えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第百十五話 後輩

 

 

 

『俺は裏方だよ。二天龍の相手や、横に立つなんて大げさすぎてらしくない』

 

 俺が『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』である幾瀬鳶雄(いくせとびお)さんについて知っている知識は、それほど多くない。確か彼が登場したのは、冥界の混乱時にアザゼル先生達が冥府のハーデス様を牽制しに行ったときに護衛を引き受けたとか、テロ対策組織『D×D』に加入したとか、本人は登場せず、あくまで裏方として名前が載っていたぐらいだったからだ。そのため、俺が幾瀬鳶雄さんをちゃんと認識したのは、原作で言えば十九巻の教会のクーデターの時ぐらいだろう。

 

 残念ながら原作二十巻までの知識では、それこそ容姿の説明や挿絵すらない状態で、グリゴリに所属する謎の有能過ぎるエージェントという情報しかよくわからなかった。そういえば、ヴァーリ・ルシファーとは腐れ縁で、昔一緒に任務を受けたり、暮らしたりしていたとかって言っていたかもしれない。あの白龍皇相手に、真正面から素直に言うことを聞かせることができたのは、たぶん彼ぐらいだろう。

 

 性格は温厚で控えめ、ユーモアのある冗談も言えるお茶目な一面もある大人の男性。ヴァーリのライバルである兵藤一誠へ向けて手のかかる弟がすまない、と礼を告げた姿はまさに常識人の鑑。よくあのアザゼル先生の部下をやっていて、ヴァーリに毎度毎度勝負を挑まれ続けるような環境で、『ハイスクールD×D』では珍しいぐらい真面目な常識人が出てきたと思ったよ。たぶん十三の神滅具(ロンギヌス)持ちの中でも、生粋の真面目枠だろう。影が薄いとは失礼なので言ってはいけない。

 

『あんたがフィールドの外に事前に用意した脱出用転移魔方陣の術式を『全て』斬らせてもらった。――裏方要員なんでね。仕事はするさ』

『じょ、冗談じゃないわ! 術式は前以てランダムに数万単位で組んだのよ!? それを私が侵入してからの僅かな時間で全部――!? ……ッッ! あんた、本当に人間……っ!?』

 

 そんな幾瀬さんのエピソードで俺が覚えているのが、魔女ヴァルブルガが逃走しようとした時に、それを先んじて防いだ見事な手腕だ。神滅具『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』。神をも断つ黒刃を生み出し、赤色の瞳を持つ黒い犬の姿をした独立具現型の神器である。概念すら斬り割くその禍々しき力は、あのヴァーリ・ルシファーを本気にさせ、『覇龍』を使わせたレベルだって描写されていたと思う。あの、本当に俺と同じ人間だよね……?

 

 原作時の描写から、たぶん俺と同じ年ぐらいの男性であること。同じ人間であること。同じように神器を宿していること。同じ「概念使い」であること。同じアザゼル先生の思い付きに巻き込まれそうな運命であること。同じ常識人仲間であること。俺の知る原作の登場人物の中で、親近感を感じる人物は? と言われれば、その一人に幾瀬さんの名前があがるのは仕方がないと思う。さすがに俺よりも優秀で、超エリートそうな彼と同類なんて烏滸がましいことは思わない。

 

 それでも、せめて友人ぐらいにはなれたら嬉しいなぁー。そんなことをひっそりと考える程度には、俺が思っていた相手。みんなから頼られる落ち着きのある大人の男性。俺にとって幾瀬鳶雄さんは、――そんな目指すべき憧れの人物だったのだ。

 

 

「では一番、佐々木弘太(ささきこうた)歌いまーす! 桃園(ももぞの)モモのテーマソング、『花弁ライダーピンキー』のエンディング曲。『ツンデレは誇りある文化なんだからね!』」

「いっ、一曲目から濃いのぶっ込むなぁ…」

「男同士でカラオケへ行ったら、どれだけ真剣にバカをやるかが大事だしな。たくっ、仕方がないなぁ…。先輩として、一曲目から飛ばす後輩の作った流れを汲んでやるか。じゃあ、『魔法少女ミルキーピュア☆』のオープニング曲『ひみつの魔女っ子☆ミラクルシスターズ』で」

「動じないどころか、便乗するだと…」

 

 一曲目からいきなりかます、佐々木の無駄に上手い美少女アニメ曲の熱唱を聞きながら、俺も真顔でカラオケのリモコンを操作して番号を打ち込んでいく。ミルキーに関しては、ミルキー軍団がオペラ合唱並みの見事なテノールでよく歌っているので、嫌でも耳に入って覚えてしまった。あと、これでもアニメは朝の再放送枠から深夜枠まで含めて網羅済みだ。アニソンだけで数時間は歌える。

 

 佐々木、俺と曲を予約したので、順番的に次は隣に座っている幾瀬くんだ。予約が終わった操作盤を幾瀬くんに渡すと、微妙に引きつった表情をされた。どうやら彼は、まだそこまでテンションを上げ切れていないらしい。まぁ、一曲目から飛ばしてくる佐々木に俺は慣れているけど、普通の中学生男子は初っ端から美少女アニメを熱唱しないよな。

 

 普通なら手頃な男性曲から入り、徐々に本性(バカ)を現していくものだが、ここにいるのは気心が知れた知人ばかりと、幾瀬君のようななんだかんだで付き合ってくれるお人好ししかいない。今回はほぼ同小繋がりで、俺も声をかけられた口だ。佐々木が連れてきた他の男子達も、大爆笑しながら一曲目からノリノリで揶揄っている。もう一回言うけど、男同士のカラオケは真面目に悩まないで、節度を守りながらテンションに任せるのが賢い選択だ。ぶっちゃけ、その場のノリだからな。

 

「幾瀬くん、あんまりこういう系のアニメは見ない?」

「えーと、すみません。俺の家、テレビが一台しかなくて。その、祖母(ばあ)ちゃんと二人暮らしだから、さすがに……」

「あぁー、うん…。それは、仕方がない。おばあちゃんがいる空間で、美少女アニメを見る勇気は俺もないわ」

 

 俺の場合、両親が共働きで姉ちゃんは部活で遅いといった一人の空間があるから、撮り置きしておいたアニメを問題なく見ることができる。それに家族の前なら、多少は開き直れるもんだ。しかし、おばあちゃんは家で過ごしているだろうから、一人でテレビを見る機会はなかなかないだろうし、さすがに祖父母相手だと遠慮する。幾瀬くんはどうやら、健全な男子中学生であるらしい。

 

「あと、俺のことも幾瀬でいいですよ。俺だけ『くん』付けなのもアレですし」

「そうか? それじゃあ、そう呼ばせてもらうよ」

 

 確かに一歳ぐらいしか違いはないしな。イッセーくんや朱乃ちゃんぐらいの年齢だと付けたくなるけど、ラヴィニアや朱雀にはつけていないし、お互いにタメ口だ。さすがに俺の方が先輩だから、二人のように気安く話すのは難しいだろうけど。というか、ラヴィニアは外国人だから気安いのは理解できるが、朱雀の場合は年上扱いされたことがない気がする。もうちょっと俺のこと、持ち上げてくれてもよくね? いつも容赦がないんだが。

 

 それにしても、今さらっと言われたけど、おばあちゃんと二人暮らしなのか…。中学一年生で両親と一緒に暮らしていないって、なんか家庭の事情で複雑な理由があったり、もしくは不幸があったりしたのかもしれない。幾瀬の家庭のことは、下手に踏み込まない方がいいのかな…。そんな俺の考えが顔に出てしまったのか、幾瀬は「あっ」と小さく声を漏らす。咄嗟に胸の前で手を横に振り、俺へ向けて申し訳なさそうに笑みを浮かべた。

 

「……すみません。クラスのみんなには先に言っていたので、うっかり。両親は海外で仕事をしていて、俺が日本で暮らしたいって我儘を言って、祖母(ばあ)ちゃんの家で一緒に暮らしているんですよ。言葉の通じない慣れない海外暮らしより、気ままに友だちと遊べる日本の方が楽しいし、……昔から世話を焼いてくれる幼馴染もいますから」

「そっか…。それなら、よかったよ」

「はい。両親とは、電話でよく話もしていますので」

 

 自分のことを思ってくれている人のことを思い出しているのか、少し気恥ずかしそうに彼は微笑んだ。少なくとも、両親と離れ離れであることに寂しさや悲しさは感じていないのだろう。それだけ、彼の心は満たされているのだと思う。彼には、心配してくれる家族がいて、笑い合える友人達がいて、一緒に育ってきた幼馴染がいる。普通に学校へ行って、頑張って勉強をして、友だちとバカやって、そんな何でもない日常を笑って過ごしているのだ。

 

 この世界で確認されている十三の神滅具の内の一つを宿す、『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』こと幾瀬鳶雄は、――この世界の裏なんて何も知らない一般人だった。入学式で初めて顔を合わせ、それから佐々木を挿んで先輩後輩として交流が出来た時から、彼のことを秘かに探ってわかったことだ。その事実に、俺は複雑な気持ちになる。もやもやと言ってもいい。だってそれはつまり、彼は原作が始まるまでのこの空白期の間に、表の世界から裏の世界へ足を踏み入れるという訳だからだ。

 

 昔考えたことがあるが、表の世界から裏の世界へ自分から足を踏み入れるヤツなんて、感性がそもそもズレたヤツか、よっぽどの自信家か、好奇心旺盛なバカか、巻き込まれた被害者ぐらいなのである。それだけ裏の世界は、弱肉強食で命の価値が軽い。まともな神経をしている人間は、まず関わり合いになりたくないと考える。俺も原作知識や神器や目標を持っていなかったら、絶対に関わろうなんて思わなかっただろう。

 

 幾瀬鳶雄と知り合ってまだ数日しか経っていないけど、普通に良いヤツだって思う。そして、そんな彼が危険のある裏の世界へ足を踏み入れるのなら、きっと彼の中に眠る『力』が原因なのだろう、と察せてしまった。そこまでわかってしまったからこそ、俺はそれ以上踏み込むことができなかった。例え仮初の平和なのだとしても、今の彼の世界を壊していいとは思わなかったから。

 

 神滅具を宿して生まれてしまった以上、遅かれ早かれ『目覚め』は訪れるだろう。いずれ運命の時が来るのだとしても、それまでは彼の望む世界を見守るのが、先輩としての俺の役目なんじゃないかと思ったのだ。ラヴィニアのパートナーとして、彼女と同じように『外れて』しまうかもしれない後輩を助けられるように。原作のことを考えると不安はあるけど、それでも俺に出来ることはしたいと思う。

 

 俺がこの世界へ足を踏み入れたきっかけ。心に決めている目標。世界を救うようなヒーローにはなれなくても、壮大な世界でうっかりこぼれてしまったものをすくい上げられるような人間になりたい。恵さんたちのように、突然非日常に巻き込まれる人を少しでも減らしたい。裏なんて関わらず表の世界で、友達と笑って、馬鹿なことをして、仕事に追われて、家族を作って、そんな平凡な人生を歩んでいってほしい。そんな当たり前を守れる人間になれたらって思ったから。

 

 だから、幾瀬が何者であろうと、どれだけすごい力を持っていようと、今の彼は俺が守るべき人だ。それは、きっと変わらない。

 

「あっ、佐々木のステージがそろそろ終わりそう」

「ヤバい、何の曲を入れればいいんだ…」

「ノリで盛り上がっている状態だから、いっそ『ドラグ・ソボール』の主題歌をみんなで熱唱する方向で、全員のテンションを逸らそう。佐々木(あいつ)の今までのパターンだと、あと五順ぐらいは美少女アニメ路線で突っ切ってくる。無難にアニソン路線へ切り替えさせるんだ。今後もあいつの友達をやるなら、テンション操作は覚えておくといい」

「佐々木の友達をやっていく自信がなくなってきたんですけど…」

「……悪いやつじゃないから、よろしく頼む」

 

 何で俺、佐々木の友人関係のフォローをしているんだろう。そのことで微妙な顔になった俺に、幾瀬は小さく噴き出しながら、笑って頷いてくれた。申し訳ないぐらい、良いヤツである。佐々木や他のヤツが暴走した時は、さりげなく手助けしようと誓った。

 

 それから、最近のものから一昔前のアニソンまでみんなで歌いきり、話題のドラマの主題歌から、夏の甲子園メドレーまでジャンル問わず歌い続けた。おばあちゃんの影響か、演歌熱唱という技を披露した幾瀬に佐々木が超受けていたな。俺は部屋に取り付けられているメニュー表から、パーティーセットを奢ってやると、後輩達からめっちゃ慕われた。お前らチョロいな。

 

 

「そうだ、今度遊ぶときは、俺の家で『大乱闘修羅(しゅら)っぷりブラザーズ』をやろうぜ! ……カラオケやゲーセンばかりだと、金欠でやばいし」

「そりゃあ、毎日遊びまくっていたからな」

「毎日って…。遊ぶのもいいが、勉強や部活とか青春もしろよ後輩共」

 

 それからフリータイムの時間いっぱいまで歌いきった俺達は、それぞれの門限までに家へ帰るための帰路へついていた。同じ中学だから時々顔を合わせることはあっても、やっぱり学年の違いは大きい。佐々木ぐらいの顔の広さと行動力がないと、普通は疎遠になっても仕方がないだろう。現に、俺は中学へ行ってから同級生とばっかりで、後輩とこうやって遊ぶ機会はなくなっていた。そのあたり、俺はこの後輩に感謝している。ちょっとテンションは高いけど。

 

「倉本先輩は、またしばらく忙しい感じですか?」

「悪いな。こっちも色々やらないといけないことがあるんだよ。また機会があったら、誘ってくれ」

「約束っすよ。あっ、幾瀬! お前の家ってまだ行ったことないけど、一緒に遊んだりはできるのか?」

「うちは、祖母(ばあ)ちゃんに事前に言っておけばかな…。あと、紗枝(さえ)が来るかもしれないから、そのあたりの連絡もいるかも」

「くッ……! 家同士の付き合いもある仲の良い美少女の幼馴染がいるとか、お前はどこのラノベの主人公だよォッ!?」

「なんでいきなりキレられるんだっ!?」

 

 確かにラノベではよくあるけど、佐々木の言う通り可愛い幼馴染と家族ぐるみで仲がいいとか、現実問題起こりにくいよな。幾瀬はそのあたりの機微を、もう少し学んだ方がいい。ここ、そのラノベと同じ世界なのかもしれないけど。俺もラヴィニアという幼馴染がいるが、絶対に周りに騒がれるとわかっているので、彼女と遊ぶ時は仙術もどき全開で知り合いがいないかをちゃんと確認している。俺の平穏は、こういう地味な努力の積み重ねなのであった。

 

「俺だって、俺だって、いつか可愛い彼女を作ってやるんだからなぁっー!」

「さ、紗枝とはそんな関係じゃないってばッ!?」

 

 困った顔で友人を宥める幾瀬を横目で見ながら、みんなの意識が外れたのを感じたため、いつものように俺は神器を通して彼の『中』を探ってみた。よくわからないが、幾瀬が傍にいると相棒がちょっと不機嫌というか、ジトーとした思念が時々感じられるのだ。別に嫌っている訳でも、不審がっている訳でもないみたいだけど、幾瀬に対しては相棒は珍しく思念が豊かな気がする。神滅具だからか? とも思ったけど、ラヴィニアやイッセーくんにはそこまで反応がなかったな。というか俺、十三しかいない神滅具保持者の内、三名と普通に仲が良いって、俺の運命はどうなっているんだろう…。

 

 そんな遠い目になりそうな思考を頭を振って散らし、周りの意識がこちらへ向いていない内に集中を深めていく。一年半前にイッセーくんと初めて出会った時は、俺の練度不足で下手に神器を刺激したくなくて深く探ることが出来なかったけど、これでも三年かけて感知や制御の訓練をやってきたのだ。表面的であれば、相手のオーラの状態を感知することは難しくない。

 

 そこからわかることとして、幾瀬の中には彼とは違う別のオーラがあることを俺は感じ取れた。暗い、昏い――漆黒の波動を放つ『何か』。ラヴィニアほどしっかりと表面に現れていないことから、おそらく目覚めてはいないのだろう。ラスボスクラスや俺ぐらい感知の訓練をしていなければ、たぶん感じ取れないだろうほど微弱なオーラ。だけど、それにしてはその気配は、すでに一つの完成されたオーラを纏っているような気がするのだ。

 

 クリスマスの時にツッコミに駆けまわっていたイッセーくんのオーラを感じた時のような休眠状態とは、少し違うような気がする。俺の目の前にいる幾瀬鳶雄が神器持ちで、それも一般的な神器と一線を画す力が眠っているのは間違いないだろう。ラヴィニアという神滅具持ちと最も一緒にいて、その圧倒的なオーラの流動を俺は誰よりも感じてきたのだから。だからこそ、幾瀬の中にある『何か』のオーラが、まるで彼の血と同じように身体へ当たり前のように流れている気がして、……それがあまりにも『自然過ぎて』違和感を感じてしまった。

 

 これではまるで、彼の神器はすでに目覚めているかのようだ。しかし、現実に幾瀬鳶雄は神器のことなんて全く関知しておらず、その力も表面に現れることはない。どこにでもいる普通の一般人と同じ。だけど、感知能力を持つ俺だからこそ、そのオーラの在り方の不自然さがわかってしまった。目覚めた神器を封印する技術は、アザゼル先生でさえ難しいと語っていたと思う。神器が魂とくっ付いているため、封印を施すことは魂も一緒に影響を受ける。だから、目覚めた力を封印することは、命懸けになるとも。リーベくんの神器を封印できないのも、それが理由なのだから。

 

 彼は本当に、ただの一般人なのか? 幾瀬は一般人なのだとしても、彼の周りの人間は? 彼の両親は海外で働いていると言っていたが、本当に裏なんて何も知らない表の人間なのだろうか。彼の神器を探れば探るほど、疑問がどんどん溢れてくる。

 

 

《――――――》

「……ん」

 

 相棒からの思念を感じ、俺は潜っていた意識を浮上させる。相棒からの忠告だ。今もそうだ。幾瀬の中にあるものを探る際、気をつけないと俺の意識さえも彼の中に眠る『何か』に引っ張られる時がある。身体の奥底から、ざわざわとした感情が起こる。これまでも深い闇を纏う『何か』に気づかれる前に、すみやかに撤退するを繰り返していた。正直、こんな神器を内に秘めることになった幾瀬に、多少同情の気持ちも沸いてしまう。たぶん、これはまともな神器じゃない。

 

 神滅具『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』には、とある意思が二つ宿っている。先生からの神器授業で、教えられたことだ。一つは、ギリシャ神話に登場する楽園――『アルカディア』を支配していたと言われるリュカオンという名の王の意思。狼男の起源にもなったという、邪悪なる王。それに日本のとある神話に出てくる神殺しの剣をミックスされて出来たのが、『擬いものの神』を冠するこの神器らしい。

 

 神に悪意を向けたことで神に呪われた王と、神すらも斬り割く力を持つ神性を宿す剣。相反する存在同士が融合したことで、元々の特性すら歪み、それを宿す主さえも牙を向けかねない存在へとなったもの。原作での幾瀬鳶雄を知っているが、きっと『彼』はその闇を乗り越えることが出来たんだと思う。だけど、目の前で理不尽な怒りを受けて、俺の方へ助けを求めるように目で訴えてくる『後輩』と同一に見ることは難しそうだ。

 

『神器の修行だって、一緒に頑張ろう。ラヴィニアが氷姫の奥へ潜るのが怖いのなら、俺が傍にいるよ。ラヴィニアが呑まれそうになったら、俺と相棒の力で絶対に助けるから』

 

「……乗りかかった船、ってやつかな」

 

 出会いは偶然だった。そして、俺には偶然にもなんとかできる『力』があった。ただそれだけのことだけど…。こうやって知り合って、一緒に遊ぶ友人同士になったのなら、困った時に手を貸すのは当然だろう。友達が傷つきそうになったら、傍にいて支えてやることぐらいなら俺にだってできる。どうせ俺の性格的に、放っておくことなんてできそうにないのだ。なら、さっさと腹を括るに限る。

 

 

「そんなに出会いが欲しいなら、一年先輩の俺がとっておきの情報を教えてやろう」

「なん、だと……」

「とっておきですか?」

「おう、中学のイベントで女子と関わるものはいくつかある。そこで効率よく好感度を稼ぎ、頼りになると印象付けられる役割が何個かあるんだ。内申点稼ぎによく学校の手伝いをしていたからな。それに、女子の情報網は意外と広い。こういうちょっとした積み重ねが、ふと彼女たちの目に留まった時、周りへの印象を勝手に良い方向へ変えてくれるもんさ。部活や勉強で結果を残すとかは難しくても、これなら少ない労力で結果を出せる」

「なるほど…」

 

 咄嗟に思いついた内容をそれらしく言って、幾瀬へ向かっていた面々の興味をこちらに移させた。まだまだ素直な後輩達である。ちらっと見ると、ホッと息を吐いて安堵の表情を浮かべる幾瀬と目が合い、ぺこぺこと頭を下げられた。俺も気にするな、と手をひらひらと振っておく。俺も一般人なら、こういう話を一緒に盛り上がれたんだろうけど、残念ながら裏の世界で生きることを決めている俺に、表の恋人は作れない。相手の方を不幸にしてしまうだろうから。

 

 というか、恋愛に現を抜かせる状況じゃない。死なないためにも修行をして実力を高めないといけないし、姫島のことや神器症のこともある。本当にいつになったら、落ち着くことが出来るんだろうなぁー、俺。年数が経つにつれ、落ち着くどころかどんどん立場が複雑になってきている気がするんだけど。……気にしたら負けだな、うん。

 

「……そうだ。いつか幾瀬の家に遊びに行く時、俺も一緒に行ってもいいか?」

「倉本先輩も? はい、もちろんです。それに色々助けてもらいましたから」

「そんなこと気にするな。迷惑になったら嫌だから、無理しない範囲でな」

「わかりました」

 

 相変わらず、律儀で真面目な後輩だ。もうちょっと肩の力を抜いても良い気がするけど、そこはこれからの付き合い次第だろう。それに幾瀬の神器に関して、俺の中で少し疑問がある。今後も俺が幾瀬との関係を続けていくのなら、決して無碍にはできないだろういくつかの疑問。そんな俺が接触できそうな彼の血縁者は、話に出てきたおばあちゃんのみだ。その人もただの一般人なら仕方がないけど、もし裏について少しでも知っているのなら、情報を少しでももらいたい。彼の神器が俺の予想通り、『封印状態』だというのなら、特に。

 

「ちなみに幾瀬のおばあちゃんって、どんな感じの人?」

「えっと、厳しいけど優しいかな。あと、動物好き? 幼馴染の家に金次郎っていうゴールデンレトリーバーが時々預けられることがあるんだけど、よく頭を撫でていたから」

「へぇー。じゃあ、今度遊びに行くとき、友だちが飼っているシーサーに激似の犬の写真をお土産に持って来るよ」

「何ですか、それ。俺も見たい」

 

 幾瀬も結構好奇心旺盛だよね。そして、実年齢年長組のワンコが、我らがマスコットの一角になってきている件。見た目は可愛いし、それなりに空気は読めるからな。冬の間は、魔法使いであるラヴィニアの使い魔として、一緒に仕事を請け負っていたらしい。『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の魔女さんたちにも、ちやほやされたようだ。一応節度は守っていたようだが、ハスハスしていた。

 

 ラヴィニアを姫島家に連れて行く時、たぶんワンコも一緒にくるだろう。俺がいるからハッスルは控えるだろうけど、ちゃんと注意を言っておかないといけない。あいつの命のためにも。朱乃ちゃんや朱璃さんに何かをする前に、教官と朱雀に物理的に燃やされる未来しか見えないからな。あと、向こうに行ったら小鬼とリンの遊び相手もすることになると思う。無邪気なドラゴンに無茶ぶりされて、追いかけられる涙目のワンコを幻視したが、心の中で応援だけしておいた。大丈夫、相手はワンコが大好きな可愛い女の子だ。いっぱい遊んでくれることだろう。

 

 

「それじゃあ、今日はありがとうございました」

「あぁ、こっちも誘ってくれてありがとうな」

「先輩、さよならー」

 

 それからも他愛のない話で盛り上がりながら、俺達は笑って別れを告げる。俺はもう裏の世界の人間だけど、こんな風に表の世界で一人の人間として過ごす時間も好きだ。友達同士でバカやって、カラオケやゲームセンターで騒いで、何をやっているんだってみんなで笑い合う……そんな平凡な日々。俺はそんな日々の大切さを、その掛け替えのない価値を知っている。だからこそ、俺に出来ることを頑張りたいと思ったんだ。

 

「やりたいことが多すぎるっていうのも、考えものかもしれないけどな…」

 

 ひっそりと自嘲気味な笑みが浮かんだけど、それだけ俺自身が充実していることも間違いない。すごく大変だし、苦労だってするし、危険もあるかもしれないけど、俺には出来ることがある。やりたいと思うことを、やれる『力』がある。それは、きっと幸運なのだろう。同時に不運だと言うヒトもいるだろうけど。明日からまたしばらくは、修行や裏関係のあれやこれやで盛り沢山だ。友達とのバカ騒ぎは、当分お休みだな。

 

 幾瀬の家に行く時は、出来る限り予定が空けられるようにしないといけないから、さっさとやることはやっておくに限る。今日の夜は溜めていたアニメを見ながら、協会に任されている内職をどんどん終わらせておこう。ラヴィニアも魂関連の問題を魔法使い視点で色々調べてくれているし、朱雀からの報告もそろそろもらえるだろう。俺の我儘に付き合ってくれている二人のためにも、こっちも頑張っていかないとな。

 

「とりあえず、幾瀬の神器の謎を探れるだけ探ってみるか。もしかしたら、何かわかるかもしれないし。あと、……アザゼル先生にもさりげなく聞いてみるかな」

 

 黒き狗神。神滅具『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』の所有者にして、『神の子を見張る者(グリゴリ)』に所属するエージェント。先生は本当に、幾瀬鳶雄に関して何も知らないのだろうか。時期的に先生も知らない可能性は高いだろうけど、将来的に関わるような何かしらの『縁』みたいなものはあるはずなのだ。ただもし幾瀬のことを全く知らなくて、グリゴリから危険人物として処断されたらまずいので、しっかり様子は見ないといけないけど。こっちは慎重にやらないといけないな。

 

 

 この時の俺は、偶然手に入れた『幾瀬鳶雄』という手掛かりに一喜一憂しているだけだった。しかし、彼の家に足を踏み入れたと同時に、まるで必然だったかのように足りなかったピースのかけらを見つけ、彼に関わる大きな流れに自ら足を踏み入れていくことになる。それが、『黒刃の狗神』が持つとされる、波長の合う神器を呼び寄せるという能力によるものかはわからない。

 

 それでも、いくつもの偶然と必然が重なり合ったことで、俺と幾瀬鳶雄の縁もまた重なっていったのは間違いのない事だった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 偶然とは、何の因果関係もなく、予期しないことが突然起こることをいう。しかしこの日、倉本奏太にとってもう一人の後輩に当たる少年の身に起きた出会いは、この世界の流れ的に言えば必然だったのかもしれなかった。

 

「はぁー。イリナも桐生も、もうちょっと落ち着いてくれてもいいのになぁ……」

 

 この春から小学二年生へと進級した兵藤一誠少年は、年齢に合わないほどの苦労が滲んだ深いため息を吐いていた。この年で頭痛を起こすに至った過程は、正直同情を禁じ得ないほどのものである。正義感溢れる天真爛漫な幼馴染である紫藤イリナのストッパー役を担っていたはずが、いつの間にかやりすぎる女性陣達にツッコミを入れ続ける日々。唯一の癒しが、以前悪の組織に所属していた時に助けたおじさんが、何も言わず優しく一誠少年の頭を撫でてくれる時。どうしてこうなった。

 

 大らかというか、超常現象に対して「そういうこともあるかもねー」というノリで流してしまえるスルー力を手に入れた駒王町の住民たちは、ちょっとやそっとじゃ動揺しなくなってきている。ひったくり犯が現れ、それに魔法少女達が群がる光景を目にしても、いつものこととしか思わなくなってきているあたり、色々ヤバいのかもしれない。現在では、駒王町の犯罪率は低下の一途を辿っているらしい。

 

「俺、女の子に囲まれているはずなのに…」

 

 今日の休み時間の時、新しく同じクラスになった男子に揶揄われたのだ、いつも女の子に囲まれていると。確かに現在の一誠の周りには、可愛らしい女性陣ばかりだろう。栗色の髪を二つ括りにした紫藤イリナは、真っ直ぐな気質から男女に慕われており、腕っぷしの強さも有名だ。安倍清芽先輩は、生粋のお嬢様だけど、何だかんだで面倒見もいいみんなのお姉さんである。桐生藍華はそのコミュニケーション能力とスカウター技能を駆使し、影の軍師として君臨している。お前はいったいどこを目指しているんだ、と彼女に関しては色々な意味でツッコんでいた。

 

 他にも由良翼紗、仁村留流子、加茂忠美、クリスティと様々な少女達と交流を持っている。なるほど、そう言われれば確かに女の子に囲まれている。だけど、同時に首を傾げたくもなってくる。これは果たして、じいちゃんが幼い一誠少年に告げていた桃源郷のような状態なのだろうか? そんな揶揄ってきた相手へ「じゃあ、俺のポジションと代ろうか?」と言った途端に、全速力で逃げられた状況なのに。

 

 別に一誠が彼女達と一緒にいるのは、正直に言えば成り行きであるが、最終的には自分自身の意思だろう。ツッコミ続ける日々に遠い目になりながらも、彼女達と一緒にいることは苦じゃない。紫藤イリナという男女共に人気があり、突拍子のない行動をする幼馴染のフォローをしていたら、エロい事を考える暇なんてなく、なんだかいつの間にかこのポジションについていた。もしイリナがいなかったら、もっと違う小学校生活を送っていただろう。少なくとも、ここまで毎日が刺激で溢れている日々はそうそうないと思う。

 

 

「俺は、周りからは羨ましがられる立場なんだよな?」

 

 思わずそんな疑問を抱いてしまったのは、祖父の代から脈々と続く一誠少年の中に眠る「エロ根性」があったからだろう。しかし、この時の一誠少年はすでに女の子は可愛いだけの存在じゃなく、ヤバい部分もあることを知ってしまっていた。小学二年生となり、しっかりと周りが見えるようになってきた一誠は、だからこそ悩んでしまったのだ。

 

 ここで「俺は可愛い女の子に囲まれている!」と純粋に喜べる精神性であればハッピーだっただろうが、現実は優しくない。少なくとも、今の一誠に彼女達へそういう視線を向けるのは無理だ。可愛いのは認めるが、ぶっちゃけそれを越えるぐらいのヤバい部分を知り過ぎている。掛け替えのない友人達なのは間違いないが、それとこれとは話が違うのである。

 

 兵藤一誠は、綺麗なお姉さんが好きだ。それは自信を持って言える。父親からも、物心がつく前から綺麗なお姉さんに視線を向けていた、とよく言われていたからだ。しかし、現状の一誠の状態は、少女達のストッパーであり、保護者的なポジションであった。おそらく彼女たちの方も、一誠に対して友人や同士という感情しかないだろう。

 

 そのため、彼女達の行動力に毎回ツッコミを入れ、魔法少女達のイベントに毎回ツッコミを入れ、時には泣き崩れるイリナパパをヨイショし続け、そんな日々を送る彼には圧倒的に癒しが足りなかったのだ。現状に不満も文句もないが、それでもふとした時に何も難しいことを考えずに幸せに浸りたいと思う時間が欲しいと思ってしまった。癒しであるはずの女の子と一緒にいるのに、随分贅沢な悩みなのかもしれない。

 

 それでも、そんなことを悩んでしまうほどに、今の兵藤一誠には癒しが足りなかった。

 

 

 ――チリンチリン、チリンチリン!

 

「……何の音だ?」

 

 ふと、ぼんやりと歩いていた兵藤一誠の耳に、運命のベルの音が届いた。風鈴にしては季節外れであり、首を捻って周りを見渡すと、小さな公園にベルを片手に佇む男性が目に入る。ちょうど下校時刻と重なる時間帯であったため、他にも何人かの子ども達がその音に耳を傾けていた。柔和そうな笑みを浮かべたおじさんは、大きめの木の箱を準備している。

 

「紙芝居だよー。楽しい楽しい紙芝居だ。おっぱいプリンもあるよー」

 

 そして、爽やかな笑みを浮かべながら、さらっととんでもないことを言っていた。

 

「……おっぱい?」

 

 しかし、この時の兵藤一誠はその男性が告げたとある単語に心が揺れた。大好きなおじいちゃんが、昔から素晴らしいものだと語っていたもの。そして、ツッコミに疲れた一誠少年に「なんかごめん…」と呟きながら、優しく遊んでくれるお兄ちゃんに昔言われ、心から叫んだことがあるもの。気づけば少年の足は、ふらふらと怪しさ満点の男性の下へと進んでいた。他の子ども達も、何だ何だと興味を持ったのか一緒に集まっている。

 

「まぁ、ちょっとだけならいいか」

 

 紙芝居なんて、久しぶりだ。そんな懐かしさも相まって、静かに腰を下ろした。魔法少女達によって、めっきり犯罪が減った駒王町で、悪さをするような一般人はほとんどいない。だから一誠も子ども達も、完全に安心し、油断しきっていた。もらったプリンに、なんだか突起みたいなものがついていて、ずっと忘れ去っていたような『何か』を呼び覚まそうとするような気持ちを抱きながら、難しい顔で紙芝居を眺めた。

 

「昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおったそうなぁ」

 

 よくある出だしから始まった話だが、おじさんの持つ高い画力と演技力に僅かな時間で子ども達が引き込まれていく。実際、かなりリアルなタッチで描かれた紙芝居は手作りでありながら、まるで本物のように目に映っている。その演技力に素で引き込まれていた子ども達だったが、当たり前のように次に出てきた紙芝居の絵に目が引ん剝いた。

 

「おっぱいです」

 

 画用紙いっぱいに描かれた無駄だと思えるほどのリアルタッチな乳絵。見事な画力に感嘆すると同時に、その底知れぬ欲望に畏れを抱いた。言葉を失った子ども達をよそに、紙芝居はどんどん進んでいく。おっぱいによって幸せになっていくおじいさんとおばあさんのお話に、一誠は呆然と結局最後まで見てしまった。あんまりな出来事に理解が追いついていない子ども達に、おじさんは寂し気に息を吐いた。

 

「どうやら、まだこの領域を理解できていないようだね。おっぱいの素晴らしさを」

「んな理不尽な」

 

 これまでの人生で磨かれたツッコミ根性のおかげで、何とかそれだけ言えた。しかし、このおじさんの紙芝居は、色々な意味で一誠の心の中に強烈な印象を植え付けたのは事実だ。ドキドキとする鼓動も感じている。同時に、この人後でミルキーにされるかもな、とひっそり思ったが。情緒教育は無駄につけられた一誠少年だった。

 

「でも、おっぱいを持っている女の子の中には、そういう目で見れない相手だっていて…」

「ふっ、まだまだ青いな坊や。おっぱいはな、そこにあるだけで――尊いものなのだ」

「えっ?」

 

 そこにあるだけでいい。それがあるだけで尊い。それだけでいいじゃないか。おじさんの語る深い話に、思わず聞き入ってしまう。そんな突拍子もない理屈だが、おっぱいという単語に内心惹かれていた一誠少年の中に、ストンと綺麗に堕ちていた。ただ安穏とした癒しを求めていた少年にとって、何も考えずに大好きなものを崇め、尊ぶだけでもいいという感情を知ってしまったのだ。

 

 それは、偶像崇拝にも近い気持ち。大好きなアイドルを見つけ、それを眺めて応援することで、疲れを覚える自身の活力へと変えていく儀式のような…。小学二年生の子どもが感じるには、あまりにも悲しい転換期。これはもっと語れる、と判断したおじさんはさらに語り掛けようとして――

 

「みにょ☆」

 

 そのままズルズルと連行されるおじさんを、一誠は呆然と見続けるしかなかった。原作での別れは初夏だったが、警備体制万全の現在の駒王町に隙は無かった。後日、魔法少女の衣装を着ながらも紙芝居を読もうとしては連行されていくおじさんを再び目撃。更に後日、事態を知ったボスらしき人物の手により「そんなに画力があって、同士を増やしたいのならエロ漫画でも書けよ…」と頭を抱えながら札束アタックで環境を用意して、見事に漫画家としてデビューさせる。素晴らしい画力を持つ、謎のおっぱい伝道師として業界を震撼させた。世間さえ味方に出来れば、変態には変態の輝くステージがちゃんとあるのだ。

 

 イッセーの覚醒フラグではあったけど、正直年端もいかない子どもに見せるのはやっぱりどうかと…。主人公の根源でもある大事なエピソードなんだけど、現在の駒王町の状態を放置してしまっていた手前、魔法少女達におじさんの行為を見逃せとも言えない。実際、おっさんの方が悪い。という葛藤の末に、ボスは遠い目をしながら覚悟を決めたのであった。

 

 

「イッセーくん。どうかしたの?」

「いや、今日も素晴らしい一日だと思って」

 

 そして、狭かった一誠少年の世界は、あの日を境に別の意味で広がった。世界は素晴らしいおっぱいに溢れている。道を歩くお姉さんやキリッとしたキャリアウーマン、少し年上の女子学生。ちょっと目を向けるだけで、自分の好きなものを目で見ることが出来る幸せ。この当たり前だと思っていた光景が、本当は尊いものだと彼は知ったのだ。イリナが教会でよくやっているように真摯に手を合わせ、有難そうに道行くおっぱい達へ感謝を告げた。

 

「うん、今日も俺は頑張れそうだ」

「えっと、イッセーくんが元気ならよかったよ?」

「田舎のじいちゃんにも、今度教えてあげるんだ。俺もじいちゃんのような幸せを見つけたって」

 

 後日、「えっ、何でそっち方面に抉らせちゃったの?」と色々な意味で涙を目に浮かべながら、孫の頭を優しく撫でるイッセーの祖父だった。

 

 

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