って、止めないと!」

「ゆぅ! ……ゆ?」

「捕まえた、っと。よし、この子は私が見ておいたげるよ。さ、遠慮せずに、見学しに行きなさい。今行けば、面白いものが見れるかもしれないよ?」

「ありがとうございます、諏訪子様!」

 

 付いて行こうとするゆっくりを、諏訪子は傍に置いていた愛嬌たっぷりな二ツ目が付いた市女笠を用いて捕獲した。

 お陰で、憂いなく出て行けるようになった早苗の背中は、疾風のようにたちまち見えなくなっていく。

 忙しいそんな彼女の若さに、思わず諏訪子も微笑みを漏らしていた。

 

「どうせ急いでも予想通りの相手なら、長く観られるってだけで、触れもしないんだろうけど。ま、それもいい経験よね。未だ階段を登り切っていない早苗じゃあ、流石に届くものじゃないもの」

「ゆっくりしていってね!」

「あはは。結局それが真理なのかもしれないわね」

「ゆ」

 

 舌足らずと談笑しながら諏訪子はまず座布団の上に座り直し、持っていたゆっくり霊夢を持ち上げ膝に乗せ、そうして彼女はその柔らかい頭部を撫でた。

 奥で待つのは嫌いではない。ラスボスや裏ボスのように来客が来るまで待ち続けることだって、諏訪子は好きだった。

 それは、膝の上の温もりのように、つい心地良い所に座して求め来るものを歓迎することを楽しんでしまうような、そんな性のためである。

 

 

 

 それは、僅かなものでも満ち足りて、ほころんでしまうくらいに小さな皿。しかし、それでもその生き物は足るを知っていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……やっぱり駄目かあ」

 

 守矢神社が望める程度の距離で、僅かに頂に届かないくらいの高さの天が今、紅く煙っている。

 それは大変な力が、強風によって撒き散らされた、その結果であった。

 

 一気呵成に訪れた魔力を粒ほど粉々に打ち砕いた神、八坂神奈子は煙すら届かないその中央に浮かび、ただ座している。

 そんな圧倒的な光景を前にして、しかし少女は逃げずに射るようにその黒目を向けていた。

 

「やれやれ。犬猿雉も、まずは威嚇から始めるってのにいきなり実力行使とは……どうも全く交渉力のない相手のようだねえ」

「くぁ。そんなことないよ。入るときにはまず、ノックをするってくらいは知ってる」

「貴女には私が扉に見えるというの?」

「……ううん。私には貴女が分厚い壁に見えるわ」

 

 想った言葉は見敵必殺。しかし、少女が破壊的な力を真似て創った渾身の一撃でも、届くことなくそれは全て大気に呑まれた。

 フランドールが手にしていた魔杖の端だけを創れた少女が引き出した力は、本家本元に及ばずとも破壊的な威力を出すことに成功している。

 少女の手の中で力を尽くして消えたハート型の物体は、かの伝説のレーヴァテインを彷彿とさせるほどの熱量と怒涛の魔力を放ち、しかしそれも神奈子に届く前に拡散して相手を破壊するだけの威力を発揮出来なかった。

 

 二つと同じ物はない。そして少女は未熟も未熟。だから、創造というよりも模倣したその魔法は、劣化品である。

 だが、そうであっても彼女の全力すら凌駕する破壊的な魔を、軽々と破壊してしまうほどの遙かなる力には、幾ら彼女が向こう見ずの餓鬼であっても畏怖を抱かざるを得なかった。

 そして、当然のようにそんな小心に対して、年若い少女は反発するのである。自分の程度を察しながらも、まだ、まだと。

 

「断崖絶壁も山の顔の一つ。大人しく引き返すのも、私は愚かとは思わないわよ?」

「餓鬼は諦めが悪いの、とってもね。たとえ死に触れることになってしまったとしても、私は思う存分手を伸ばすわ」

 

 頂きを目指して攀じり続けることに、意味はない。だが山は険しいほど、挑む甲斐があるというものである。

 仰ぎ、拝まず、少女はただ自分を試すために、その手を伸ばすのだった。

 

「……なるほど。自棄になって抗うと、そう貴女は言うのね?」

「あはは。違うよ。感情が抑えられないの。どうしようもないんだ」

 

 神の遊びが祭りだとしたら、少女の悲鳴は駄々にしかならない。

 小利口な餓鬼は、感情を持て余している。もしそれをぶつけるのならば、大きな壁がいいだろう。何しろそれが壊れない限り、他を害してしまうことはないのだから。

 そして、大した子供の相手をしてやれるような大人は、目の前に一柱、神奈子だけである。

 

 

「はぁ……本当はこんなことしてる暇ないんだけど、仕方ないわね。さあて――――わがままな子供には、身の程を教えてあげましょう」

「くぁっ!」

 

 手の平を押し出す、そんな動作を神奈子が行っただけで、あっという間に天秤は大きく傾き悲鳴を上げた。

 天上から発されたそれは、圧倒する流れ。文が起こす暴風すら比較にならない、強く真っ直ぐな風が少女に殺到する。

 

 少女も伸ばした手を向けて、何らかの力を創り出し防護しようとするが、形になる前に全ては舞い散り後ろに流れていってしまった。

 静止するために全力を尽くし、ゆっくりとでも前に進むことすら出来やしない。

 

 風は高い所から低い所へ吹く。そんな常識に、彼女は圧され続ける。

 

「あ、これ、じゃあ、もう……ああああぁぁ!」

 

 そんな中では、限界も疾く訪れ、そして終わりもあっという間であった。

 蝋の羽根で太陽に挑めば墜ちるのが妥当な物語の終わりであるように。張られた筋が千切れるがごとく、不安定な少女の五体は耐え切れずあっという間に散り散りに吹き飛んだ。

 

 ――――そうして呆気無く、少女のカタチは消える。

 

 

 

 

「……やれやれ。コレでお終いなら楽なんだけど、ねえ」

 

 しかし、妖怪主演の怪談が、すっきりと終わることなど珍しいもの。

 それに、元より少女が具体的になっている今こそ、本来ならばあってはならないことだった。

 古典的に妖怪退治を果たした筈の神奈子であるが、しかし天空に広がりつつある暗黒を前にして気を抜くことなどはあり得ない。

 

「それが、貴女の本性なのかしら?」

「あはは――――【苦あ】れば楽あり。風になっても、私は私」

 

 そう、少女は全ての筈だった。だからどんなに細かく千切られても、最小単位に刻まれたモノだって少女である。

 塵のまま、生きているはずのないくらいに広がった彼女は、空気を歪ませることで笑む。

 

「これくらいじゃあ、終われないの」

 

 そう、醜悪に、宙の穢れとなっても、まだまだ少女は生きてしまっている。

 だから、力及ばないことを痛感しながらも、今度は大切なモノを取り返すために立ち向かうのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

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