1
家の前に誰かいる。
見た目は完全な和服。頭に笠をかぶっているので顔は見えない。
だが、腰まで伸びる長髪の白さが異様さを際立たせておりその腰には
「刀をぶら下げて、どこ行くんですか?」
「この家の子か?」
かみ合わない。質問に質問返しするのは良くないと思う。
とりあえず、こいつは幽霊確定だな。しかし異様だ。見たところ武士のようだがそんな時代の幽霊が今の時代までこの世にまだ居るのはできないはずだ。それこそ死神にでも会わなければだがそんなことができた幽霊など聞いた事が無い。
「もう一度問う。貴様はこの家の子か?」
「・・・・・そうだよ」
考えてもしょうがない。そう判断して問いに答える。
狙いは分からないが言われたとうりにしたほうが良さそうだ。
「ならば拙者について来て欲しい。今から構わぬか?」
「ついて来い?どこに行くんだ?」
「舌神様のところだ」
「舌神様?」
「覚えておらんのか?」
「あぁ、全く」
「しょうがない。お主がまだ幼子の頃であったからな」
「ごめん、何の話をしてるのか全然分からないんだけど・・・」
「構わん。舌神様とは・・・・」
「・・・・・」
「お主にその力を与えた神だ」
「!?」
驚きが隠せない。
僕にこの力を与えた存在に関係のあるやつが目の前にいるのだ。
僕をさまざまな考えがめぐる。
なぜこの力を与えたのか?
なぜ僕にこの力を与えたのか?
なぜ今僕に会いたいのか?
聞きたいことがあまりに多くありすぎる。
「ついて来て欲しい。構わないか」
ここで迷ってもしょうがない。
「分かった。その舌神に会わせてくれ」
「了解した」
武士は刀を出すといきなり空を切った。その部分は破れた布のように開き中から異様な空気が流れた。
「何だ・・・これ・・・?」
「霊界の入り口だ。この中に舌神様がいる」
「マジかよ・・・」
「早くは入れ。入り口が閉まる」
促されるままに中にはいる。
霊界は自分の先程までいた世界からそのまま色素だけを抜いたような光景だった。
「うわぁ・・・」
「白黒が珍しいか?」
「生憎、カラーテレビしか知らないもんで」
「?」
この武士はカラーテレビを知らないようだ。
「お主が牙流か?」
急に上の方から名前を呼ばれる。
「えっ?」
見上げると巨大なトカゲ
舌の長い巨大なトカゲがいた。
「・・・・・・・・・・」
「違うのか?」
「いやぁ、合ってます」
「私は舌神だ。お主に力を与えたのを覚えているか?」
「お陰さまで。何となくですけど」
「それでも覚えてもらえているだけで此方は嬉しいな」
舌神はにっこりとやさしく笑ったように見えた。
「僕に何でこんな力を与えたんですか?」
僕は早速、聞きたかった事を聞いた。
「牙流に頼みたいことがあるからだ」
「頼みたいこと?」
「その前に私達について話をさせてもらおうか」
「いいですけど・・・・」
「そこにいる泥武士。奴は妖怪だ。元は人の霊だった。
幽霊と妖怪の違いが分かるか?答えは簡単だ。強さの違いだけだ。死神が幽霊を襲うがもしそれを返り討ちにする幽霊がいたら・・・。
それは妖怪の類いに入る。
違いはそれだけだ。そして妖怪が更に力を持てば私の様な神となる。神になればお主の様な人間に力を与えたり、妖怪を束ねたりもできる。お主に力を与えたのも理由があってこそ」
「理由って・・・何だよ?」
「これから大事な儀式をやらねばならん。しかし邪魔をするものがいる」
「邪魔する奴って?」
「人々の恨みの念から生まれる悪霊だ」
「悪霊・・・」
「奴等はたちが悪い。簡単に増え霊を襲う。儀式の邪魔をすることは目に見えている」
「まさかソイツ等を倒してくれなんて頼むつもりか?」
「察しがいいな。ご名答だ」
僕は心の中で思いっきりため息をつく。めんどくさいことになったな。
「此方から一人妖怪を派遣する。自由に使ってくれ」
2
という話が昨日のことだ。
「まさか派遣妖怪が・・・」
僕はチラッと足元を見る。
「何だ?俺の顔になんか付いてるか?」
「顔じゃないけど頭に皿が乗ってる」
河童との会話はこんな感じなのだろう。
「この皿はアクセサリーだから。最近の言葉で言うおしゃれだから気にすんな」
「大事なもんじゃないのかよ」
「元は人間だからな。しかし人間の姿を保つよりこちらのほうが楽だからいいんだよ」
「そうですかい・・・よくわかんねぇな」
「わからんで結構」
意味の無い会話をしているのは霊界の中。
舌神に頼まれた悪霊討伐区域はほぼ市内全域だった。
現在、悪霊は五体いるとのことでそのすべての討伐が僕のミッションの様なものだ。
「つーか悪霊って人の念から生まれるんだろ?倒したところでまた増えるんじゃないの?」
「儀式をする数時間だけでも悪霊のいない時間が欲しいんだ。つべこべ言わずさっさとやるぞ」
「へいへい。りょーかい・・・・・・っていうかどうやって倒すんだよ?」
「お前は舌神様から霊力を与えられてる」
「お前らを見るこの力か?」
「そうだ。霊界ではその霊力が外よりも強くなるんだ」
「ほうほう。それで?」
「舌神様から力を受けたお前ならその霊力を具現化させることもできるだろう」
「具現化?」
「様は、霊力を武器にして戦うんだよ。霊力は使用者のイメージに合わせてどんな形にもなるから今のうちにどんな武器を使いたいか考えておけよ」
「そういわれてもなぁ。なんつーか・・・中二病みたい」
「お前は中一だろ?」
「そういう問題じゃない」
「?」
「まあいいか。なんかおすすめの武器とか無いの?」
「そんなの使用者によるからな。自分でイメージしやすいものにするといい」
「だからそのイメージが固まらないんだよ」
「想像力の無いやつだな。もっとやわらかく考えろよ」
「やわらかくねぇ・・・・・。うーーーーん・・・・・・・・」
一瞬、脳裏に幽間の胸がよぎる。
「最高!!」
「急にどうした!?」
僕はもう一度武器について考えてみる。
(武器・・・・オーソドックスに剣とか槍とか弓矢とかかなぁ。
しかし個人的に人類が生み出した武器で一番強いのは銃だと思うな、やっぱり。
イメージを固めろと言われてもそんなのよく分からないしなぁ・・・。
まあ、なんとなくでなるだろう。
やわらかく、やわらかく、やわらかく・・・・・・・
幽間は今、何をしているのだろうか?
このことを話すとなんていうのだろうか?
やっぱり心配してくれるのかな。あいつ、変にやさしいところあるからなぁ。
昨日も、ずっと笑っていたし、今日も笑顔で挨拶してくれたし・・・・・)
「何ニヤついてんだ?」
「ニヤつく位いいだろ」
「なんだ?彼女でもいんのか?」
「残念ながらね。でも仲がいい女子はいるよ」
「そうか。よかったな」
「河童は生前、恋仲になった人とか居たの?」
「・・・・・・・・・覚えてないなぁ」
「そうか。少し残念だな」
「なんせ何百年も昔の話だからなぁ」
「ずいぶんとアバウトだな」
「しょうがないだろう?覚えてないものは覚えてないのだから」
「まあそうなんだけどな・・・・・」
「・・・・・・・」
「話変わるけどいつになったら着くんだ?」
「もう少ししたらかな?」
「僕は何時に帰れるんだろうか?」
「そこら辺は気にしなくていい。霊界は時が止まったようなものだからな」
「えっ?マジで!?」
「気になるんなら時計でも見ろ」
僕は懐から携帯を取り出す。
「マジだ。一分一秒進んでねぇ・・・・」
「な!言ったとうりだろ?」
「しかし何で・・・・・」
「死んだ事実を受け止められずに死んだ時のままその姿であり続ける俺たちがいるからじゃないか?」
「どういうことだよ?あとお前死んだときは河童じゃねぇだろ」
「死んだ時からいつまでも時が止まったようにこの世にしがみつづけてるんだよ。俺たちは」
「だから霊の多いこの世界も時が止まっているだって言いたいのか?」
「正解」
「・・・・・・皿、割っていい?」
「なんでだよ」
僕は大きく振りかざしたこぶしを河童に叩き付けようとしたとき。
「!?」
「・・・・来たか」
背後から何かが近づく音がした。
3
「なっ・・・何だ!?」
「悪霊様のお出ましだ!身構えな!!!」
河童が叫んだ瞬間目の前の草むらから黒い物体が出てくる。
「これが・・・・・・」
「そうだ!これが悪霊だ!!」
目の前に出てきた悪霊は闇より深そうな黒のフォルムで四足。目と思われる部分が真っ赤に染まりこちらを睨みつけているようだ。というか姿形だけだと
「これ・・・・見た目真っ黒で赤い目をした・・・・・・・・
狛犬じゃん」
「・・・・・そうだな」
「えっ。何?僕、狛犬狩りすんの?神社の前で神様を守ってる狛犬狩りすんの?」
「違う。これは悪霊だ。狛犬みたいな悪霊だ」
「つーか、結構でかいんですけど。狛犬のくせに僕と同じくらいの大きさなんですけど」
「狛犬は大体、これぐらいだろ」
「もっと小さいのだと思ってた。マジっすか」
(さてどうしようか。
今まで、幽霊相手に暴力したことは数知れないが狛犬相手とは思わなかった。
ペットボトルでもあれば話は別だが今手持ちにないし、自販機も近くにないしなぁ)
「何している。さっさと霊力で武器を作れ!!」
「あぁ、はいはい」
(そうだ。武器をイメージするんだった。
武器武器武器武器武器・・・・・・・・・・。
どうしよう。幽間の胸しかイメージできねぇ!!!
やばい!!このままじゃ僕変態だ!!
変態のレッテルを張られてしまう!!)
「おい!そっちに行ったぞ!!」
「!?」
我に返ったが遅かった。
狛犬悪霊は強烈な犬パンチ(ストレート)を僕の腹に浴びせてきた。
(かわせない!!!)
とっさに防御姿勢をとる。
しかし殴られた衝撃で僕はその場から飛んでいく。
「ぶっ!?」
ゴロゴロとぶっ飛ばされた衝撃で地面を転がる。
「痛ってぇ・・・・」
今ので、口の中が切れてしまったようだ。ついでに土の味もするので口の中に入ったのだろう。
「やってくれんじゃねぇか?面白れぇ!!!」
口の中の血と土と唾が混ざった汚いものを吐き出す。
そして僕は利き手の右を高く上げる。
「行くぜ!!狛犬野郎!!!」
右手に意識を集中させる。体の霊力を右手に集めるようにイメージする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
が、うまくいかない。
「・・・・・あれっ?」
その瞬間、また世界が逆転する。
狛犬の体当たりを喰らってしまった。
「大丈夫か!!!!」
河童が僕を空中でキャッチする。
「おお、お前、プロ野球でヒーローだぞ!」
「そんなことどうでもいい!!」
怒られた。
「失敗した」
「イメージするところを変えるんだ」
「へっ?」
「お前の一番、霊力の集まってるところはどこだ?」
「なるほど」
地面に降ろされながらもう一度イメージする。
一番霊力の集まっているところなんて・・・・・・・
「この目玉以外どこだってんだよ?」
眉間の前で
しっかりと掴んだそれを一気に引き抜いた。
「これが・・・・」
右手に白く光る両刃の剣が握られていた。
「うまくいったな。来るぞ!!」
前を見る。狛犬がまた突っ込んできた。
「バーカ!同じ手に乗るかよ!!」
剣を真横に振る。狛犬は上下に割れる。
「はっ!?なんだこれ!!出鱈目に強すぎんだろ!!」
「まだ来るぞ!!気を抜くな!!!」
もう一度前を見ると切られたことで静止していた狛犬の下半分から上半分が生えてくる。
「キモッ」
「奴らはほっておくと再生する。再生される前に攻撃し続けろ!!!」
「了解!!!」
今度はこちらから突っ込み剣を振る。
だが寸でのところで後ろに逃げられる。
「ちっ!!」
剣を振りながら、どんどん前に進む。しかしギリギリのところでかわされる。
(もうちょっと長ければ・・・・・。あぁ!もう!!)
「伸びろ!!!!!!」
思わず叫んでしまったがこれが意外な結果を生んだ。
「えっ!?」
「くくく・・・・・牙流。お前・・・・・」
僕の目の前に
半分になった狛犬悪霊
にやにやと笑う河童
そして
百メートル近く伸びた剣が映った。
「センスあんじゃねぇか?」
「・・・・・・・・・へっへっへっ」
「いいこと思いついた」
「どうした?」
「この剣の名前」
「名前?」
「名刀
『悪霊退散』・・・・・なんてどうよ?」
「お前・・・・ネーミングセンスないな」
「ぶった切るぞ!!」
僕は悪霊に対して悪霊退散を真っ直ぐに振りかざす。
(思い通りに悪霊退散が変化するなら・・・・・)
「喰らいやがれっ!!!!!」
悪霊退散は柄をそのままに刃の部分だけ大きくなる。
「悪心!消えやがれ!!『断絶大太刀』!!!!!!」
僕は悪霊退散を思いっきり叩き付けた。