えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?   作:のんのんびり

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第十六話 友達

 

 

「いいかな、ラヴィニアちゃん。君は神滅具を持ち、さらに魔法使いとしても才能がある。だからこそ、周りをもっとよく見て、その時々に応じた対応が大切なんだよねぇ」

「はいです…」

「ラヴィニアちゃんが守ろうとした子が、逆に危険な目にあってしまったことへの悔しさと怒り、そして申し訳なさは僕にもわかるよ。それでも、そんなに広くない路地裏で二回も、しかも君の魔法だけでも対処できるレベルにも使って、周辺を所構わず氷漬けにしちゃうのは駄目じゃないのかなぁ?」

「おっしゃる通りです……」

 

 あの、そろそろラヴィニアさんが涙目でぷるぷるし出しているから、やめてあげてくれませんか。見ているこっちの方が、罪悪感で悲しい気持ちになってきます。だけど、説教している内容は間違っておらず、さらに彼女に説教をしているお方がお方なだけに、俺は力なく項垂れるしかない。すまない、恩人のラヴィニアさん。俺では力になれないようだ。

 

「それで、君はもう大丈夫そうだねぇ。魔法で回復させたとはいえ、若いって、やっぱりすごい力だと僕は思うよ」

「あっ、えっと、はい! 手当して下さり、あと助けていただいて、どうもありがとうございました!」

「ハハっ、そんなに畏まらなくていいさ。子どもは元気なのが一番だからねぇ。それに、今回はうちの事情に君を巻き込ませてしまったかたちだ。むしろ、こちらが謝罪をしなければならないね」

「いえ、その……、お仕事中だったラヴィニアさんに最初に声をかけたのは俺で、彼女は一生懸命に俺を守ろうとしてくれました。だから、彼女にも協会の方にも恨みはありません。全ての原因はあのはぐれ魔法使いの人たちで、俺は俺で、しっかり一発入れられたのでもう気にしていません」

 

 これは俺の本音だ。確かに彼らがもっとしっかりはぐれ魔法使いたちへの対処をしてくれていたら、という思いはない訳じゃないが、あんなのはもう事故の領域だ。運が本当になかったとしか言いようがない。何より、最後の最後で天は俺に味方した。悪運が強かっただけなのかもしれないけど。

 

 それに、あの戦闘は確かに巻き込まれただけだったけど、それだって裏の世界ならよくあることで片付けられてしまうものだったと思う。つまり、俺自身の見通しの甘さも原因の一つであった。俺は本当に情けないぐらいに、足りないものが多すぎる。それを今回のことで、痛いほど俺は理解できたのだ。

 

 それに、俺が協会を糾弾すれば、ラヴィニアさんが悲しむ。彼女は俺の命の恩人で、何よりも可愛い女の子だ。少なくとも、俺が彼女に最初に出会った時のような、ぽわぽわしたような笑顔が絶対に似合う。それを曇らせたくない、って男としての意地ぐらい張りたいのだ。

 

「うーん、それはこちらとしてはありがたいけど、それはそれでこちらも申し訳がないね…。それじゃあ、君にはここ『灰色の魔術師』へのパスをあげようか。あと、何か困ったことがあったら、いつでも来るといい。僕のできる範囲でなら、叶えてあげよう」

「ちょっ、そんな大層なものもらえませんよ! それにできる範囲って、協会の理事長にお願いするなんて、恐れ多いというか、申し訳ないといいますか…」

「うんうん、ラヴィニアちゃんが君をいい子だと言っていたのがよくわかるよ。僕はあれこれ要求されるのは嫌いだけど、嫌いなやつに向けてドラゴンを嗾けてあげるぐらいのお願いなら聞いてあげるさ」

 

 ハハハハ、と笑いながら、恐ろしいことをさらっと告げてくるお方です。彼なりのジョークなんだろうけど、彼の眷属悪魔を知っている手前、半笑いしかできない。やろうと思えば、本当にできそうなところが普通に怖いです。

 

 まさかこんなかたちで、原作の登場人物に出会えるとは思っていなかった。それもまさかの初エンカウントが、最古参の悪魔の一人にして、『灰色の魔術師』の理事長。理事長用の豪華な椅子に座り、少し怖い感じの顔で怪しい雰囲気のする中年男性だ。しかし、しゃべり出したら軽い。非常に口調が軽い。こんなギャップを持つ方は、一人しかいなかった。

 

 番外の悪魔(エキストラ・デーモン)であり、赤と青の髪の毛とオッドアイを持つ悪魔、メフィスト・フェレス様その人である。正直、どうして俺みたいな一般人が、こんなすごいお方とお知り合いになっちゃっているの? 経緯はわかっているつもりだけど、それでも思考が全く追いつかない。とても気軽に会えなさそうな方と、会っちゃったよ俺!

 

 

「あの、ショーくん。本当にごめんなさいです。私があの時、もっと警戒しておけばこんなことには…」

「えーと、ラヴィニアさん。さっきも言ったけど、俺は君を責めていない。ちゃんと助けてくれたし、すごく嬉しかった。それにラヴィニアさんは俺と同じ年ぐらいの子どもでしょ、失敗ぐらいあるに決まっているじゃん。俺はこうして無事だったんだから、もう気にしなくてもいいさ。謝ってもくれたし」

「だけど……」

「ラヴィニアちゃん、あまり気に病み過ぎると、ショーくんも困ってしまうよ。とにかくラヴィニアちゃんは、『無差別氷姫(ディマイズ・ガール)』なんて呼ばれてしまう現状に、まずは気をつけなさい」

「うぅぅ……」

 

 無差別氷姫ってマジですか。あと、最古参の悪魔にショーくん呼びをされるとは思いませんでした。それにしても、この二人を見ていると、なんだか手厳しい父親と手のかかる娘のようだ。年齢差は軽く万は超えていそうだけど。

 

 ラヴィニアさんは、神滅具の一つ『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』の所有者で、なんとメフィスト・フェレス様の秘蔵っ子。そういえば、原作で神滅具の一つを魔法使いの協会が所持している的な話があったかもしれない。彼女がその人なのだろう。そして、これだけ可愛いのもうなずける。俺は最新刊の二十巻までしか先を知らないけど、彼女はきっと二十巻越しに現れる兵藤一誠のヒロインの一人なのだ。あのスケベ乳龍帝を、初めてねじ切ってやりたいと思った。

 

 彼女の神滅具ではぐれ魔法使いを凍らせた後、彼らはことごとく捕縛されたらしい。俺は緊張の糸が切れて気を失ってしまったので、詳細は分からないけど。そして、気づいたら豪奢なソファーの上で目をさまし、俺の目の前でメフィスト・フェレス様がラヴィニアさんに説教する構図がまず目に入った。俺の現状はなんとか推察はできるが、なんとも奇妙な体験だろう。

 

 おそらく気を失った俺を、彼女が安全な場所に運ぼうとした。その彼女が選んだ安全な場所が、たまたま理事長室だっただけのこと。ラヴィニアさん……、それでも部外者の俺を、トップの部屋に入れたらたぶん駄目だよ。許可を出す理事長もアレだけどさ。

 

 結果的に今回の旅行で、俺は神滅具の所有者と、最古参の悪魔と面識を持ってしまったってことか。まったく、とんでもない旅行になってしまった。師匠だって、まさか俺が魔法使いの戦いに巻き込まれて、『灰色の魔術師』のトップにお世話になっているとは………。

 

 あっ、師匠を忘れていた。

 

 

「大丈夫だよ、この子から君のお師匠さんのことを聞いていたからねぇ。ショーくんのお師匠さんにはこちらで簡単に説明をして、日本には後でこちらが送り届けると連絡しておいたよ」

「あ、ありがとうございます。ちなみに師匠には……」

「ほとんど話していないさ。ショーくんが今回の事件に少し巻き込まれたから、保護したということしかねぇ。だから、君がはぐれ魔法使いの一人を倒したことや、神器を所持していることも何も話していない。でも、とても心配されていたよ。いい師だ。大切にしてあげなさいね」

「うっ、……はい。ありがとうございました」

 

 俺はただただ頭を下げるしかない。ニッコリと微笑む彼の言葉に安心すると同時に、申し訳なさが胸中に溢れる。何から何まで、本当にお世話になってしまった。正直神器のことがこの二人にはばれてしまったけど、彼らなら大丈夫という安心感がある。ラヴィニアさんはその人柄に、メフィスト様は原作知識でだけど。彼は悪魔の駒に対して、大したこだわりを持っていない数少ない悪魔だ。レーティングゲームにも興味がなく、冥界にもあまり関わらない不思議な方である。

 

 確か彼の駒は、「女王」である魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)のタンニーンがいたはずだ。元龍王で、その強さは原作でも一目置かれている。真面目で、責任感もあるできるドラゴンでもあった。そして、主人公の乳パワーの被害者の内のお一人で、かわいそうなドラゴンその三だった気がする。いらんことを、俺もよく覚えているものである。彼以外に理事長の眷属は知らないが、彼の場合は本当に女王しか眷属にいなくてもおかしくない。気になるけど、さすがに聞ける雰囲気でもないしな。

 

「そうだ、ラヴィニアちゃん。ショーくんを日本に送り届けるための魔方陣の調子を見に行ってもらってもいいかな? 日本の方に転移魔法を使うのは、久しぶりだからねぇ」

「わかりましたのです、お任せください。ショーくん、待っていてくださいね」

「うん、ありがとう。でも、そんなに急がなくていいからね」

 

 さっきまでお説教されていたからか、彼女はビシッと背筋を伸ばすと理事長室から出て行った。大丈夫かな、途中でこけたりしないだろうか。ちょっとハラハラしたが、あれでも彼女は凄腕の魔法使いで神滅具の担い手なのだ。きっと大丈夫なのだと思うが、どうしてこう不安になるのだろう。やっぱりあの天然さが、原因だろうか。

 

「良い子でしょう、ラヴィニアちゃん」

「えっ、はい。俺もそう思います。俺のことを助けてくれたし、可愛いけど天然でちょっと危なっかしいですけどね」

「うんうん、そうだよねぇ。君はあの子自身をちゃんと見てくれるんだね」

「えっ?」

 

 理事長の言葉に、俺は彼女が出て行った扉から彼に視線を移す。理事長の机の上で、頬杖を突きながら、メフィスト様は曖昧な笑みを浮かべていた。

 

「ラヴィニアちゃんはね、神滅具の所有者だ。まだ幼い身でありながら、彼女は神をも殺す力を持っている。この組織であの年齢だと、友達はなかなかできなくてね。それに偏屈な連中しかこの協会にはいないから、彼女の会話は自然と魔法関係ばかりになる。あの年になるまで、あの子には子どもらしいことを何もしてあげられなかった」

「メフィスト・フェレス様…」

「君ぐらいだよ、彼女の神滅具をその目で見てもなお、ラヴィニアちゃんを恐れなかった子どもは。同じ神器所有者だったからかもしれないけど、彼女へいつも通り、当たり前のように接してくれたのは。ショーくんが目覚めるまで、あの子は君に拒絶されるんじゃないかって、寂しそうにしていたからねぇ」

「…………」

 

 軽い口調だけど、本当にメフィスト様はラヴィニアさんのことが大切なのだ、という気持ちが伝わってきた。神滅具という道具ではなく、彼女自身をちゃんと見ているんだ。だから彼女は、テロ組織にいた神滅具たちのように力に溺れなかった。幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の所持者であったハーフヴァンパイアのヴァレリーのように、道具のようにならなかった。彼女が原作まで、ここで真っ直ぐに生きてこられたのは、間違いなくこの人のおかげもあるのだろう。

 

 俺は、確かに彼女を怖いとは思っていない。あの神滅具の力は美しくも恐ろしくはあった。それでも、ラヴィニアさんはラヴィニアさんだ。俺は原作という知識のおかげで、神器に対する理解が他の人よりも高い。第三者の視点から、客観的にこの世界を見ることができるのだ。

 

 

「すまないねぇ、私事が混じってしまったよ。改めて、今回はうちの事情に巻き込んでしまって、申し訳なかった。この謝罪は、こちらの代表の言葉として受け取ってもらいたい」

「……えっ、はい。う、受け取りました。こちらこそ、色々すみませんでした」

 

 こ、こういう時の対応の仕方がわからない。確かに巻き込まれて死ぬかと思ったけど、俺の怒りはもう鎮火してしまっている。とりあえず、俺みたいな子ども相手に誠意を見せてくれたんだし、俺としてはこれでいいかなと考えている。俺の事なかれ主義もどうかと思うけど、これが俺の正直な気持ちだからな。

 

「そうだ、それと君の神器だけど、あれはなかなか面白い効果を持っているようだしねぇ。それで、もしショーくんがよかったらなんだけど、『灰色の魔術師(うち)』と関わりを持ってみないかな?」

「か、関わりですか?」

「そう、君は情報屋になるつもりなんだろう。それなら、うちの専属になってみないかなと思ってねぇ。フリーも悪くないだろうけど、色々と後ろ盾にもなってあげられるよ」

「それは、……俺の神器って、野放しにしたらやっぱりやばそうだからですか?」

 

 笑顔でどうだろう、と聞いてくる彼の声音は、先ほどまでと同じように軽いものだった。受けても、断っても、どちらでもいいような気軽さ。それでも、彼の話の真意を無意識に考えてしまった。悪魔の眷属としてではなく、組織の一員として、魔法使いではない俺が誘われた理由を。

 

 彼は、サーゼクス様たちを支持し、主人公たちを手助けしてくれる味方の悪魔だっていうことはなんとなくわかっているけど、それでも俺自身はこの人を知らない。口調通りの軽い思考の人なのか、それとも頭の中では損得勘定が働いているのかもわからないのだ。

 

 原作知識に振り回されたら駄目なのはわかっている。だから、今は俺自身のことを優先して、彼と会話をするべきだと考えた。俺自身は、ぶっちゃけ強くないし、残念ながら秀でた力もないと思う。今回の詫びだったとしても、わざわざ組織に入れてまで面倒を見る必要はないだろう。そうして考えた結果が、俺の神器の危険性だった。

 

 俺の神器は、攻撃力だけなら並みの神器と同じだろう。消滅の力はすごいけど、それ以上にチート級な能力がたくさんあるのだから。だけど、この槍の持つ力は、ただの強さだけでは測れない面が強い。あのはぐれ魔法使いとの戦闘がそれだ。本来なら、俺が逆立ちしたってあの魔法使いに勝つことなんてできなかった。それだけ、力量に差があったのだから。

 

 でも、俺はまぐれでも勝ってしまった。相手の油断も多大にあったが、それでも発想次第では、格上に勝てる可能性を秘めている。何より、今回使った『魔法力消滅』だが、もし時間をかけて槍で刺していたら、俺はその人の持つ魔法力を本当に消滅させられたかもしれないのだ。俺には魔法使いとしての一生を、消してしまえる力がある。魔法使いの協会としては、危険極まりないし、野に放つぐらいなら確保しておきたいと考えるのが自然だろう。

 

「ショーくんは、冷静だねぇ。そうだね、君の考えは間違ってはいないよ。使い方次第では、その神器は他の勢力に持って行かれるには少々怖い代物だ」

「えっ、そこまでですか?」

「ショーくんに自覚がないのが、僕としては一番怖いよ。確かに今の君の力では、できることはたかが知れている。それでも、将来はわからない。ショーくんには思いもつかないような恐ろしい発想を、君の神器から見出す者もいるかもしれないんだ。そして、それを否定できないぐらいの、やっかいな代物ではあるんだよ」

 

 赤と青の神秘的な瞳が、真っ直ぐに俺に向けられている。彼はきっと脅しているのではなく、事実をただ伝えているだけなのだ。俺だって神器の応用性にはいつも驚かされているし、確かに悪用できる要素は多いと思う。だけど、その程度の危機感では足りない、とメフィスト様は俺に言いたいのだろう。

 

「そうだねぇ、じゃあ例えばの話だけど。君の神器で魔法力のような概念が消せるのなら、もしかして感情も消したりできるんじゃないかな?」

「……できるとは思いますけど」

「うんうん、それじゃあ例えば、ラヴィニアちゃんの力が欲しいと思った相手がいるとしよう。だけど、彼女は神滅具の力を悪用するような子じゃない。だったら、相手はこう考えないかなぁ。そんな善悪を感じる心なんて、跡形もなく消してしまおうと」

「えっ……?」

「そうして、彼女は感情や心を消され、氷の人形から見事な殺戮人形へと変貌することになるだろうねぇ。……少しは、危機感を抱いたかな?」

 

 ……あぁ、この人はやっぱり根本は悪魔だな。いい人なんだろうけど、それでも悪魔らしい人だと思う。効果は抜群だよ、ちくしょう。そうか、やろうと思えば俺はそんなことまで、できてしまうかもしれないのか。考えたこともなかった。いや、俺は一度人の記憶を消したことだってある。洗脳まがいなことだって、できるかもしれないのだ。彼の例え話は、決してお伽噺ではないということを、俺は自覚した。

 

「俺にそんな事例を聞かせて、いいんですか? 悪用できるかもしれない知識を与えて」

「僕が魔法使いの協会で人間と関わっているのは、人間の可能性に興味が尽きないからだ。人間はユニークな発想と、短い生だからこその強い執念を持っている。ショーくんが本気でそのつもりなら、こんな例え話なんて聞かなくても、いずれ自分から思いついたさ」

「……メフィスト・フェレス様は、人間が好きなんですね」

「うーん、そうかもしれないねぇ。だけど人間だけじゃない、様々な種族にそれぞれ可能性があると僕は思っているよ。長く生きていると、そういった若さ故の力に強く惹かれてしまうのかもしれないねぇ」

 

 優雅に椅子に座りながら、彼は眩しげに目を細める。俺はメフィスト様の話を聞き、それを頭の中でまとめるためにゆっくりと思考を巡らせた。彼はたぶんだけど、俺のことを思って言ってくれたのだろう。組織の長としての考えもあるだろうけど、根底はそれだと思う。彼なら、もっと上手く俺を引き入れることができたはずだ。こんな風に迷わせず、口八丁で丸め込まれるぐらい俺ならされそうだから。

 

 俺はこの神器の力を、悪用したくないし、されたくもない。そして彼はきっと、俺をここに縛り付けるようなことはしないと思う。ただ本当に、俺の後ろ盾になってくれるつもりなのだ。最古参の悪魔が後ろ盾なら、そりゃあ迂闊に俺に手なんて出せない。ラヴィニアさんも、きっとそうやって他の組織から守られてきたのだろう。

 

 正直神滅具である彼女と同等の扱いを受けるのは、どうも納得できないが、彼はそれでいいのだろうか。俺程度の考えじゃ、見通しなんてできない。……だったら、もう難しく考えすぎるのはやめだ。俺自身のことなんだ。俺のやりたいことができるのかが重要じゃないか。

 

 

「メフィスト・フェレス様、もし俺がここと関わりを持った場合、俺の行動にどんな制限がありますか?」

「基本は自由に好きなことをしたらいいさ。他勢力と敵対さえしなければ、僕は気にしないよ。タンニーンくん――あぁ、僕の眷属のドラゴンくんなんだけどね。彼は、冥界でドラゴンの保護に力を注いでいるんだ。彼のように、自分がやりたいことを優先すればいいよ」

「それって、メフィスト・フェレス様にメリットってありますか? 悪魔ってその、基本等価交換ですよね」

「それじゃあ、ラヴィニアちゃんのように、時々僕の仕事の手伝いをしてくれたらいいさ。さっきも言ったけど、君の力は色々応用できそうだからねぇ。あとは、はぐれ魔法使いの情報は優先的に欲しいね。あぁ、あとうちに不利になりそうな情報は取り扱わないでほしいかな。こんなところで、どうだろう?」

 

 彼からの条件提示に、俺は何度も考える。はっきり言って、渡りに船な話だろう。こんなに上手い話があるのか、と言いたくなるほどに。組織に所属することで起こる危険はあるだろうけど、それは逆も然りだ。味方ができれば、相対的に敵はできるものである。

 

 三大勢力のことにあまり言及がなかったから、そのあたりも俺の匙加減に任せてもらえているってことだろうか。悪魔は契約を大切にする。だから、彼が伝えた内容は嘘ではないだろう。俺がずっと心配していた家族の安全も、彼なら片手間でできてしまうと思う。

 

 魔法使い側に所属するというのは、俺としても初めてすぎる情報故に、今までの知識はあまり役に立たなくなるだろう。つまり、俺が一から何もかも築いていくしかないのだ。だけど、そんなの生きていたら当たり前じゃないかとも思った。

 

「最後に聞きたいことと言いますか、お尋ねしたいことがあるんですけど」

「何かな?」

「その、俺がここに入る入らないに関わらず、ラヴィニアさんと友達になってもいいですか? 俺って、彼女が好きそうな魔法の話とか、全然できないと思います。でも、アニメの話とかゲームの話だったり、外で遊んだり、家の中でのんびり他愛もない話をしたり、色々なことをしてみたいです。彼女の好きな魔法だって、教わってみたいですし、神器のことだって、たくさん話をしたい。変かもしれないけど、そんな風な、……友達になってもいいでしょうか?」

 

 やっぱりこの辺りは、まずは彼女の保護者である彼に聞くべきだろう。だけど、メフィスト様は俺の質問に初めて笑顔以外の表情を見せた。驚きに少し目を瞬かせた彼は、その後噴き出す様に笑った。その笑みは先ほどまでのような落ち着いた柔和な笑みじゃなくて、どこか優しさを感じさせる温かい笑顔だと思った。

 

 あぁ、もしかして。彼が俺を保護しようと思った、一番の理由って――。

 

「ハハハ、それはショーくんの頑張り次第だねぇ。僕はそれに関しては、応援しておいてあげるよ。ちなみに、あの子はどこか抜けているところがあるから、気を付けることだ。あと、もしラヴィニアちゃんに不埒な行動をしようとした、その時は――」

「安心してください。俺が築きたいのは、楽しく清いお付き合いですから! お友達ばんざーい!」

 

 駄目だ、今のメフィスト様の最後のセリフは、絶対に目が笑っていなかったような気がしました。

 

 

「お待たせしました! 不備なく、日本への転移魔方陣を起動できそうなのです」

「それはちょうどよかった。ショーくん、今日はとりあえず日本に帰った方がいい。まだ疲労も残っているだろうから慣れた場所の方がいいだろうし、あまり遅くなったらまずいんじゃないかな?」

「えーと、はい。ご心配して下さり、ありがとうございます。本当に何から何まで…」

「いいよいいよ。それと、これをうちで提示したら、ここに通す様に言っておくから。……それじゃあ、返事を待っているよ」

 

 手渡されたのは、赤と青のグラデーションに紫の色が混ざった、不思議な魔方陣が描かれたカードのようなものだった。不思議そうな顔の俺に、メフィスト・フェレス様の文様だと教わる。へぇ、これがそうなのか。なんだかさらっと、とんでもないものをもらっていないだろうか、俺。

 

 こうして、とんでもない俺の裏世界の実地体験は、ミルキーファンの恐ろしさを知り、金髪碧眼の神滅具持ちの魔法少女に出会い、事件に巻き込まれて命がけで戦い、そして最古参の悪魔との関わりを作った。羅列すると本当にとんでもないな。『灰色の魔術師』に所属するかは、一回家に帰ってからもう一度考えて決めよう。細かいところも、メフィスト様と詰めておきたい。ご利用は計画的にだ。

 

 それから移動しようとソファーから動き出した俺は、ふと考えを巡らせる。ここに所属するのかは検討中だが、これに関しては俺の答えは即答だ。だったら、ちゃんと伝えるべきだ。俺は彼女と友達になりたい。また、話をしたい。だから、彼女には話しておこうと俺は思った。これが今の俺から、彼女に渡せる唯一のものだから。

 

「ねぇ、ラヴィニアさん。あの時言っていたけど、ショウっていうのは俺の偽名なんだ」

「はい、伺っているのです」

「俺の本当の名前は、倉本奏太って言うんだ」

「……クーラー、カナー?」

「随分と涼しそうな名前になったな」

 

 きょとんと眼を瞬かせるラヴィニアさんがおかしくって、俺は笑ってしまった。それに何か間違えてしまったのかと、彼女はさらに疑問をとばす。それでも、気づいたら二人してくすくすと笑っていた。

 

「それじゃあ、改めて。倉本奏太です。えーと、ラヴィニアさん。どうか、こんな俺でよかったら友達になって下さい」

「……はい、カナくん。私も、ラヴィニアでいいのですよ。今度カナくんがこの国に来たときは、約束通り、私がここのおすすめをいっぱい紹介してあげるのです」

「それじゃあ、俺もあの時に言ったけど、日本料理とか日本文化をお土産にいっぱい持ってくるからな。そうだ、ラヴィニアって、ゲームとかしたことがあるか?」

「ゲーム? したことがないです」

「よーし、じゃあ今度、パズルゲームとか取っつきやすいのを持ってくるな。それで対戦しようぜ」

「はい、楽しみに待っています!」

 

 日本行きの魔方陣までの道のりを、俺たちは何でもないおしゃべりをしながら歩いて行く。メフィスト様とは、理事長室で別れた。最後の最後まで、軽そうで掴みづらいお方だった。ラヴィニア関係に関しては、なんとなく察したけど。

 

 俺は隣でぽわんとした雰囲気を纏い、楽しそうに笑う少女に目を向ける。こんな小さな身体に、神様だって殺せる力が眠っているのだ。俺がいなくても、彼女は原作まで真っ直ぐに過ごしていけると思う。

 

 だけど、せっかく友達になれたんだから、彼女にはもっと笑顔を咲かせてほしい。友達が傷つきそうになったら、傍にいて支えてやることぐらいなら俺にだってできるかもしれない。きっと彼女に待ち受けている運命は、俺よりも過酷なのだろうから。

 

 俺の視線に不思議そうな顔を向けるラヴィニアに小さく笑いながら、こうして俺は日本への帰路についたのであった。

 

 




※この章で出てきたラヴィニアさんは、HSDDの前日譚である『堕天の狗神 -SLASHDØG-』に登場する方です。HSDDでも後半に活躍されます。もし機会があれば、ぜひ読んでみて下さい。

―追記(R1 11/14)―
 主人公の原作知識は、この作品の掲載開始時点である2015年09月19日(原作は20巻、DXは1巻)までのものとなっています。

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