えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか? 作:のんのんびり
『それにしても、メフィストにお前のことを紹介されてから、もうすぐ三年か…。普段ならあっという間の期間だったはずなのに、ずいぶん長かったように感じるぜ』
「俺としても、裏の世界に入ってからは目が回るような大変さでしたからね」
『お前の場合、あり得ないようなトラブルを引き寄せてくるからな。しかも、それに逃げずに真正面から立ち向かって行く。奏太の大変さの一端は、間違いなく自業自得もあるだろうがな』
『
神器の研究を精力的に行うのはいつも通りだけど、それ以外に組織内での交流に力を入れているらしい。去年の麻雀大会のような催しを考えたり、バラキエルさんと教導訓練を行ったり、先生自らで動くことが多くなったと聞いた。そのおかげか、今までトップのことを詳しく知らなかった下っ端達にも、先生のぶっ飛び具合が少しずつ認知されているようだ。そしてそれをしっかり締めてくれるシェムハザさんの株も同時に上がる。すごい関係だ。
堕天使の組織には、魔王や聖書の神といった象徴のような存在がそもそもいない。いるとすれば、それこそが総督であるアザゼル先生本人なのだ。だからその堕天使のトップが動けば、組織全体が当然注視する。先生が今まで大きく行動に移すことが出来なかった理由の一つであり、行動したということは彼の中で目指すべき指針が整ったということなのだろう。行動力に関しては、元々とんでもないアザゼル先生だ。原作でネックだった組織間の連携を、この時期から考えるようになった経緯はわからないけど、たぶん良い事ではあると思っている。俺なんかが、あんまり偉そうなことは言えないけど。
「……姫島家に関しては、先生がその原因の一端のくせに」
『くくくっ、わりぃな。だが、お前には感謝しているんだぜ。閉じた狭い世界に、文字通り新しい風を運んでくれた。姫島朱乃の変化、姫島朱雀の協力。姫島本家との関係悪化を防ぐために、今まで下手に動くことが出来なかった現状、中間に立って動いてくれる奏太の存在にはかなり助けられたさ』
そう言って、通信画面に映る先生は穏やかな表情で笑っていた。原作の悲劇を何とかしたい、と我武者羅にやってきただけだったけど、こうやって面と向かって感謝されるとさすがに気恥ずかしい。姫島家に関しては、バラキエルさん経由で色々聞いているみたいで、感謝と同時に俺が仕掛けている罠にも遠い目をされた。「俺、もうあいつの家へ酒を飲みに行けねぇ……」ってボソッと言われたけど、俺はいつでも大歓迎ですよ。罠のデータ収集になるので。
そういえばバラキエルさんから、長年経営や研究続きで身体が鈍っているからと、よくアザゼル先生と模擬戦をすることが増えた、と冬あたりに聞いたような気がした。組織のトップである先生が強いのは知っているけど、わざわざ鍛え直しているという話に首を傾げたのを覚えている。どこかの勢力と戦う訳ではないようだが、本質が研究者で趣味に生きる先生が真面目に訓練をするって何があったんだ、と疑問を持って当然だろう。
ただ、シェムハザさんとバラキエルさんはその理由がわかっているみたいで、小さく笑みを浮かべながら「らしくないと思うだろうが、あいつなりにそろそろ向き合わなければならないと思ったのだろう」と答えてくれた。たぶん、堕天使の組織の内部事情なのだろう。先生が何を思って戦闘訓練を行っているのかはわからないけど、上手くいったらいいと思う。
「あぁー、そうだ。先生、実はちょっと気になったことがあるんですけど、いいですか?」
『なんだ、藪から棒に』
「そんなに大したことじゃないんですけど…」
そんな風に口を開きながら、俺はアザゼル先生に聞こうと考えていた内容を口にしようとして、どう切り出せばいいか悩んでいた。先生とこうして直接通信ができる機会は、それほど多くない。俺が聞きたいのは、『
しかし、ここでいきなり幾瀬のことを言うのはまずいだろう。先生が彼のことを知らなかった場合、神滅具の保有者として保護や監視、……または危険人物として処理される可能性がない訳じゃない。そんなの俺が絶対に止めるけど、世界全体のことを考えれば神滅具持ちを野放しにできない組織の事情もわからなくはないのだ。俺も本来なら、こっち側の人間だし。幾瀬をこのまま表の世界で過ごさせてあげたい、と願う俺の気持ちはただの我儘でしかないのだから。
「先生って、今現在確認されている
『本当に突然だな。……お前がそういうことを気にするとは』
「いや、ほら。先生って神器の研究に熱心でしょう? 神器所有者の保護にも積極的だし。だから、ラヴィニアと同じ神滅具の所有者について知っているのか、ちょっと気になっちゃったんですよ」
ジッとこちらを見据えてくる先生に向けて、へらりと俺も笑って誤魔化してみる。組織の機密だと言うのなら諦めるしかないが、俺はラヴィニアという神滅具持ちのパートナーなのだ。他の所有者のことが気になること事態は、そこまでおかしなことではないと思う。アザゼル先生は、しばらく無言で考えていたが、小さく笑って頷いてくれた。その笑みは、少し含んだようなものが見えた気がしたけど。
『俺達はどの時代でも、神滅具の所在を優先的に捜索し続けている。それは自分達の陣営の強化や研究のためでもあり、同時に世界への調和を乱さないための処置でもあった。……神滅具は、たった一つで事象を歪ませる。万が一でも暴走させれば、街の一つや二つ、それこそ何万何十万人規模の犠牲を出しかねない代物だからだ』
「……はい」
『故に、所在を突き止め、尚且つその所有者に暴走の恐れがないかを必ず確かめる。その条件さえ問題なければ、俺達も下手に手出しはしないさ。余計なものに手を出して、こっちもうっかりで損害なんて被りたくないからな。可能なら勧誘はするし、保護もする。こちらに対して敵対の意思がなく、神器の制御もできるなら監視で抑える。しかし、危険な思想を持つ者や、危険な能力を持った神器、……制御できなければ確実に災厄を起こす神器を持って生まれた場合は、処理を行うこともある』
制御できなければ、確実に災厄を起こす神器。神滅具は特に、その傾向が強い。あと、魔獣や魔物が封印されている神器なんかにも多い傾向だ。確かアザゼル先生が兵藤一誠を処理することを選んだのも、何も才能がない人間の彼では赤龍帝の力を使いこなすことが出来ず、暴走させる危険性が高かったからだ。実際、彼が悪魔に転生しなければ、赤龍帝の力は使いこなせなかったと言われていた。
幾瀬はそのあたりどうだろう? 彼は才能がある人間なのだろうか。俺の個人的な見解としては、人間の身であそこまで昇り詰めることができた彼を、とても才能がないとは言えないと思う。だけど、才能があるならラヴィニアのようにすでに目覚めていてもおかしくない。ヴァレリーという後天的な発現でありながら、とんでもない才能持ちもいるから一概に言えないけど。そもそもリュカオンという邪悪なる王が宿った神器が、危険じゃないとは言えないか。
『現在、そんな俺達が把握している神滅具の所在は、四つだけだな』
「四つ?」
『少ないと思っただろう。その感覚は正しい。全くもって嫌になるぜ。こちとら、勢力を上げて捜索しているというのに、所在すら把握しきれていないんだからよ。お前の神器含め、今世はイレギュラーなことばかりが起こっている』
「…………」
アザゼル先生の肩を竦める姿を見つめながら、俺は頭の中で考えをまとめていく。まさか、この時代ですでに四つ『も』把握できているとは思っていなかった。俺は原作知識のおかげで、神滅具の所有者を把握できてしまっている。それこそ大まかな所在さえも。俺が持つ知識でわからなかったのは、『
さて、先ほど判明した先生が言っていた四つの心当たり。それだけで、ある程度絞り込めてしまった。まず一人目は、ラヴィニア・レーニ。二人目は、教会のエクソシストであるデュリオ・ジェズアルド。この二人は神滅具の所有者として裏の世界でそれなりに有名だから、名前があがるのは当然だ。だが、それ以外は全く聞かない現状で、先生が把握している残り二つの神滅具は何か。その答えは、消去法で出てきてしまった。
原作知識によって候補から外れるのは、なんとぴったり九つなのだ。原作での先生の発言や流れを考えれば、まず間違いない。情報のなかった『
グリゴリが把握している四つの神滅具の所在。『
「……ラヴィニアと、教会はわかるんですけど。あとの二つって?」
『悪いが、ここから先はまだ教えられない。一応その内の一つは、メフィストから教えてもらった情報だ。必要になったら、あいつからカナタへ伝えるだろう』
「えっ、メフィスト様が?」
『気になるかもしれないが、一つは現状手が出せない状態で、もう一つは現状問題がないと俺の目で見て判断したものだ。お前にも関係ありそうだとわかったら、ちゃんと教えてやる。いらねぇ知識をつけすぎると、混乱を招くだけだからな』
「はーい」
不満そうな俺の態度に、アザゼル先生は仕方がなさそうに笑みを浮かべていた。これ以上は、さすがに踏み込んではいけない領域だと俺でもわかる。本来なら、他組織の俺にグリゴリの情報を簡単に教えてはくれない。むしろ、十分にサービスしてもらったぐらいだろう。それに、確かに知識がありすぎると余計な厄介事を招き入れる。今の俺がそうだ。アザゼル先生は濁したつもりなんだろうけど、その『余計な知識』を持ってしまっていた所為で、俺はある意味で確信を得てしまったのだから。
『
そして、先生が最後に伝えた『問題ない』と判断された神器。それこそが、『
俺が幾瀬と接触したことを、先生は把握しているのだろうか。さすがにずっと監視している訳じゃないんだろうけど、いずれ気づかれる可能性は高い。色々釘を刺される前に、彼の神器について調べるなら早めの方がいいだろう。もっと詳しく情報が欲しかったけど、これ以上はさすがに不審がられる。こんな風に隠し事をしていることに申し訳なさを感じるけど、やると決めたのは俺自身なのだから。
俺は自分から話題を変え、神滅具のことは今は置いておく。アザゼル先生もその流れを汲んで、こっちの話題にのってくれたのであった。
『そういえば、お前に頼まれていた性転換銃の性能向上の開発をしていたら、シェムハザから何か悩みはないか? 相談にのるぞ、ってマジな顔でそれとなく聞いてくるんだよな』
「……えっと、ちなみに悩みはあるんですか?」
『そりゃあ、これでも組織の長なんだから悩みの一つや二つ、あるのは否定しないが…。それならそれで、あいつにちゃんと相談するさ。しかし、何でそれを性転換銃の開発中に毎回俺へ気を使いながら聞いてくるんだ、あいつは…』
それからも姫島家のことや神器のことも含め、色々なことを話した。そして通信で会話するアザゼル先生の愚痴を聞きながら、俺はそっと目を逸らす。『
果たして自分の組織のトップであり親友が、無断で開発したロボで暴れていたのと、内緒で魔法少女をやっていたのは、どっちが彼の精神的にマシだったのだろう。まさか三ヶ月以上も前のやらかしが、未だに尾を引いていたとは…。アザゼル先生の秘密を、ちょっと強引な手で俺から聞き出してしまった手前、シェムハザさんもアザゼル先生に直接聞くのを躊躇ってしまったのだと思う。
「そういえば、アザゼル先生って性転換することに拒否感とかはないんですか?」
『さすがにずっと女になるのは勘弁だが、一時的な効果なら別に気にはしないな。ほれ、俺は元が良いからな。間違いなく、グラマラスな美女になっていることだろう』
にやり、と口角を上げて胸を張るアザゼル先生。ノリノリで女言葉も使って、性転換を楽しんでいそうな先生が容易に想像できた。実際、原作で性転換した時は普通に楽しんでいたからな。なるほど、シェムハザさんが心配になった理由がわかる。先生ならやりかねない、からだ。そして、いつも堂々としているそんな彼が、親友に隠れて魔法少女をやっていたと聞いたから、余計に泥沼に嵌まっちゃったような気がする。
「あの、先生。つまり女性になるのが問題ないなら、魔法少女になるのも問題ないってことですよね?」
『おい、待て。何で性転換と魔法少女を同列に扱おうとしている。違う次元のものを横に並べるんじゃねぇよ』
「性転換はいいのに、魔法少女は駄目なんですか?」
『何で人間のお前が、本来なら堕とす側であるはずの悪い天使のおじさんをアブノーマルな世界へ勧誘しようとしてくるの? やっぱ、こいつの教育間違ったんじゃないのか、俺達……?』
おい、普通の一般人だった俺に裏の世界のことを色々教えたのは、そっちだろうが。だいたい本人を目の前に、間違い扱いはひどくねぇか。俺、結構真面目に頑張ってきたんだぞ。ちょっと不貞腐れながら、腕を組んで考える。アザゼル先生が魔法少女になってくれれば、俺がシェムハザさんに嘘をついたことにならないから都合がいいな、と思ったんだけどな。だいたいのことは受け入れて、しかも楽しんでしまうあのアザゼル先生でさえも、魔法少女になるのは駄目なのか。魔法少女、なんて強敵なんだ。
「そういえば、シェムハザさんと魔法少女で思い出したんですけど。あの時のロボって結局どうしたんですか?」
『あぁー、あれか。作って動かせたところまではよかったんだが、さすがに色々な意味で表に出せない所為で倉庫に入れっぱなしなんだよな…』
「それ、大丈夫なんですか?」
『ずっと倉庫を埋めとく訳にもいかんし、正直バレないか毎回冷や冷やしている。だが、こちらで把握できる場所に置いておかないと、悪用されても困るしな。作ったことに後悔はないんだが』
残念そうに肩を落とす先生に、俺は手を顎に当てて考える。駒王町で大暴れした謎のロボットを堕天使側が堂々と使っていたら、悪魔と天使の上層部から勘ぐられるかもしれないし、何より副総督に黙って作ったのがバレるだろう。先生が作った『ザゼルガァー』そのものが、やらかしの証拠品なのだから。しかし、エクソシスト達を翻弄したあの巨大ロボットが体育座りをしながら、ただ倉庫に入れっぱなしというのも勿体無い気がする。
俺だって男だ。ロボのロマンは理解できるし、ラヴィニアと一緒にお気に入りのダンプラシリーズを選んで、グリンダさんへのお土産も兼ねてプラモデルを作ったことだってある。等身大ダンガムとか、超燃える。だけど、このままだと副総督の目を盗んで作ってしまった曰く付きのロボットは、最低でも和平までずっと倉庫行きだ。せっかく大金だってかけただろうに。さすがに大々的に使うのは難しくても、何か別のことに活用できないだろうか?
愛と勇気と希望の人型スーパーロボット『ザゼルガァー』。特徴としては、タンニーンさんと同等の大きさがあり、剣や盾、銃などの武装も完備。空も飛べて、謎技術で疑似『I・フィールド・バリア』も持っている。必殺技はカップル達への嫉妬心をエネルギーに撃ち出す、高威力の爆発を起こす暗黒のロケットパンチ。そして、アザゼル先生の許可さえあれば、誰でも操縦することが可能な鋼鉄の天使なのだ。
……うん、こんなの戦闘以外にどう使えというのか。戦闘以外だと、運搬作業とか? いや、それなら普通に転移魔法を使えばいい。そもそも戦闘だって、先生クラスだと生身の方が強いのだ。まずい、本当にこれだと先生が無駄な物を作ったと副総督に怒られても仕方がなさすぎる。駒王町の時に助けてもらった手前、個人的になんとかしてあげたいけど…。それに遠い目になってしまったが、ふと脳裏にとある人物の言葉が過ぎった。
「あれ、ちょっと待てよ」
俺が呟くと同時に、画面の向こうで先生の肩がビクンッと揺れた気がした。それよりも、これはいけるか? いや、いけると思う。むしろ、現状の俺の悩みを解決するのに、とんでもなく打ってつけじゃないか? ザゼルガァーがあれば、『彼』が懸念していた事態を解決できるのではないだろうか。
『おい、奏太。お前、今度は何を思いつきやがった?』
「えっ、確かに思いつきましたけど、よくわかりましたね」
『俺も嫌な慣れをしてしまった、としみじみ思う』
そんな黄昏た表情を浮かべなくても……。
「それで、先生。そのザゼルガァーなんですけど、要は人目につかず堂々と保管出来て、尚且つ悪魔や教会やシェムハザさんにバレなければ問題ないんですよね?」
『極論を言ってしまえばそうだが…。どうする気だ?』
「姫島家の最終防衛システムに組み込みます!」
俺が意気揚々と告げると、アザゼル先生の笑みが固まった。だけど、これほど良い案はないと思う。思い出したのは、リュディガーさんから教えてもらった最悪の想定。それを防ぐために必要な逃走手段と防衛手段の確保。襲撃者が姫島家を襲えば、魔術、錬金術、陰陽術、とあらゆる古今東西の術が彼らを魔法少女にしようと迎え撃つが、それを乗り越えてくる可能性は否定できない。その時、複数の襲撃者から母娘が抵抗するのは難しいだろう。
しかし、ここでザゼルガァーがあればどうだろうか。ザゼルガァーは、乗り方さえわかれば非力な女性や子ども、もしかしたら小鬼だって操縦が可能な代物なのだ。姫島家は、俺経由でダンガムシリーズをすでに視聴済み。遠距離攻撃ができる武器やロケットパンチという、全高十五メートル級から繰り出される鋼鉄の雨。攻撃をされても疑似バリアが搭載されているから、防衛システムとしても悪くない。
何よりも、最悪ザゼルガァーに乗って、空の彼方へ逃走するという力技も可能だ。ダンガムが空を飛んでいた、とちょっと都市伝説を一個作ってしまうかもしれないが、命には代えられない。つまり、ザゼルガァーを姫島家に配置するだけで、ザゼルガァーの保管場所に困らず、非力な母子でも防衛が出来、さらに逃走手段まで手に入るという訳である。まさに一石三鳥! 魔術、錬金術、陰陽術、そして科学の力を合わせて、襲撃者を迎え撃つのだッ!
『いや、可能かと言われれば、可能だが…。操縦なんて、そんな簡単に覚えられるか?』
「そこはほら、お家に帰ってくる教官という練習相手がいるし」
『こいつ、悪魔か…』
俺と朱雀が考えた罠の審査をするついでに、朱乃ちゃん達が操縦する最終防衛罠『ザゼルガァー』も出動するということで。最近は朱璃さんも罠考案を手伝ってくれていたし、大はしゃぎする朱乃ちゃんと一緒にドSを降臨させてくれるだろう。深い山の中だし、外にバレないように結界だって張れるのだから、ちょっとロボが暴れても近隣住民に迷惑はかけない。
あと、俺もロボを操縦してみたい。俺は魔法少女だったのに、内心はロボに乗っていたアザゼル先生だけズルいと思っていたのだ。巨大ロボットに乗り込んで操縦するとか、普通に憧れて当然である。どうせ倉庫に保管されているだけなら、来たる襲撃者の防衛システムとして姫島家で有効活用しながら、それまではみんなでロボットに乗って楽しんでもいいじゃないか。ロボだって、そっちの方が報われるはず。
「という訳で、先生のため、ロボのため、姫島家のため、俺のためにもザゼルガァーを下さいッ!」
『直球ゥッ!? いや、お前が言いたいことはわかる。わかるが、さすがに過剰防衛すぎないかと…』
「バレたら、シェムハザさんの雷ですよね」
親友のこれからも含めて悩んでいたアザゼル先生へ一言。こうかはばつぐんだ!
『よーし、わかった。俺の方で細かい改造はしておく。あと、一応アレは精密機械だから、定期的にメンテナンスが必要だ。自動でメンテができる機械はあるが、そんなスペースをどこで確保するか…』
「いっそのこと、姫島家の地下に秘密の施設を作っちゃいません? あそこ、堕天使の領地ですよね。それにロボが地下から煙幕と共に堂々と現れて、出動するシチュエーションって燃えません?」
『燃えるな。よし採用』
「あと、ついでに――」
それから通信時間いっぱいまで、男のロマンを詰め込んだ心がアツくなるザゼルガァー格納庫の建設の話題で盛り上がった。バラキエルさんには、罠の拡張や向上に了解を事前にもらっているし、もしものための避難用にもなっていると後で言っておけば、朱璃さんと朱乃ちゃんのためにきっと了承してくれるだろう。
先生が姫島家を改造に来る時は、罠が発動しないように俺が道案内をすることになった。ついでに成人男性のみを標的にする錬金術の罠は、性転換してから来るので問題ないと言われたな。どうして性転換は普通にできて、魔法少女になるのは駄目なのか首を傾げるしかない。俺は両方とも勘弁だけど、先生の境界線が謎である。
とりあえず、こうして姫島家の防衛システムはさらに強化されたのであった。