えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第十二話 魔法少女

 

 

 

「……おかしいな、今日は普段より人が少ない」

「確かにちょっと閑散としているかも」

 

 魔法使いの協会に所属している魔法使いたちが、小遣い稼ぎに訪れるらしい場所を歩いていたが、見つけた露店の数は両手の指で数えられるぐらいしかなかった。お祭りとかでお店をやっているぐらいはあるのかな、と思っていたから拍子抜けだったんだけど、どうやら普段はもっと活気があるらしい。実際、商売をしている人たちの様子も、どこか忙しないというか、何かに警戒しているような感じだった気がする。

 

 師匠に連れられながら、一応いくつかの魔法の道具を見させてもらったり、買っていただいたりすることができた。魔法薬を含ませた粉は、相手からの探知のジャマー効果があったり、こっちの簡易召喚符は特定の無機物を呼び出したり、通信できたりもできる。使い捨ての道具ばかりらしいけど、なんだか俺自身も魔法使いになったような気分だ。

 

 まぁ、この原作の魔法使いは、そんな簡単になれる職業じゃないけどな。確か、この世界の魔法使いって人たちは、自分の魔法研究を生涯にわたって磨き続ける研究者タイプなのだ。つまり、頭が良くないとできない。ゲームでおなじみの黒魔法や白魔法もあれば、召喚魔法に精霊魔法に降霊魔術、見た目と年齢の合わないバーコード神父でお馴染みのルーン文字式。さらに、北欧の魔術などの地域や一族ごとの魔術式など、多種多様な分野があるのだ。そこから自分にあったテーマを一つ選択して、一生を注ぐのが魔法使いたちのスタンスらしい。

 

「本来は行くつもりはなかったが、仕方がない。少々高いが、あそこの店ならやっているはずだろう。ついでに何があったのか聞いてくるべきか」

「あっ、じゃあ移動しますか?」

「そうなんだが、その店は店の主人からの許可がなければ、入れないように術が施されているんだ。お前がいるから今日はやめておこうかと思ったんだが、……やはり今日は諦めるかな」

「いやいや、師匠が使っている道具だって補充しに、わざわざミルキー(対価)まで払って来たんですよ。俺ならちゃんと師匠が帰って来るまで待ちますから、店に行ってきてください」

 

 心細くはあるが、それぐらいなら俺にだってできる。それに、新しい魔法の道具が手に入るかもしれないし、魔法使いたちの間で何が起こったのかも知れる。そんな俺の自信満々な言葉に、あの普段表情に出すなと口酸っぱく言う師匠の顔に、「めっちゃ心配」という表情が読み取れてしまった。そこまでか、ミルキーですら崩れなかった鉄仮面が、俺の心配で崩れますか。お願い、相棒。ちょっと慰めて。

 

 

「さて、それじゃあ師匠が帰って来るまで、ステルスでもしていますか」

 

 あれからも少し話し合ったが、結果として師匠は買い物へ行った。一人でお留守番ぐらいできなくて、これから先やっていけないだろう。もちろん、ここが普段とは違う様子なのはわかっている。俺だってそこまで自分を過信していないから、師匠が見えなくなったら、すぐに神器の効果を発動するつもりだった。俺は周辺をよく確認し、小さな路地に入ると、いつも通り姿と気配を消しておいた。

 

「うーん、このままこの場所で待っていてもいいんだけど…」

 

 俺が今いるのは、人通りがまだある場所で、もし問題が起こったら魔法使いの協会から人が来るらしい。ずっと師匠にくっ付いていたから大丈夫だったけど、俺って今初めて海外旅行をしているんだよな。周りを歩いている人だって白人の人が多いし、日本語は当然通じない。英語は頭の中にあるが、正直片言の変な英語しかしゃべることはできないだろう。翻訳系の魔法の道具はそれなりに高価であるため、今回の買い物では持たせてもらえなかった。

 

 なので、迷子になったら終わりだ。師匠なら探してくれるかもしれないけど、そんな迷惑はかけられない。仕方がなしに、俺は待ち合わせ場所に座り込み、大人しく待つことにする。好奇心は猫を殺すってね。しかし暇なのは事実なので、神器の能力開発でもしてみるか、と俺は両手に使いやすいサイズの紅の槍を取り出した。念のため、隅の方でこそこそとだが。

 

 さて、以前はぐれ悪魔の時に試して成功したこと、それは全体から一部分の要素のみを消せたことだ。これって、使い方次第では色々できるのではないかと俺は考えた。あの時ははぐれ悪魔が張った結界の一部に干渉して、電波妨害の効果だけを狙うことができた。本当にできるのか半信半疑だったが、それができてしまったんだから、この神器はもっと色々できると思う。こういう時こそ、俺以外の意見も欲しいところだ。俺って、そこまで頭が柔軟だとは思わないし。

 

「うーん、なぁ相棒。試しに一部だけ消せそうなところってどこかない? できれば、後で地域の人のご迷惑にならないような感じで」

 

 以前地域住民の皆さんに多大なご迷惑をかけた身としては、自重って大切だと思うんだ。俺は首を巡らせて辺りを窺ったが、見えるのは石造りの古びた街並み。日本と違い、コンクリートできちんと舗装されていない地面は、少々汚れが目立つように見える。そこで、ふと思いついた。これなら地域住民の人は困らないし、むしろ感謝されるかもしれない。

 

 俺は相棒に許可をもらうため、今からやることを説明しておく。それに少し悩むような思念を感じたが、最後には「仕方がない」という感じで了承をいただくことができました。魚の骨消失実験では、しばらく思念無視された経験があるので、俺もどうかなと思う時は相棒に聞くようになった。でも、俺がこうして聞けば、なんだかんだでOKを出してくれるのでいいやつだと思う。槍にいいやつって言うのも、おかしいのかもしれないが。

 

「よし、いくぞ相棒! ここの石壁についている、汚れのみを消滅させよ!」

 

 うぉぉぉっ! 見る見る内に汚れた壁が美しくって、誰だこんなところに変な文字みたいな落書きをしたやつは! こっちはガムがへばり付いているし、くっ、こっちは壁自体が変色していやがるっ!? ……よかろう、全部相手にしてやるぜェーー!!

 

 

 

――――――

 

 

 

「正直はっちゃけ過ぎたとは思う。でも、楽しかった」

 

 だから、後悔はしていない。古びた街並みの路地の一角で、一面まるで光り輝くようにピカピカになった壁。一部だけ目立たないけど小さな穴があいているのも、いいアクセントになっていた。明らかに怪奇現象だな。でも、日本人として、こう小さな汚れを見逃すのもなんだか癪で。あぁ、うん。俺が馬鹿でした。だから、呆れたような冷たい思念はやめてください。

 

 それにしても、今回の実験はそれなりに成果があった。特に変色をなくす際、色素を消してみたり、変色の元である成分を狙ってみたりと、なかなかいいトレーニングになったのだ。これなら日本でもできるから、休みの日はボランティアで清掃活動をしてもいいかもしれない。どんな頑固な汚れも、綺麗にしてみせよう。

 

「それと、消すものによって疲労度が違うから、今回のような色々な汚れを落とす時に使う力加減はいい勉強になった。人間で体力がそんなにない俺にとって、無駄な疲労は致命的だからな。力のペース配分を知ることが、この神器を使う上での最優先事項だ」

 

 俺の生命線でもある神器の力は、俺の地力と体力に直結している。そのため、身体を鍛えることと並行して、スタミナの管理という細かいところまで俺は目を向けないと、とてもやっていけないのだ。種族的なパワーがなく、地力が低い人間だから、仕方がないんだけどね。そう考えると、人外と戦えていた英雄派の人間たちって、本当に死ぬほど訓練して、そして多くの犠牲をその身に携えてきたのだろう。

 

 最も簡単に地力を上げる方法はわかっている。それは、人間から悪魔に転生することで身体的特典を手に入れることだ。原作が進んでいたら、転生天使になるのも一つの手だろう。主人公――兵藤一誠だって、悪魔になることができたから、神滅具を使いこなすことができる肉体を手に入れられたのだから。……もっとも、この手段を俺は使う気がない。悪魔や天使に嫌悪はないし、別に曹操たちのように「人間最高!」という理念もないけど。それでも、人間ではなくなる、というのはやっぱり怖いのだ。

 

 特に転生悪魔は、その転生させた主の意向が大きく働く。リアス・グレモリーたちのような、眷属の扱いが珍しいのだ。転生悪魔の意見なんて全く聞いてくれない上級悪魔の方が多いし、レーティングゲームのためにどれだけ嫌がっても戦わされたり、主の目的に利用されるかもしれない。あのゲームは悪魔にとってステータスだし、原作の登場人物たちもみんなゲームで強くなろうとしていた。

 

 つまり、「表の世界を守りたい」なんて、わざわざ貴重な駒を消費して転生させた俺の意見を優先させてくれて、むしろ放っておいてくれるような主なんているはずがないのだ。悪魔世界にとって大切なステータスであるレーティングゲームに興味もなく、出世や周りの目も気にしないような上級悪魔。そんな変人悪魔、そうそういないだろう。

 

 

「あっ、やっべ、待ち合わせ場所から少し離れすぎたか」

 

 といっても、待ち合わせ場所まで一直線で目と鼻の先だからすぐに帰れる。俺は相棒をいつも通り小さくして、ポケットの中へ入れると、グッと腕を伸ばして作業で凝った身体を解しておく。

 

 さてと、と気持ちを切り替えた時、ふと開けた通路の先に、俺と同じ年ぐらいの女の子が一人立っていた。その小柄な少女は、何やら小枝のようなスティックを手にし、とんがり帽子とマントを持っている。その姿は、正統派な魔女っ娘のように見えるだろう。というより、そのまんまだった。

 

 外国人らしく金色に輝く綺麗な髪に、そして碧眼を持っている。何よりも俺が言葉を失ったのは、彼女が思わず見とれてしまうほどに端正な顔の美少女であったことだ。遠くからでもわかるほどの美貌は、小学生ぐらいでありながら整っているのがよくわかる。俺が数秒ほど呆然としてしまうぐらいには、目を引く少女であった。

 

 あと、なんだろう。なんだか、あの子を見ていると形容しがたい何かを感じる気がする。その違和感は、紅の槍を通して、俺に発しているように思うのだ。彼女の何かが、俺に伝わってくるような感覚。初めてのことで困惑が顔に出てしまった。美貌も相まって、不思議な女の子だと思う。

 

 そんな金髪の少女が――。

 

 小さな子犬にとんがり帽子を引っ張られて、ぷるぷると涙目で返してもらおうと頑張っているところだった。外国語なので内容はわからないが、たぶん離してほしい、的なことを犬に言っているのだろう。でも、あの子犬はたぶんあの女の子に構ってほしいからなのか、すごく嬉しそうに尻尾を振りながら、引っ張るのをやめないようだ。あっ、ついにずっこけた。

 

 ちょっと、子犬さん。その子ずっこけたから、待ってあげて。地面に魔女っ娘の服が引き摺られてズルズルと、ってしかもパンツが見えてるっ!? ご馳走様です! 違う、そうじゃないだろう俺! それでも、とんがり帽子を離さないとは。大事なのかもしれないけど、なんという胆力。

 

「……さすがに、な」

 

 あれに見て見ぬふりをすることは、俺にはできませんでした。

 

 

 

「その、助かりましたのです。どうもありがとうございました」

「いや、あの光景を素通りできるほど、俺の神経は図太くないもので。それにしても、日本語上手なんですね」

「あぁ、これは魔法で翻訳しているのですよ。たぶん、東洋人の方ですよね。これは、悪魔の翻訳の機能を解析した魔法の一つなのです。魔法は様々な国や地域によって、多種多様ですから、言葉や字の解析に役立ちます」

 

 魔法ってすげぇ。俺、本気で魔法を覚えるために頑張ろうかな。確か原作で、複雑な術式が使えなくても、簡単な魔法なら主人公でも使えるって、ルフェイ・ペンドラゴンという魔法使いの少女が言っていたと思う。ちなみにこの金髪の少女は、そのルフェイではないのはわかる。すごい美少女だから、原作にいるのかどうか記憶を探ったが、やはり該当者はいない。

 

 俺が覚えている魔法関係者の名前は、グレモリー眷属のルークにして北欧のヴァルキリーであるロスヴァイセさんとそのご家族、白龍皇のチームメンバーのルフェイさん、英雄派にいた神滅具『絶霧(ディメンション・ロスト)』の使い手だったゲオルグ、あとは魔法使いのテロ組織の幹部で神滅具『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』の所持者であるヴァルブルガぐらいだ。

 

「それにしても、こんな路地の奥に一人でいるのは危ないのですよ。ここ最近は、特に物騒ですから」

「それは君だって同じだろ。俺と同じ年ぐらいみたいだし」

「私は魔法少女なので、心配はいらないのです」

 

 えへん、と胸を張る魔法少女さん。大変可愛らしいです。あと、ミルキー関連も相まって、俺の今日の運勢は「魔法少女」日和だな。ちょっと遠い目になったのは、仕方がないと思うのだ。

 

 確かに魔法が使えるのなら、心配はいらないのかもしれない。彼女もおそらく、魔法使いの協会に所属しているのだろうから。それでも、子犬相手に涙目になってしまう、しかもすごい美少女だ。誘拐とか、変態とか、色々大丈夫かな? と考えてしまうのは間違っていないだろう。

 

「むしろ私としては、あなたの方が危ないのです。私は仕事でここにいますが、あなたは見たところ裏関係の旅行者でしょう?」

「旅行者って、まぁ魔法の道具を買いに来たから間違ってはいないけど」

「それは、タイミングが悪い時に来られてしまったようですね。今、協会で事件が起きていて、それが解決されるまでほとんどの魔法使いは研究室に引き籠っていますから」

「協会で事件?」

 

 俺の疑問の言葉に、魔法少女はこくりと首を縦に振った。なんでもこのあたりの人なら、みんな知っていることらしい。さすがに遠い日本まで、まだ情報が届いていなかったようだ。なんとも運が悪いというか、なんというか。彼女はその事件について調べるために、協会から派遣されたみたいである。俺と同じ年ぐらいなのに、仕事を任されるとは、それだけこの少女の実力は買われているのだろう。

 

「はい、そうなのです。最近、協会の魔法使いが何者かに襲われる事件が多発していまして。だから、見回りと仕事を兼ねて、こうして私が見て回っているのですよ」

「それは、やばいな。あと、そんなこと俺に言ってもいいのか? 俺がその襲撃者かもしれないぞ」

「襲撃者は、はぐれ魔法使いなのです。あなたには魔法力があまり感じられないですし、このようなことを言うのは気が進みませんが、秀でた力を感じられません。だから、事件を何も知らない旅行者だと思って、忠告も込めて少し詳しめに今伝えているのです。あなたには、子犬から帽子を取り返していただいた恩もありますから」

 

 この子からの説明で、ようやくこの辺りが閑散としている理由を知ることができた。なるほど、はぐれ魔法使いか。確かいくつかある魔法使いの協会から、不適切だとハブられた魔法使い連中のことだったはずだ。そいつらが襲撃事件を起こしているとは、なんとも穏やかじゃない。

 

 襲撃事件があったのに店を出している人たちは、自信家か、研究費が本当にカツカツで仕方がなく店を行っている人だったのだろう。だからあんなに、ビクビクしていたのか。俺たちに教えてくれたっていいのに、と思ったが、ある意味ではぐれ魔法使いに襲われるって、協会側にとっては醜態ものなのかもしれない。あまり、外部の人間には教えたくないことだろうから、仕方がない部分もあるか。

 

 

「という訳で、そのお師匠様が戻ったら、すぐに帰国することをおすすめします。今回は残念でしたが、事件が解決した後、また来てくれたら嬉しいです」

「……そうだな。なんだか危なそうだし、君の忠告通りにするよ。心配してくれてありがとう。君も、例え魔法少女でも、怪我をしないように気を付けてね」

「ふふっ、はい。気を付けますね。あなたが私のお話を素直に聞いてくれて、助かりました。いい子いい子なのです」

「いやっ、だから同じ年ぐらいだろ!? なんで俺の頭を撫でようとするんだよ!」

 

 気恥ずかしいが、さすがに満面の笑みである彼女の手を振り払うのは気が引けた。それでも、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。お互いにそこまで背だって、変わりはないのに。……中学生になったら、絶対に背を伸ばしてやる。少なくとも、この子よりはうんと高くなろう。男として。

 

 それから表通りに戻るため、二人で路地を歩くことになった。そこまでなら、一緒についてきてくれるとのことだ。この魔法少女さん、頼もしい限りである。可愛いし、魔法少女だし、ちょっと天然が入っていそうだが、いい子なのだろう。本当に怪我をしないといいんだけど。

 

 それと、なんて言うんだろうか。もう少し、色々話をしておきたい。憧れの魔法使いだし、何よりせっかくこんなにも可愛い子と知り合えたんだから、また会えたらいいなー、というちょっと下心的な思いもある。名前ぐらい聞いてもいいかな。

 

「えーと、その。よかったらでいいんだけど、君の名前を教えてもらってもいい? もし、またこの国に来た時に、偶然でも会えたら嬉しいなー、って思って」

「私のですか?」

「うん。俺は、……あぁー、ごめん。そういえば、俺本名は名乗らないように偽名を使っているんだ。そんなんで、名前を聞くのも失礼だよな」

「構わないのですよ。魔法使いの中でも、真名を名乗らない同僚はいますから。私は、ラヴィニアと言います。よろしくお願いしますね」

「その、ありがとう。俺はショウって名乗っています」

「ショーくんですね」

 

 あの、くん付けですか。さすがに小学六年生で、同年代ぐらいにくん付けされるのは、ちょっと……。あと、少し発音が違う気がする。いや、そもそも俺は彼女に文句を言える立場ではないんだけどさ。彼女の輝かしいばかりの笑みに、なんかもういっか、という思いで俺も笑顔を見せた。

 

 そんな風におしゃべりをしていた俺たちの足は、次には止まることになった。理由は簡単だ。俺たちが向かっていた路地の先で、魔法使い風のフードで顔を隠した人が立っていたからだ。まるでいきなり現れたかのように、出現した人物。俺は思わず驚きで歩みを止め、目を見開いた。突然の出来事に、俺は隣のラヴィニアさんに目を向ける。そんな俺の目に映ったのは、真っ直ぐに相手を見据える彼女の姿だった。

 

 

「……ごめんなさい、ショーくん。巻き込んじゃったみたいです」

 

 次には、本当に申し訳なさそうな声が小さく耳に入った。彼女もここで現れるとは、予想外だったのだろう。そして、巻き込んじゃったって、それってつまりアレですよね。

 

「『氷姫(こおりひめ)』のラヴィニアだな」

 

 わぁ、ラヴィニアさん、カッコいい二つ名がついているんですね。氷の魔法でも使うのだろうか。そんな感じで、頭の中で軽く思考が流れるが、俺自身は嫌な汗がだらだらと流れている。俺だって、そこまで馬鹿じゃない。この状況で、現れる敵意を持った相手など、考えるまでもなく気付く。つまり、そういうことなのだろう。俺たちの目の前にいるローブの人物は、おそらくはぐれ魔法使いだ。

 

 ポケットの中に手を入れ、相棒を力強く握り締める。やつらは魔法使いを襲撃している、と言っていた。それなら、俺はもしかしたら見逃されるかもしれない。もちろん女の子を置いて行くというのは、自分でも最低だと思うけど、俺は戦闘では足手まといにしかならないような気がするのだ。

 

 混乱と警戒が混じりながら、なんとか冷静に考えを巡らせられるように、俺は静かに息を吐いた。とにかく、すぐに動けるように神器の発動を念頭に置き、彼らの様子をうかがうために見守ることにした。

 

 あと、杞憂であってほしいが、先ほど魔法使いが放った言葉に、どこか既視感を俺は覚えた。俺は彼女を知らない。ラヴィニアなんて名前を、俺は原作で聞いたことがない。だけど、どこかで『氷姫』という名前なら聞いたことがある気がしたのだ。それに眉を顰めながら、俺はその時を静かに待った。

 

 


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