友を訪ねに行きましょう。   作:HIGU.V

1 / 11
10話行かない位の中編で少しリハビリをしたくなりまして。
BDを前金で一括したのは久方ぶりなので、オバロで書きました。

GAの方は90%程できてますが、いま縛りありで再プレイ中なので
もう少々お待ちください。


起-1

もし死んでから自分の人生を振り返るとして、最大の転機は何時だったかという命題について述べるとすれば、彼はこう答えるであろう。

 

────ユグドラシルと出会った事だ。

 

彼にとってユグドラシルは娯楽であり、挑戦と冒険の場であり、社交の場であり、まさに人生であったのだから。

 

そこで出会った者たちとの思い出は

 

何事にも代えがたい至高であり

 

何よりも素晴らしい至極であり

 

そして何時までも苦い至難であったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「招待キャンペーンで貰えるアイテム集めるために始めさせられたけど、何すりゃいいの? このゲーム」

 

 

 

そう口ににしてみるものの、自分の口は縫い付けられているかのように動かない。いや小さく開いたまま固定されているという表現が正しいか。

声色から読み取った感情スタンプのサジェスト機能がポップされて、困惑や泣き顔を候補として出してくるが無視して思考に没頭する。

 

このユグドラシルという名前のゲームは最近娯楽にも利用されるようになった、最先端科学技術の一部を利用したVRMMORPG。つまりは直接入り込んで遊べる、視界が画面で、体がコントローラーのゲームと言い換えれば良いか。

 

 

一昔前は貧乏学生の身には少し手が出ないものであったそれも、移動用の中古モービルを購入するより安くつく。そんな時代であるし、インターフェイス自体はゲーム以外にも、仕事などに使い道はある。

学生の頃、あまりに好きに生きていた自分への自戒として、ビジネスモデルで少し高額なものを娯楽用の口座から引かれるカードで切って購入していた為に所持はしていたのだ。

 

それを目敏く我が家に昇進祝いでセッションしようぜと無理矢理遊びに来ていた友人に発見されて、招待を受けたというのだが、まず驚いたのはゲームの自由度だ。

 

 

自分の出身国では後発のフリーシナリオ性のゲームであり、キャラクターメイキングにすら本気で取り掛かれば数日どころか数か月はつぶれそうなものである。今はなき曾祖父が持っていた液晶モニタにつないで遊ぶテレビゲームという骨董品に比べたら雲泥の差であろう。

 

 

一先ず、目についた良さげな種族などを選び、招待された側の貰えるアイテムを受け取り、フレンド登録されている友人から型落ちした汎用装備を譲り受けたは良いのだが、なにぶん素人である自分にとっては楽しくはあるが、明確な目標もなくしばしもすれば飽きそうに思える。

 

友人との義理で始めたのだが、折角始めたのに直ぐにやめるのももったいないと感じる自分は非常にわがままなのかもしれない。

 

 

現実の体には存在しない、背中から生えるアクリルフィルムよりも薄い羽を見詰めて思うのは、自分が選んだ種族────妖精についてだ。

 

ジョブLv。正式名は職業(クラス)レベルと異形種族ならば種族レベルが存在するこのゲームは最初に大まかな方向性は決められるが、その後の成長は無限大なのだ。

 

この妖精の種族特徴は後衛支援魔法使いで一番すばやく表せると思う。

 

 

HP、物理攻撃防御は雀の涙であるが、それなりにあるMP、魔法攻撃防御に加えて高い素早さと総合耐性。何よりも将来的に特殊なスキルを覚える事から、比較的人気な種族である。

 

しかし、妖精と言う名から可憐な外見を連想する人も多いであろうが、それを維持するにはかなりビルドの選択肢が狭められ、他人と被るのを許容するか、折角の容姿を捨てるかという二択を迫られる種族である。

 

自キャラを完成させた後ホームの守護にするNPCに設定する方が向いているといえる。

 

 

表せると思うの後は全てあまり出回っていない情報でも、さすがに初期キャラクターメイキング指南程度はあるソーシャルメディア上の情報をまとめたものを引用した。

 

紹介文を読んだ上ののりで選んだが、少々癖が強いそうだ。特に種族レベルと職業レベルの両立が面倒そうであり、手探りで育てて後々後悔しそうであるが。

 

まぁ悩んでも無駄だ。効率の良い育成どころか、チュートリアルで教わった知識と聞きかじったにわか知識程度しか情報が無いのだ。適当に遊んで好きなように育てるしかなかろう。

部屋の片隅に置いてある今はもう使わなくなった夢の残照を視界に入れるよりは、ゲームに没頭していたいのだから。

 

結局結論は最初から出ていたのである。

 

 

「まずは良さげな職業を探しながら種族レベルをあげよう」

 

 

動かない口でも問題なくでる声で決意を新たにして、

 

一先ず手近なMAPに狩りだすのであった。

 

 

未知への探求こそが、今の自分の楽しみなのだとやけくそ気味であるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とか思っていた時期もあったと懐かしんでいると、今日もまた獲物の気配を装備した腕輪が知らせてくれる。自分の領域内に入った人間属の存在を感知するこれは自分のロールには結果的には最適なものであった。

 

自分の育成方針を決めたのは、比較的シンプルな理由であった。まず1つに招待して来たフレンドが速攻で引退したこと。2つにそんな彼の種族が人間であったこと。3つにユグドラシルを辞めるタイミングを逃した気がして辞められなくなりかけている時に見つけてしまった妙な種族達のこと。それらを総合した結果だ。

 

 

 

「はーい、ねぇどんな気持ち? そっちの視界にはどういった風に映るの? 精神支配を受けた時ってさ?」

 

 

「………………」

 

「お? メッセージ機能は使える事に気が付いて仮想コンソールで手打ちしてるのかな?」

 

 

────この卑怯者! ふざけるな!

 

「はいはい、どうもどうも。それじゃあそのままじっとしててねー」

 

 

そう口にしながら一先ず窒息と昏睡の呪いをキャストする。恐らくあと2分ほどで死に至るであろうが気にしない。ゲームであるし、もう慣れているし。

 

 

妖精という空想上の種族へのイメージは、20世紀の終わりから21世紀にかけて数多のフィクション作品で取り上げられるようになり大きく変動してしまったと思う。純粋で可憐。清らかで自然であるといった印象を持っている人間が多くなったってしまったのだ。

 

しかし本質、と言うよりも伝承において妖精は悪戯好きであり、そして気まぐれであり、善悪の判断よりも己の興味で行動し人を魅了する。

 

人が何かにとりつかれたように物事に打ち込みだしたならば、それは妖精の仕業である。

 

地域によってはそのような伝承が神話の時代から残るものだ。

 

 

このユグドラシルはライト層から本格派のファンタジー好きも楽しめる作品であり、妖精のイメージを上手い具合に新旧取り込んでいると言える。

 

そもそも北欧神話モチーフでそれってどうよみたいな種族も出て来るのでなんとも言えないが。

 

まあ話はそれてしまったが、ひたすら妖精系に属する人間を『拐かす』『誑かす』『魅了する』『隷属させる』といった特徴を持つ種族のLVをあげ続けたのだ。

ギリシャ神話系になってしまうがセイレーンなどをはじめとする正統派の物から、人を堕落させる悪魔の一種まで、とにかく多岐にわたって良さげなスキルを覚えるまで取り続けた。ガンダールヴルからヴェイグまで、とにかく幅広くだ。

職業レベルは吟遊詩人と楽士に精霊系魔法使いに付術師をとっている。

その結果解放された上位職業の名前も非常にシンプルでドヴェルグルというものである。北欧神話において、まんま妖精というかドワーフの意味である。

 

特性は人属へのバステ&デバフと精神操作への特化。一応人属以外にも使えるが、対人間だと様々なパッシブスキルの恩恵を受けて成功率が78%上昇するのだ。

同レベルの人属ならば、完全耐性でもこっちが最上級装備程度しかなくて、遺産級装備程度ならば上からぶち抜ける。通常判定以外に別計算が行われるというわりとぶっ壊れスキルすら持っている。

 

 

さらに簡易的な陣地制作スキルも持っているのだ。自分の陣地ではさらにバステと精神操作に補正が付く。故に自分より一段階下のプレイヤーの狩場の片隅でひっそりと罠を張り近づいて来たプレイヤーをざっくり殺すのが一番の金策になるのだが

 

 

「そろそろ狩場変えないと粘着されるな、これ」

 

 

非常に嫌われるのだ。というか通常のモブ狩りが貧弱火力故に苦手であり、パーティーを組んでもメンバーに何ら恩恵がない構成故にお一人様向けの構成だ。

レベリングは人属NPCを精神支配して強制的にパーティーに組み込んで行う必要があるといわれるほどにソロとしての性能は終わっている。

 

PKをしている以上、色々恨みも買うし、異形種狩りの最優先抹殺対象になるような、妖精の特徴ごちゃまぜキメラの外見と所業であり、非常に肩身が狭いのだ。

 

 

「そういえば隣の森林エリアで異形種狩りの奴らが暴れているんだっけ?」

 

 

ふと思い出した情報を口に出しながら、いつの間にか死んで装備やアイテムを残してリスポンの為消えていったであろう名も知らぬプレイヤーからの戦利品を回収する。

直ぐには使えない代わりに取られる心配もないショートカットキーが設定できないボックスに全部入れつつ、自分の装備も替えが利かない物は外して突っ込む。

一度移動の際に、以前PKした(らしいが全く記憶になかった)プレイヤーから復讐として強襲されて以来、被害を最小限にするようにしているのだ。デスペナの経験値は稼げるが、アイテムはドロップを待つとかクエストをこなすなどで面倒なものが多いのだから。

 

「あと1Lv上がると、デスペナのEXPが増えるし、今のうちに偵察に行って、一方的にフレンド登録するのもありか?」

 

 

このゲームのフレンド機能は双方の合意によるコミュニケーションツールと、自分だけのブックマークと2種類ある。後者は同じエリア内にいるかどうかがわかり、同じフィールドにいる場合大まかな位置まで教えてくれる。

PKする側にも、されたから復讐する側にも有用な機能である。勿論粘着された時に逃げる際にも猫の首の鈴と同じ役割をしてくれるのだから、失うものが少ないうちに鈴を付けて来るのもありであろう。

 

 

 

「そうと決まれば善は急げだな」

 

 

 

目的が決まったので素早く陣地を撤去し移動を開始した。

それこそが最初の人生の分岐点になるとはこの時は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




あえて1話を短くしていきます始まってもないですけど
あと、主人公が強そうなのはたぶんこれで終わりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。