えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

11 / 225
第十一話 魔法

 

 

 

「へぇー、お前が弟子を持つとはな。どうした、遂に年か?」

「年は否定しないが、私とお前は数年しか年齢に違いはないだろう。それで、これはどこに置けばいい」

「そこにある、ミルキー等身大抱き枕の隣に置いておいてくれ。後で、最もいい配置場所を考える。あと、絶対に丁寧に置いてくれよ」

 

 師匠と魔法使いらしくローブに身を包んだ男性は、どうやら旧知の仲のようだ。軽い口調で慣れたように対応している。慣れってすごいな、師匠の場合はもう諦めているのかもしれないけど。転移魔方陣の調節などのためと、アニメのEDまでちゃんと最後まで見たいとのことで、約三十分ぐらいここで俺たちは休息することになった。それなりに長い山道だったから、休息の一杯がおいしく感じる。

 

 魔法使いさんは、正式に登録されている『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の人らしい。ただまぁ、この通り変わり者であるため、できた研究テーマなどを時々協会や悪魔側に持ち込むスタンスなのだそうだ。

 

 しかも、研究テーマは魔法少女関連で、魔法少女と同じような術や衣装の開発らしい。そんなんで大丈夫かと思ったが、なんでも彼の魔法に興味津々な取引先がいるため許されているみたい。「研究はアレだけど、求められ先があるから」で理事からも許可が出されているみたいだ。さすがは悪魔。需要と供給があるなら、ビジネス思考に入るところはすごい。

 

 それにしても、魔法使いかー。俺もゲームをやるときは、魔法使いジョブでやったりしたな。憧れはあるけど、この人に教わろうとすると、魔法少女の魔法を覚えさせられそうだからやめておこう。それに今は師匠の弟子だからな、二股かけられるような才能なんて俺にはないだろうし。堅実に一歩ずつやっていこう。

 

 

「小さいな、その年齢でわざわざこっち側に来るとは」

「うおぉっ! あっ、すみません。えーと、悪魔さん。俺に何か御用で?」

「いや、お前がミルキーぐらいの年齢だったからな。気になっただけだ」

 

 なんでもミルキー関連で話を進めるのは、やめてくれませんかね。色々反応に困るので。

 

「そ、そうですか。やっぱり俺ぐらいの年齢って少ないですか?」

「少なくはない。お前よりも低い年齢の子どもが、当たり前のようにいるのがこの世界だ。しかし」

「しかし?」

「そういう子どもは、子どもらしい目をしていない。ミルキーのように、希望と夢に向かっていない。生き急ぎ、強さに焦がれ、簡単に命を投げ出し、未来を思わず淀んだ目をしている。お前の目にはそういった感情が一切ない。だから、珍しい。そういう目の子どもは、裏の世界に入って来ないからな」

 

 ぶわっ、とちょっと冷や汗が流れた。さすがは人外というべきか、人をよく見る悪魔だろうか。目を合わせただけで、ここまで考察されるとは思わなかった。そして、彼の言葉は的確だ。思えば、表から裏にわざわざ入る人間なんて、相当な馬鹿か巻き込まれた人間ぐらいだろう。

 

 普通の人間は、例え裏を知っても入ろうなんて考えない。あるいは、憧れや自己顕示のために自らを危険に晒そうとする者もいるだろうけど、そういうやつは生き急いでいるのかもしれないだろう。

 

 そう思うと、俺って周りから見たら、かなり異常なんじゃないか。表でのほほんと生きていた子どもが裏に入り、生き急ぐわけでもなく裏の世界で未来をしっかり決めて行動している。考えてみれば、確かにそうだろう。俺がそうなった理由は間違いなく、原作知識の所為だ。俺は未来だけでなく、この世界の深い部分を知ってしまっているから。

 

 例えば、この世界の危険性。この世界の強者。この世界の成り立ち。俺の思考は原作の知識を基にして、そこから考えて行動しているのだ。もしこの世界が『ハイスクールD×D』と知らず、転生した知識と神器だけであったら、俺はどのように行動しただろうか。まず、今のように裏には足を踏み入れていない。だって、本当に何もわからないからだ。右も左も、前も後ろすらも。

 

 俺は自身の敵になりそうな存在を知っている。だから、対策を立てられた。俺は自身の能力が、この世界では下であることを知っている。だから、力に溺れなかった。この世界の勢力とその力関係、そして役割を知っている。だから、彼らを必要以上に警戒しないで済んだ。俺はこの世界で、ヒーローとなる存在を知っている。だから、俺は安心して自分がやりたいことに集中できた。俺の行動の起源は、ほぼ原作の知識からなのだ。それを、俺はようやく自覚した。

 

 バクバク、と心臓が鳴る音が耳に聞こえるようだった。俺にとっては必死に考えた当たり前の行動でも、他者から見たら明らかに異常に見えることがある。これは、しっかり刻み込んでおかないとやばい。原作の知識はこれからも参考にするけど、あくまでも知識でしかないのだ。無意識に頼りにして、足を掬われたらと思ったら、ゾッとする。それでも、今の俺が頼れるものもまたこの知識なのだ。……気を付けていこう。

 

 

「俺って、異常ですか?」

「俺は気にしない。むしろ、ミルキーのような目には好感が持てる」

 

 サンキューミルキー。俺、初めてあなたに感謝したよ。心臓に悪いので、この話題は早々に変えておく。適当に話題を振っておこう。

 

「その、悪魔さんは、師匠から四大魔王の一人に憧れて、それで魔法少女趣味に目覚めて、あの魔法使いさんと契約したって聞きました。その魔王様も魔法少女が好きなんですよね。えーと、どんな魔王様なんですか?」

「……嫌悪しないのか」

「えっ、特に嫌悪までは。俺も『魔法少女ミルキー』は面白いので見ていますよ。男だから、周りには言っていないですけど。ストーリーがなかなか面白くて、毎回の引きも上手いので、なんか見てしまうんですよね。ファンというほどではないかもしれないけど、好きなアニメではあります」

 

 無言で手を握られて、ぶんぶんと嬉しそうに振られた。そんなに嬉しかったのか…。

 

「魔王様の名は、セラフォルー・レヴィアタン様だ。外交を担当されていて、四大魔王の紅一点でお美しいお方だが、氷の魔術を使えば大地すらも凍てつかせるほどの実力者。本来俺のような中級悪魔など歯牙にもかけられないはずなのに、魔法少女ファンクラブでは同志として接して下さる、海のように心の広いお方なのだ。俺たちで開発した魔法少女魔法も、一番に取り寄せて下さり、さらに改良点まで丁寧に数百枚の書類にして送ってきて下さる。優しさと熱意を持った、最高の魔王様だ」

「へ、へぇー、すごいですね。……冥界にファンクラブって、書類数百枚って、それでいいのか冥界の外交官」

「さらに少し前に妹様がお生まれになったそうで、冥界中にお祝いとして、同時期に妹が生まれたらしいルシファー様と共同で、妹ファンクラブ結成と絵姿を冥界中に配りまくろうとするぐらい、家族を大切にし、慈愛に溢れておられるのだ」

「えっ、それどうなったんですか」

「最強の女王(クイーン)に阻止された」

 

 さすが、グレイフィアさん! 未来のヒロインたちの黒歴史を未然に防いだ! 銀髪の殲滅女王(ぎんぱつのクイーン・オブ・ディバウア)の名は伊達じゃない!

 

 それにしても、シスコン魔王様の本領発揮しすぎだよ、サーゼクス様。リアスさんとソーナさんたちの苦労って、生まれた時から始まっていたんだな。しかし、かなり重要な情報をもらったと思う。今の話から、まだリアスさん達は冥界でそれほど名は広まっていないのだろう。つまり、原作が始まっていない可能性が高い。あと、少し前って……、まぁ何千年も生きる悪魔にとって、十何年なんてそんな感覚か。

 

 

「そうだ、悪魔さん。俺って裏の世界でやっていけそうですか?」

「……わからないな。俺はお前の目が他の子どものようになって欲しくはないが、お前のような普通の子どもがやっていけるほど、この世界は優しくない。だから、今の師の言葉をしっかりと心に刻み、道を違えないように気をつけろ。何かあれば、手助けぐらいしてやろう」

「そうですか、本当にありがとうございます」

 

 助言と手助け宣言をいただきました。ミルキーで結ぶ、絆の強さがすごいです。そして、心の中で俺はガッツポーズをする。彼が嘘をついている様子はないため、彼には俺が普通の子どもにしか見えないのだ。つまり、俺の神器の気配を感じ取られることがなかった。俺が悪魔に会うまで、心配していた最大の懸念が払拭された。

 

 一般的な中級悪魔に、神器の波動を感じ取られないことが証明されたのだ。それなら、おそらく気配や姿消しも有効だろう。港付近で下っ端には試すことはできたが、やっぱり中級は覚悟がいる。師匠には、俺が神器所有者だとまだ話していない。彼からも、どうやって港の情報を集めたのかは聞かれなかった。でも、たぶん見当ぐらいはつけているだろうと思う。きっと俺が質問されても口を噤むとわかっているから、あえて聞かないのだ。師匠には、本当に頭が上がらないな。

 

「ショウ、長距離転移の座標の話がついた。そろそろ行くぞ」

「あっ、わかりました。お二人とも、どうぞよろしくお願いします」

「あぁ、いいぞ。あいつがあれだけ好意的なのは珍しいしな、お前がお得意様になった時はちょっと割引してやる。ぜひとも、ミルキーファンを増やしたい」

「あ、あははは……」

 

 俺、あんまりここに来ない方がいいのかもしれない。思考をミルキーに変えられる。せっかく自分に好意的な魔法使いと悪魔だけど、思考をミルキーに変えられる。大事なことだから二回言った。

 

 そういえば、ミルキーファンってセラフォルー様以外にも、もう一人原作にいたんだよな。もし、その人と彼らをひき合わせたら、……やめておこう。主に、俺への精神的被害が拡大しそうだ。わざわざ余計なことはしない。

 

 そうして、ミルキー悪魔さんが作ってくれた魔方陣に、俺と師匠はゆっくりと足を踏み入れる。グレモリー家の魔方陣は赤色だったけど、俺たちが中央に向かう魔方陣は青色だ。本来は魔方陣を使う者に一定の魔力がないと飛べないのだが、その辺は悪魔さんがしてくれるらしい。帰って来る時は、座標を知らせてくれたら迎えに来てくれるようだ。これは、確かに便利だな。

 

 原作の兵藤一誠が、初めて転移魔方陣に乗り込んだ時のワクワク感が、今なら俺にもわかる。光り輝く魔方陣から、何かが身体の中を駆け抜けるような感覚がある。これがもしかして、魔力なんだろうか。その魔力らしきものが、俺たちを包み込むように光を発した。思わず、眩しさに目をつぶり、次には一瞬の浮遊感が起こった。

 

 そして、恐る恐る俺が目を向けた先は、先ほどまでいたミルキー空間ではなく、木々に囲まれた静かな森の中であった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「なんでわざわざ外国で買い物なのかって思っていたら、魔法関連の道具を買いに来たんですね」

「あぁ、魔法使いの本拠地は北欧やヨーロッパに多い。私の普段使っている物の在庫が少なくなったのと、弟子にいくつかもたせてやろうと思ってな」

「えっ、俺の分も!?」

「簡単なものだがな。……魔法は、人間が人外の能力を解析し、対抗できるまで作り上げてきた技術だ。分野は多岐にわたり、その道ごとに積み重ねてきた歴史がある。私たちは、その者達の技術の一端を取り入れて、この世界を渡り歩いてきたのだよ」

 

 師匠のありがたい話を聞きながら、同時に納得もしていた。確かに神器を持っていない、普通の人間が人外に勝てる訳がない。それを可能にした一つが、魔法なのか。

 

 原作でも、魔法の力を宿した道具の存在があった。通信を可能にするインカムとか、ソーナ会長のメガネとか。あのメガネ、目からビームとか出したらすごいのに。乳からビームが出るスイッチ姫と、目からビームが出るメガネ姫。『おっぱいドラゴン』への出演、待ったなしだな。

 

「俺に買っていただけるものって、高くないですか? 武器とかを買うんですか?」

「武器なんぞ持っても、お前は使いこなせんだろ。私もそうだが、力のない者に大切なのは、危機に直面した時の対処法ではなく、危機に直面しないようにする対処法を重点的にすることだ。さて、問題だ。これからお前に買い与える予定の、危機に直面しないための魔法の道具は何だと思う?」

 

 相変わらず、意地の悪い師匠です。俺も聞きすぎかもしれないとは思ったが。師匠としては、目的地に着くまでの暇つぶしなのだろう。情報を探るための道具なら、俺が今着ている認識阻害のローブや、俺たちの会話を外に漏らさないように発動させている、師匠の腕輪などがあげられる。敵に会わないようにするための道具と言えば、そうだなー。

 

「逃げ足の確保ですか? 見つかっても、すぐに逃走できる手段を持っていれば危機に直面せずに済む」

「あぁ、悪くない考えだ。一時的にだが、身体能力を向上させる魔法文字を用いた符などがある」

「あとは、やっぱりこちらの気配を悟らせないようにする魔法ですかね」

「使い捨てだが、相手の探知を誤魔化したり、追跡させないようにするものもある。なんだ、案外すぐに思いついたな」

 

 どっちも、俺が最優先で考えてきたことでしたので。しかし、確かに便利だし、あったら消滅の枠を一つあけられるかもしれないけど、真新しい効果のものじゃないな。あったら助かるけど。

 

「あとは、魔力探知などだな」

「えっ、探知って。それって、それがあったらこちらの方から、相手が悪魔かとか堕天使かとかがわかるんですか?」

「堕天使はまた別の探知魔法が必要だが、悪魔や魔の者の探知の性能はそれなりに高いぞ。魔法はもともと魔力から、作り上げられたものだからな。人物に対してや、オーラや魔力の痕跡を辿ったりもできる。それで危機を回避したり、情報を集める取っ掛かりにもなる。これも必需品の一つだな」

 

 これは嬉しい。俺がずっと欲しかったものだ。もしそれがあったら、あのはぐれ悪魔事件だって、もっと早く裏の事件だって判明させられていただろう。気配察知だとか、そんな高等技術なんてない俺には、ぜひとも欲しい魔法技術である。

 

 それにしても、すごいな魔法って。原作ではさらっとしか触れられていなかったし、魔法使いも色々いたけど、それほど原作の根幹に関わっていなかった所為か印象が薄い。原作のグレモリー眷属がパワー重視で、あまりそういった小難しい技術を使っていなかったのもある。後半になったら、女性陣も魔法を使い出したが、自身の足りない部分のサポート的な役割だった。眷属の中でちゃんと魔法を使っていたのは、北欧のヴァルキリーであるロスヴァイセさんだけだったと思う。

 

 思えば原作の登場人物は、一定ラインを余裕で超えている強さの人たちばかりで、しかもバックアップがしっかりされている場面が多かった。要は後方やめんどくさい部分を任せられる後ろ盾の組織がいて、主人公たちは大元を叩けばいいという構図だ。こういった、細々とした魔法技術が必要ない。そんなものに時間を取るぐらいなら、長所を伸ばしたり、短所を補ってインフレしていく方に集中する。これも適材適所か。そういった意味では、組織力って大切だよな。

 

 

「とりあえず、他にも色々簡単なものは買うつもりだが、使い方はしっかり勉強しておけよ。魔法関連を多くの一般人に知られたら、魔法使い関係から処罰を受けるかもしれん。一般人の記憶を弄る魔法もあるが、使わないに越したことはないからな」

「……そうですね、記憶を弄るような力は俺もあんまり使いたくないです」

 

 ポケットに入れている相棒にちょっと触れながら、師匠の言葉にしっかり頷いておく。どこかの世界では、魔法が一般人にばれたら、オコジョにされたり、「その心臓……貰い受ける!」とか言われるところもあるのだ。ただ魔法がここでは最大戦力ではないだけで、十分に危険な技術であることを理解しておかなくてはならない。魔法への好奇心は消せないが、自制は絶対に消さないように気を付けよう。

 

「さて、このあたりが魔法使いたちが、自らの研究費用の足しに露店を開く場所だ。歩き回りながら探すついでに、私が知っているものも教えておこう。しっかりついてこい」

「はい!」

 

 わくわくしている俺の表情に、「顔に出過ぎだ」とまたお叱りの言葉を受けてしまった。が、頑張れ、俺。こうして、俺は魔法使いたちの世界へ踏み込んでいった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。