えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第百二十一話 革命

 

 

 

 魔法少女は進化する、それはまさに『革命』のように…。『魔法少女ミルキー』の第三期のアニメの脚本を手掛けた東海林(しょうじ)先生は、そう厳かに語った。初代『魔法少女ミルキー』、第二期『魔法少女ミルキー☆ピュア!』と魔法少女という概念を世界へ広げた大人気アニメ。そのシリーズの第三期がついにこの春、幕を開けたのだ。

 

 新シリーズの名は、『魔法少女ミルキー☆レボリューション!』。この名前が発表された当初、プロデューサーである酒井(さかい)でさえ多くを語らずニヤリと笑った姿に、魔法少女に魅了された者達は期待に胸を膨らませた。そして始まったミルキーの新シリーズは、まさに新しいミルキーの姿だった。今までのキラキラとした光を纏い、闇と戦う魔法少女達の戦いとは一風変わった作品。

 

 ダブル主人公。それも光側だけではなく、闇に落ちた一人の少女側からも語られる重厚なストーリー。光があれば闇もある。『ずっと友達だよ』と約束を交わした親友だった二人の少女。しかし一人は光へ、もう一人は闇へ。仲間たちと共に世界を護ろうと戦い、しかしそれが親友を追いつめることに葛藤する光の主人公。世界の敵になる葛藤を胸に、それでも闇にしか居場所がない少女が、前を向いて自分の心と向き合っていくストーリー。

 

 光の使命。闇の矜持。夢を抱く少女達の真摯な想いは、果たして光と闇のその先へ届くのか――。正義や悪という概念は、一枚のコインのように入れ替わる。正義と悪は戦い続ける運命なのか。魔法少女の魔法は、分かたれる世界の理へ触れられるのか。魔法少女達が本当に向き合い、挑むべきものとはいったい――

 

 という触れ込みで始まった新シリーズは、賛否両論がありながらも多くの視聴者を画面へ釘付けにした。まだ始まって数ヶ月であるが、両陣営共にグッズは飛ぶように売れ、人気投票では光と闇の仁義なき戦いが繰り広げられ、円盤は大きいお友達の部屋にたくさん飾られる。『革命』という挑戦的な題名を冠した新シリーズは、当然今までのシステムの殻を破り、それでいて従来のファンが大切にする部分は取り入れ、どんどん進化させていったのだ。

 

『最近はミルキー関係でポンポン万単位、億単位の出費が続いていたから、うっかりしていた』

 

 少し前にとあるスポンサーが軽く考えていたが、普通に数億の金がポンポン飛んだ理由が、この新シリーズが主な原因である。駒王町で活動する、ミルキーに心を奪われた組織『MMC448(ミルキーマジカルフォーフォーエイト)☆』。魔王少女様も大歓喜で暴走した中、彼らが新シリーズの魔法術式や変身衣装などに、興味を持たない訳がなく…。当然のごとく研究・開発のために多くの試作を試みまくった。それを可能にしてしまうスポンサーの緩々金銭感覚と人脈もそれに発破を掛けただろう。とある教会の牧師が、「早く悪魔の管理者を!」と真摯に祈るほどに。

 

 特にこの数ヶ月で、光側と闇側の魔法少女達の変身アイテムや衣装は練りに練られ、同時に数えるのも億劫な気持ちになるほどの失敗作や試作品の数々が仕上がったのだ。テンションマックス状態の開発局に、自由と金を渡せばそうなるよ。それに遠い目をしたスポンサーは、さすがにこれを外に出したらまずいよな? と当たり前のことを考え、それでもさすがに処分は勿体なかったので、有効利用するために姫島家の山へ追加でさらにブッパした背景があった。さすがの『雷光』もアイアンクローを喰らわせた。

 

 古の堕天使が、『地獄』だと評した山。潤沢なほどの罠を倉本奏太が準備し、山に暮らす姫島朱乃と小鬼が全地形の特徴を把握し、ラヴィニアという魔法の使い手が加わったことで隠蔽魔法に磨きがかかり、姫島朱雀が叔母と可愛い従姉妹のために日本の術式や兵法を容赦なく組み込んだことで出来上がった子ども達の大合作。大人たちの誰もが微笑ましい気持ちで見ることが出来ない、地獄が完成してしまったのであった。

 

 こうして『雷光』のせめてもの慈悲に気づかないまま、彼の留守を襲撃してしまった者たちは、何の準備もなく足を踏み入れてしまう。堕天使のトップ陣でさえ本気で恐れた――その地獄の(あぎと)の中へと。

 

 

 

「邪悪なる黒き天使に鉄槌を…」

 

 その組織にとって、長年敵対し続けていた憎き堕天使の幹部である『雷光』の居住を知ることが出来たのは、まさに朗報だった。今まで関わりすらなかった者たちから齎されたその情報に最初は疑心を持ったが、彼らの怒りと憎しみ、そして姫島からの極秘の依頼という点を見て真実だと知ったのだ。まさかあの『姫島』の娘が、『雷光』にかどわかされ、更には娘までいるとは。それに嘲るような昏い笑みが浮かんでしまった。

 

 さすがに『姫島』と敵対するのは得策ではないが、約定を破ったのは依頼をされた術者達の方。彼らは姫島から招集されるほど実力があると称された術者達だった。だからこそ、『雷光』にあっさりと蹴散らされ、(あまつさ)えメッセンジャー役として生かされたことに怒りを覚えたのだ。プライドをズタズタにされたのは、言うまでもない。さらに、日本の重鎮たる姫島からの依頼を失敗したとなれば、日本で轟いていた彼らの名声は確実に地に堕ちる。彼らの今後に影を落としたのは、間違いないだろう。

 

 故に彼らは、その怒りをぶつけるために堕天使への復讐を選んだ。憎しみに支配された彼らの目を見ながら、堕天使の敵対組織の者たちは、うっそりと笑みをつくった。その愚かさとチャンスに。今は怒りで周りが見えていないが、日本の組織の粛清を受けるのは彼らだけだとわかったからだ。事後、このことに気づかれても姫島は堕天使と明確に敵対する組織と繋がりを持つのは危険であろうし、わざわざ堕天使の組織のためにこちらと敵対する理由もない。故に、五大宗家は約定を明確に破った者達しか裁けないと気づく。この機会を、見逃す手はなかった。

 

 敵対組織同士の繋がりから『雷光』が別の任務で出撃したらしい、という情報を受け、彼らは迅速に動き出した。『雷光』は姫島から依頼を受けた術者達が、堕天使と敵対する組織と繋がったことを知らない。だからこそ、この襲撃は予知できない。さすがに結界などは張られていたが、それも殺傷力など何もない『祓い』用のもの。姫島から依頼を受けていた者たちに術式は任せ、自分達はあちらの防衛を突破する戦力となればいい。

 

 機は自分達にある。天が黒き天使達へ裁きを下すことを望んでくれている。第四の鳥居まで、大したことなく侵入できたのがいい証拠だ。これから先、何が立ち塞がろうとも問題ない。日本の術式は依頼者たちに任せることができ、対堕天使用の道具や戦力は十分に用意した。唯一の疑念は『雷光』の帰還だろうが、それもすぐには難しいだろう。姫島の娘は可能なら保護するが、心が穢されてしまっていたのなら粛清するしかない。『雷光』の娘さえ手に入れば、人質として上手く使えるだろう。そうして、それぞれの思惑を胸に、彼らは第四の鳥居を気負うこともなく真正面から越えていったのであった。

 

 だから、それは必然だった。あの『雷光』のバラキエルでさえ、第四の鳥居を越えた先からは絶対に『真正面』から向かう真似をしない。長年磨き続けた力を駆使し、一つのミスが己の死へと繋がる戦場に向かう心積もりで慎重に突破する。そうしなければ、無事に我が家へ辿り着くことは不可能だからだ。バラキエルは知っていたから回避できた。しかし、もし襲撃事件が起きた時、何も知らない初見の彼らへ最も効果を発揮するのはいつだろうか。

 

 故に、子ども達が最初に力を入れて取り組んだのが、第四の鳥居の先。予備知識が無い状態で対峙すれば、ほぼ確実に餌食にされるだろうトラップ開発者たちからの洗礼(挨拶)の場――初見殺しだった。

 

 

『ミルキーマジカル・スタンドアァッ~~プッ! レッツ、レボリューション!!』

 

「……えっ?」

 

 それを最初に踏んでしまった四十代の細身の男性(被害者)は、何が何だかわからなかった。自分の足元で何か固いものを踏んだと気づいた一瞬、すぐに防御しようと武器を構え、防御の術式を発動して身構えた。殺傷力のある罠が仕掛けられている可能性は、元々考えられている。地雷タイプの罠をミスで踏んでしまった自分自身に苛立ちを浮かべるが、すぐに対処できるだろうと笑みを浮かべた。この爆破を防いだら、次からは用心をすればいいと。

 

 しかし聞こえてきたのは、可愛らしい少女ボイス。この殺伐とした場に、あり得ないほど似合わない軽快な音響が鳴り響く。足元から強い光が溢れ、ハートや星などのカラフルでファンシーなエフェクトがキラキラと踊り出す。まるで示し合わせたかのように、全員の動きが一斉に止まった。

 

「――ヒッ!?」

 

 男が短い悲鳴をあげた。溢れた黄金の美しい光が、準備していた防御魔法をすり抜け、自分の身体を瞬時に包み込みだしたからだ。逃げ出す余裕はなく、手で払っても効果はなかった。魔法や術に、完璧なものはない。その必要な用途に応じて、術を組まなくては正しく発動することはないのだ。男が張った結界は攻撃を防ぐためのものであり、そこに相手を傷つける意思がなければ、黄金の光は男の結界を当たり前のようにすり抜けていく。

 

 強いオーラで弾き飛ばしたり、魔法に精通する者ならそれすらも防ぐ結界を張れるかもしれないが、億単位で練られて作られた術式が、咄嗟に張った程度のオーラや術を越えられない訳がない。準備や用意をしっかりしてきた? 億単位で対策をやってきてから言え、である。

 

 しかも、あの魔王少女様がハイテンションで術式を改良しまくり、さらにとあるスポンサーが伝手を使って錬金術の使い手であるリュディガーを頼り、最後に弟子からのお願いに仕方がないな、とアジュカが術式を異次元にノリでいじって、転写の術までも生み出す。その結果、『対象者を魔法少女の衣装にチェンジさせる』ことだけに執念を置いたこの術式は、世界でもトップクラスの実力者でも防げるかわからない代物となってしまったのである。どんだけ魔法少女にしたいんだ。

 

 それこそが、あの『雷光』でさえ避けるしかないと判断して全力で回避に専念した、『一度発動させてしまったら終わり』の最悪のトラップだった。

 

 

『判定、対象者にミルキーの心なし。オートモードを起動いたします』

 

 溢れた光が男を包み込み、『判定』を下す。魔法少女の変身は、大切な儀式なのだ。何事も中途半端はいけない。変身した後の決め台詞までしっかり行うことで、ようやく変身は完了する。故に、ミルキー診断で基準値を越えられなかった者は、ミルキーを知ってもらうためにも自動でそこまでのプロセスへと(強制的に)導く機能が搭載されていた。魔王少女様渾身の術式である。悪魔だ。

 

 男は悲鳴を上げながら仲間たちへ咄嗟に手を伸ばすが、審判は下された。男にとって致命的だったのは、これが魔法少女の変身シーンであったことだろう。黄金の光は男の身体を完全に包み込むと、魔法少女の変身シーンでお馴染みのワンシーンが始まる。黄金の光によってシルエットだけが映る男の着ていた衣服が突如弾けとび、一糸纏わぬ姿をさらけ出した。悲鳴が上がる。

 

 黄金のシルエットだけが映るラインに、部分的に衣装が装着されていく。全年齢向きながら、どこかエロティックさを醸し出せるように計算された流れ。どんな体格だろうとぴったりとフィットする機能は、まさに億越えの力作。胸元を飾る大きなリボン、くるっと一回転された身体を包むフリフリのミニスカート、同時にオートモードで発動される毛刈りサービス。誰もが硬直で目が離せなかった。

 

「魔法少女ミルキー・レボリューション! 悪い子にはお仕置きよ☆」

 

 そして、ラストにキュピン☆ と星をウインク(エフェクト)で発生させながら、男はバッチリと決めポーズを最後まで決めたのであった。一秒、二秒、と魔法少女(新)も男の同僚達も誰もが言葉を失い、身じろぎ一つできない。脳が処理することに、完全にストライキしていた。静寂が、黄昏の山を包み込んだ。

 

 ――カシャッ!

 

 それと同時に、どこかでシャッター音が切られた。

 

 

「…………あ、あぁぁぁぁ…、うわァァァァッーー!!」

「ヒィッ!?」

「誰だっ!? 誰が私を撮ったァァッ!!」

「お、落ち着……こっちには振り向くなァッ!」

 

 変わり果ててしまった同僚に、誰も目を向けられなかった。目の暴力(物理)だった。羞恥から脱ごうにも、ぴったりとジャストフィットされた服を引きちぎるのは難しく、何よりも代えの服がない。それでも怒りで全裸になったとしても、と手をかける前に聞こえた音が男の正気を完全に奪った。

 

「ピィーヒョロロロロ…」

 

 不意に聞こえた鳴き声。全員が咄嗟にそちらへ目を向けると、小さな(とび)が佇んでいた。「式紙…」とポツリと誰かが呟いた通り、その鳥は鋭い赤い目をしていて、明らかに普通の鳥とは違う姿をしていた。何故なら、額に『21』と書かれ、首にカメラをかけていたのだから。式紙の鳥は朱雀が製作し、まだ会えぬはとこへのブラコン魂を静めるために作られたもの。正式名『トビー21号くん』は、器用に前足を駆使して、またカメラのレンズを男に向け、連写のフラッシュをたきまくっていた。ひどい追い打ちだ。

 

「き、貴様かァァッーー!?」

「ま、待てッ!」

「閃光よ、あの鳥をカメラごと焼き尽くせェッーー!!」

 

 怒りで我を忘れた男が、術を詠唱して右手を掲げた。何も起こらない。ポーズを決めた男へ、無情なフラッシュだけが降り注いだ。煽りが上手すぎる。

 

「ッ、ッ……! こうなったら、直接っ……!」

「だから、待て! 迂闊に動いたら――」

 

『ミルキーマジカル・スタンドアァッ~~プッ! レッツ、レボリューション!!』

 

 仲間の制止を振り切った男の二度目の末路に、全員が目を背ける。今度は変身シーンからフラッシュがたかれまくり、男の精神は許容量を超え、そこで途絶えたのであった。誰も、そこから一歩も動けなかった。否、動くことができなかった。トビー21号くんも男の最後を見届けると、静かに羽を広げてその場を去っていく。マジで撮影だけして帰っていった。

 

 

「……どう見る?」

「……見たままを見て、考察するのならば。ここから先、今のような罠が仕掛けられていると見て間違いないだろう」

「あの式紙、変身に反応して飛んでくるみたいだ。しかも額の数字を考えるなら、最低でも二十一羽が付近に潜伏して、写真を撮ってくるのだろう。あれほどの高性能なつくり、よほどの実力がある術者が製作したとみえる。なんという実力の無駄遣い……」

「あいつが術を発動しようとした瞬間、あの衣服に法力が打ち消されていたのを確認した。どうやら、『アレ』にされると術が使えなくなるようだ」

「嘘だろうッ!?」

「私はこの状況全てに嘘だろう、と言いたい…」

 

 先ほどまでの熟練の訓練された者達の雰囲気は消え、口々にわかったことを告げ合う姿は、完全に取り乱していた。わかったのはこれより先には罠が仕掛けられていて、踏むと防御を無視して強制的に女装させられ、さらに写真を撮られて術を封じてくる。どういうことだってばよ。ミルキーを知らない術者達は、堕天使と女装に何の関係があるのかと混乱する。ミルキーを知っていても、結果は同じだろう。

 

「取り乱すなッ! これこそが、堕天使の罠だッ!!」

「そ、そうだ! 堕天使らしい、このような卑劣な罠に嵌まってはならない! こうやって混乱した我らを一網打尽にする気なんだろう!」

「なっ……、くそっ! 『雷光』め、なんて恐ろしい罠を考えるんだっ……!」

「やはり堕天使とは恐ろしい種族だ。こんな、このような仕打ち…。こんな恐ろしいことを考える種族など、我らが滅さなくてはならない!」

 

 なお、企画・製作・実行は全て人間産である。あと、ついでに魔王。

 

 

「長、いかがいたしましょう?」

「……慎重に進むぞ。黒き天使の思惑など、打ち破ってくれる」

「わかりました。それなら、探知に優れた私にお任せください」

 

 そう言って、前に進み出す魔法使い風の五十代の小太りの男は、術を使って地面に探知をかけようと集中力を高めた。目を瞑り、杖を手に呪文を詠唱する男に、誰もが安心を目に映したが――

 

『ピィ』

 

 自動迎撃モード開始。鳴り響いた鳥の鳴き声に訝し気に首を傾げた襲撃者達は、突如薄暗くなった空に目を向け、絶句した。そこにいたのは、先ほど見かけた鳥の式紙。しかし、数がおかしい。数百、数千を越えるだろう鳥たちが、一斉に術を発動した男に向かって飛び掛かってきたのだ。慌てて術を解除して逃げようとしたが、初動が遅れ、数匹の鳥が男の身体にぶつかった。

 

『ミルキーマジカル・スタンドアァッ~~プッ! レッツ、レボリューション!!』

 

 新たなるミルキーが産声を上げる。同時に、数千もの鳥たちからのフラッシュに、探知の術を発動しようとした魔法少女は茫然自失となって倒れた。よく見れば、カメラ以外に首に先ほどの罠をぶら下げている鳥が何匹もいたことに気づく。つまり、あの式紙も罠の一つ。鳥たちは術者を撃退した後も、無機質な目で襲撃者達を見据え続けた。

 

 探知の術式封じ。探知を行うには、術者は集中力が必要だ。感知・探知の術式について鍛えられてきた倉本奏太は、当然その対策にも目を向けていた。正確な探知を行うために集中すれば、術者はどうしても隙を晒す危険性が出てくる。さらにそれが危険地帯でとなれば、その精度はどんどん落ちていくことだろう。神器の持つ『概念消滅』の能力のおかげで、どんな状況だろうと雑念を消して無心で集中できる奏太のような異能者の方がおかしいのである。

 

 式紙で出来た鳥たちは、探知封じにして、彼らに大規模な術を撃たせないための処置。本来なら大した力を持っていない式紙たちだが、魔法少女変身アイテムを持たせるだけで無視できない存在となる。しかも、紙だから大量生産もできる。大掛かりな術は、どうしても集中力が必要なものが多いため、小さな邪魔が常に入り続ける場所で行使するのは至難の業だろう。これほどの式紙をコントロールできたのは、姫島の次期当主であり、歴代でもトップの実力者である姫島朱雀じゃなければできないような才能の暴力であった。

 

 RPGやダンジョンなどで攻略者であるプレイヤー側が、一番されたらいやなことは何か。それを倉本奏太はよく知っていた。術者が結界を張ろうとする動きがあれば、例え何匹か犠牲になったとしても式紙が迫り、術の制御などを行わせないように妨害する。ランダムに襲い掛かる者達よりも、明らかに優先的に狙いをつけられていた。ラヴィニアの力添えもあり、術の発動を感知する魔法の術式を刻まれた式紙たちは、全体を見据えるように旋回を始めた。

 

 集中力が乱れた術者ほど、不安定な存在はいない。迂闊に術を放とうとすれば、集中砲火を受けるとわかれば二の足を踏む。さらに乱れた精神のまま無理やり術を発動すれば、暴発だって起こしかねない。実力のある術者ほど、その傾向は強くなるだろう。しかも心の乱れを正し、再び精神統一をするにはこの場はあまりにも不適切。絶叫が轟き、ちょっと目を向けるだけで魔法少女(暴力)が転がっているのだから。

 

 なおこの罠は、『雷光』のバラキエルが瞬時に探知の術式を発動させながら、雷光で常に全方位を蹴散らしながら進むしか方法はない、と述べるぐらいには鬼畜さがあるレベルであった。

 

 

「な、なんだよ、これ…。その姫島の娘っていうのは、こんな暴挙ができるような女なのか?」

「姫島からは、そんなことは一言も……!」

「お、おい。あの式紙たち、ずっとこっちを見ているが、まさかこっちに襲い掛かってきたりなんてしないよな?」

 

『ピィ』

 

 襲撃者の一人がポツリと呟いた言葉に呼応するように、式紙たちは律儀に返事を返した。人はそれを、フラグという。そして式紙たちは、弾丸のように一直線に襲撃者達へと襲い掛かり出す。無慈悲な迎撃が始まった。

 

「す、進めェェッーー!! 立ち止まったままでは、餌食になるだけだァァァッーー!!」

「式紙の耐久力は低い! 常に周囲を警戒して打ち落とせッ!」

「無暗に術を撃とうとするなっ! こいつら、術者を集中的に狙うように設計されておる!」

「おのれ、バラキエルゥゥーー!!」

 

 襲撃者達は一心不乱に走り出した。一ヵ所に固まっていては、数千もの式紙から身を護ることなんてできない。先手は完全に向こうに取られてしまった。広範囲を迎撃する術や結界を張ろうにも、その時間さえ与えない断続的な攻撃。一、二発ぐらいと普段なら考えられる手も、一撃でも受けたら術が発動できなくなる状態異常にされるとわかれば、迂闊な手も出せない。これこそが第四の鳥居より先に設置された第一の地獄。潤沢な資金力とシスコンパワーによる洗礼だった。

 

『ミルキーマジカル・スタンドアァッ~~プッ! レッツ、レボリューション!!』

 

「ちくしょうっ、またレボリューションされた!」

「やばい、向こうのやつらもレボられやがった!」

 

 響き渡るレボリューション。たかれるフラッシュ。魔法少女となり、崩れ落ちていく仲間たち。どれほどの手練れでも、あまりにもひどい無数にいる式神からの集中攻撃と一撃必殺に消え去っていく。そこに広がるのは、バラキエルが忠告した通りの阿鼻叫喚の地獄絵図そのものであった。

 

 式紙もすでに何百羽と討ってきたが、それに集中すると地雷トラップに引っかかる。全てではないが何羽かの式紙は、明らかにわざと迎撃されるようにこちらへ向かってきて、足元への注意を散漫にさせようと連携して罠を張ってくる。長年の経験からトラップを回避してきた者たちも、それで餌食になったことだろう。

 

 怒涛の進撃で第五の鳥居をなんとか抜けるが、熾烈な攻撃が止むことはない。それどころか、足元の罠の数はさらに増したような気さえする。この罠を仕掛けた者の資金力と執念に恐れを抱きながらも走り続ける男たち。だが、この第五の鳥居の先こそが、第二の地獄の門の入口だった。

 

 

「長っ!? 危ないッ!」

「ぬっ…!」

 

 式紙の防衛を担っていた者たちの穴をつき、一匹の式紙が長と呼ばれた男へ向かって行く。男は他の式紙への迎撃に目を光らせていたため、その隙をつかれたのだ。無念に歯を食いしばった長だったが、それを遮るように前に立った三十代の血気盛んな護衛の男の一人が、それを真正面から防いだ。

 

「う、うおぉぉぉッーー!! 嘗めるな、堕天使がァァーー!!」

 

 叫びと共に男はレボられ、ムチムチの筋肉とぱっつんぱっつんの魔法少女へと変身した。長は眼前で行われた変身シーンに、嗚咽を起こしながらも強靭な精神力で耐えきる。再び上空から降り注ぐフラッシュに、また護衛が一人減ったことに長は歯軋りをしたが、目の前の魔法少女は諦めなかった。

 

「俺は術を使わねぇ! この拳があれば十分だ!」

 

 男は羞恥よりも、己の使命を選んだ。この混乱の中で覚悟し、選択した。例え魔法少女に変身したとしても、その心までもは変えないと。仲間たちへ向かう式紙を自らの身で対処し、道をこじ開けてみせた。すでに魔法少女になった者に、この罠は効果を発揮しないのだから。

 

「レボリューションがなんだッ! たかが…、たかが女装させられるだけだろうがァッ!」

「お主…」

「長っ! ここはお任せください! この俺が、必ず道を作ってみせます!」

「すまん…、お主の犠牲は無駄にせん。あと、こっち向かないで」

 

 ムキムキぱっつんの救世主の誕生に、直視はできないので襲撃者達は心の中で希望を見た。そうだ、何を恐れる必要がある。確かに敵の罠は卑劣極まりないが、自分達の使命を思い出せ。私達は何のためにここへ来た? 決して、レボリューションされるためじゃなかったはずだっ!

 

「俺の後に続いて進めっ! レボられることを恐れるな!」

「そうだ、思い出せ。私たちの目的を…」

「むしろ俺達が起こしてやるんだ、俺達の革命を!」

「あぁ、そうだな。むしろ、俺たちがレボるんだっ!」

『オオォォォッーー!!』

 

 自分達も何を言っているのか混乱しながらも、襲撃者達の志気は向上した。ぶっちゃけ言えば、あんまりな現実に精神が麻痺し、この地獄に慣れてきてしまったのだ。人はそれを、現実逃避とも言う。最初は大混乱に陥り、冷静さを奪うように攻撃されたが、ここまで来れた者ならば次のステップ(新しい扉)に進む可能性があった。その想定は、当然倉本奏太の中にもあったのである。

 

 故に彼は、もう一つの策を用意していた。魔法少女を受け入れた者への第二の洗礼を。これまで術者を集中して狙ってきたのは、第二の地獄を対処できる者の数を減らし、術を使わない武闘派の者たちを油断させるためでもあったのだから。鳥が術者殺しなら、アレらは武闘派殺し。地獄の使者達が動き出す。

 

 

 最初にそれに気づいたのは、先頭を走る一人の魔法少女だった。迫ってきた式紙を難なく斬り伏せた男は、一瞬眼前の地面が動いたように感じた。それに乱された集中力故かと頭を振り、恐れることなく目の前の泥を踏みつける。その瞬間、泥は男の足に絡みついた。

 

「なぁッ!?」

 

 咄嗟に受け身を取ったが、右足を取られたことでバランスを崩す。すぐさま起き上がろうと地面に手をつくと、またネチョリと音が響き、男が地面へついた手に泥が纏わりついていた。それに小さな悲鳴を上げた男は、何とか腕を力づくで振り上げ、我武者羅に暴れることで足についていた泥も弾き飛ばす。それにホッとしたのも束の間。

 

 ネチョリネチョリネチョリ…、ネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリ……。

 

 ネチョリ、と先ほど弾き飛ばした泥たちも何事もなく動き出し、男に向かって進みだす。引きつった口元で手にしていた刀で斬り割くが、泥が飛び散るだけですぐに再生していく。ここは山の中。彼らの媒体となる泥など、無限に等しいほどあるのだ。これらを止めるには、核となる結晶を壊すしかない。しかし、最高峰の錬金術師が作り出した泥人形(ゴーレム)たちの核は、泥の中をランダムに駆けまわっているのだ。ただ武器を振り回すだけでは、止めることはできない。

 

 ここは山の中であり、姫島家は山の頂上付近にあるため坂道も当然ながらある。さらに彼らは『雷光』が留守の隙をついて、迅速に母娘を始末しようと襲撃を企てた者達だ。そんな者たちが、動きを阻害するような武器を持って行くだろうか? 人里が近くにある山で山登りをすると考えれば、小回りの利く武器を当然選ぶだろう。泥人形(ゴーレム)を相手にするには、あまりにも頼りない武装で。『雷光』用にいくつか用意していたとしても、まさか無限にも等しい泥人形たちへ使うなど出来ない。使うなら使うで、彼らの切り札を切らせることが出来る。

 

 ネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリ…、ネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリネチョリ……。

 

「あ、あぁぁぁぁあああぁぁッーー!!」

 

 四方八方から聞こえる鳴りやまぬ無数の音に、男は半狂乱になりながらも刀を振るう。そこにあるのは、底知れぬ恐怖。黄昏が過ぎていき、夕闇が顔を見せ出す時間。徐々に闇が支配していく中、暗がりの雑木林に潜む得体のしれない相手。それが、数えきれないほど己へ向けて襲い掛かってくる。

 

 必死に抵抗したが、数の暴力にただの筋肉は勝てない。足が沈み、腕を取られ、顔に張り付いた泥を引き剥がそうと声にならない悲鳴を上げて暴れるが、泥人形の数はどんどん増すばかり。呼吸困難に陥った男は、恐怖と絶望に塗りつぶされながら、白目を向けて気絶した。ゴーレムたちは苦しみの声が聞こえなくなったと同時に、瞬時に離れていく。後に残ったのは、ぐちょぐちょに汚された魔法少女だけであった。

 

 それを目の前で見せられた襲撃者達は、あまりの惨さに呆然と立ち尽くす。恐る恐る周囲を見渡すと、無数の反応がゆっくりと自分達を包囲するように近づいていたことに気づく。ネチョリ、と耳に入った音が襲撃者達の表情を引きつらせる。多くの術者を失った先に待ち構えていたのが、よりにもよって液状型のゴーレムだった。倒し方は理解している。しかし、彼らを相手にするにはあまりに状況が絶望的だ。

 

 術者を集中狙いする空を支配せし式紙の鳥達、少しでも気を抜けば踏みかねない地雷、そして物理耐性持ちの大量の泥人形。これらを相手にするには準備不足どころではない、そもそも踏み込むこと自体が間違いだと思ったほどの悪質さ。なまじ殺傷力がなかったことが、彼らを魔の山の奥へとより導いてしまった。同士の死などの悲劇があればそれを糧に立ち向かえただろうが、誰一人一応死んでいない。自分に起こるかもしれない屈辱的な未来を、延々と目の前で見せられただけなのだ。

 

 性質が悪いことこの上ない。この罠の考案者は、相手の心を折ることに何よりも狙いをつけている。これより先にも、更なるえげつない罠が待ち構えていることだろう。ここまでの地獄を用意した者が、それを怠るとは思えない。これ以上の地獄が待ち受けていると理解しながら、……それでもそこへ自ら足を踏み入れる覚悟があるのかと問われている。引き返すのなら、今だと。

 

「なるほど、さすがは『雷光』。これが、堕天使の策略という訳か…」

 

 長は重々しく唸った。なお作成者はノリでやらかしを重ねただけなので、ただの勘違いである。

 

 

「聞け、戦士達よッ! 認識を改めよっ! これより先に待ち受けるのは、間違いなく地獄の門! ここで引き返せば、我らの名誉は守られるだろう。しかしそれは同時に、我らの積み重ねてきた憎しみは地に堕ちる! おめおめと逃げ帰った我らの思いなど、誰が認めてくれるというのだッ!」

 

 長は、声を張り上げる。覚悟を決めたからだ。決めてしまったからだ。

 

「綺麗ごとは言わん! この先を『無傷』で通るのは、不可能だろう! 我らは今、問われているのだ! 我らの憎しみは、怒りは、ここで終わる程度のものなのかとっ! レボリューションされ、ネチョネチョにされ、晒し者にされる屈辱を越えることはできないと限界を自らで決めてしまって、本当によいのかッ!?」

 

 アドレナリン全開のまさにハイテンションマックス。普段は冷静沈着な長も、さすがに度重なるレボリューションに色々と限界が近かった。諦めの気持ちがずっと目の前に佇みながらも、それでも最後まで残ったのはただの意地だった。一言でまとめると、見事にブチ切れた。

 

「ここまでお主らが残れたのは何故だ? 譲れない意地があったからだろう! 儂は一人になろうとも進む! 術が使えない? 馬鹿を言え、傷つくことが覚悟の上ならば、その程度畏れるに足りぬ!」

 

 長に向かって飛んできた一羽の式神。それに防御しようとした護衛を止め、六十代のギラギラした目をした長は自らレボリューションを受け入れた。それを唖然と見つめる一同の中、同時に泥のゴーレムたちが飛び掛かってくる。周りが呆然としていたため侵入を許してしまったが、長は慌てることなく己の中のオーラを高めた。

 

「散れ、羽虫がッ!!」

 

 長の指先から迸った法術が、ゴーレムを跡形もなく消滅させる。レボったはずの長が、何故普段通りに術を扱うことが出来たのか。その真実を理解すると同時に、襲撃者は長の覚悟を知った。

 

「やはりな。儂の考察は間違っていなかった…。これこそが、この地獄を生き残るための唯一の方法」

 

 悟ったようにフッと笑みを浮かべ、長は産まれたばかりのような解放感に身を預ける。山は人の本能を解き放つと言われている。山の神秘が人の中に眠る野生を呼び覚ますと言われ、普段は大人しい人でもテンションが上がりやすいとされていた。それに触発されたのか、文字通り物理的に開放的になった長の姿に、誰もが言葉を失う。全員、ちょっと目が死んでいたかもしれない。

 

「くくくっ、攻略法はすでにわかった。レボリューションされたのなら、瞬時に術式阻害をする服を脱ぎ棄てればいい。こんな簡単な方法に気づかず、ずっと逃げ続けていたとはな…」

 

 自動毛刈りモードでツルンとされたお肌と、一生懸命に白髪を寄せ集めて作られたのだろうツインテール、そして破り捨てられた魔法少女の衣装。自分達の尊敬する長が、何をとち狂ったのか堂々と裸族へと転身してしまった。それになけなしの精神力を保っていた術者達も、無我の境地へと達する。自分達に残った選択肢が、二択だけだとわかったからだ。

 

 魔法少女になるか、裸族になるか。もうそれしか自分達には、道が残されていないということに…。

 

「う、うぉぉぉっーー! その二択しかないのなら、当たって砕けてやるっ! 俺は長について行くぜェェーー!!」

「はははっ、憎き堕天使め! よくも長や我々の覚悟を見くびってくれたな!? もう何も怖くない!」

「雷光よ、これが貴様の限界よ。堕天使の思惑を打ち破り、人間の底力を見せてやろう!」

 

 なお、今まで堕天使要素は何一つなかったことは言うまでもない。

 

 

 襲撃者達は高笑いしながらテンションをあげなきゃやっていられないまま、進撃を開始するために足を進める。あれほど恐ろしかったレボリューションも、ネチョネチョも、降り注ぐフラッシュも、もう何も怖くなかった。山を粛々と進む裸族の集団。別の意味でうら若き母娘に見せられない悪夢へと進化した彼らの手が、姫島家へと少しずつ伸びていく。

 

 しかし、罠を乗り越えたと笑う彼らは、この罠の真の目的に最後まで気付かなかった。目標である堕天使しか見ていなかったからこそ、彼らはそれ以外の第三者の介入の可能性を切り捨ててしまっていた。姫島が雇った術者達が、全く関係のなかった第三者(堕天使の敵対組織)を介入させたように、自分達にも同じように第三者が牙を剥く可能性を。

 

 この罠を考案した者の目的は、最初から『時間稼ぎ』であった。そして『持たざる者』である彼は、最初から襲撃者達とガチンコ勝負なんてする気もなかった。

 

『弱いからこそ、力がないからこそ、人は考える。大切なものを守るために、勝つために必要なものをかき集めようと貪欲になれる。大事なのは、どんなに小さな可能性だろうと諦めないことだ』

 

 第六の鳥居の先で襲撃者を待ち構えていた少年(最後の地獄の主)は、静かに光力銃を準備する。この一年の準備時間で、山の中はすでに彼にとって庭も同然。彼らに気づかれないように先回りすることぐらい、造作もないことだった。

 

『真正面から勝てないのならば、相手を油断させ、気づかれないようにゆっくりと自分のフィールドへ引きずり落としてから、初めて逆転の一撃となる己の牙を見せてとどめを刺す。あの子は大切なものがかかった負けられない戦いの時、最も苛烈になり、一切の容赦がなくなる。自分が弱いとわかっているからこそ、相手を確実に仕留められるまで徹底的にね』

 

 少年が彼らを第六の鳥居まで待っていたのは、自分が戦えるフィールドまで相手を堕とすためだった。相手は複数で、しかも戦闘経験がある。さらに堕天使の関係者というだけで、幼子とその母親を手にかけるような者たちだ。相手が子どもだろうと容赦なく攻撃を加えてくるだろう。

 

 だからこそ、彼らの平静を崩す必要があった。対堕天使用にと準備していた彼らの武装を、解除させる必要があった。裸族となった彼らに、最初にあった警戒心はすでにない。神器の能力で姿と気配を消し去った少年は、地の利を生かしながら無防備に近づいてくる襲撃者へ向けて、冷徹に銃を構えた。堕天使の先生達によって鍛えられた技術は、全て少年の中にある。

 

 甘い彼にとって相棒である神器の能力は、必要不可欠だっただろう。内に宿る怒りと約束だけは消さずに、気負うことなく冷静に戦況を見ることが出来るのだから。相手が裸族だろうと、変態だろうと、一切の容赦はしない。己の役目は、誰よりも理解している。

 

『疲れたら、またここに来なさい。愚痴ぐらいなら、いくらでも聞こう』

『父さまと母さまの娘として、兄さまと姉さまの妹として。みんなで一緒に頑張って生きたい』

『……おばさまと朱乃を、護って。私が帰ってくる場所を、私が叶えたい夢を、私がみんなとの約束を果たせるように護ってあげて』

 

 みんなと交わした言葉、そして心配で隠れて聞いていた姫島朱雀との最後の別れの時に溢した姫島朱璃の思い。この一年間で積み上げてきた絆は、迫り来る未来の流れを絶対に変革してみせる決意へと変わった。

 

「……護るさ、全部。魔王様にさえ、強欲と言わせたちっぽけな人間を嘗めるなよ」

 

 迷いのない眼差しを向け、倉本奏太は銃を撃ち放った。

 

 


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